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第肆話
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あれから三日程が経過した。
滞りなく紅世様の葬儀が執り行われ、病死であると告げられていたから、国民は悲しみに暮れただけで混乱による騒ぎなどは起きなかったようだ。
皇帝の退位表明も、まだ公にはしていなかったお陰もあっただろう。どちらが先であっても、両方を結び付けて考え、国民を不安にさせる要素を与えてしまう可能性は高い。
それでも未だ城内の一部の人たちの間では、朱皇くんが行方不明のままとされているから、その不安は不穏な空気を纏って広がり、善くないものの火種を点けてしまう恐れもあるのだけれど。
「ふわ……あ……」
丹思様のお屋敷内は、そんな恐れなど微塵も感じさせないような、ゆるゆるとした時間が流れていた。
「朱皇くん、眠いの?」
揺り椅子で背中を反らせながら大きな欠伸をした朱皇くんに訊ねる。
バルコニーで日向ぼっこしているなんて、呑気にも程があるように思えるけれど、このお屋敷から出ることを許されていない軟禁状態にある朱皇くんは、自分に任されている仕事を処理することすらも「いない筈の皇子の署名があるのはおかしい」からとさせて貰えず、書類の山が蓄えられ続けている様子を耳にしては、げんなりとした表情で溜め息を溢すのだった。
よって、暇で暇で仕方がないのだ。
かといって、異世界へ渡った影響が身体に不調を与え続けていることもあって、日課だという剣術の稽古も、途中で倒れてしまう為に丹思様から定められた時間以外は出来ない。動きたいのに動けないことで、朱皇くんの精神状態は悪くなる一方だった。
「何で青子は何ともないんだ。狡いじゃないか」
ムッとした表情でこの台詞を言われるのは、これで五度目くらいだ。拗ねているのとか、腹を立てているのとか、言い方は少しずつ違っているのだけど。ちなみに今回は駄々っ子みたいになっていて、それからずっと「狡い」を歌うように連発させている。
キシキシと椅子を揺らしながら、背凭れに取り付いて私を恨めしそうに見上げてくる朱皇くん。成人男性のものとは思えない幼い仕草に、私は首を傾げ、やはり眠いのだろうなと納得した。
他の人……丹思様や栞梠さんたち妖狐族の前では、そういったことはないらしいのだけど、私が見る限り、朱皇くんは眠気が訪れると様子が少し幼くなるのだ。
そしてこの眠気は、朱皇くんがだらだらと日々を過ごしている所為などではなく、体調を整える為の薬の副作用と思われる。或いは、朱皇くんが無茶をしないように睡眠薬を混ぜているのかもしれない。
「…………」
朱皇くんの目蓋がゆっくりと落ちていく。眠気に負けまいと身体を起こそうとするその様子は、犬が遊んで貰いたい気持ちと眠気とで戦って足を踏ん張って耐えている姿のように見えた。
実家にいる藤四郎くん(パピヨン)を思い出し、懐かしい気分になる。
「眠いなら、中に入ろう? 少し曇ってきたから、寒くなっちゃうよ」
そして初めて会った時の、あの小さな朱皇くんを重ねながら声をかける。もう少し早く声をかければ良かったのか、目蓋が開かない様子で朱皇くんの手が私を探した。
「ほら、もうちょっと頑張って」
と、その手を取って引き起こそうと試みた私だったが、次の瞬間、何故か私の方が引っ張られて、朱皇くんの上に覆い被さる形になる。
なんか、こんなようなことが前にもあったような? なんて考えている場合じゃない。
「ごめんなさい、何処かぶつけちゃった?」
勢いで肩口に額をぶつけ、他に自分を支えようとした手のひらで、朱皇くんの背中か何処かに突撃状態になった気がしたから、慌てて身を起こしながら訊ねると、朱皇くんは少しぼんやりとした表情で私を見つめた後。
「……青子、毛布は喋らん」
