引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis

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第8章

第254話

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「それでは、私たちは次の温泉施設に向かうが、天族の人々に迷惑をかけないようにしろよ」(レイア)
「姉さんたちも、アメリアさんに無理言わないでよ」
「心配無用だ。私たちは、お前の様に意識せずやらかしたりはしない。それにリナやレスリーといった常識人もいる。だが、お前は一人だからな。何かやらかしたりしないか心配だ」(レイア)

 姉さんの発言に、リナさんたちや兄さんまで頷いて同意を示している。だが俺からしてみれば、兄さんを除いた姉さんたちの方が、俺とは違う意味でやらかしそうな気がするがな。五人共が共通してお酒が大好きだし、スイーツを含めた美味しい食事全般への嗅覚がとんでもないしと、自分たちの好きなものが絡むと暴走しそうになる。他にも色々とあるが、そういった時にはリナさんですら頼りにはならない。何故なら、リナさんですらもそちら側だからだ。
 常識人であり頼れる存在、個性の強すぎる姉さんたちを纏め上げている、デキる女性であるリナさん。そんなデキる女性であるリナさんが、姉さんたちと一緒になってやらかす側に回ると、途端に面倒な相手へと変わるから質が悪い。目的を達成する酒を手に入れる為に、持ち得る力の全てを用いてくるのだ。なので、やらかす側となったリナさんに、今日まで一度も勝ったためしがない。

「今回の別行動の件は、精霊様方にも事前に伝えてあるから大丈夫だよ」
「……そう言えば、あの技術そのものが既にやらかしだったな」(レイア)
「あれは、絶対に表に出すなよ」(レスリー)
「分かってる」
「ではアメリア、次の温泉施設へ案内してくれ」(レイア)
「ふふふ、分かりました。カイルさん、また後程お会いしましょう」(アメリア)
「はい」
「レスリー殿、コーヒーの方は後程合流した時に」(サリエル)
「はい、分かりました」(レスリー)

 次の温泉施設へと向かって歩き出したアメリアさんや、温泉巡りができる事に上機嫌な姉さんたちを見送り、今回の天空島訪問のもう一つの目的を達成する為に、サリエル様の先導に続いて移動を始める。向かう先は、天族の子供たちがいる広場だ。
 天空島で暮らしている天族の者たちは、教育に関しても割と自由で、各家庭ごとにそれぞれ違うそうだ。幼い頃から色々と教える家庭の所もあれば、ある程度の年齢になるまで自由にさせておく家庭もあるとの事。ただ自分たちの種族の事や、天空島に暮らす事になった経緯などは、どの家庭も小さい頃から言い聞かせているそうだ。そして子供たちは大きくなるにつれて、自分たちの種族の歴史を色々と知り、世界の均衡を守るという使命を先人たちから引き継いでいく。

「勿論ですが、強制している訳ではありません。天空島に暮らしている天族の者たちの中には、世界の均衡を守る戦士ではない者もいます。そういった者たちは、新たな魔術を生み出す研究者であったり、農業・鍛冶などの生産職に就いていますね」(サリエル)
「なる程、適材適所といった所ですか。まあ、戦う事が嫌いだったり、苦手な人はいますからね。そんな人たちに無理やり戦う事を強いても、良い事なんて一つもありませんよ。おっ、子供たちは皆元気に駆けまわっていますね」
「ふふふ、そうですね」(サリエル)

 広大な緑の絨毯じゅうたんの上を、三歳くらいから十歳くらいの子たちが、純真無垢な笑顔を浮かべながら駆けまわっている。小学生くらいの子たちが、年長や年少の子たちの面倒を見ながら、楽しく遊んでいる様だ。そんな子供たちを、母親と思われる天族の女性たちが微笑ましく見守っている。
 そんな和やかな空気が流れている空間へと、俺とサリエル様は近づいていく。サリエル様の存在にいち早く気付いた母親たちは、サリエル様に向かって綺麗な一礼をする。頭を下げられたサリエル様は、楽にするようにと手振りで示しながら、母親たちに柔らかく微笑む。

