引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

文字の大きさ
155 / 252
第7章

第196話

しおりを挟む
 月に逆さまの状態で立っていた白き兎が、ぴょんと跳び跳ねて、月から湖に跳び移る。白き獅子の隣に跳び降りて、二本脚で立ち上がり、小さい両腕を組んで、胸を張っている。その姿は、その身から放たれる威圧感さえなければ、とても可愛らしいものだ。

『そう言えば、名を名乗なのっていなかったな。我が名は、レオ。お前の身体に宿る因子の一つ、獅子人族の祖である』(レオ)
『俺の名は、玉兎。お前の身体に宿るもう一つの因子、兎人族の祖だ。それにしても、お前と言い、シュテルといい、最近のきのいい兎人族は、どいつもこいつも凶暴だな』(玉兎)
『それはお前も一緒だ。その様な外見にも関わらず、の実、内から滲み出てしまう程に、とてつもなく凶暴だ。この娘にも、その母にも、しっかりと受け継がれている様だ』(レオ)
『うるせぇよ‼………っと。話が逸れてっちまう所だったぜ。レオ、本題に戻すぞ』(玉兎)
『先に余計な事を言い出したのは、お前なのだが………。まあ、いい。玉兎の言う様に、本題に戻ろう』(レオ)
「【双対の血】、その力の使い方ですよね?」
『『そうだ』』(レオ・玉兎)

 私の問いかけに、お二人が声を揃えて答える。そして、ゆっくりと【双対の血】の力の使い方について語り始める。

『【双対の血】の力、それは簡単に言えば、その身に宿る二つの因子を、、というものだ』(レオ)
『だが、言葉で聞くほど、簡単なものじゃない。緻密ちみつで精密な制御が必須であり、両方の獣の因子の本能に呑まれない、強靭な精神と覚悟が必要だ』(玉兎)
「強靭な精神と、覚悟ですか」
『そうだ。それら全てが合わさる事で、お前の父である、獣王ですら持ち合わせる事のない、強大な力を手にする事が出来る』(レオ)
『それじゃあ、力の使い方を、その身に教え込んでやる』(玉兎)

 玉兎様がそう言うと、玉兎とレオ様の雰囲気が獰猛なものに変わる。

『俺たちの力を宿してるんだ。俺たちが直接教えた方が、直ぐに理解できる可能性が高いからな。だから、今から特訓だ』(玉兎)
『安心しろ。我らが稽古をつけてやるからには、直ぐにでも、力を制御出来るだろう。では、―――始めるぞ‼』(レオ)

 レオ様は、自身の周囲に白炎を幾つも浮かべ、その白炎を私に飛ばしてくる。玉兎様は、その小さな身体全体に何かを纏わせて、超高速で、跳んで駆ける。

『我の力は、単純そのもの。破壊と再生を司る、火の力。敵対する者を火の力で破壊し、傷つき、疲労した、自らの身体と精神を癒す再生。二面性を持つ力。そして、お前や小僧の様に、己の肉体のみで戦う者たちの、身体能力、身体機能を大幅に強化する力も持つ』(レオ)
『俺の力は、重力を司る力。空間内の重力を支配し、何者をも捉える事の出来ない、どこまでも自由で、どこまでも駆け抜ける事の出来る、無形むけいの翼を生み出す。俺たち兎と、相性バッチリな力だ』(玉兎)

 玉兎様の右脚が、掻き消える。その動きに一切反応出来なかったが、本能が身体を動かし、両腕を身体の前で組んで、その蹴りを受ける。

「―――――グッ‼」

 もの凄い威力と衝撃に、精神体であるにも関わらず、両腕の骨と筋肉が軋みを上げて、叫んでいる様に感じる。衝撃を殺す事も、受け流す事も出来ずに、私は後ろの草原に、もの凄い勢いで吹き飛ばされる。まるで、自分という存在が、薄っぺらい紙になってしまったかの様に。そこに、レオ様が飛ばしてきた、幾つもの白炎が迫り来る。
 私は、玉兎様の説明してくださった力と、今体験したものを、自らの中に取り込んで、兎人族としての、獣の因子の力の方を意識してみる。すると、精神体ではあるが、身の内にある獣の因子が活性化し、私の両脚に、薄く、弱い力が纏わりつく。纏わりついた力によって、両脚が少しだけ軽くなった様な気がする。力に強化された脚力を上手く活用し、迫りくる白炎の全てを避けていく。
 白炎は、次々と地面に着弾し、草原に白炎が広がっていく。だが、そこから驚くべき光景が目に映る。草原に広がり、草木を燃やしていくと思われた白炎が、再び浮かび上がり、元の形に戻っていく。

『我の再生の力は、。それに、炎を扱うものとして、何を燃やし、何を燃やさないのかなど、自由自在でなければならん。ただ燃やすだけならば、ある程度の力を持った、子供でも出来る。真の意味で、炎を操るというのは、その領域に至る事をいう。努々ゆめゆめ忘れるな』(レオ)
「はい‼」
『次は、俺だな‼』(玉兎)

