ローズゼラニウムの箱庭で

riiko

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最終章 それぞれの選択

211、最終章 1

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 俺の本当の意味での自由な時間の始まりだ。今までは誰かの保護のもとでの自由、そして今ようやく一人の個人としての歩みを手に入れたんだ。

 俺のこれからの行動はすでに決まっている。最終的に最愛の人のもとへ行く。それまでにあと少しだけ自由な時間を堪能するんだ。

 桜はすぐにでも勇吾さんのもとへ行くと思っているみたいで、車を出してくれると言ったけど、一人でゆっくり行きたいからと断った。

 そして俺は街に出た。今まで監視付きの生活だったから一人で歩くのは絢香のとこで暮していた子供の頃以来になる。

 桜からは俺のスマホと財布をもらった。財布の中身はなんだか凄いことになっているけど、スマホは監視されている? いや、俺にはもう関心はないからそんなことはしていないかな。

 その前に、ひとつだけやるべきことをしよう。

 平日の日中、一人カフェに入った。これも桜に会いたくて初めての夏休みに一人で桜の会社近くのカフェに行った時以来の一人カフェ。

 気持ちが違う。今は全てのしがらみから解放されて、ようやく本当の意味での一人になれた。

 そしてお爺様と勇吾さんに手紙を書いた。

 それから、スマホを開いて俺の預金口座へとアクセスする。安心した、口座は凍結されることなく手付かずで残っていた。そこから二年かけて仕事で貯めた金を全て勇吾さんの口座へと振り込んだ。その後に口座解約の手続きへと銀行へと向かった。持っているものを軽くしたかった。

 どの道、あの金は俺にはもう必要ない。そもそも絢香を買い取るために密かに貯めた金だったから、今は意味をなさない。勇吾さんが持ってきてくれた仕事と、勇吾さんからの岬への家庭教師の仕事でもらったものだから、結果勇吾さんのものでいい気がした。

 それが済むと、スマホと向き合って調べようと思っていたことを調べていた。そんなことをしていたらいつの間にか時間も経っていた。これからの足取りを探られたら後々迷惑がかかる、そう思ってスマホは解約手続きをして捨てた。

 そうだ、ゲーセン行ってみよう! なんとなく高校生らしく遊んでみたかった。身分不相応な高校生活だったので、年頃の男の子の普通の遊びに憧れる。

 繁華街に行って、適当なゲーセンに入ってみた。うん、俺ゲームしたことないじゃん? よくわかんないや。そんな風に立ちすくんでいると、放課後を楽しんでいる男女グループの楽しそうな顔が見えた。

 コーヒーを飲んで観察していたら、その中の一人の男と目が合った。

 やべ、見すぎたからか、こっち来たよ。俺は同年代と話すスキルは自慢じゃないが持ってない。

「ねえ、君どこの学校? ここってうちらの学校の溜まり場だから、だいたい顔なじみなんだけど、君みたいな綺麗な子初めて見たよ」
 
 話しかけてきたのは短髪が爽やかな、学ランをきた大柄な男だった。

「はは、綺麗って男にいうセリフじゃないよ。俺ここ初めて、とういかゲーセンって初めてでどうしたらいいかわからなくって、君たちが楽しそうにしてたから羨ましくて見ちゃってた、ごめんね」
「いや、別に見ていてくれて構わねえ。お前その年でゲーセンデビューかよ! 真面目か!? ちょっと待ってろ!」

 人懐っこい奴だな、って俺も初対面の相手に言葉使い気を付けないで、それでいて年頃の男らしく話している自分が嬉しくなって思わず笑っていた。そいつは、大声で、仲間をこっちに呼んだ。

「あっ、お前名前は? 俺は太一よろしくな」

 ゲーセンって、会ったらその場で名前言い合ってよろしくって言うのか……なるほど。

「ああごめん、俺は良太、こちらこそよろしく。話しかけてくれてありがとう」
「たいちぃ! 何ナンパしてるんだ!」
「そうだよ、ここにはこんなに可愛い女の子もいるのに! てか、君すごく綺麗だね。あっ、あたしはミナだよ。よろしくね」
「太一みたいなごつい男に話しかけられて驚いたよね? ごめんね、躾がなってなくて。あたしは佳代だよ」
「お前らこそさりげなく自分紹介してるじゃねぇかよ!」

 男女四人は学校の友達らしくて、放課後はだいたいここにきていると言った。俺があまりにおろおろしたから、気になって声をかけてくれたんだって。面倒見のいい集団は俺を仲間に入れてくれて、ゲームの仕方を教えてくれた。

  すげーな。普通の学生はこんな風に友達がすぐできるのか、楽しいな。
 
 まさか自分がこんな風に普通の男子高生になれるなんて思わなかった。何時間遊んだのだろ。時間を忘れたのも初めてだった。そろそろみんな帰る時間になったみたいだった。

「なあ、良太、連絡先交換しようぜ! もっと俺らが高校生らしいこと教えてやるよ!」
「俺、金なくてスマホ解約しちゃったんだ、ごめんね。もう帰らなくちゃ、流浪の民やってみたくて、やんちゃした!」

 みんな一瞬驚いていた、そして爆笑。

「お前、中二病じゃん! いいね! そういうの。ビンボーな流浪の民!」
「おい、太一バカにしてんじゃねぇよ。良太は真面目だ、ぷぷっ、ぶはっ!」
「ちょっと二人とも酷くない? 笑うなんてさ」

 そう言いながら、ここにいる全員爆笑だ。バカで楽しいことだけ楽しむ、そんな関係が羨ましい。

「なるほど、こういうのを中二病っていうんだね。やばぃ俺めちゃ楽しいわ!」

 俺は本気で笑って、目一杯楽しんだ。そして名残惜しくも解散した。

 そのまま俺は家に帰ると言って、近くのファーストフードに入った。夜中も営業しているので買った本を開き、ゆっくりと読んで夜を一人で過ごす。

 とても贅沢な時間だ。

 夜のファーストフードってもっと、こう不良っぽいのとかいたり、絡まれたりとかあるのかとビクビクしたが、全くもってそんな怖い経験もせずに、朝を迎えた。

 サラリーマンたちが少しずつ増えて、出勤前のひと時を過ごしている。いいな、俺ああいう普通の大人になりたかった。変わらない日常、給料が安いとか、上司が辛いとか、そんな愚痴とか言ってもなんだかんだと家族のために頑張るお父さんとか、憧れる。

 そして人が動き出した時間に電車を乗り継ぎ、夏休みを過ごしたあの海へと行った。

 人生で初めて夏休みらしい経験させてもらって、海も初めて入った。本当に楽しかった。あの頃は桜が好きで、でもやっぱりもがいていて、それでいて新しい経験をさせてくれるつがいがかっこよくて、また来年行こうねって言っていたのに。

 桜と過ごした一番楽しかった場所に行きたかったんだ。海も見たかった。今は海水浴の時期ではないから、人はまばらだけどそれもいい。静かで心落ち着く。こんなポカポカなところで日向ぼっこをしていたら、いつの間にかうとうとしてしまい眠ってしまった。

 目を開けると、俺を心配そうに見ている親子がいた。
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