「あ、サリエル様だ!!」(年長の子供)
「本当だ!!サリエル様!!」(年長の子供)
「さうえる」(年少の子供)
「さりえる~」(年少の子供)

 子供たちも、サリエル様がこの場にいる事に気付いた。年少の子や年長の子、そして小学生くらいの子たちも、サリエル様が現れた事にテンションが急上昇している。年少の子たちを小学生くらいの子たちが抱上だきあげて、急ぎ足でサリエル様の近くまで駆け寄ってくる。その光景だけで、サリエル様が天族の者たちにどれだけ慕われているのが分かる。
 サリエル様は、周りにいる小学生くらいの子たちの頭を優しく撫でていき、小学生くらいの子たちが抱きかかえている年少の子たちや、年長の子たちの頭も撫でていく。小学生くらいの子も、年長の子も年少の子も、サリエル様に頭を撫でられてとても嬉しそうにしている。

「サリエル様、今日はどうされたんですか?」(天族の母親)
「私の友人が、子供たちに素敵な贈り物を用意してくれたのですが、子供たちの為に最終安全を確かめて欲しいとお願いされましてね。今からその確認をするんですよ。なので、少し場所をお借りしますね」(サリエル)
「そうでしたか。私たちはここから離れた方が?」(天族の母親)
「いえ、そこまでしなくて大丈夫ですよ。ですよね?」(サリエル)
「ええ、大丈夫です。あれは、範囲も調整する事が可能ですから。子供たちの遊んでいる場所に、影響が出ないようにする事が出来ます」
「そういう事ですから、貴方たちが移動する必要はありませんよ。ですが、安全性が確認出来るまでは、私たちの傍に近づかない様にしてください」(サリエル)
『分かりました』(天族の母親たち)
「貴方たちもですよ。小さい子たちが近づかない様に、しっかりと見ていてあげてくださいね」(サリエル)
『はい!!』(天族の子供たち)
「ではカイル殿、離れた所まで移動しましょうか」(サリエル)
「了解です」

 俺とサリエル様は、万が一にも、子供たちや母親たちに影響が出ない所まで移動する。そして、子供たちや母親たちが不用意に近づいていない事を確認してから、異空間から一つの物を取り出す。

「それが?」(サリエル)
「はい。これが子供たちに海を見せる事が出来る物、一つの異空間そのものを、この世界に展開させる魔道具です」

 サリエル様に異空間から取り出した魔道具を見せていると、転移魔術によってこの場に新たな者たちが現れる。それは、ルシフェル様たち三柱の神々だった。

「お、丁度良いタイミングだったか?」(ゼウス)
「その様だな」(ルシフェル)
「…………うむ」(ヘラクレス)
「カイル殿、全員揃ったので、早速安全確認の方を始めていきましょう」(サリエル)
「分かりました。――――≪境界反転≫」

 俺は右掌の上でフワフワ浮遊している正六面体せいろくめんたいの四角形、バスケットボール程の大きさをしたキューブに魔力を込めて、魔道具を起動させる。すると、キューブから世界が溢れ出す。溢れ出した世界は、一瞬で俺たちのいる世界を塗り替えていく。

「これはまた、凄いな」(ゼウス)
「確かにこれは、絶対に表に出す事は出来ませんね」(サリエル)
「当然だ。この魔道具の技術レベルは、スライムアニマルや通信魔術、通信魔術を用いた魔道具と比べても先を行き過ぎてる。帝国のみならず、大陸にこの魔道具の存在が知られると、世界のバランスが崩れる可能性が高くなる」(ルシフェル)
「……数十年、もしくは数百年先まで、異空間魔術を用いた魔道具を生み出す技術体系が確立するまでは、絶対に表にだせん」(ヘラクレス)
「それにしても、遥か彼方まで続いている煌めく青に、サラサラとした白い砂浜。そして、心を落ち着かせる静かな波の音。これが幻術や幻想ではなく、本当の海だというのだから、あの方々は本当に規格外だと言わざるを得ませんね」(サリエル)
「サリエル。感心するのは良いが、子供たちの為にも、俺たちのやるべき事をやるぞ」(ゼウス)
「そうでしたね。では、安全性をチェックしていましょうか」(サリエル)
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