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第4章 ファーストキスは助手席で
75 極甘キスは蜜の味②
しおりを挟む「へぇ。なるほどねぇ」
自信満々なその笑顔に内包される不穏な空気を察知して、思わず頬がひくっとひきつる。
「嫉妬してくれたわけだ。それで、俺が好きだと自覚したと」
いや。
なんだか、ご本人さまに改めて言われるとこう、むず痒いっていうか、こっ恥ずかしいっていうか、若干むかつくっていうか。
「……はい」
赤面しつつ頷けば、社長はおもむろに身体をずいっと寄せてきた。ぎょっと身を引こうとしたら、がっしりと両肩を掴まれて至近距離で視線がからめとられる。
――う、え、えええっ!?
な、なに!?
なんなの、いきなりの、この状況は!?
「で、告白をすませた茉莉ちゃんは、次にどうしたいのかな?」
『茉莉ちゃん』と、初めて名前を呼ばれたことに喜びを感じている暇もなく。
「……え、は、あの……別に、どうしたいとか、そんなことは」
気持ちを伝えることしか考えていなかったから、その先を問われても、頭の中は真っ白で、何も言葉が浮かばない。
「ふつうは、愛の告白をしたら、次にすることは決まってるよな?」
そう言ってツンツンと、社長は、自分の唇を催促するみたいにつついて見せた。
「えっ……?」
これは、まさか。
私に、キスをしろと、催促しているの?
「ほぉれ」
と、再び、今度は私の唇をつっつく社長。ヒンヤリとした指先の感触に、一気に頭に血が上る。
「俺からしてもいいけど、その場合、手加減はしないからな」
「て、手加減って……」
ど、どんな手加減ですか!?
「さあ、どっちがいい?」
さすがに手加減なしのキスをすると宣言されては、腰が引ける。
――ああ、もうっ。女は度胸だ。
いけ、茉莉!
意を決した私は、愉快そうに見つめる社長に顔を近づけていく。ちょん、と唇が社長の唇に触れた瞬間、これで目的達成とばかりに反射的に身を引こうとした。でも逆に力強い腕に引き寄せられ、その懐にすっぽりと包まれてしまった。
息遣いさえ感じるほど近くに、大好きな人の、そう自覚したばかりの人の、愛おしい顔がある。
「せっかく、自分から飛び込んできてくれたものを、そう簡単に逃がすか」
耳元に落とされる低い声音に、ただでさえ暴走気味の心臓が、さらに加速をはじめる。
こんなに近くにいるのに。
ううん、こんなに近くにいるから。
苦しくて、せつなくて。
もっと、もっと、知りたくなる。
社長の形の良い唇が、ためらいなく私の唇に降りてくる。
初めは優しく、触れてすぐに離れた。
真っ直ぐ見上げる視線の先で社長の瞳に灯るのは、艶を含んだ情熱の焔。その熱を感じて、私の中で同質の何かが目を覚ます。
「っ、こら、そんな顔をしてると、本当に手加減できなくなるぞ……」
低い囁きと一緒に降り注ぐのは、キスの雨。
一降りごとに、深くなるその甘い甘いキスの雨に翻弄されながら、私は、大好きな人と思いが通じ合った幸せをかみしめていた。
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