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第7章
第179話
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魔物や魔獣が、狂った様に大地を駆け、ただひたすらに、王都の城門を目指してくる。俺たちは、自らの得物を手に取り、騎士団や軍を率いて、城門前に隊列を組み、仕掛けられる前に仕掛けた。
裏切り疑惑のある、第五騎士団や第二中隊の様に、王族派の中にも、裏切る事前提で、内部に潜り込んでいる者もいる可能性は、大いにある。人が持つ感情や欲望を、舐めてはいけない。何が切っ掛けとなって、その者が王族派のままか、反王族派の立場になるのか、分からないからな。
だが今は、そんな事を考えている余裕はない。
目の前に迫る群れは、果てしなく多く、終わりが見える事はない。ひたすらに身体を動かし、得物を振るい、無辜の民たちの平穏を奪おうとする、魔の命を減らしていく。
騎士たちも、軍の者たちも協力して、互いが互いの周囲や背後を、守り守られている。今の所、迫りくる群れの質は悪い。だが、数の面では圧倒的なまでの差がある。今はまだいい。体力も魔力も、この場にいる全員が万全の状態だ。だが、この群れの波が途切れる事なく、永遠とも思える程続くともなれば、話が変わる。ポーションや丸薬にも限りがあるし、使い続ければ、効果も落ちていく。
それでも、やらねばならん。
〈王族として、一人の戦士として、シュターデル獣王国を愛する者として、この城門より先に進むことはさせん‼〉
この手に持つ、風属性と水属性の魔鉱石を組み合わせた、花緑青色の魔槍を振るい、狂気に身を任せて、ひたすらに俺たちを喰らおうと進む、魔物や魔獣の急所や魔石を、疾く速く鋭き一突きで貫き、広範囲の薙ぎ払いで、身体を切り裂いていく。
周りにいる者たちの動きに合わせながら戦い、孤立する者や、中盤の位置で前線を支える者たちを、守る様に立ち回る。前線を支える者を失えば、前線で奮起して戦う者たちが、一気に群れに喰われ、戦線が崩壊してしまう。
それだけは、避けねばならない。
兄貴は、自身と身の丈がほぼ同じくらいの、火属性の魔鉱石から生み出された、真紅の片刃の大剣を、片手で軽々と振るい、魔物や魔獣たちを、綺麗な断面を残して、一振りで両断していく。常に先頭に立って戦い、仲間を助け、鼓舞していく。その姿は、まるで親父が、この戦場に立っているかの様にも見える。
助けられた者たちも、兄貴の鼓舞に心を熱くし、再び闘気を滾らせて、魔物や魔獣たちを、次々と討ち取っていく。新兵だろうと、老兵だろうと関係なく、国を守るという意思でもって、一丸となって動いている。
パメラ姉さんは、雷属性と土属性の魔鉱石を組み合わせた、蜂蜜色の剣身を持つレイピアを振るい、正確無比に、魔物や魔獣の弱点に突きを放ち、硬い防御を誇る魔物や魔獣だとしても、超高速での連続突きで、穴だらけにして倒していく。
さらに、兄貴の様に前線に立ちながら、その優れた魔術師としての腕を振るい、味方を強化し、敵を弱体化させている。対個人から広範囲殲滅魔術まで、幅広く魔術を扱う事が出来る、戦士としても、魔術師としても、共に一流の女傑だ。
俺たち三人の王族と共に、前線に立って戦う、騎士団と軍の者たちの中にも、数々の修羅場を潜り抜けた猛者たちが多くいる。その者たちも、的確で効率的に、魔物や魔獣たちの弱点を狙い、一体、また一体と、確実に数を減らしていく。
周囲には、夥しい数の、魔物や魔獣の死体が溢れている。後続の魔物や魔獣の中には、そこらに転がっているそれらの死体を、喰らい始める個体まで現れ始めた。下位の魔物や魔獣が、同じく下位の魔物や魔獣を喰らう。それによって、喰った側の魔物や魔獣の、身体能力の向上、魔力量・魔力の質の向上、さらには、個体によっては、特殊な能力の獲得など、厄介な事が一気に起こる。
