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24【追憶⑩】
しおりを挟む『ようこそ、歩いて行ける世界一周の旅・スモールワールドへ!』
はつらつとした女性のアナウンスと賑やかなBGMが流れる中、ほどほどの人波を縫うように、その場所に一歩足を踏み入れた瞬間、思わず「わぁっ!」と歓声を上げてしまった。
目の前に『東京駅』が建っていた。
もちろん、ミニチュア版だ。
でも、その精巧さと言ったら、さっきの蒸気機関車の比じゃない。何しろ、そこには、行きかう人間の表情まで詳細に再現されているのだ。
少し疲れたように背を丸める中年サラリーマン。ハイヒールで颯爽と闊歩するOL。テニスラケットを抱えた制服姿の高校生のグループからは、楽しげにおしゃべりをする声が聞こえてきそう。
うわー、うわー、うわーっ!
なにこれっ!?
精巧で緻密なだけじゃない。この人間観察の鋭さと、そこはかとなく漂うユーモアセンスはただモノじゃない。もう『よっ、職人芸!』と拍手喝采したくなるほどの見事さで。これを作ったのは、きっと建築物と人間が大好きな人に違いない。
大工という父の職業に影響されたのか、幼い頃からドールハウスや建築物の模型が大好きな子供だった私は、今でもその手の雑誌を愛読している。つい先日も、母のスネを齧っている分際でと悩んだ末に、世界遺産のミニチュアとセットになっているカルチャー雑誌のシリーズを予約したばかり。
ここでは、その超デラックスバージョンが目の前で見られてしまうのだ。
馬にニンジン猫にカツオブシ、私に建築模型。
ああもう、たまりません。
思わず身を乗り出して、ただただ食い入るように見入ってしまう。
はぁ……。本当、見れば見るほど――。
「かなり凄いだろう?」
感動のあまり言葉が出ない私の代わりに、先輩が気持ちを代弁してくれた。
「はい、すごいです、すごすぎます! こんなテーマパークがあったなんて知りませんでした。本当、すごいっ」
思わず、両手握りこぶしで力説してしまう私に、先輩は柔らかい笑顔を向けてくる。その表情があまりに優しげで、ドキンと鼓動が大きく跳ね上がる。
「あ、あの、どうして、私が建築模型が好きだって分かったんですか?」
照れ隠しの質問に、先輩はニヤリと少し人の悪い笑みを浮かべた。
「さあ、どうしてでしょう?」
「教えて下さいよ。気になるじゃないですか!」
断然からかいモード全開の笑顔に、ちょっとばかりムッとして語気と視線を強める私の反応に表情を改めた先輩は、「実は……」と、声のトーンを落とした。さっきまでとは違う真剣なまなざしに、何を言われるのだろうと、ドキドキしてしまう。
「は、はい?」
姿勢を正す私の顔に、真剣な先輩の顔がスッと近づき、ポソっと静かな爆弾が投下された。
「俺エスパーなんだ。で、考えていることは全部お見通しー」
「は……?」
エスパーだぁっ!?
そんなことがあるわけないでしょうがっ!
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