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三章 訪れる人々
閑話: 弟分の恙無き学院生活
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三人称シズ視点
しんと静まり返った教室内が、教授の講義の終了の言葉とともに俄かに騒がしくなる。
後ろへ行くほど高くなる作りの室内でも前の方に陣取っていたシズは、羊皮紙と教科書を片付けながら、勉学に励める現状に知らず頬を緩ませていた。
学院生たちで校舎内の人口密度が一気に高まり、新入生を交えて賑やかさを取り戻してから既に3ヶ月。朝晩は冷え込み始め、年末へ向けて年越し、そして新たな年を迎える準備が始まり、街の中も普段とは違う空気を醸し出している。
「シズ、メシ食おうぜ」
「いいよ」
いくつかの講義と授業に顔を出しミュリエルの研究を手伝う内に増えた顔見知りに声をかけられ、シズは気易く了承した。ヒューイといういわば臨時職員の奴隷であることは隠していないため、学院生たちのシズへの対応は様々だ。こうして声をかけてくるのは一握りで、後は大体関わろうとはしない。演習で怪我人が出た場合、『癒し手』の出し惜しみはしないが、それでも、だ。
シズもそれを寂しく思うことはない。もし近づいてくる者の中にヒューイへの口添えを望む者があればじっくりと注意深く選別できるし、単に話し相手として選ばれることに否やもないからだ。因みに、前者は人間が多く、後者は獣人が多い。今日は人間だったが、今のところ単なる知人で済む程度にしか話をしたことはない。が、影でシズのことを『癒しの君』などと言って盛り上がっている一団の中に混じっていることは知っている。
――この学院生には特定の人物を持て囃し、何をするわけでもないのだが当人に対する好意を、当人ではなく同じ気持ちを持つもの同士で語り合うという変わった文化がある。シズの場合は『癒し手』という力の性質上相手に触れることが多く、傷を癒すことから相手に良い印象を与えるのだろう。シズ自身はさして容姿、人格共に特筆すべきものがあるとは思っていないが、お年を召した他の保健医などの医療従事者と比べれば肌の状態は美しいということくらいは分かる。
自身の呼び名や、密やかに話題に上っていることについては今のところ無害であるから、シズは全く知らないという態度を貫いている。愛玩対象として生きてきた期間が長かったため、苦痛に思うことはない。相手におもねる必要がない分、楽でさえあった。
「今日は何食おうかな」
「僕、熱々のドリアがいいな」
「おっ そうだな、熱いモンが食いてえな」
他愛のない会話をしながら、食堂へ向けて歩き出す。正式な学院生ではなくとも、シズはヒューイの奴隷であるから、分類上は職員として扱われている。金は払わねばならないが、利用を制限されているということはない。犯罪奴隷となっているギルとは異なり、シズにはもう自力で小金を稼ぐ手段があり、わざわざヒューイに金の無心をせずとも、細々とした日々の出費くらいは己の財布でどうにかできた。
普通の店なら時間がかかる料理でも、学院内では日々のメニューがある程度絞られていることと、魔術を駆使して早く仕上がるため、待ち時間はそれほどでもない。シズは遠慮なくドリアとクラムチャウダーを頼み、注文した品をトレーに乗せると、知人とともに席に着きゆっくりと食べ始めた。
この後の予定は特にない。ヒューイとギルは敢えて校舎内の『そういう目的』のために設えてある小さな空き部屋で睦み合っているだろうから、頃合いを見て合流するだけである。それまで何をしてもいい。
ヒューイは、学院内に限らずシズの行動を制限しない。
それはシズの『癒し手』の力を使うことにさえ適用されている。そしてヒューイは、シズが彼の知らない交友関係を築くことに関して容認どころか肯定的でさえあった。