なんて意味の分からないことを言う。
もしかして寝惚けてるのかと思ったのだけど、そのわりに私の手を掴んでいる力は強く、引っ張っても頑として放してくれそうにない。
「毛布、欲しいの?」
動きたくないから持って来いと言うのなら、せめて放して欲しいのだけど。そんなことを心中で呟いている間にも、朱皇くんは私の手を掴んだまま、もぞもぞと動いて完全に寝ようとしている。
そして、何かが太ももの辺りをペシペシしてると思って見れば、それは朱皇くんの尻尾で。緩やかなその動きはリラックスしているようだと分かるけど……こっちはそれとは真逆な気持ちだ。揺り椅子の背凭れをガッチリと片手で掴んで身を支えているのだけど、この手の力を抜いたら朱皇くんに頭突きをしてしまうか――キスしてしまいそう。
「うっ……」
私ったら何てことを考えてしまったのだろう。一気に熱が顔に集中して、くらりと目眩が生じた。
目を閉じている朱皇くんの綺麗な顔に幼さを見つけて可愛いなんて思うのは、余裕があるからじゃなくて、いつもより間近で確り観察出来ちゃうこの距離の問題だ。起きて欲しいのに、今は目を開けないで欲しい。
私を毛布代わりとか、抱き枕程度にしか思っていない相手にドキドキしてるなんて、意識したくないし気付かれたくない。
暫く見つめているうちに、尻尾の動きが止んでいることに気付いた。そっと身を離せば、今度は難なく離れることが出来て、ホッとしている癖に少し残念に思ってる自分がいる。
残念、というより、何かが物足りないような。
――私、朱皇くんに抱き締めて欲しかったんだろうか。温もりを求められたのなら求められたで、中途半端にされたくなかった、とか?
「…………」
笑みが漏れた。自嘲的なものだ。
私は何か勘違いしていないか。朱皇くんが好意的に接してくれるから――それがまるで恋人と接するかのような気安さだから、自分までそんな気分になってしまっているんじゃないだろうか。
だから、一人で慌てて。
勝手に意識して、動揺して、何かを期待したみたいに……馬鹿みたい。
よく考えてもみなさいよ。――と、第三者になった調子で考える。
相手は人間じゃなくて狼族。耳と尻尾だけだけど見た目からして犬っぽいじゃない。特別な関係じゃなくたって撫でれば飛び付いて来るし、顔を近付ければ舐めてくる。そんな習性みたいなもので、私を抱き締めることに理由なんてないのよ。ただ、嫌いじゃないというだけ。なのに、いくら人の姿をしていてカッコいいからって、いちいち動揺なんかされたら向こうが引くわよ。第一……。
と、そこで自分で組み立てたもう一人の自分の言葉に、私は妙に納得した気分になった。それを否定する思いもあったけれど、自分の勘違いを正すには効果的であったが故に、受け入れたのだ。
朱皇くんと私は身分が違う。いずれ、彼を前にして跪くことになるのだ。触れあうどころか言葉も交わせない程の遠い場所に立つ人なのだ。そんな皇子様の気紛れの中に、私がほんの一時置かれているだけ。
この世界で生きていくことを、きちんと理解するということの中には、そのことも含まれているんじゃないだろうか。
それなのに、私は。きっと試されていただけなのに、好意に甘えるという間違った解釈をしていただけなのだ。
「……風邪をひかれますよ……朱皇様」
小さく、呼び掛ける。
きっと呼び方を改めたらまた戻すように言われるだろう。その優しい言葉の裏で私を試して。
近付こうとして、やめる。そして、誰かを探して部屋に運んで貰おうと、その場を離れかけた時。
「青子様、丹思様がお呼びです。只今お戻りになられるところですので、玄関ホールへ向かって下さい」
妖狐族の少年に言われて、私は皇子のことを任せて丹思様の元へ急いだ。
