マイナーVtuberミーコの弱くてニューゲーム

下城米雪

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第46話 予選開始

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『大変長らくお待たせいたしました。司会を務めるファシリ・テイトです』

 午後19時、予選の配信が始まった。
 予告と同様に、ファシリ・テイトが説明を始める。

『参加者、総勢20名。これから始まる予選では5人のグループを4つ作成します。各グループの中で、毎回、ランダムに対戦者を決定します。一度の対戦は1回勝負。3敗したら脱落となります。最後まで勝ち残った一人だけが、決勝トーナメントに進めます』

 熟練のナレーションを彷彿とさせる喋り方。
 画面にはルールの概要を記した資料も表示されており、とても分かりやすい。

『繰り返します』

 二度目の説明が終わる。
 その時点で既に五万人の視聴者が集まっていた。

『それでは、主催者のポテトさん、開始の宣言をお願いします』
『あい!』

 恐らくはスタジオを借りて行われている3D配信。
 ヒト型のポテトが、画面の端から中央に向かって二足歩行で移動する。

『えーーーーーーー』

 ロングトーン。

『予選、開始ィィィィ!』

 始まった。
 雑ぅ! という総ツッコミを受けたポテトは、どこか満足気だった。

 
 *  *  *


『司会のファシリ・テイトです。これからグループDの参加者を紹介します』

 ポテトによる雑な宣言の後、グループ分け抽選会が行われた。
 既にグループCまでが発表されており、残りはグループDのみとなる。

 参加者一覧から逆算すれば結果は明らかだが、全ての視聴者が参加者を把握しているわけではない。このため、発表には参加者を紹介する意味も込められていた。

『まずは一人目。卑怯、ズルいは蜜の味。
 個人勢のイノ・チ・ゴーイ選手です!』

 配信画面の左側に机があり、スーツ姿のファシリ・テイトとポテトが並んでいる。彼らの右隣には巨大なスクリーン。そこに、目隠れ系黒髪美少女が映し出された。

『ふひひ、ど、どうも~。イノちゃんで~す』

 イノ選手、ダブルピースでご挨拶。
 その後、ポテトが手を振りながら言った。

『久し振り~』
『あ、ポテトさん。ふひひ、どうもです』

 簡単な挨拶の後、ファシリ・テイトが大袈裟な身振り手振りを交えて言う。

『はい。というわけで、意気込みをお願いします!』
『……あの、その前に、ひとつ良いですか?』
『十五秒以内でお願いします』
『短かっ! ……でも大丈夫です。えっと、イノちゃんの紹介文、ひ、酷くない?』
『ポテトさん、コメントしてください』
『視聴者の皆さんどうですかー?』

:異議なし
:完璧
:解釈一致

『――とのことです。イノ選手、如何でしょうか』
『アンチばっかりぃ!』
『ポテトさん、何かコメントありますか?』
『次行こ、次』
『あああ待って待ってやめてまだ喋らせて! 私まだ消えたくない許して。お願い。チャンスなんです。今回の大会でイノちゃんの魅力を伝えてメンバーシップ参加者を爆増させるんです。弟が病気なんです。どうしてもお金が必要なんだぁぁあああ!』