流石に悪さをするような手合いとなれば別だろうが、基本的にはシズが今日はこんなことがあったという報告にも満たない内容を語るのを、微笑ましそうにしながら聞くのが普段の流れだ。外見はどこか少年めいて見えるヒューイだが、シズはその時ばかりは20を越えた青年であることを強く感じる。
今までの主人はシズに対し暴力を振るわず、甘やかすように、けれど決して自立させようとせずに愛でた。それに反し、ヒューイは最初こそシズに頼りない印象を抱かせたものの、実際には自立のための術を与え、こうして学び舎に座り、文字を読むことも書くことも不自由することなく、知識を吸収していける土台を作った。
人を育てるというのは恐らく、こういうことを指すのだろうとシズは思う。
改めて振り返れば、過去の己が停滞し、鬱屈することこそなかったものの行き詰まりを感じていたのが分かる。
しかし、今はどうだろう。
日々、新たな己となっていく感覚や、己の意識が根を張るように、はたまた枝葉を伸ばすように広がっていくのを感じる。可能性に溢れ、それに溺れて訳が分からなくなりそうな高揚感さえ伴った瑞々しい気持ちがシズを動かしている。
ミュリエルの指導もあって、『癒し手』の能力が徐々に強くなっていくにつれてヒューイは頭が上がらないと言う事が多くなった。だが、そも、己の成長のためには彼がいなくては始まらなかったとシズは確信している。
ヒューイあっての自分だ。彼に感謝こそすれ、見下すことなどあろうはずもない。生憎、当の主人はいまいち己の力について無頓着で、自己評価が低いが。
そもそもマレビトであるというだけで非凡であるのに、凡夫であると信じて疑わない姿はどこかちぐはぐで、声高に吹聴できないことがもどかしくもあり、しかし一方で今の慎ましさを心地よくも思う。
どの主人も彼らなりの形でシズを愛したが、ヒューイはまるで兄というもののようだ。
「この後、どうする?」
「……決めてない……けど、薬学部の人と一緒に演習場で怪我の手当てでもしようかな」
「ええ? ……魔方陣の式の復習とかやる気、ねえ?」
「それは帰ってからヒューイさまとする」
当てはがずれたのか、悲痛そうな声を上げる知人を尻目に、シズはくすりと笑みをこぼした。ヒューイも魔術を操る訓練をしているが、微調整は苦手だ。式により任意に、かつ厳密に効果と範囲を指定する、という瞬時の『手間』が不得手であるらしい。
シズも学院で初めて知ったが、ヒューイの操る魔法は学術的な分類でも魔法とされており、理屈を解明し、魔力さえあれば誰もが同じように繰り出せる魔術とは異なり、当人であっても理屈立てて説明することが難しいものだ。実際、シズは説明を求められ言葉に窮する主人の姿を目の当たりにしている。
「くそー……シズが寮生だったらなあ…… あ、ってか俺が外泊届出してそっち行けばいいのか」
「許可があるならヒューイさまは受け入れてくださるだろうけど、名目をどうするにせよあの家までは自力で来てよね?」
「冷てえ」
「普通だよ普通」
「はあ……怪我人にするみてえに癒してくれよ」
「無茶言わないでくれる?」
「圧倒的に癒しが足りねえんだよ」
恐らく、女子学生の少なさ、そして更にその中から見目の良い人物となると相当数絞られてしまう、そのことを言っているのだろう。だが、だからと言ってシズの見目が男子学生の目と心を慰めるほどいいかと言われるとそれほどでもない。
管を巻くようにシズに絡んでくる知人の姿に苦笑を隠さないでいると、小動物めいた動きで頭をぐりぐりと押し付けられ、シズは小さく笑いながらその肩を押しやった。己の見た目は兎も角、今のところ身体の熱を持て余すことも、心が寂しいこともない。好意を向けられるのはやぶさかではないが、同じものを返そうという積極的な気分にはなれない。それよりも、今はただただ興味の赴くままに知識に触れることが快感なのであった。
結局今日の講義は全て終わったからと暇に飽かせて腹ごなしを兼ねた昼寝と洒落込んだ知人を尻目に、シズは談話室で紅茶と焼き菓子を口にしながら時間を計っていた。その近くでは暖炉の火は穏やかに揺れ、時折ぱちんと爆ぜる。部屋の中は暖かく快適だ。
