白薔薇姫は愛に溺れる【完結】

ちゃむにい

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私よりもデルクのほうが、20歳も年上だ。
だからかもしれないが、彼と話をしていると言葉の節々に大人の余裕が感じられることが多い。彼の思想は自由で、時には考えもしないことが口から飛び出す。今の世界の常識を考えると、彼の考え方は独特で、異様にさえ思えた。

彼は、いまだに自分は人ではなく、小人なのだと言う。

「まったくもって、人の世は窮屈すぎて、性にあわないよ。何時だって逃げ出したくなるんだ。けれど、僕は人であるが故にレティアを得ることができた……」

そう言葉を切って、緩慢な動作で私の頬に口づけを落として、頭を肩に埋めた。彼の温もりが、熱い吐息が、伝わってくる。
私の上半身を隙間なく密着させ、感触を楽しむかのように耳たぶを舐めた。

「たしかに……、デルクが結婚を申し込まなければ、エルファーンとは縁が無かったでしょうね……」

彼の、柔らかな愛撫に、声が、震えてしまう。

つい先ほどまで、デルクに愛された体だというのに、ほんの僅かな刺激でも敏感になってしまう。
まだ男を知らなかった頃のように、触れられたところが火のように熱い。
私は目を瞬かせた。デルクの甘い視線に酔いしれながらも、私は夢心地な気分で相槌を打つ。
デルクの指が、私の頬に触れた。間近に見える、その優しい色合いの瞳に、恥ずかしくなって目を伏せてしまった。

なぜ、彼は私を選んだのだろうか。その理由をデルクにも聞いて、納得もしたけれども、デルクの愛を掴めた分不相当な僥倖が、近頃は怖かった。
きっと女神さまの加護があったのだろうけれども、こんなに、幸せでいいのだろうか。この幸せが崩れる日が怖くて、たまらなかった。
デルクの愛情に触れるたびに、卑屈な気分になる。

エルファーンは、アイリスとは縁もゆかりも無い土地である。本来ならば貧しいアイリスではなく、それこそ他国から持参金を持った美しい女性を娶るべきだ。
その話を受けた時は、誰しもが驚いたものだ。なぜ現王妃の娘であるメアリではなく、忘れられた姫君である私なのかと、誰もが訝しみ、そして嘲笑した。元より出来が悪く、顔しか取り柄のない女とみられていた私は評判が悪くて、前王妃の娘という弱い立場が拍車をかけた。

『白薔薇姫は男をたぶらかす才能はあったようだ』

そうでなければ、結婚の申し込みなんかこないだろうと、城下では流行り歌まで出来る始末だった。国外の人に逢う機会など、マリア王妃が亡くなった瞬間から、皆無に近かったというのに、噂が噂を呼んだ。
きっと、その美貌を使って、デルク国王と一夜を共にしたに違いないと、知らない人からさえも、汚いものを見る目で見られた。
 
そのためか、結婚式でも祝福をされるどころか、冷やかなものであり、エルファーンとアイリスにおける待遇の差は天と地ほどの差があった。

アイリスから持ってきたモノと言えば、私の産みの母親であるマリア前王妃に買ってもらった宝石箱と流行遅れの洋服が数十点、靴が数足、下着類が数えるばかりで、しかも宝石や首飾りなどの装身具は異母妹であるメアリに取り上げられていたので、嫁ぐ時になって、これでは外聞が悪いという大使の懇願により、ようやく支給されたありさまだ。

「もし、僕がエルファーンの国王でなければ、君は手に入らなかったと断言してもいい。きっと他の男に嫁いでいただろうね……だからこそ人にお礼をするんだ」

そう言って彼が掲げる政策は、人間が目を背き続けてきた、核心を突いていた。

「どうして、人は問題を後回しにするのだろう。とっくの昔に、小人は対処法を導き出したのに、人はまだ議論すら始まっていない。こんなことを神官長の前で言ったら、破門されるだろうけどね。僕は、人が言う意味では無神論者なのかもしれない」

そう言いながら、彼は世界の方針に関わる持論を、楽しげに展開する。
彼の話を聞いていると、世界が広がるような気がする。小人という狭い世界の中で培った彼の理論は、今の世の人には躍進的過ぎて理解してもらえないかもしれない。
私は、彼の難解な話のすべてを理解できるわけではない。
けれども、彼の考え方がおもしろくて、彼の言葉を遮らないように小さく頷く。きっと彼も、私に喋ることで、考えをまとめているのだろう。

「レティアと話をしていると、仕事が進みそうだ」

ほくほくとした顔で喋りかけてきた時は、思わず笑ってしまったものだ。
そんなある日、デルクがいきなり部屋中に飛び込んできた時、何だろうと思っていたら、彼は金の指輪を人さし指にはめた。

「ついに試作品が出来たんだ! いいものを見せてあげるよ!!」

そして目を閉じたら、力み始めた。
彼の唸り声に心配になって、近づこうとしたら瞬間的に、白い薔薇を入れている花瓶がカタコトと独りでに鳴り出す。テーブルの上に乗せていた分厚い本がパラパラと捲られていった。
まるで海風に対抗するように、デルクを中心にして、風の通り道が出来たのだ。

「す、すごい……!! これは、どうして、こうなったのですか……?」

「これが『魔法』だよ。まぁ、今は魔力を注ぎ込んでも、そよ風程度なんだけど……」

彼の言葉に耳を疑った。
『魔法』は、悪魔の使う力を人が契約して行使するものだ。そのため、魔女の使う力として忌み嫌われている。
私の様子に、デルクは慌てて釈明をする。

「あのね! 僕も小人の時に、つむじ風を操っただろ? けれども、その力は本来、大小の差はあるけど、人にも眠っている力なんだよ! この『魔法』だって昔の人は使っていたと文献には記述されているから、不可能ではないはずなんだ」

そうしてデルクは文献と称する絵本を私に見せた。
タイトルは『空飛ぶ兎』
誰もが知っている、文字が無かった時代から親から子へと口伝された物語だ。
私は目を白黒させてしまった。もしや、彼はこの絵本を参考にして、『魔法』を現世に甦らせたとでも言うのか。

きっと彼が小人だったからこそ、実行に移せたのかもしれない。そうでなければ、そんな夢物語みたいなことは一笑に付されるものだからだ。

私は、彼の力を過小評価していたのだと悟った。
事の重大さに、デルク自身が気が付いていないようだったが、私は戦慄するしかなかった。これは、それこそ、世界を変える、力となる。
それは来る災厄がくるとされる日に有効な手段となるだろう。
しかしそれは、使い方を誤れば、たくさんの人を殺すことに繋がりかねない、もろ刃の剣だった。




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