上 下
8 / 89
【3】澪と由唯のアフターファイブ

          ②

しおりを挟む
 
 今夜は今年初めての降雪予報が出る寒さだった。4人は会社を出たところで体をブルッと震わせ、由唯はマフラーを首にグルグルと巻き直した。夜道でもすれ違う人達の吐く息が白いのがわかる。

 勢いよく会社を出たまではよかったが、肝心のお店をまだ決めていない。

「お店どこにしますかー?」

 今まで一言も話さなかった長谷が口を開くと、こんな時もミスターがみんなを纏めてくれる。

「今夜はめっちゃくちゃ寒いし鍋があるとこにしましょうよ。【鍋壱番屋】でいいでしょ?」

 他のメンバーも特に行きたいお店がなかったので「いいですよー」と答えた。
  
 ミスター、長谷、由唯、澪の4人は真冬の夜の風を正面から受けながら歩いた。真冬の夜風は寒いと言うより痛い。まるで罰ゲームでも受けたような気持ちにさせられる。会話は「さぶぅー、さぶぅー」の言葉をひたすら繰り返すだけだった。

【鍋壱番屋】までたった10分程の距離だったが、4人とも耳は真っ赤になり、感覚がなくなっていた。

 お店に入ると暖房がよく効いており身体が生き返ってくる。

 店内を見回すと奥の方の6人掛けのテーブルが空いていた。由唯が目の前の店員に「あそこのテーブルいいですかー?」と聞くと、店長らしき30代半ばのちょいイケメン店員は「いいですよー」と満面の営業スマイルで返した。4人が席に着いてメニューを見ていると、アルバイトらしき女の子の店員が注文を聞きにきた。

 ミスターが「とりあえず、せんべろセットでいいでしょ?」と、言うと「はーい」と澪と由唯は返事をした。

 このお店は、《せんべろセット》が人気で、焼き牡蠣、生牡蠣、酢牡蠣、揚げ牡蠣の牡蠣から自由に3個選べて飲み物2杯が付いて千円とリーズナブルな人気メニューだ。

「牡蠣と言えば広島出身の阪上さんにお薦め聞こうかな」とマスターが言うと、みんなが澪の方に期待の眼差しを向けた。

「んー、この時期は生を食べてほしいなー」

と言いながらちょうど横を通った店員に「お兄さん、この牡蠣の産地どこですかー?」と聞くと「広島です」と店員は即座に回答した。

 ニコッとして「じゃー生で」と澪は笑顔で答えた。

 由唯が「阪上さんが『生』って言うとビールの注文みたい 笑」と言うとミスターと長谷も「確かにー」と、みんなで笑った。

「じゃー生牡蠣を8個と焼き2個と揚げ2個で」
「飲み物はビール3つと本宮さんはレモンサワーでいいよね?」
「オッケー!!」

と、ミスターがテキパキと注文してくれた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:45,354pt お気に入り:3,675

婚約破棄に巻き込まれた騎士はヒロインにドン引きする

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,132pt お気に入り:995

聖女を召喚したら、現れた美少女に食べられちゃった話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:901pt お気に入り:13

ショタっ娘のいる生活

BL / 連載中 24h.ポイント:285pt お気に入り:87

要注意な婚約者

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,251pt お気に入り:426

伯爵様は色々と不器用なのです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:32,867pt お気に入り:2,801

わたしはお払い箱なのですね? でしたら好きにさせていただきます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:29,381pt お気に入り:2,541

処理中です...