ヒューイとギルが校内の某所にしけこんでから既に一時間半が経っていた。なんだかんだと毎回しっぽりしている二人のことであるから、もう一時間は余裕を見た方がよさそうだ。ヒューイの性格上あまり気の乗らない場所での行為ではあるが、目的のことを考えると学院生たちで賑わう時間に合わせて出てくるはずであり、今は既に昼休みも終わり午後一番の講義が始まっている。つまり、次の休憩時間には出てくると予想できる。それ以上は流石に長すぎるからだ。
シズが癒すわけには行かないため手を貸すことはできないが、ヒューイが恥じらいながらギルに身体を預けて歩いている姿は既に学院生たちも知るところだ。勿論、獣人に至っては情事の後の臭いが分からないはずはない。効果は出ている。
ただ、計算外だったのは人間の男子学生の方だろうか。ヒューイを目当てにする、ということは無いのだが、あの二人に中てられたように、こっそりとキスをする男子学生二人組が散見されるようになった。
男同士であろうと、相互に好意のあるキスは気持ちがいいものだ。シズとて、ヒューイの優しいご褒美の口づけを思うと機嫌もよくなる。
女同士の事情は分かりにくいが、ヒューイとギルの関係が圧倒的大多数の嫌悪で見られることを思えば、触発されている一部がいる現状はいいことなのだろう。とはいえ、風紀を乱さない程度に留めてほしいものだが。
腹が満たされたせいかとろんと重くなった瞼を擦り、シズは冷めた紅茶を一気に喉の奥へ流し込んだ。足かけ用の椅子――オットマンを二つ動かし、鞄を肩に掛けたまましっかりと抱き込み、既に眠りに落ちた男の側で丸くなる。
「んぁ……?」
寝ぼけたような声を聞いたが、なにやら幸せそうにむにゃむにゃと呟くと、男は抱き枕にするようにシズの身体を引き寄せ、再び眠りの淵へ降りて行った。
たまには飴も必要だ。
ついでに、物を盗まれるリスクも多少は低くなるだろうと思いながら、シズも追いかけるようにして瞼を下ろした。
寝息を揃えると、気持ちいいほど速やかに身体は弛緩していった。
しんと静まり返った教室内が、教授の講義の終了の言葉とともに俄かに騒がしくなる。
後ろへ行くほど高くなる作りの室内でも前の方に陣取っていたシズは、羊皮紙と教科書を片付けながら、勉学に励める現状に知らず頬を緩ませていた。
学院生たちで校舎内の人口密度が一気に高まり、新入生を交えて賑やかさを取り戻してから既に3ヶ月。朝晩は冷え込み始め、年末へ向けて年越し、そして新たな年を迎える準備が始まり、街の中も普段とは違う空気を醸し出している。
「シズ、メシ食おうぜ」
「いいよ」
いくつかの講義と授業に顔を出しミュリエルの研究を手伝う内に増えた顔見知りに声をかけられ、シズは気易く了承した。ヒューイといういわば臨時職員の奴隷であることは隠していないため、学院生たちのシズへの対応は様々だ。こうして声をかけてくるのは一握りで、後は大体関わろうとはしない。演習で怪我人が出た場合、『癒し手』の出し惜しみはしないが、それでも、だ。
シズもそれを寂しく思うことはない。もし近づいてくる者の中にヒューイへの口添えを望む者があればじっくりと注意深く選別できるし、単に話し相手として選ばれることに否やもないからだ。因みに、前者は人間が多く、後者は獣人が多い。今日は人間だったが、今のところ単なる知人で済む程度にしか話をしたことはない。が、影でシズのことを『癒しの君』などと言って盛り上がっている一団の中に混じっていることは知っている。
――この学院生には特定の人物を持て囃し、何をするわけでもないのだが当人に対する好意を、当人ではなく同じ気持ちを持つもの同士で語り合うという変わった文化がある。シズの場合は『癒し手』という力の性質上相手に触れることが多く、傷を癒すことから相手に良い印象を与えるのだろう。シズ自身はさして容姿、人格共に特筆すべきものがあるとは思っていないが、お年を召した他の保健医などの医療従事者と比べれば肌の状態は美しいということくらいは分かる。