 ぶちっ

『いやぁ、見事な命乞いでしたね』
『そうだねー』
『因みにポテトさん、弟さんの情報は事実なのでしょうか?』
『あいつ一人っ子だよ』
『草ですね』
 
 愉快なやりとりが視聴者の笑いを誘う。

『続いて二人目。雰囲気だけは強そう!
 こちらも個人勢のカーマ・セーヌ選手です!』

 怪盗のような服装をしたチンピラ。

 今回はガチです。本気で練習しました。
 真希を倒すのは、カーマ・セーヌです。

 と、彼は決め顔で宣言した。

『テンポ良く三人目。その血は「ぽよ」でできているぅ!
 またまた個人勢のポヨブレッド選手です!』

 ぽよテトをやるために生まれた馬。とあるプロ選手が、このVtuber大会に出場するためだけに用意したアバターという噂がある。

『ポヨブレッド選手、ぽよテトのレートが非常に高いと噂ですが……?』
『……三千以上とだけ』

 その発言にコメント欄はざわついた。
 今回のダークホースかもしれない。そんな期待を残して、馬は画面から消えた。

 因みに、アバターは本物の馬である。
 無駄にリアルな四足歩行の馬である。ひひーん。

『四人目! 狙った獲物を逃がさない! 気持ちだけはある!
 こちらも個人勢のまさし選手です!』

 目力が強いおっさん。
 タンクトップとネクタイを装備している。腋毛が濃い。

『そして最後の一人! 真希の弟子!
 優勝候補と名高いミーコ選手です!』

 画面にミーコが映し出された。
 彼女は深々とフードを被っており、何も言わない。

『謎の多いミーコ選手ですが、師匠の真希選手から「人見知りなので丁重に」というメッセージが届いております。ミーコ選手、自己紹介をお願いしても……?』

 深呼吸をする音。

『緊張してるね』
『そうですね』

 ポテト達の声を聞き、ミーコはビクリと肩を震わせた。

『……………………にゃ、にゃほぉ。ミーコでーす』

 真希と一緒に百回以上も練習した自己紹介。
 その第一節を詠唱した後、ミーコは沈黙した。

:きゃー! ミーコえらい! 喋ったー!
:かわいい
:うぉぉおおお!! ミーコがんばれ~!

 応援も駆けつけている。
 しかし、それらは大量のコメントによって一瞬で流された。

『あはは、本当に人見知りなんですね』
『かわいいね』

 真希から口ずっぱく根回しされている二人は、イノ・チ・ゴーイのような扱い方はせず、ミーコをフォローした。それから少し間をあけて、ファシリ・テイトが問う。

『えー、真希さんの弟子ということですが、意気込みなどありますか?』
『…………はっ、はっ、はっ、はっ』

 ミーコ、過呼吸になる。

『テイトくん怖いって』
『えぇ!? じゃあポテトさん話しかけてくださいよ』
『しょうがないなぁ』

 ポテト、立ち上がる。
 そしてスクリーンに近寄ってから言った。

『ぼくはわるいぽてとじゃないよ』
『……ニフラム!』

 ミーコは脊椎反射で雑魚を消滅させる呪文を唱えた。
 どうやら二足歩行のポテトが魔物に見えたらしい。ミーコの声はとても上擦っていたが、どうにか聞き取ったポテトは全力でリアクションをすることにした。

『あぁぁぁ……』
『ポテトさぁぁぁぁん!?』

 ポテト、画面から消失。この出来事は、後に「真希の弟子、ポテトを蒸発させる」などのタイトルで切り抜かれることになった。

『えー、ポテトさんが消えてしまいましたが……』

 一人になったファシリ・テイトが司会を続ける。

『これから五分の休憩を挟み、グループDによる予選を始めます。
 終了後、グループC、グループB、グループAの順番で予選を行います』

 ――こうして、ミーコにとって初めてのイベントが始まった。
 グループD。他のグループには、それぞれ二ノ宮ホタルのような企業所属のVtuberが一人ずつ参加しているのだが、このグループだけは全て個人勢となっている。

 このことから分かるように、抽選はポテトによる出来レース。
 ぽよテトを愛するポテトが、頭が沸騰する程に考え、最も面白くなる組み合わせを考えたものであり、有力選手が見事に分散している。

 グループDのメンバーは、以下の五人。

1.イノ・チ・ゴーイ
 目隠れ系黒髪美少女。
 ぽよテトの実力は、まあまあ。

2.カーマ・セーヌ
 怪盗のような服装をしたチンピラ。
 ぽよテトの実力は、レート2700程度。上級者一歩手前。

3.ポヨブレッド
 無駄にリアルな四足歩行の馬。
 ぽよテトの実力は不明だが、レートは3000以上と判明。確実に上級者。

4.まさし
 目力が強いおっさん。
 ぽよテトの実力は、そこそこ。

 そして、ミーコ。
 
:このグループ誰が勝つんだ?
:分からん。ミーコってやつか?
:今回のセーヌはガチ
:イノちゃんの頭脳プレイ()に期待
:わくわく
:あの馬なんなんwww

 休憩時間の間にもコメントが止まらない。
 視聴者達が、最初のグループについて次々とコメントを投稿していた。

 半年に一度のお祭り。
 これまでの実績を引き継ぎ、過去最高の盛り上がりを見せていた。



 ――五分後。
 予選、Dグループ、試合開始。
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