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【3】澪と由唯のアフターファイブ
②
しおりを挟む今夜は今年初めての降雪予報が出る寒さだった。4人は会社を出たところで体をブルッと震わせ、由唯はマフラーを首にグルグルと巻き直した。夜道でもすれ違う人達の吐く息が白いのがわかる。
勢いよく会社を出たまではよかったが、肝心のお店をまだ決めていない。
「お店どこにしますかー?」
今まで一言も話さなかった長谷が口を開くと、こんな時もミスターがみんなを纏めてくれる。
「今夜はめっちゃくちゃ寒いし鍋があるとこにしましょうよ。【鍋壱番屋】でいいでしょ?」
他のメンバーも特に行きたいお店がなかったので「いいですよー」と答えた。
ミスター、長谷、由唯、澪の4人は真冬の夜の風を正面から受けながら歩いた。真冬の夜風は寒いと言うより痛い。まるで罰ゲームでも受けたような気持ちにさせられる。会話は「さぶぅー、さぶぅー」の言葉をひたすら繰り返すだけだった。
【鍋壱番屋】までたった10分程の距離だったが、4人とも耳は真っ赤になり、感覚がなくなっていた。
お店に入ると暖房がよく効いており身体が生き返ってくる。
店内を見回すと奥の方の6人掛けのテーブルが空いていた。由唯が目の前の店員に「あそこのテーブルいいですかー?」と聞くと、店長らしき30代半ばのちょいイケメン店員は「いいですよー」と満面の営業スマイルで返した。4人が席に着いてメニューを見ていると、アルバイトらしき女の子の店員が注文を聞きにきた。
ミスターが「とりあえず、せんべろセットでいいでしょ?」と、言うと「はーい」と澪と由唯は返事をした。
このお店は、《せんべろセット》が人気で、焼き牡蠣、生牡蠣、酢牡蠣、揚げ牡蠣の牡蠣から自由に3個選べて飲み物2杯が付いて千円とリーズナブルな人気メニューだ。
「牡蠣と言えば広島出身の阪上さんにお薦め聞こうかな」とマスターが言うと、みんなが澪の方に期待の眼差しを向けた。
「んー、この時期は生を食べてほしいなー」
と言いながらちょうど横を通った店員に「お兄さん、この牡蠣の産地どこですかー?」と聞くと「広島です」と店員は即座に回答した。
ニコッとして「じゃー生で」と澪は笑顔で答えた。
由唯が「阪上さんが『生』って言うとビールの注文みたい 笑」と言うとミスターと長谷も「確かにー」と、みんなで笑った。
「じゃー生牡蠣を8個と焼き2個と揚げ2個で」
「飲み物はビール3つと本宮さんはレモンサワーでいいよね?」
「オッケー!!」
と、ミスターがテキパキと注文してくれた。
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