しかし、迫りくる群れの波によって、そこまで手を回す事は出来ない。こういう時に頼りになる、魔術師団の者たちはこの場にはいない。彼らには、親父の方を優先してもらっている。それに、いつ敵が王城に向けて、魔術を放ってくるか分からない。その魔術攻撃から、王城を守れる力を持つ魔術師団を、残していかないわけにはいかなかった。
時間が経てば経つほどに、迫りくる群れの波の、各個体の力の強さが、徐々に上がっていっている。中には、一段階上の存在に進化していたり、中位クラスの魔物や魔獣にまで、進化している個体まで現れ始めた。
まだ、一段階上に進化した個体程度ならば、騎士一人、軍の戦士一人で対処出来る。だが、中位クラスに進化した個体となると、複数人での対応が必須だ。
今現在も、途切れる事のない群れの波を、全員が一丸となって対応しているのが現状だ。体力も魔力も、温存しつつ戦いたいのが本音だ。だが、共喰いによって進化し続ける事が、ほぼ確定しているのが分かっている状況で、そんな甘い事を言っていられる状況でもない。
「兄貴‼」(ザリス)
俺の呼びかけに、兄貴は分かっているという風に、周囲に向けて声を放つ。
「各自、魔術は中位クラスの個体に集中させろ‼下位クラスの個体は、なるべく物理的な攻撃で仕留めていけ‼自分の魔力量や、体力の配分には、これまで以上に気を配れ‼」(アトル)
『了解‼』
様々な魔術が、戦場を色鮮やかに染めていく。それらの魔術は、中位クラスの個体に集中し、次々と殲滅していく。下位クラスの個体に対しては、身体強化などで底上げされた戦士たちにとっては、進化した個体であろうと、相手にはならない。
そこからは、戦線の状態も安定させる事が出来た。しかし、根本の状況はまだ変わらない。さらに言えば、段々と悪くなっていく事は明白だ。そこらに転がる中位クラスの個体の死体を、同じ中位クラスの個体が喰らい始めるのは、目に見えているからだ。
こうなると、よくない循環が、俺たち全員が死ぬまで続く。俺たちが死ぬ頃には、その場に残る魔物や魔獣のランクは、上位か、それ以上の存在になっている可能性もある。
だが、退く事は出来ない。守るべき者たちの為に、命を、魂を捧げると、己の全てに誓ったからだ。
「頼もしい妹に、信頼できる騎士もいる。それに、………親父に匹敵する戦士もな。敵の本丸は、アイツらに任せて、俺は、―――――俺のやるべき事をやる‼」(ザリス)
魔力を練り上げて、循環し、全身に圧縮していく。さらに追加で、両脚に風属性の魔力を籠めて、機動力を高める。
そこから、魔槍にも魔力を籠める。その魔力に、魔槍が目覚める。石突に風が纏わりつき、穂先は、澄んだ水に包まれる。
静かに一歩踏み込み、目の前で今にも暴れだしそうな、気性の荒い灰色熊に向かって駆ける。灰色熊も、周囲にいた魔物や魔獣を、その巨体で轢き殺しながら、口から涎をボタボタ垂らし、こちらに向かって一直線に駆けている。
灰色熊は、加速した状態から前方に跳躍し、その勢いを攻撃に乗せて、右腕を振り下ろす。
それに対して、俺も真っ向から灰色熊に突っ込み、加速の勢いを乗せた、鋭き一突きを放つ。さらに、その一突きは、石突に纏わりつく風が魔槍の勢いを増し、穂先を包む澄んだ水が、切れ味を上昇させている。
「――――――‼」(灰色熊)
「――――――‼」(ザリス)
俺と灰色熊の攻防は、たったの一合で終わりを告げる。
灰色熊の身体が、右腕を振り切った状態で、ゆっくりと地に沈んでいく。その身体には、頭部がない。俺の魔槍の一撃は、灰色熊の眉間を貫き、その破壊力によって、頭部を消滅させた。
俺の身体には、一切の傷はない。振り下ろされた、灰色熊の一撃の軌道を見切り、完璧に避け切った。灰色熊の一撃は、俺に届く事はなかった。
俺は、親父や、ルシール母さんたちの様に、相手を威圧する覇気を、魔物や魔獣たちに向かって放つ。そして、口角の両端を上げて、獰猛な虎としての笑みを見せる。
周囲の者たちや、兄貴やパメラ姉さんも、俺に触発されて、獣の因子の中の、野生が溢れ出ている。そんな俺たちに、一瞬だけ、魔物や魔獣の勢いが弱まる。
この程度の威圧で怯む様な奴らに、俺たちの命も、国民も、獣王国もやらせん‼
