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第玖話
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皇帝崩御の知らせは、翌日になってから瞬く間に広がった。民衆には病死とされているが、紅世様の病死と朱皇皇子も病に伏しているとされていたことで、王城内では病が蔓延しているのではないかという不安が広がっているらしい。
現在一席が空席のままの九大老への事情説明と、紅い目の呪縛とは違い、理由は様々あれど本人の意志で皇帝に従っていた者たちの捕縛が行われる中、急いで皇帝を継ぐ者を選ばなければならないことを九大老たちは懸念したようだったが。
「皇帝となるべき方は既に決まっております」
喚問席の朱皇皇子がそう言うと、同席している千茜様が立ち上がり。
「潭赫を討ったのはわたしだからね。悪帝を排斥させた者が継ぐことが責任であろうね」
と言うと、一時間程八人で話し合われた後に、慣例に従うとされて決定が下った。
そして私は。
「青子にはあの屋敷をあげよう。だから朱皇の屋敷に移るのはやめてくれないかね? 一時でも君を側室にすると決めて迎え入れたつもりでいたのに、まるで皇帝の玉座の代わりに君を差し出したようで、気が引けるのだよ」
元々、私を側室にするなんて言い出したのは、朱皇皇子へのちょっとした嫌がらせという名の愛情表現だった。その時、身を寄せていた丹思様のお屋敷が襲撃に遭って、人が住めない状態になってしまったことと、皇子が千茜様の言葉に逆らうような性格ではなかった為に、私が意識を手放している間に連れて来られてしまったのだった。
「私は気にしませんけど……。そのようなことで千茜様の悪評が立つようなこともないと思いますし……」
「俺のことはどうとでもなるから構わないのだがね。ああ、君がわたしに靡いてくれさえすれば、問題なかったというのに」
チラリと恨みがましいような目を向けられてしまうと、とても悪いことをしてしまった気持ちになる。同時に、千茜様でもこのような表情をなさるのだな、と失礼なことを思ってみたり。
「聞いているのかね? この耳は」と私の耳に指を這わせ「わたしの能力を抑え込む力でも持っているのではないかね」
擽ったくて身を捩ると、指の代わりに甘く囁くように不満を漏らしていた唇が触れて、離れる。
「わたしが恋しくなったら、いつでも会いに来たまえ。快く迎え入れよう」
それを受諾の合図と受け取り、私は深く頭を下げながらお礼を口にして、千茜様のお屋敷を出ると。
「お迎えに上がりました」
予想していた声と違っていたことに驚いて、目を見張る。にこにこと、いつもの穏やかな微笑みを浮かべた丹思様だ。
朱皇皇子から迎えの人が来ることは聞いていたけれど、それが丹思様とは。お付きの妖狐族の方は何処にいるのだろう?
「僕一人ですよ」
「えっ? あ、ごめんなさい。大きな声を出してしまって」
「いえ。驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
「い、いえいえ、とんでもないです」
「無事に出て来られたようで安心しました」
「?」
「青子様を監禁なさるような真似をされましたら、例え皇帝を継がれる方のお屋敷でも、乗り込んで一騒動起こさなければならなかったでしょうから」
ああ、素敵な笑顔でとんでもないことを仰有る。
「では、参りましょう。朱皇様のお屋敷はこちらです」
案内して下さる様子が、何だかいつもと違ってとても無邪気な印象を受けた。
それもずっと掛けられていた術の影響だろうか。
「青子さん」
ふと足を止めると、丹思様が私に向けて頭を下げる。
「えっ?」
「あなたにはどれだけ感謝してもしきれません。本当に有難うございました。心より御礼申し上げます」
「あの、もうそういうのはやめて下さい」
「すみません。区切りとしてもう一度だけ言わせて欲しかったのです」
そう言われてしまうと、少しでも嫌だと思ってしまったことを、申し訳なく思う。
区切り――私がこの世界に来てしまうことになった事件は、幕を閉じたのだ。
「お願いがあるのです」
「何でしょう?」
