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Y組職業体験編
プロローグ②
しおりを挟む「───ええとですね、つまり簡単に概要だけまとめますと」
7月5日木曜日。
その日のラサール魔法学校の6時間目は科目が『魔術』であり、生徒たちは正直つまらなさそうな目をしていた。
普通に考えて、好奇心旺盛の中高生にとって、魔術なんていう得たいの知れない物は受け入れやすいはずなのだが、あるクラスに関してはその傾向が逆の結果を示していた。
「───ううん、君たちね」
魔術の講師は持ち上げた教科書を下ろすと、怠惰に満ちた彼らを見下して、
「もう少し興味ありげに聞いてほしいんだけどね?」
ラサール魔法学校において、『最弱魔法使いの集まり』と名高いクラスが一つだけ存在する。
最弱の称号『Y』を持つ最低クラス───Y組。
講師の目の前にいる彼らは、もうこの世の終わりを迎える前の人間のように、活気を失った石像と化していた。
「……………いや、分かるけど。確かに君たちは魔力が人より少ないから、魔法なんてものとは縁がないかもしれないけどさ? 授業は頑張って聞こう。うん、聞こう」
講師の掛け声とは裏腹に。
ウトウト眠りこけながらも聞いている者。
完全に眠っている者。
トランプで微妙なバランスの取れたタワーを作っている者。
妙に講師へ場違いな視線を送り続けている者。
藁人形に釘打ちながら、この世のものとは思えない声で何かを呟き続ける者。
これだけ見ても学級崩壊へのプロローグが始まっていると言えるが、講師はあくまでそれはスルーしている。
魔術の講師はあくまで穏やかな男性職員であったのが幸いであった。もしこれがいかにもジャージが似合う体育会系のムキムキ講師であれば、今ごろチョークが飛んで来るか、竹刀で頭部をスイカ割りのようにかち割られていたに違いない。
講師は机にうつ伏した最低クラスの生徒たちに語りかけるように、
「では、今日習った事をまとめるけど。かつての世に蔓延っていた『魔獣』は、現在では『召喚術式』を使うことで召喚することができます。しかし、それを成功させるには手間がかかるんだよね。術式を解読したり、召喚に必要な材料を集めたりとか。それに魔獣は狂暴すぎて人間には取り扱えないから、今では召喚自体が禁止されてるよね。だから間違っても召喚させてやろうとかバカな真似はやめましょうねーっていうこと。分かった?」
はーい、と。
無気力な返事のみが来て、講師は流石に眉をひそめた。
「───今まで真面目に熱弁していた自分がバカみたいだね」
講師は今さらに言う。
その時、学校内に授業の終わりを告げるチャイムが生徒を解放せんと鳴った。
チャイムによって生徒たちの石像化は一瞬にして解け、皆が喜びに満ちた顔をあげる。
唯一、不安げに眉をひそめた講師を除いて。
「───ううん、何か納得できないなぁ。まぁ、今日はこれでおしまい。では、さようなら」
講師は逃げ出すようにY組という負け組の要塞から出ていった。
「「はぁ~………………………終わったー」」
喜ばしいのだが、先ずは全員で一日の終わりの総括を一斉に呟くところから彼らの放課後は始まる。
必然。このクラスに所属する少女、福本アヤノンも同様である。
「あぁ~………………魔術の授業は疲れる………………」
グタァっと机にうつ伏す少女は、顔をそこに押し付けながら呟いた。
そこから見上げると、多くのクラスメイトがすでに帰宅の準備に入っていた。
今日は木曜日。
学生にとって、気だるさが中途半端に溜まる日でもある。
それにアヤノンがこの学校に入学してから幾らか日が経った。春風の吹くころと比べて、ここモール都市は現在半殺しのような暑さが支配していた。
モール都市のガラス張りの屋根は現在、『節電対策』とのことで昼でも開かれている。あれは直射日光をある程度抑える機能が備わっているのだが、これでは何のための機能なのか問い詰めたくなる。
アヤノンは夏服のカッターシャツに赤色のリボンという、何処にでもある夏の制服に衣替えしているが、相も変わらず汗は止まるところを知らないようだ。
さて───と、アヤノンは鞄に教科書を取り敢えず全部無造作にぶちこみ、トレードマークとも言える刀を腰に挿して、
「さぁてと、では帰りますかな」
気だるさマックスの少女が鞄を抱え教室を出ようとした、その時だった。
ピンポンパンポーン────
『ハーイ♪ 放送部のペルシアよぉー★ 今からクロ先生からの伝言を伝えるからぁー、該当者は残念ながらアツアツの教室で待っててちょうだーい♪』
「ペルシアか…………相変わらずアイツはムカつく喋り方してんな」
豹変女、ペルシア・サムネイルの声はこの暑さをさらに高めるのに十分だった。
それでもペルシアは放送をやめないのだった。アヤノンは適当に聞き流していたが───
『弱者の溜まり場Y組に連絡よぉー♪ マリナーラ、ジェンダー、マリア・ルートピア、レオナルド・ザックレー、オダ・アツナガ、セリア・マルコフ、あとアヤ。この7名は先生から残れって指示が出てるから、そんじゃシクヨロ~♪』
放送が切れたと同時。アヤノンはペルシアの声を介したスピーカーを虚空の目で見つめながら、
そして一言。
「──────────は?」
『アヤ』とは福本アヤノンの呼称であった。
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