〈さあ、かかってこい。どんな奴が相手だろうと、俺たちの牙が、その命を喰らってやるからよ‼〉
戦場を駆ける。少しでも、仲間の命を救うために。少しでも、魔物や魔獣の命を減らすために。
裏切り疑惑のある、第五騎士団や第二中隊の様に、王族派の中にも、裏切る事前提で、内部に潜り込んでいる者もいる可能性は、大いにある。人が持つ感情や欲望を、舐めてはいけない。何が切っ掛けとなって、その者が王族派のままか、反王族派の立場になるのか、分からないからな。
だが今は、そんな事を考えている余裕はない。
目の前に迫る群れは、果てしなく多く、終わりが見える事はない。ひたすらに身体を動かし、得物を振るい、無辜の民たちの平穏を奪おうとする、魔の命を減らしていく。
騎士たちも、軍の者たちも協力して、互いが互いの周囲や背後を、守り守られている。今の所、迫りくる群れの質は悪い。だが、数の面では圧倒的なまでの差がある。今はまだいい。体力も魔力も、この場にいる全員が万全の状態だ。だが、この群れの波が途切れる事なく、永遠とも思える程続くともなれば、話が変わる。ポーションや丸薬にも限りがあるし、使い続ければ、効果も落ちていく。
それでも、やらねばならん。
〈王族として、一人の戦士として、シュターデル獣王国を愛する者として、この城門より先に進むことはさせん‼〉
この手に持つ、風属性と水属性の魔鉱石を組み合わせた、花緑青色の魔槍を振るい、狂気に身を任せて、ひたすらに俺たちを喰らおうと進む、魔物や魔獣の急所や魔石を、疾く速く鋭き一突きで貫き、広範囲の薙ぎ払いで、身体を切り裂いていく。
周りにいる者たちの動きに合わせながら戦い、孤立する者や、中盤の位置で前線を支える者たちを、守る様に立ち回る。前線を支える者を失えば、前線で奮起して戦う者たちが、一気に群れに喰われ、戦線が崩壊してしまう。
それだけは、避けねばならない。
兄貴は、自身と身の丈がほぼ同じくらいの、火属性の魔鉱石から生み出された、真紅の片刃の大剣を、片手で軽々と振るい、魔物や魔獣たちを、綺麗な断面を残して、一振りで両断していく。常に先頭に立って戦い、仲間を助け、鼓舞していく。その姿は、まるで親父が、この戦場に立っているかの様にも見える。
助けられた者たちも、兄貴の鼓舞に心を熱くし、再び闘気を滾らせて、魔物や魔獣たちを、次々と討ち取っていく。新兵だろうと、老兵だろうと関係なく、国を守るという意思でもって、一丸となって動いている。
パメラ姉さんは、雷属性と土属性の魔鉱石を組み合わせた、蜂蜜色の剣身を持つレイピアを振るい、正確無比に、魔物や魔獣の弱点に突きを放ち、硬い防御を誇る魔物や魔獣だとしても、超高速での連続突きで、穴だらけにして倒していく。
さらに、兄貴の様に前線に立ちながら、その優れた魔術師としての腕を振るい、味方を強化し、敵を弱体化させている。対個人から広範囲殲滅魔術まで、幅広く魔術を扱う事が出来る、戦士としても、魔術師としても、共に一流の女傑だ。
俺たち三人の王族と共に、前線に立って戦う、騎士団と軍の者たちの中にも、数々の修羅場を潜り抜けた猛者たちが多くいる。その者たちも、的確で効率的に、魔物や魔獣たちの弱点を狙い、一体、また一体と、確実に数を減らしていく。
周囲には、夥しい数の、魔物や魔獣の死体が溢れている。後続の魔物や魔獣の中には、そこらに転がっているそれらの死体を、喰らい始める個体まで現れ始めた。下位の魔物や魔獣が、同じく下位の魔物や魔獣を喰らう。それによって、喰った側の魔物や魔獣の、身体能力の向上、魔力量・魔力の質の向上、さらには、個体によっては、特殊な能力の獲得など、厄介な事が一気に起こる。
しかし、迫りくる群れの波によって、そこまで手を回す事は出来ない。こういう時に頼りになる、魔術師団の者たちはこの場にはいない。彼らには、親父の方を優先してもらっている。それに、いつ敵が王城に向けて、魔術を放ってくるか分からない。その魔術攻撃から、王城を守れる力を持つ魔術師団を、残していかないわけにはいかなかった。