丹思様のことだから、朱皇皇子のことだろう。そう思ったから、唐突な「お願い」の言葉にも驚くことはなかった。
「あなたを抱き締めさせて貰えませんか?」
「――えっ?」
「僕の想いが、真っ直ぐあなたに向かっているのであれば、こんな申し出をしたことの罪に苛まれることでしょう。ですが、朱皇様を通しての曲がった想いであるなら、その間違いに気付くことが出来ると思うのです」
「……」
それは、私のことが好かどうかよく分からないから、確認させて欲しい。ということだろうか。抱き締めたら分かること? 狼族にとっては普通のことなのかな。
「ど、どうぞ?」
どうぞ。と言うのもおかしい気がするけれど、他に思い付かなかったので、躊躇しながらもハグを待つように軽く両手を広げると、丹思様は少し照れたように笑ってから、そっと私を抱き締める。
ドキドキするのは、どれだけ丹思様が柔らかな雰囲気を纏った中性的な容姿をされている方であっても、男性には違いないからだ。
「!」
不意に、丹思様の腕に力が入る。
ぎゅうっとされるその強さに、高鳴る鼓動に不安が生まれる。何を不安に思うのか分からないままに。
「不躾な願いをお聞き下さり、有難うございました」
身を離した丹思様は、少し困ったような表情だったけれど、すぐに何事もなかったように皇子のお屋敷への案内を再開する。
千茜様のことや蒼慈さんの件があったから、不安になったのはそれを思い出して過剰に反応してしまったのだろう。
「こちらが朱皇様のお屋敷になります。さ、中へどうぞ」
朱皇皇子のお屋敷は、なんというかヨーロッパの巨大な劇場を思わせる外観をしていた。千茜様のお屋敷も庭園などがあって素敵なところだったけれど、こちらは敷地内いっぱいに建てた感じで、正直な感想を言えば、フェンリル城よりお城感が漂っている。城とするには小さいのだけれど。
「この建物も、潭赫が朱皇様に目をかけているという体裁を繕う為のものでしたが、もう亡くなってしまいましたから気になりませんね」
軽く毒づく丹思様に曖昧に微笑んでみせてから、栞梠さんを含めた一部の妖狐族と黒狼族の人たちに出迎えられる。
中に入るとホール内はやはり劇場といった印象が強かったが、早速向かうように言われた朱皇皇子の部屋は、そこだけ中華風の趣きがあって、何となくホッとした。皇子の服装などからこちらの方がイメージしやすいからだろう。
「よく来た、青子」
皇子の笑顔が眩しい。男らしさより可愛らしさが強調されるこの笑顔を、どれくらい振りに見れただろう。
「はい。お世話になりまふっ?」
挨拶をしたところで、頬を引っ張られた。
「ずっと言いたかったんだが、どうしてお前はそんな話し方をするんだ。やめろと言っただろうが」
「う、えぅ……」
「やめるか?」
「――」
「やめないんなら」
「ひゃっ!?」
頬から手を外してくれたかと思ったら、抱き上げられてしまい、そのまま部屋の奥へ。
大きく開け放たれた窓を見て、皇子がそんなことする筈ないと思いながらも、そこから放り出されてしまうのじゃないかと思ってしまう。
「!」
けれど、気付けば長椅子の上に押し倒されていて。すぐ目の前にある皇子の顔を見上げ、息を詰まらせた。
「お前を俺のものにする。青子の気持ちが誰に向いていても、俺の傍から離れられないようにしてやる」
「ど、して……?」
訊ねると辛そうに目を伏せる。
「結局、俺は何一つ役に立てなかった。あの内官理の方が俺の何倍もの働きを見せていた。だから、お前が俺を見限ったとしても無理はない」
「そんな――」
「お前の態度が明らかにしているだろう。出会った時のあのままでいて欲しいって望んでいるのに、距離を置いた話し方をして」
「それは」
だってそれは。私に気を遣って言ってくれたのだと思ったのだ。
「いずれ態度を改めなければならない日が来るなら、早い方がいいと……」
皇子があまりにも距離を詰めるから、勘違いしたらいけないと、抱きそうになる想いを戒める為に。
「馬鹿なことを」
皇子の手が私の頬から唇にかけてを撫でる。
「お前がもしも俺を見限っていないならば……まだ俺の傍にいてくれることを願ってくれるなら、俺の名を呼んでくれ。あの日と同じ呼び方で」
見限るなんて、そんなことは絶対にしない。どんなに危険なことがあったとしても、私は離れたくなかった。
「――朱皇、くん」
