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【2】和希の単身赴任
③
しおりを挟む二次会は10人ほどでカラオケとなった。20代の若い子達も部長の世代に合わせてくれてみんなほんとに20代? と思うほど、昭和の歌を歌い大盛り上がりした。
和希はさっそく見せ場の口笛を吹きたかったが(バカにされたらイヤだな)と思い披露せずにいたら、由唯が「部長の口笛聞かせてくださいよー」とちゃかし、和希は照れながらも《上を向いて歩こう》の間奏で自慢の口笛を披露した。
その口笛は自慢するだけあって、とても上手でみんなが笑いながら拍手して一段と盛り上がった。
シュッとした男前の部長が口笛を吹いてみんなの笑いをとったことで一気に部下との距離が縮まった。
みんなで楽しんだ二次会も終わり駅に向かう途中「もう一軒行きますがどうですか?」と澪が誘ってくれた。終電で帰れなくなるが翌日は休みだしせっかくなので付き合うことにした。
3次会はタクシーで天満へ移動し澪の行きつけの店で飲むことになった。
澪はいつもの焼酎ソーダ割から焼酎ロックに変わり、益々テンションが上がってきている。由唯は自分のペースでゆっくり飲みお酒を楽しんでいた。時計は既に25時を回っていた。
和希は(いつ終わるんやろ?)と思いながら、澪の目の輝きが増していってるのを見て(今日は朝までか……)と心でつぶやいた。
結局この日は3時まで飲み、和希はグデングデンに酔っ払い、気づくと家に帰って寝ていた。
次の日の夕方、二日酔いで頭もスッキリしない和希に由唯から連絡がきた。
澪と天満に飲みに行くので一緒に行かないかとの誘いだった。
(えーっ?! 昨日あんだけ飲んだのに、今日も天満で飲み?)と苦笑いしながらもその誘いにのることにしてウコンを飲んで天満へ向かった。
(今夜もまた午前様か? 夜中から天気は雨って言ってたな。いつ帰れるかわからないから傘持っていくかー)
休日に飲みに出かけるなんていつ以来だろうと考えてみたが思い出せなかった。
(これからは時間を気にせず飲みに行けるなー)と、単身赴任生活を楽しみに思った。
玄関にカギをしてマンションを出ると見事な夕晴れだった。
(折り畳みの傘にすればよかった)と思ったが、面倒だったのでそのまま向かうことにした。
京橋駅で乗り換え、天満駅につくとスマホの地図を頼りに指定されたお店【ROKU】に向かった。約束の18時の5分前にお店の前から中を覗くと既に澪がグラスを片手にお店のマスターと楽しそうに話をしていた。お店はカウンター6席とテーブル2席の炭火焼きとお酒が美味しいお店だ。
扉を開けると、澪と話していたマスターがドアに目をやった。
「いらっしゃーい」
「あ、神楽さ~ん!」澪は上機嫌だった。
「阪上さん、早いですねー。もう飲んでるんですか?」
「私は17時の開店から飲んでますよ~」
「本当ですか!?」
「はい! 私、ここの常連なので~! 休みの日はこの時間からよく来るんですよ。ねっ? 東山さん 笑」
澪はそう言うとカウンターの中のマスターに同意を求めた。
「はい。いつも澪さんにはお世話になってます。休みの日はだいたいこの時間から来ていただいてます」
お酒が入った上機嫌な澪は和希に【ROKU】の常連になった経緯を説明しだした。
「大阪にきた当初は、京橋でいいお店ないかなぁ。って探したんですけど全然なくて、そんなある日、天満でふらっとここに入ったら料理も美味しくて珍しい焼酎も置いてあってすぐにファンになりました。なんと言ってもマスターの東山さんが凄く良い人なんですよねー 笑」
東山は照れながら「有り難うございます」と言った。
「それから毎週くるようになったんですよー 笑」
カウンターに置いてあるおにぎりを指差して
「このおにぎりがめっちゃ美味しいんです!」
そう言うと「マスターおにぎり3つもらうねー」っとカウンターのおにぎりを3つ手に取り澪の鞄に入れた。
「阪上さん、おにぎり食べるんじゃなくて、持って帰るんですか?」
おにぎりを鞄にしまった澪にびっくりして身を乗りだした。
「このおにぎり人気ですぐ売り切れるから先に取っておかないと帰る時には無くなるんです。ここで飲んだ翌朝はいつもこのおにぎりを食べて朝から幸せな気分になるんです 笑」
「へぇーそうなんですね。僕も食べたいです」
「もちろん1個ずつしましょう。そのつもりで3つ貰ったんです。明日の朝ご飯にして下さい」
澪は続けて、
「神楽さん、おにぎりだけじゃないんですよ。鳥の炭火焼きはもちろん、だし巻きやハンバーグも絶品ですよ」
「えー?! ハンバーグもあるんですか?」
和希はハンバーグがあることに驚いた。
「そうなんです。炭焼きと串料理だけじゃないんです。私も最初はハンバーグがあることにびっくりしたんですが、これがまた美味しくて二度びっくりでした。あと、じゃことねぎのうすあげピザも最高に美味しいんです。一度食べたら癖になりますよ!」
「じゃーマスター、とりあえずビール下さい。それと、そのピザとハンバーグもお願いします」
続いて澪が、
「肝の激レアとせせりもお願いします」
開店からまだ1時間程しか経ってないのに澪はかなりの上機嫌だった。
「マスター、阪上さんっていつも飲んだらこんな感じですか?」
東山に聞くと、
「そうですねぇー。いつも陽気に楽しそうに飲まれてますよ。私も最初は飲み過ぎでないかと心配したんですが、お店で酔い潰れたこともないですし、次に来られた時に『この間は大丈夫でしたか?』って聞くと『全然大丈夫ですよ。』と言われるのでとてもお酒強い人だと思ってます」
「そうなの~。私どんだけ酔っても次の日は大丈夫なの~ 笑」
「次の日はって言いますけど、昨日は、終わったのが今朝の3時頃ですよ! あれだけ飲んで半日しか経ってないのにお酒残ってないですか? 僕は二日酔いで今も少し頭痛いですから 笑」
「あははははー。神楽さん弱いですね 笑」
(阪上さんは本当にお酒が好きで強いねんなぁ)
その時、後ろから「こんばんは~!」と明るい声で由唯が入ってきた。
「あっ、由唯きた~!!」
出来上がってる澪が言った。
「昨日はお疲れ様でした。本宮さんは二日酔い大丈夫ですか?」と澪を見ながら由唯に聞いた。
「私はそんなに飲んでないから大丈夫ですよ」
「えぇ~! 本当ですか!? 結構飲んでたと思うんですが……。阪上さんと本宮さんの『結構飲んだ』はどれくらいですか? 笑」と驚いた和希だった。
そして3人の友情はここから始まったのだった。
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