丹思様は亡くなられた紅世様に代わって信教司というのを任命されたらしい。これは国内の唯一ではない宗教関連についてのあれやこれやをするらしく、主に宗教間の争い、神や巫女などと偽って金品を搾取する詐欺などの取り締まりを仕切る立場にあるらしい。曖昧なのは、教えてくれた章杏さんが曖昧だったからだ。
それでその仕事中、神殿に向かった丹思様は半月程前に行方不明になっていた皇子が倒れていた場所であったと思い出し、私を連れて来ようと思ったのだそうだ。あまり外出出来ない私の気分転換の為もあったようだけれど、思い立ってすぐに行動する辺り、他に何か考えがあるんじゃないかと思ってしまうのは、考え過ぎだろうか。
「僕には、他者から真実を取り出す能力があります。全てを知り得る訳ではなく断片的にですが」
ぽつりとそう気恥ずかしそうに言った丹思様は、辿り着いた神殿の閉ざされた扉の前に立つ。
お城の中にあるということで、そう大きなものではないけれど、妙に威圧感が漂っているように感じるのは門番のように控えた獣の彫像の所為だろうか。
「朱皇様に何が起きたのか。それを知る為に取り出した真実が『標を持ちて異界の扉より帰還す』。それと朱皇様が語られたことから、朱皇様が何者かによって異世界へ廃棄されたことを知ったのです」
廃棄。なんて非道な言葉だろう。それを丹思様が口にするなんて、少し信じられなかった。例え、その行為自体が人をゴミのように扱うことだとしても。
「青子様。異界の扉の出現に必要なものをご存じですか?」
「……聞いた覚えはあります。生き物の犠牲が必要とか」
「数百の命を捧げる。それは扉が開く条件ですね。出現に必要なのは――それを求める気持ち、なのです」
「……えっ?」
拍子抜けした。求めれば現れると言うなら、今すぐに、私でも呼び出せそうだ。
「ただ求めるだけじゃありません。強い憎しみを、恨みを、殺意を込めるのです。どれだけその人物がこの世界にとって不要なものか。それをひたすら念じるのだそうですよ」
それは、私には出来そうにない。
でも――だから「廃棄」なのか。扉を求めた者にとってはゴミより疎ましいものだから。
「丹思様は、どうしてそれを?」
「妖狐族の長が話して下さったのです。実行した者もまた、何処かから伝え聞いていたのか、強い怨念が招き寄せたのかは分かりませんが」
どちらにしても、あの皇子をそこまで恨む人がいるとは思えない。そう告げた私の言葉に頷いた丹思様。不意に目を見開くと、私を思い切り突き飛ばす。
「きゃっ!?」
ドサリと尻餅をつくその一瞬前、私と丹思様との間を銀色の光が走り、その先で扉に深く突き刺さるような音がした。
滞りなく紅世様の葬儀が執り行われ、病死であると告げられていたから、国民は悲しみに暮れただけで混乱による騒ぎなどは起きなかったようだ。
皇帝の退位表明も、まだ公にはしていなかったお陰もあっただろう。どちらが先であっても、両方を結び付けて考え、国民を不安にさせる要素を与えてしまう可能性は高い。
それでも未だ城内の一部の人たちの間では、朱皇くんが行方不明のままとされているから、その不安は不穏な空気を纏って広がり、善くないものの火種を点けてしまう恐れもあるのだけれど。
「ふわ……あ……」
丹思様のお屋敷内は、そんな恐れなど微塵も感じさせないような、ゆるゆるとした時間が流れていた。
「朱皇くん、眠いの?」
揺り椅子で背中を反らせながら大きな欠伸をした朱皇くんに訊ねる。
バルコニーで日向ぼっこしているなんて、呑気にも程があるように思えるけれど、このお屋敷から出ることを許されていない軟禁状態にある朱皇くんは、自分に任されている仕事を処理することすらも「いない筈の皇子の署名があるのはおかしい」からとさせて貰えず、書類の山が蓄えられ続けている様子を耳にしては、げんなりとした表情で溜め息を溢すのだった。
よって、暇で暇で仕方がないのだ。
かといって、異世界へ渡った影響が身体に不調を与え続けていることもあって、日課だという剣術の稽古も、途中で倒れてしまう為に丹思様から定められた時間以外は出来ない。動きたいのに動けないことで、朱皇くんの精神状態は悪くなる一方だった。
