白薔薇姫は愛に溺れる【完結】

ちゃむにい

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結婚してから数カ月が経つのに、デルクは私を抱こうとしない。頭を撫でられたり、手を握られたり、軽いスキンシップはある。
それこそ触れるだけの接吻だけで言えば数えきれないほどしているが、それ以上深い仲にはならなかった。何時も蕩けそうになるぐらい甘い雰囲気になったところで、彼は立ち止る。

「続きは、お楽しみにね」

と、言われても、戸惑ってしまう。与えられた熱の捌け口に困って、寝入ってしまった彼の頬に、そっと口づけてしまうのは、許されるだろうか。
ここのところ、私はおかしかった。
彼に熱を与えられるのは嫌いではなかった。むしろ、もっと触れて欲しいのに、と少々不満なぐらいである。

そして、月の明るい夜に決定打となる事件が起きた。侍女に着替えを手伝ってもらっている最中に、部屋に戻ってきたデルクは私の半裸を見ただけで、赤面した。

「きッ、着替えているとは思ってなかったんだ! 見えてない! 見えてないから!」

気が動転して、必死で言いわけをしているデルクを見て、侍女と顔を見合わせた。
まさか女性に免疫がないわけではないだろうに、性の無い生活に慣れて、すっかり童心に返ってしまったのだろうか。私の裸を見たデルクの、その意外な純情っぷりに、私は夢中になってしまった。
彼を、身も心も愛したかった。

それに、いまだに陛下の手が付かないことを、侍女や大臣が心配をするのだ。国民には伏せられているため、公にできないがデルクは長年に渡って小人として生活をした。
そのためデルク直系の子供が壮齢を過ぎても1人もいない。
それどころか、私以外の女を持たないことも宣言したらしい。これには臣下から不満の声が上がったらしいが、私以外に妻を娶らないというのが、国王となる際に提示した条件でもあったという。

陛下が夜ごと私の部屋に通っていることと、その仲睦まじいさが傍目に見てとれたということ。そして、まだ新妻が16歳の若さであることから、風当たりはそれほど強くないが、世継ぎを産んで欲しいとの期待の眼差しが痛い。
この間、侍女が教えてくれたのだが国民の間でも、私と陛下の間に子供を授かりますようにと、願掛けをすることが流行しているらしい。

そんな周囲の期待が、私を行動に移させた。何よりも、他の女に愛情が移ってしまったらどうするのです、という侍女の言葉に、不安を煽られた。

「レティア様は、恵まれているのですよ。本来なら、陛下に愛を乞わねばならない身の上なのですから。イシュラスをご覧になってください。たくさんの姫君が、正妃の座に就こうと、如何に身を削り、画策していることか」

「そう……ね……」

声が掠れてしまう。

デルクが、本当に愛する女性を見つけるのなら、私は身を引く覚悟だった。けれども、あの笑顔が、他の女性に向き、私のところには通ってこなくなる日がくるかもしれない。そうすれば、私は本当にひとりぼっちになる。
こんな異国の地で、愛想を尽かされてしまったらどうなるのだろう。祖国へと戻る見込みもなく、寵愛を失った正妃として余生を過ごさねばならない。

政略結婚で愛を得るのは、女神様の導きによるところなのかもしれない。
私には、王妃としての義務があった。ここまできてしまえば運命は、もう変わることはないだろう。私がランスロット王子を愛しているのは偽ることが出来ない。
けれどもまた、デルクの愛に報いたいという気持ちも本物なのだ。

現実を見なければならない。私は『今』を生きようと、思った。

しかし、自ら行動するにしたって、どうすればデルクを誘惑できるのか、わからなかった。鏡とにらめっこをしても、良い案は浮かばなかった。ほとほと困り果てて侍女に相談すると、

「レティア様の頼みごとなら、何でも叶えようとしますよ」

と、あまりにもデルク任せなことを言う。それではいくらなんでもあんまりだと思って渋っていると、私が思い悩んでいる様子を見て、侍女は笑い声を噛み殺しながら喋りかけてきた。

「レティア様は、陛下に対して、とても真摯ですね」

その言葉が、鉛の様に胸に沈んだ。



あれよあれよという間に、夜になった。こんな日に限ってデルクは部屋に来るのが遅かった。待っている間、不安で不安でたまらない。
他でもない私が決めたことなのに、時が経つにつれて弱気になってしまう。神経をすり減らしながら、私は彼を待っていた。

今宵、名実ともに彼の妻とならなければならない。けれども彼は、愛しているからゆえに、私に欲望を持つことでさえ逡巡するようだった。
まだ私が彼のことを愛していないことぐらい見透かしているだろう。断られでもしたら、どうしようと思いながら、その時が来るまで思いを馳せた。



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