時間が経てば経つほどに、迫りくる群れの波の、各個体の力の強さが、徐々に上がっていっている。中には、一段階上の存在に進化していたり、中位クラスの魔物や魔獣にまで、進化している個体まで現れ始めた。
まだ、一段階上に進化した個体程度ならば、騎士一人、軍の戦士一人で対処出来る。だが、中位クラスに進化した個体となると、複数人での対応が必須だ。
今現在も、途切れる事のない群れの波を、全員が一丸となって対応しているのが現状だ。体力も魔力も、温存しつつ戦いたいのが本音だ。だが、共喰いによって進化し続ける事が、ほぼ確定しているのが分かっている状況で、そんな甘い事を言っていられる状況でもない。
「兄貴‼」(ザリス)
俺の呼びかけに、兄貴は分かっているという風に、周囲に向けて声を放つ。
「各自、魔術は中位クラスの個体に集中させろ‼下位クラスの個体は、なるべく物理的な攻撃で仕留めていけ‼自分の魔力量や、体力の配分には、これまで以上に気を配れ‼」(アトル)
『了解‼』
様々な魔術が、戦場を色鮮やかに染めていく。それらの魔術は、中位クラスの個体に集中し、次々と殲滅していく。下位クラスの個体に対しては、身体強化などで底上げされた戦士たちにとっては、進化した個体であろうと、相手にはならない。
そこからは、戦線の状態も安定させる事が出来た。しかし、根本の状況はまだ変わらない。さらに言えば、段々と悪くなっていく事は明白だ。そこらに転がる中位クラスの個体の死体を、同じ中位クラスの個体が喰らい始めるのは、目に見えているからだ。
こうなると、よくない循環が、俺たち全員が死ぬまで続く。俺たちが死ぬ頃には、その場に残る魔物や魔獣のランクは、上位か、それ以上の存在になっている可能性もある。
だが、退く事は出来ない。守るべき者たちの為に、命を、魂を捧げると、己の全てに誓ったからだ。
「頼もしい妹に、信頼できる騎士もいる。それに、………親父に匹敵する戦士もな。敵の本丸は、アイツらに任せて、俺は、―――――俺のやるべき事をやる‼」(ザリス)
魔力を練り上げて、循環し、全身に圧縮していく。さらに追加で、両脚に風属性の魔力を籠めて、機動力を高める。
そこから、魔槍にも魔力を籠める。その魔力に、魔槍が目覚める。石突に風が纏わりつき、穂先は、澄んだ水に包まれる。
静かに一歩踏み込み、目の前で今にも暴れだしそうな、気性の荒い灰色熊に向かって駆ける。灰色熊も、周囲にいた魔物や魔獣を、その巨体で轢き殺しながら、口から涎をボタボタ垂らし、こちらに向かって一直線に駆けている。
灰色熊は、加速した状態から前方に跳躍し、その勢いを攻撃に乗せて、右腕を振り下ろす。
それに対して、俺も真っ向から灰色熊に突っ込み、加速の勢いを乗せた、鋭き一突きを放つ。さらに、その一突きは、石突に纏わりつく風が魔槍の勢いを増し、穂先を包む澄んだ水が、切れ味を上昇させている。
「――――――‼」(灰色熊)
「――――――‼」(ザリス)
俺と灰色熊の攻防は、たったの一合で終わりを告げる。
灰色熊の身体が、右腕を振り切った状態で、ゆっくりと地に沈んでいく。その身体には、頭部がない。俺の魔槍の一撃は、灰色熊の眉間を貫き、その破壊力によって、頭部を消滅させた。
俺の身体には、一切の傷はない。振り下ろされた、灰色熊の一撃の軌道を見切り、完璧に避け切った。灰色熊の一撃は、俺に届く事はなかった。
俺は、親父や、ルシール母さんたちの様に、相手を威圧する覇気を、魔物や魔獣たちに向かって放つ。そして、口角の両端を上げて、獰猛な虎としての笑みを見せる。
周囲の者たちや、兄貴やパメラ姉さんも、俺に触発されて、獣の因子の中の、野生が溢れ出ている。そんな俺たちに、一瞬だけ、魔物や魔獣の勢いが弱まる。
この程度の威圧で怯む様な奴らに、俺たちの命も、国民も、獣王国もやらせん‼
〈さあ、かかってこい。どんな奴が相手だろうと、俺たちの牙が、その命を喰らってやるからよ‼〉
戦場を駆ける。少しでも、仲間の命を救うために。少しでも、魔物や魔獣の命を減らすために。
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