自身の呼び名や、密やかに話題に上っていることについては今のところ無害であるから、シズは全く知らないという態度を貫いている。愛玩対象として生きてきた期間が長かったため、苦痛に思うことはない。相手におもねる必要がない分、楽でさえあった。
「今日は何食おうかな」
「僕、熱々のドリアがいいな」
「おっ そうだな、熱いモンが食いてえな」
他愛のない会話をしながら、食堂へ向けて歩き出す。正式な学院生ではなくとも、シズはヒューイの奴隷であるから、分類上は職員として扱われている。金は払わねばならないが、利用を制限されているということはない。犯罪奴隷となっているギルとは異なり、シズにはもう自力で小金を稼ぐ手段があり、わざわざヒューイに金の無心をせずとも、細々とした日々の出費くらいは己の財布でどうにかできた。
普通の店なら時間がかかる料理でも、学院内では日々のメニューがある程度絞られていることと、魔術を駆使して早く仕上がるため、待ち時間はそれほどでもない。シズは遠慮なくドリアとクラムチャウダーを頼み、注文した品をトレーに乗せると、知人とともに席に着きゆっくりと食べ始めた。
この後の予定は特にない。ヒューイとギルは敢えて校舎内の『そういう目的』のために設えてある小さな空き部屋で睦み合っているだろうから、頃合いを見て合流するだけである。それまで何をしてもいい。
ヒューイは、学院内に限らずシズの行動を制限しない。
それはシズの『癒し手』の力を使うことにさえ適用されている。そしてヒューイは、シズが彼の知らない交友関係を築くことに関して容認どころか肯定的でさえあった。
流石に悪さをするような手合いとなれば別だろうが、基本的にはシズが今日はこんなことがあったという報告にも満たない内容を語るのを、微笑ましそうにしながら聞くのが普段の流れだ。外見はどこか少年めいて見えるヒューイだが、シズはその時ばかりは20を越えた青年であることを強く感じる。
今までの主人はシズに対し暴力を振るわず、甘やかすように、けれど決して自立させようとせずに愛でた。それに反し、ヒューイは最初こそシズに頼りない印象を抱かせたものの、実際には自立のための術を与え、こうして学び舎に座り、文字を読むことも書くことも不自由することなく、知識を吸収していける土台を作った。
人を育てるというのは恐らく、こういうことを指すのだろうとシズは思う。
改めて振り返れば、過去の己が停滞し、鬱屈することこそなかったものの行き詰まりを感じていたのが分かる。
しかし、今はどうだろう。
日々、新たな己となっていく感覚や、己の意識が根を張るように、はたまた枝葉を伸ばすように広がっていくのを感じる。可能性に溢れ、それに溺れて訳が分からなくなりそうな高揚感さえ伴った瑞々しい気持ちがシズを動かしている。
ミュリエルの指導もあって、『癒し手』の能力が徐々に強くなっていくにつれてヒューイは頭が上がらないと言う事が多くなった。だが、そも、己の成長のためには彼がいなくては始まらなかったとシズは確信している。
ヒューイあっての自分だ。彼に感謝こそすれ、見下すことなどあろうはずもない。生憎、当の主人はいまいち己の力について無頓着で、自己評価が低いが。
そもそもマレビトであるというだけで非凡であるのに、凡夫であると信じて疑わない姿はどこかちぐはぐで、声高に吹聴できないことがもどかしくもあり、しかし一方で今の慎ましさを心地よくも思う。
どの主人も彼らなりの形でシズを愛したが、ヒューイはまるで兄というもののようだ。
「この後、どうする?」
「……決めてない……けど、薬学部の人と一緒に演習場で怪我の手当てでもしようかな」
「ええ? ……魔方陣の式の復習とかやる気、ねえ?」
「それは帰ってからヒューイさまとする」
当てはがずれたのか、悲痛そうな声を上げる知人を尻目に、シズはくすりと笑みをこぼした。ヒューイも魔術を操る訓練をしているが、微調整は苦手だ。式により任意に、かつ厳密に効果と範囲を指定する、という瞬時の『手間』が不得手であるらしい。
