転生者はめぐりあう(チートスキルで危機に陥ることなく活躍 ストレスを感じさせない王道ストーリー)

佐藤醤油

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第6章 新しい命

6.4.2 婚約のお披露目

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 婚約式の前日に再びシルビア様との面会が行われた。
 この面会にはティアマトも同席した。
「ティアマトと話をしたのでしょう」
「ああ、私が指導を受けた剣神の子孫なのかと思っていたが、生まれ変わりとは想像していなかった」
「前世が誰だったのかをおぼえているのは、ルビースカリナ様に続いて二人目ですね」
「人の世は短いのだが、まれにこうして前世をまたいで関係する物もいると父上から聞いてはいたが、直接関係したのははじめてだ」
「ティアは、あの時と本当に全くかわらないのね」
 おお、いつの間にかシルビア様はティアマトのことを愛称で呼んでいる。
「それで今日はどんな話なのですか。僕にも関係があるのですか?」
そう言うと、シルビア様はティアマトの方を一度見てから、僕を見つめ直した。
「そうね。まずは『トシアキ』と言うあなたの従者のことからしましょう」
「トシアキが何か?」
「ラルクバッハに来てから、目のありそうな剣士が何人か育っているのを確認しました。聞くと、クロスロードで『トシアキ』殿に指導を受けたと言うのことだったわ」
「ああ、クロスロードに習いに来ていた戦士たちですか。確かに、身体強化の使い方と、剣の型を教えていました」
「あなたを指導したのもそうなのでしょう」
「はい。彼はエイミーの派手なところに隠れがちですが、とても優秀なんですよ」
「そうね。わたくしもそう思います」
「それで何か?」
「彼に指導者の免許を許諾するつもりです」
「それは何?」
「今で、剣王を目指す者はエルドラに来るしかなかったけれど、この地でも同じような育成ができる指導者であると言う証明書です」
「それって、剣王を目指すためにエルドラに行く必要が無いと言うこと?」
「そうです。今までは他国に出た剣王や剣帝のみがその指導を可能としていましたが、強いから指導ができるわけでも無かった。強くて指導もできる者は少なく、実質的に上を目指すならエルドラに来ていました」
 その意見には賛成かな。
「それで強さとしては剣王に到達していないけど、指導者としては免許を出すと?」
「そうです。残念ですが『トシアキ』殿は剣王のレベルには到達していません。ですが指導能力は非常に高い。彼が育成すれば剣王になれると言いきれませんが、それに近いレベルまで育成ができます。その指導者の免許を発行します」
「今までも指導者の免許を持っていたような?」
「彼が持っているのは、ブルンスワードで発行された道場を開くことのできる免許ですね。エルドラが認めた物ではありませんので、似て非なる物ですね」
「つまり比べ物にならない高尚な免許であると。それを貰えるのは名誉なのことなのでしょうが」
「おそらく、免許を与えた物をクロスロードだけで囲うのは難しいでしょう」
「エイミーが国に所属したみたいに、トシアキが国に取られると?」
「剣王や剣帝は個人の意思を優先し特に意思が無ければ在住する国が保護をする。そういう決まりですが、指導者も同じように国に保護される存在です。指導すると言う職業であると考えると特定の領地に縛られない方が良いのです。エルドラでも剣王の資格を持たない指導者は何名かいますが、全員が国に所属し騎士団の育成に関わっています」
「エルドラが与える指導者の資格は本人にとって名誉なことだけど、僕の元を離れる。できれば引き止めないと欲しいと。そういうことですね」
「そうね」
「わかりました。トシアキを取られるのは残念ですが、本人の才能や努力とは関係なくエイミーの影に隠れてしまうのを気にしていましたから。寂しくなるけど反対はしません。いえ、トシアキの才能を評価していただいて、主人としても正当な評価をしてもらってありがたいと思います」
「では、この件は進めます。それともう一つ。お願いがあります」
「お願いですか?」

