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第7章 再びの嵐の向こう側
128 再びの嵐②
しおりを挟む「ずいぶんと、気が強くなったものだな。俺と付き合ってた時は、まだ何も知らない少女のような女だったのに」
落ちてくる胸を押そうとして前に出した両腕がつかまれて、頭の位置でベッドに押し付けられ、抵抗を封じられてしまう。
「どいてください。大声を出しますよ?」
「出してみればいい。このホテルは防音対策がしっかりしているから、いくら叫んでも外には聞こえないし、聞こえたところでここはラブホテルだ。誰も助けになんかこないさ」
理路整然と怖い事実を並べ立てられて、思わずうっと言葉を飲み込む。
「どいてください」
「そんなに怖い顔をしなくてもいいじゃないか。ずっと、君のことが忘れられなかったんだ」
「な、にを……」
あんな振り方をしておいて、どの口がいうのか。
「君だって、そうだろう?」
高崎さんは、そう言って耳元に口を寄せると囁くように言葉を続ける。
「女は、初めての男を忘れないものだ」
「っ!?」
心の中を羞恥心と嫌悪感がせめぎあい、それを押しのけて怒りがせりあがる。
それは、身勝手すぎる目の前の男に対する怒り。そして、こんな男を一時でも本気で好きだった自分への怒りだ。
「何も、固く考えることはないさ」
その手がゆっくりと、制服のボタンを外しはじめる。
頭の上で押さえられていた手が片方になったことで、逃れられるかと力を入れてみるが、細身であっても相手は私よりも上背がある成人男性。悲しいかな、びくともしない。
「放して」
怒りでショートしそうな気持をどうにか抑え込んで、低い声を絞り出す。
「せっかくこんな場所にいるんだから、楽しめばいい。なんなら、お小遣いをはずむよ?」
な、にを……!
いうにことかいて、『お小遣いをはずむ』って!?
怒りが沸点に達したせいか、妙に冷静になった。
この状況を脱する方法に考えを巡らせた私は、すうっと全身の力を抜いた。もちろん、あきらめたわけじゃない。
あきらめたと見せかけるため、相手の油断を誘うためだ。
案の定、彼は私が抵抗をあきらめたと思ったのか、私の手を押さえていた自分の手を外して、ニヤリと下卑た笑いを浮かべた。
その瞬間を見逃さず、私は柔らかいベッドに体を沈み込ませ、その反動を利用して思いっきり頭突きを繰り出した。
ゴチン!
とこの場の雰囲気にはふさわしくないコミカルな音が上がり、呻き声とともに男の体がわずかに離れた。
効果はあったが、自分自身のおでこも地味に痛い。それでも私はすかさず身をよじり、ベッドの下に滑り落ちるように逃げ出す。
そのまま立ち上がるとドアに向かって猛ダッシュ! と、言いたいところだけど、情けないことに半分腰が抜けかけていて、実際にはヨロヨロと歩き出した。
「このっ……」
背後から怒りを含んだ声がせまってくるが、振り返る余裕はみじんもない。ソファーセットの横を抜けて、ドアに向かって一目散。でも、たどり着く前に後ろから右の二の腕を強い力でつかまれて、そのまま、力任せに壁に背中を押し付けられる。
「ふざけたマネをしてくれる」
怒りを含んだ言葉と視線が至近距離で浴びせかけられ、この期におよんでさすがに危機感がわいてきた。力を入れてみても、身体全体を使って抑え込まれているため、身動きできない。頭を固い壁に押し付けられているから、もう、同じ手は使えないだろう。
――逃げられないかも。
そんな焦りがじりじりと胃を焼いた。
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