シズも学院で初めて知ったが、ヒューイの操る魔法は学術的な分類でも魔法とされており、理屈を解明し、魔力さえあれば誰もが同じように繰り出せる魔術とは異なり、当人であっても理屈立てて説明することが難しいものだ。実際、シズは説明を求められ言葉に窮する主人の姿を目の当たりにしている。
「くそー……シズが寮生だったらなあ…… あ、ってか俺が外泊届出してそっち行けばいいのか」
「許可があるならヒューイさまは受け入れてくださるだろうけど、名目をどうするにせよあの家までは自力で来てよね?」
「冷てえ」
「普通だよ普通」
「はあ……怪我人にするみてえに癒してくれよ」
「無茶言わないでくれる?」
「圧倒的に癒しが足りねえんだよ」
恐らく、女子学生の少なさ、そして更にその中から見目の良い人物となると相当数絞られてしまう、そのことを言っているのだろう。だが、だからと言ってシズの見目が男子学生の目と心を慰めるほどいいかと言われるとそれほどでもない。
管を巻くようにシズに絡んでくる知人の姿に苦笑を隠さないでいると、小動物めいた動きで頭をぐりぐりと押し付けられ、シズは小さく笑いながらその肩を押しやった。己の見た目は兎も角、今のところ身体の熱を持て余すことも、心が寂しいこともない。好意を向けられるのはやぶさかではないが、同じものを返そうという積極的な気分にはなれない。それよりも、今はただただ興味の赴くままに知識に触れることが快感なのであった。
結局今日の講義は全て終わったからと暇に飽かせて腹ごなしを兼ねた昼寝と洒落込んだ知人を尻目に、シズは談話室で紅茶と焼き菓子を口にしながら時間を計っていた。その近くでは暖炉の火は穏やかに揺れ、時折ぱちんと爆ぜる。部屋の中は暖かく快適だ。
ヒューイとギルが校内の某所にしけこんでから既に一時間半が経っていた。なんだかんだと毎回しっぽりしている二人のことであるから、もう一時間は余裕を見た方がよさそうだ。ヒューイの性格上あまり気の乗らない場所での行為ではあるが、目的のことを考えると学院生たちで賑わう時間に合わせて出てくるはずであり、今は既に昼休みも終わり午後一番の講義が始まっている。つまり、次の休憩時間には出てくると予想できる。それ以上は流石に長すぎるからだ。
シズが癒すわけには行かないため手を貸すことはできないが、ヒューイが恥じらいながらギルに身体を預けて歩いている姿は既に学院生たちも知るところだ。勿論、獣人に至っては情事の後の臭いが分からないはずはない。効果は出ている。
ただ、計算外だったのは人間の男子学生の方だろうか。ヒューイを目当てにする、ということは無いのだが、あの二人に中てられたように、こっそりとキスをする男子学生二人組が散見されるようになった。
男同士であろうと、相互に好意のあるキスは気持ちがいいものだ。シズとて、ヒューイの優しいご褒美の口づけを思うと機嫌もよくなる。
女同士の事情は分かりにくいが、ヒューイとギルの関係が圧倒的大多数の嫌悪で見られることを思えば、触発されている一部がいる現状はいいことなのだろう。とはいえ、風紀を乱さない程度に留めてほしいものだが。
腹が満たされたせいかとろんと重くなった瞼を擦り、シズは冷めた紅茶を一気に喉の奥へ流し込んだ。足かけ用の椅子――オットマンを二つ動かし、鞄を肩に掛けたまましっかりと抱き込み、既に眠りに落ちた男の側で丸くなる。
「んぁ……?」
寝ぼけたような声を聞いたが、なにやら幸せそうにむにゃむにゃと呟くと、男は抱き枕にするようにシズの身体を引き寄せ、再び眠りの淵へ降りて行った。
たまには飴も必要だ。
ついでに、物を盗まれるリスクも多少は低くなるだろうと思いながら、シズも追いかけるようにして瞼を下ろした。
寝息を揃えると、気持ちいいほど速やかに身体は弛緩していった。
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