「そう、あなたにクリスタの面倒を見て欲しいのです」
 そう言われて、僕は言った本人であるシルビア様ではなく、ティアマトの方を見た。
 なぜそれが僕の方に言われるのか不思議だったからだ。
「僕が預かっても剣の指導ができるわけじゃない。ティアマトかエイミー。もしくはステパンが妥当な所でしょう」
「私がジルベールのところにいるのは、私がいたいからだ。エイミーの指導もしているのはジルベールを鍛えるついでだ。それにクリスタが加わると言われても私が約束し引き受けるのは違う」
「僕が引き受ければ、僕の育成のついでにクリスタを受け入れても良いと?」
「まあそうだが、それ以外にクリスタと言う者が将来ジルベールの敵になる可能性もある。私が率先して育てるのは意図に反する」
「僕の敵に? でもエルドラはラルクバッハなどの同盟国同士で戦うことは無い、暗殺も受け入れないのでしょ。敵対することは無いのでは?」

「ジルベール、聖獣は全部で4体いる」
 ティアマトがそう言った。
「ジルベールに説明したことは無かったが、剣神とは聖獣の契約者のことだ。剣の腕が高く聖獣に認められて初めて剣神と呼ばれる。逆に言えば剣帝以上の能力があり聖獣が認めれば剣神であるとも言える」
「つまり、僕が4体目の聖獣と契約を望むならクリスタの敵になると?」
「そういうことだ」
「僕は別に剣帝や剣神になろうとは思っていないし、これ以上の聖獣が欲しいが思ったことも無い」
 そう言った後でもしかしてと思い言葉をつづける。
「あの、もしかして、ティアマトは僕が趣味で聖獣を集めているとでも思っているの?」
「そうではないのか?」
「確かに、ティアマトに会った時に2体の聖獣と契約していたけど、そもそもイシスを出せるようになったのはあの時が初めてだし、イシスとガルダの両方が出せるようになったのはティアマトと会った後の10歳になってからだし、コテツとの契約はティアマトとバハムート様が持って来た依頼。あっ、もしかしてコテツの話を持って来たのも魔力云々もあったけど、僕が聖獣を集めていると思ったから断らないと思っていたってこと?」
「そうでは無かったのか? 普通2体以上の聖獣と契約しようと思う人間はいないと思うが」
「イシスとガルダが契約したのは僕の前世で残念だけどそれはおぼえてない」
「そうだったか?」
 ティアマトが何となく微笑みながら返してくれた。
「そうか、ではクリスタが敵対することは無い。面倒を見て欲しい」
 これは、この流れだとハイと言って受け入れて、ティアマトに押し付ければ良いのかな?

「結果的にトシアキ殿を取り上げることにもなったし、クリスタは指導能力も高い。きっと役に立つと思う」
 うーん、やっぱり疑問があり素直に受け入れがたい。本当の理由は別じゃないのかな。

「どうしてエルドラで育てないのか。本当の理由を教えてください」


 シルビア様は少し考えこんだ後でようやく説明をしてくれた。

「今代の剣神は100年前に剣神であった者の記憶と力を持つ私と比較しても破格に強いのだ。強いのだが、その。……」
 言葉が言いよどんだが、再び言葉をつづけた。
「致命的なほどに指導能力がない」
 え?
「彼の言うことは、私のレベルを持ってしても言っている意味がさっぱりわからん。どれぐらいわからないかと言うと、なぜかエイミーとだけ会話が成り立つ。そういえばわかるだろう」
「もしかして、『ズバッと振って、えいってやればできる』とかそういう?」
「そうだ」
 なるほど。同じ天才タイプか。

「でも、シルビア様は教えるのも上手で技術レベルも高いのでは?」
「わたくし、前世で実力のある剣士に対して手加減ができず死んでしまったのです。それを後悔しているのです。ですので、これ以上の実力者を相手にはできないのです」
 100年前のことがいまだにトラウマになっているのか。
「あなた自身も高いレベルの治療魔法が使えるし、ティアもいる。わたくしがクリスタの育成をティアに頼みたかったのは技術もありますが、治療ができることを考えてのことでした。ですが、ティアはジルベール殿が受け入れると言わなければ無理だとおっしゃるし。それにあなたの実力があるのは知っていますから。環境としては申し分が無い」
 なるほど。確かに僕のところにいれば無茶もできる。
 エイミーがあれほどのレベルに至ったのも怪我をせずに無茶な訓練ができたからと言うのもあるのだろう。
「わかりました。剣帝がいてくれるのは僕にとっても、エイミーにとっても良いことですし、クリスタのことは受け入れます」

 結局、そんなやり取りで僕も納得してクリスタを引き受けることになった。

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