「もう一度」
「朱皇くん」
「……有難う、青子」
泣いてしまうかと思った。それは耳が震えたように見えたからだろうか。
皇子……朱皇くんは私から離れると、何かを取りに行ったようだった。そして戻って来ると、起き上がった私の隣に腰を下ろして。
「俺が本当は父上から愛されてなどいなかったことを知った時、この名前すら皮肉に思えて嫌になったんだ」
名前に冠せられた色。そして皇子を示すとも皇帝を示すとも思われる皇という文字。
前皇帝が朱皇くんを次の皇帝にと望む言葉を紡いだ時、或いは名を授けた時から、そのつもりであったのだろうと納得した人がいたかもしれない。
「だが、青子がその調子で呼び続けていてくれるなら、それが例え皮肉であったとしても、受け入れられそうだ」
「じゃあ、いっぱい呼んであげないといけないね、朱皇くん」
「ああ、頼む。それから、これも」
と言って渡されたのは、さっき取りに行ったものだろうブラシだ。
「もしかして章杏さんの……?」
「取り上げたままにしていたからな」
「…………」
ぎゅっと胸に押し付けるようにして抱き締める。形見として大事にしよう。
「まさか、大事にするだけで、使わないつもりじゃないよな?」
「?」
ぽふぽふと揺れるものが見えた。
朱皇くんの尻尾だ。
「――いいの?」
「お前、コレ好きだろ? 特別に触らせてやる」
確かにもふもふは好きだけど、ブラッシングさせてくれるなんて珍しい。
気が変わらないうちにと早速手にしてみると、何だかとてもごわごわしていた。
もしかして、私にさせてくれる為に放っておいたのかな?
「これは……手強そう」
「ははは。ゆっくりやればいい。時間なら、たっぷりある」
「うん、そうだね」
朱皇くんの言葉に同意して、ごわごわ尻尾にブラシを通し続ける。
穏やかな時間の流れに頬がゆるむ。
ただ本当に、この尻尾のごわごわは手強かった。
現在一席が空席のままの九大老への事情説明と、紅い目の呪縛とは違い、理由は様々あれど本人の意志で皇帝に従っていた者たちの捕縛が行われる中、急いで皇帝を継ぐ者を選ばなければならないことを九大老たちは懸念したようだったが。
「皇帝となるべき方は既に決まっております」
喚問席の朱皇皇子がそう言うと、同席している千茜様が立ち上がり。
「潭赫を討ったのはわたしだからね。悪帝を排斥させた者が継ぐことが責任であろうね」
と言うと、一時間程八人で話し合われた後に、慣例に従うとされて決定が下った。
そして私は。
「青子にはあの屋敷をあげよう。だから朱皇の屋敷に移るのはやめてくれないかね? 一時でも君を側室にすると決めて迎え入れたつもりでいたのに、まるで皇帝の玉座の代わりに君を差し出したようで、気が引けるのだよ」
元々、私を側室にするなんて言い出したのは、朱皇皇子へのちょっとした嫌がらせという名の愛情表現だった。その時、身を寄せていた丹思様のお屋敷が襲撃に遭って、人が住めない状態になってしまったことと、皇子が千茜様の言葉に逆らうような性格ではなかった為に、私が意識を手放している間に連れて来られてしまったのだった。
「私は気にしませんけど……。そのようなことで千茜様の悪評が立つようなこともないと思いますし……」
「俺のことはどうとでもなるから構わないのだがね。ああ、君がわたしに靡いてくれさえすれば、問題なかったというのに」
チラリと恨みがましいような目を向けられてしまうと、とても悪いことをしてしまった気持ちになる。同時に、千茜様でもこのような表情をなさるのだな、と失礼なことを思ってみたり。
「聞いているのかね? この耳は」と私の耳に指を這わせ「わたしの能力を抑え込む力でも持っているのではないかね」
擽ったくて身を捩ると、指の代わりに甘く囁くように不満を漏らしていた唇が触れて、離れる。
「わたしが恋しくなったら、いつでも会いに来たまえ。快く迎え入れよう」
それを受諾の合図と受け取り、私は深く頭を下げながらお礼を口にして、千茜様のお屋敷を出ると。
「お迎えに上がりました」
予想していた声と違っていたことに驚いて、目を見張る。にこにこと、いつもの穏やかな微笑みを浮かべた丹思様だ。
朱皇皇子から迎えの人が来ることは聞いていたけれど、それが丹思様とは。お付きの妖狐族の方は何処にいるのだろう?
