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【19】恋の羅針盤

          ⑧

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 その日の週末、久し振りに高校時代の友達と会う約束をしていた。子供が小さい間は子育てに忙しく、なかなか会えない時期があったが、最近ようやく手が離れるようになり久々に会うことになった。

 なんば駅から歩いて数分のお店の前で待ち合わせしていると、今日のメンバーの二人が遠くから私の名前を大きな声で呼びながら小走りでやってきた。

「由唯~久し振り~! 全然変わってないやん? どこの美人さんが立ってるかと思ったで 笑」
「よく言うわぁ? もうすっかりオバサンやん。そんなヒロコもケイコも全然変わってないやん?」
「あはははは、お互い誉めあってどうすんねん。悲しくなってくるわー 笑」

 3人はイタリアン料理店でランチをしながら近況の報告会をした。ヒロコは昔から話好きで、交友関係も幅広かった。

「由唯は仕事頑張ってんねんやろ。課長らしいやん!」
「誰に聞いたん?」
「誰か忘れたけど由唯の情報はすぐ耳に入ってくるからな 笑」
「あははは ヒロコが怖いねんけど」

 ヒロコとケイコは高校の時にいつもつるんでいた親友で、卒業して進路が別々になってもよく遊んだ仲だ。休みになるとミナミに繰り出し朝まで遊んだことも数えきれない。そんな3人もそれぞれ結婚して子供が生まれると会う機会も自然と減ってしまった。

「ヒロコは男の子2人やったなぁ。小さい時に会ったきりやけど大きくなったんやろなぁ」
「うん。クソガキやで! いつも偉そうに口ごたえしてきて怒ってばっかりや」
「あははは、そうなんやぁ。ケイコは女の子やったなぁ?」
「うん。そう。勉強もせんとバイトばっかり行ってる」

 ケイコは昔から口数も少なく、いつも私とヒロコのバカ話を横で笑っていて、ヒロコとケンカになった時はいつも仲裁してくれた。ケイコがいたから3人のバランスが取れていたのだと今でも思っている。今もそうかもしれない。澪と和希との関係も男女の違いはあるけれど、私と澪の間で和希が調整役になってくれてることでバランスが取れているような気がする。そんなこと今まで考えたこともなかったが。

「由唯が羨ましいわぁ」

 ヒロコが言った。

「なんで?」
「私、ずーっと専業主婦やってたやろ? 子供が小さい時は、子育てが必死で世の中で何が起こってるのかも見る余裕がなかったし。だから世間に置いていかれてる気がずっとしてた。でも、由唯はバリバリ仕事やってて、大きい会社で課長にまでなって自分の人生歩んでるなぁって思うから」
「何言うてのん。全然大きい会社とは違うから。結構理不尽なことも多くて大変やねんで。私は離婚してしまって子供もおらんし……ヒロコとケイコの方が家庭もあって子供もいて羨ましいわ」
「ふーん。となりの芝は青く見えるんかなぁ 笑。それで離婚してから再婚の話とかなかったん?」

 お付き合いした人は何人かいたし、求婚されたことも無くはない。しかし、もう一度結婚に踏み切るまでの人はいなかった。それを言うと、いろいろ詮索されるのが嫌だったので再婚の話はいっさいなかったと答えた。

 カフェに場所を移して話していると、忘れていた懐かしい話を思い出させてくれる。あの時は過去を振り返ることはなかった。いつも未来の話だけして楽しかった……。

 窓から外を見ると日差しが傾いていた。
 
 ケイコが帰ってご飯の用意をしないといけないと言ったのでお開きとなった。

 親友と離れていた時間は、どんなに話をしても埋まらないし話も尽きない。何歳になっても昔のままの自分でいられるから不思議だ。
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