「何で青子は何ともないんだ。狡いじゃないか」
ムッとした表情でこの台詞を言われるのは、これで五度目くらいだ。拗ねているのとか、腹を立てているのとか、言い方は少しずつ違っているのだけど。ちなみに今回は駄々っ子みたいになっていて、それからずっと「狡い」を歌うように連発させている。
キシキシと椅子を揺らしながら、背凭れに取り付いて私を恨めしそうに見上げてくる朱皇くん。成人男性のものとは思えない幼い仕草に、私は首を傾げ、やはり眠いのだろうなと納得した。
他の人……丹思様や栞梠さんたち妖狐族の前では、そういったことはないらしいのだけど、私が見る限り、朱皇くんは眠気が訪れると様子が少し幼くなるのだ。
そしてこの眠気は、朱皇くんがだらだらと日々を過ごしている所為などではなく、体調を整える為の薬の副作用と思われる。或いは、朱皇くんが無茶をしないように睡眠薬を混ぜているのかもしれない。
「…………」
朱皇くんの目蓋がゆっくりと落ちていく。眠気に負けまいと身体を起こそうとするその様子は、犬が遊んで貰いたい気持ちと眠気とで戦って足を踏ん張って耐えている姿のように見えた。
実家にいる藤四郎くん(パピヨン)を思い出し、懐かしい気分になる。
「眠いなら、中に入ろう? 少し曇ってきたから、寒くなっちゃうよ」
そして初めて会った時の、あの小さな朱皇くんを重ねながら声をかける。もう少し早く声をかければ良かったのか、目蓋が開かない様子で朱皇くんの手が私を探した。
「ほら、もうちょっと頑張って」
と、その手を取って引き起こそうと試みた私だったが、次の瞬間、何故か私の方が引っ張られて、朱皇くんの上に覆い被さる形になる。
なんか、こんなようなことが前にもあったような? なんて考えている場合じゃない。
「ごめんなさい、何処かぶつけちゃった?」
勢いで肩口に額をぶつけ、他に自分を支えようとした手のひらで、朱皇くんの背中か何処かに突撃状態になった気がしたから、慌てて身を起こしながら訊ねると、朱皇くんは少しぼんやりとした表情で私を見つめた後。
「……青子、毛布は喋らん」
なんて意味の分からないことを言う。
もしかして寝惚けてるのかと思ったのだけど、そのわりに私の手を掴んでいる力は強く、引っ張っても頑として放してくれそうにない。
「毛布、欲しいの?」
動きたくないから持って来いと言うのなら、せめて放して欲しいのだけど。そんなことを心中で呟いている間にも、朱皇くんは私の手を掴んだまま、もぞもぞと動いて完全に寝ようとしている。
そして、何かが太ももの辺りをペシペシしてると思って見れば、それは朱皇くんの尻尾で。緩やかなその動きはリラックスしているようだと分かるけど……こっちはそれとは真逆な気持ちだ。揺り椅子の背凭れをガッチリと片手で掴んで身を支えているのだけど、この手の力を抜いたら朱皇くんに頭突きをしてしまうか――キスしてしまいそう。
「うっ……」
私ったら何てことを考えてしまったのだろう。一気に熱が顔に集中して、くらりと目眩が生じた。
目を閉じている朱皇くんの綺麗な顔に幼さを見つけて可愛いなんて思うのは、余裕があるからじゃなくて、いつもより間近で確り観察出来ちゃうこの距離の問題だ。起きて欲しいのに、今は目を開けないで欲しい。
私を毛布代わりとか、抱き枕程度にしか思っていない相手にドキドキしてるなんて、意識したくないし気付かれたくない。
暫く見つめているうちに、尻尾の動きが止んでいることに気付いた。そっと身を離せば、今度は難なく離れることが出来て、ホッとしている癖に少し残念に思ってる自分がいる。
残念、というより、何かが物足りないような。
――私、朱皇くんに抱き締めて欲しかったんだろうか。温もりを求められたのなら求められたで、中途半端にされたくなかった、とか?