「僕一人ですよ」
「えっ? あ、ごめんなさい。大きな声を出してしまって」
「いえ。驚かせてしまったようで、申し訳ありません」
「い、いえいえ、とんでもないです」
「無事に出て来られたようで安心しました」
「?」
「青子様を監禁なさるような真似をされましたら、例え皇帝を継がれる方のお屋敷でも、乗り込んで一騒動起こさなければならなかったでしょうから」
ああ、素敵な笑顔でとんでもないことを仰有る。
「では、参りましょう。朱皇様のお屋敷はこちらです」
案内して下さる様子が、何だかいつもと違ってとても無邪気な印象を受けた。
それもずっと掛けられていた術の影響だろうか。
「青子さん」
ふと足を止めると、丹思様が私に向けて頭を下げる。
「えっ?」
「あなたにはどれだけ感謝してもしきれません。本当に有難うございました。心より御礼申し上げます」
「あの、もうそういうのはやめて下さい」
「すみません。区切りとしてもう一度だけ言わせて欲しかったのです」
そう言われてしまうと、少しでも嫌だと思ってしまったことを、申し訳なく思う。
区切り――私がこの世界に来てしまうことになった事件は、幕を閉じたのだ。
「お願いがあるのです」
「何でしょう?」
丹思様のことだから、朱皇皇子のことだろう。そう思ったから、唐突な「お願い」の言葉にも驚くことはなかった。
「あなたを抱き締めさせて貰えませんか?」
「――えっ?」
「僕の想いが、真っ直ぐあなたに向かっているのであれば、こんな申し出をしたことの罪に苛まれることでしょう。ですが、朱皇様を通しての曲がった想いであるなら、その間違いに気付くことが出来ると思うのです」
「……」
それは、私のことが好かどうかよく分からないから、確認させて欲しい。ということだろうか。抱き締めたら分かること? 狼族にとっては普通のことなのかな。
「ど、どうぞ?」
どうぞ。と言うのもおかしい気がするけれど、他に思い付かなかったので、躊躇しながらもハグを待つように軽く両手を広げると、丹思様は少し照れたように笑ってから、そっと私を抱き締める。
ドキドキするのは、どれだけ丹思様が柔らかな雰囲気を纏った中性的な容姿をされている方であっても、男性には違いないからだ。
「!」
不意に、丹思様の腕に力が入る。
ぎゅうっとされるその強さに、高鳴る鼓動に不安が生まれる。何を不安に思うのか分からないままに。
「不躾な願いをお聞き下さり、有難うございました」
身を離した丹思様は、少し困ったような表情だったけれど、すぐに何事もなかったように皇子のお屋敷への案内を再開する。
千茜様のことや蒼慈さんの件があったから、不安になったのはそれを思い出して過剰に反応してしまったのだろう。
「こちらが朱皇様のお屋敷になります。さ、中へどうぞ」
朱皇皇子のお屋敷は、なんというかヨーロッパの巨大な劇場を思わせる外観をしていた。千茜様のお屋敷も庭園などがあって素敵なところだったけれど、こちらは敷地内いっぱいに建てた感じで、正直な感想を言えば、フェンリル城よりお城感が漂っている。城とするには小さいのだけれど。
「この建物も、潭赫が朱皇様に目をかけているという体裁を繕う為のものでしたが、もう亡くなってしまいましたから気になりませんね」
軽く毒づく丹思様に曖昧に微笑んでみせてから、栞梠さんを含めた一部の妖狐族と黒狼族の人たちに出迎えられる。