 玉兎様は、今度は四肢に、何かを纏わせる。そして、今度は目にも留まらず、音を置き去りして掻き消える。

「―――――グァッ‼」

 玉兎様が掻き消えたと認識した時には、既に背中を右拳で殴られていた。最初の一撃の時とは違い、移動した瞬間も、攻撃動作に入った事も分からなかった。さらに、右脚での蹴りの一撃とは、比較にならない程の威力と衝撃だ。殴られた私の身体は、地面にめり込んで、大きく地面を砕く。今回も、蹴りの時と同様に、驚くほどの速さで、身体が地面に向かっていた。

『自分の身体や、周囲の空間内の重力に干渉し、移動の際には、身体に圧し掛かる重力を軽減して超加速。攻撃の際には、移動の際と同じ様に、四肢に圧し掛かる重力を軽減し、加速力を上乗せして威力を上昇させたり、仕掛け方によっては、逆に重力を増して、威力を上昇させる事も出来る。防御や回避の際には、相手の周囲の重力を増大させたり、相手の武具の重量を増大させたりする事で、相手の動きや、一撃の威力を鈍らせる事が出来る。これら様々な状況に対して、色々と応用が利く力。攻防一体の不可視の力だ』(玉兎)
「不可視、ですか?」
『ああ、そうだ。今お前の目にも見えているのは、分かりやすい様にしているだけだ。ほら、こうすると………』(玉兎)

 玉兎様が力を使うと、纏わせていた重力の力が、視認できなくなる。あれほど鮮明に見えていたはずのものが、周りの景色に溶け込む様に透明になる。五感を研ぎ澄ませれば、何かしらの力が、玉兎様の身体に干渉しているのが分かる、程度にまで視認性が下がる。

『だが気を付けろ。高い力量を持つ戦士なんかは、何かしらの力や魔術などを使用していると、的確に見抜く者もいる。不可視と言っても、そこに存在していないわけではない。存在を気取られれば、そこからある程度推測は出来る。何事にも、絶対は存在しない。それは忘れるな』(玉兎)
「はい‼」
『それに、レオの炎に関しても、形や大きさに変化を付ける事で、様々な応用が利く。そこら辺は、お前の戦い方や、相手の戦い方に応じて機敏に変えていけ』(玉兎)
『では、我と玉兎の力を理解した所で、本題である【双対の血】の力を使ってみよ。我の炎の力と、玉兎の重力の力、それらを混ぜ合わせ、一つの力として、己のものとせよ‼』(レオ)

 目を閉じて、自らの内にある二つの因子に、極限まで集中する。精神体であろうが何だろうが関係なく、自身の内に流れる、獅子人族の因子と、兎人族の因子を、レオ様と玉兎様を意識して、同時に開放する。二つの獣の因子から力が溢れ出し、暴力的なまでに燃え滾る熱、高密度に力が圧縮された漆黒の真円、といった二つのイメージを、私の脳裏に伝えてくる。その二つの力が、私という存在を喰らい、身体の主導権を奪おうと、身の内で暴れまわる。
 私は、暴れまわる熱と漆黒の真円に対して、強き意思と覚悟を示す。暴れまわる熱と漆黒の真円に対して、一切の抵抗をせずに、燃え滾る熱と漆黒の真円の全てを、心の奥底、魂から受け入れる。
 すると、次第に燃え滾る熱と漆黒の真円が落ち着き始め、その膨大なまでの二つの力が混じり合いながら、強大な一つの力となり、私の身体の内を駆け巡る。そして、私という存在を受け入れてくれた。

『よくやった』(レオ)
『完全に安定してるな。本当によくやったぞ‼』(玉兎)

 レオ様と玉兎様が、安堵の息と共に、称賛の言葉を送ってくれた。私は、一息吐いてから湖に近づいて、自身の姿を水に映して確認する。
 銀よりの白のストレートの髪は、兎の耳から頭頂部、そしてそのまま毛先へと、全てが真っ白に染まる。さらに、首周り・腕周り・脚周りの銀の体毛は、より艶と輝きが増している。そして、変化が一番大きいのが、瞳の色だ。右目の瞳の色は真紅に変わり、左目の瞳の色が空色に変わっている。最後に、後ろを向いて尻尾を確認すると、そこは相変わらず兎の尻尾で、艶と輝きが増している以外には、特に変化はなかった。

「よし‼」

 私は、一皮剥ひとかわむけれた事の実感を得て、右拳を握り込んで、笑みを浮かべた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在4巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

無自覚チートで無双する気はなかったのに、小石を投げたら山が崩れ、クシャミをしたら魔王が滅びた。俺はただ、平穏に暮らしたいだけなんです!

黒崎隼人
ファンタジー
トラックに轢かれ、平凡な人生を終えたはずのサラリーマン、ユウキ。彼が次に目覚めたのは、剣と魔法の異世界だった。 「あれ?なんか身体が軽いな」 その程度の認識で放った小石が岩を砕き、ただのジャンプが木々を越える。本人は自分の異常さに全く気づかないまま、ゴブリンを避けようとして一撃でなぎ倒し、怪我人を見つけて「血、止まらないかな」と願えば傷が癒える。 これは、自分の持つ規格外の力に一切気づかない男が、善意と天然で周囲の度肝を抜き、勘違いされながら意図せず英雄へと成り上がっていく、無自覚無双ファンタジー!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。