「…………」
笑みが漏れた。自嘲的なものだ。
私は何か勘違いしていないか。朱皇くんが好意的に接してくれるから――それがまるで恋人と接するかのような気安さだから、自分までそんな気分になってしまっているんじゃないだろうか。
だから、一人で慌てて。
勝手に意識して、動揺して、何かを期待したみたいに……馬鹿みたい。
よく考えてもみなさいよ。――と、第三者になった調子で考える。
相手は人間じゃなくて狼族。耳と尻尾だけだけど見た目からして犬っぽいじゃない。特別な関係じゃなくたって撫でれば飛び付いて来るし、顔を近付ければ舐めてくる。そんな習性みたいなもので、私を抱き締めることに理由なんてないのよ。ただ、嫌いじゃないというだけ。なのに、いくら人の姿をしていてカッコいいからって、いちいち動揺なんかされたら向こうが引くわよ。第一……。
と、そこで自分で組み立てたもう一人の自分の言葉に、私は妙に納得した気分になった。それを否定する思いもあったけれど、自分の勘違いを正すには効果的であったが故に、受け入れたのだ。
朱皇くんと私は身分が違う。いずれ、彼を前にして跪くことになるのだ。触れあうどころか言葉も交わせない程の遠い場所に立つ人なのだ。そんな皇子様の気紛れの中に、私がほんの一時置かれているだけ。
この世界で生きていくことを、きちんと理解するということの中には、そのことも含まれているんじゃないだろうか。
それなのに、私は。きっと試されていただけなのに、好意に甘えるという間違った解釈をしていただけなのだ。
「……風邪をひかれますよ……朱皇様」
小さく、呼び掛ける。
きっと呼び方を改めたらまた戻すように言われるだろう。その優しい言葉の裏で私を試して。
近付こうとして、やめる。そして、誰かを探して部屋に運んで貰おうと、その場を離れかけた時。
「青子様、丹思様がお呼びです。只今お戻りになられるところですので、玄関ホールへ向かって下さい」
妖狐族の少年に言われて、私は皇子のことを任せて丹思様の元へ急いだ。
丹思様は亡くなられた紅世様に代わって信教司というのを任命されたらしい。これは国内の唯一ではない宗教関連についてのあれやこれやをするらしく、主に宗教間の争い、神や巫女などと偽って金品を搾取する詐欺などの取り締まりを仕切る立場にあるらしい。曖昧なのは、教えてくれた章杏さんが曖昧だったからだ。
それでその仕事中、神殿に向かった丹思様は半月程前に行方不明になっていた皇子が倒れていた場所であったと思い出し、私を連れて来ようと思ったのだそうだ。あまり外出出来ない私の気分転換の為もあったようだけれど、思い立ってすぐに行動する辺り、他に何か考えがあるんじゃないかと思ってしまうのは、考え過ぎだろうか。
「僕には、他者から真実を取り出す能力があります。全てを知り得る訳ではなく断片的にですが」
ぽつりとそう気恥ずかしそうに言った丹思様は、辿り着いた神殿の閉ざされた扉の前に立つ。
お城の中にあるということで、そう大きなものではないけれど、妙に威圧感が漂っているように感じるのは門番のように控えた獣の彫像の所為だろうか。
「朱皇様に何が起きたのか。それを知る為に取り出した真実が『標を持ちて異界の扉より帰還す』。それと朱皇様が語られたことから、朱皇様が何者かによって異世界へ廃棄されたことを知ったのです」
廃棄。なんて非道な言葉だろう。それを丹思様が口にするなんて、少し信じられなかった。例え、その行為自体が人をゴミのように扱うことだとしても。
「青子様。異界の扉の出現に必要なものをご存じですか?」
「……聞いた覚えはあります。生き物の犠牲が必要とか」
「数百の命を捧げる。それは扉が開く条件ですね。出現に必要なのは――それを求める気持ち、なのです」
「……えっ?」
拍子抜けした。求めれば現れると言うなら、今すぐに、私でも呼び出せそうだ。
「ただ求めるだけじゃありません。強い憎しみを、恨みを、殺意を込めるのです。どれだけその人物がこの世界にとって不要なものか。それをひたすら念じるのだそうですよ」
それは、私には出来そうにない。
でも――だから「廃棄」なのか。扉を求めた者にとってはゴミより疎ましいものだから。
「丹思様は、どうしてそれを?」
「妖狐族の長が話して下さったのです。実行した者もまた、何処かから伝え聞いていたのか、強い怨念が招き寄せたのかは分かりませんが」
どちらにしても、あの皇子をそこまで恨む人がいるとは思えない。そう告げた私の言葉に頷いた丹思様。不意に目を見開くと、私を思い切り突き飛ばす。
「きゃっ!?」
ドサリと尻餅をつくその一瞬前、私と丹思様との間を銀色の光が走り、その先で扉に深く突き刺さるような音がした。
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