中に入るとホール内はやはり劇場といった印象が強かったが、早速向かうように言われた朱皇皇子の部屋は、そこだけ中華風の趣きがあって、何となくホッとした。皇子の服装などからこちらの方がイメージしやすいからだろう。
「よく来た、青子」
皇子の笑顔が眩しい。男らしさより可愛らしさが強調されるこの笑顔を、どれくらい振りに見れただろう。
「はい。お世話になりまふっ?」
挨拶をしたところで、頬を引っ張られた。
「ずっと言いたかったんだが、どうしてお前はそんな話し方をするんだ。やめろと言っただろうが」
「う、えぅ……」
「やめるか?」
「――」
「やめないんなら」
「ひゃっ!?」
頬から手を外してくれたかと思ったら、抱き上げられてしまい、そのまま部屋の奥へ。
大きく開け放たれた窓を見て、皇子がそんなことする筈ないと思いながらも、そこから放り出されてしまうのじゃないかと思ってしまう。
「!」
けれど、気付けば長椅子の上に押し倒されていて。すぐ目の前にある皇子の顔を見上げ、息を詰まらせた。
「お前を俺のものにする。青子の気持ちが誰に向いていても、俺の傍から離れられないようにしてやる」
「ど、して……?」
訊ねると辛そうに目を伏せる。
「結局、俺は何一つ役に立てなかった。あの内官理の方が俺の何倍もの働きを見せていた。だから、お前が俺を見限ったとしても無理はない」
「そんな――」
「お前の態度が明らかにしているだろう。出会った時のあのままでいて欲しいって望んでいるのに、距離を置いた話し方をして」
「それは」
だってそれは。私に気を遣って言ってくれたのだと思ったのだ。
「いずれ態度を改めなければならない日が来るなら、早い方がいいと……」
皇子があまりにも距離を詰めるから、勘違いしたらいけないと、抱きそうになる想いを戒める為に。
「馬鹿なことを」
皇子の手が私の頬から唇にかけてを撫でる。
「お前がもしも俺を見限っていないならば……まだ俺の傍にいてくれることを願ってくれるなら、俺の名を呼んでくれ。あの日と同じ呼び方で」
見限るなんて、そんなことは絶対にしない。どんなに危険なことがあったとしても、私は離れたくなかった。
「――朱皇、くん」
「もう一度」
「朱皇くん」
「……有難う、青子」
泣いてしまうかと思った。それは耳が震えたように見えたからだろうか。
皇子……朱皇くんは私から離れると、何かを取りに行ったようだった。そして戻って来ると、起き上がった私の隣に腰を下ろして。
「俺が本当は父上から愛されてなどいなかったことを知った時、この名前すら皮肉に思えて嫌になったんだ」
名前に冠せられた色。そして皇子を示すとも皇帝を示すとも思われる皇という文字。
前皇帝が朱皇くんを次の皇帝にと望む言葉を紡いだ時、或いは名を授けた時から、そのつもりであったのだろうと納得した人がいたかもしれない。
「だが、青子がその調子で呼び続けていてくれるなら、それが例え皮肉であったとしても、受け入れられそうだ」
「じゃあ、いっぱい呼んであげないといけないね、朱皇くん」
「ああ、頼む。それから、これも」
と言って渡されたのは、さっき取りに行ったものだろうブラシだ。
「もしかして章杏さんの……?」
「取り上げたままにしていたからな」
「…………」
ぎゅっと胸に押し付けるようにして抱き締める。形見として大事にしよう。
「まさか、大事にするだけで、使わないつもりじゃないよな?」
「?」
ぽふぽふと揺れるものが見えた。
朱皇くんの尻尾だ。
「――いいの?」
「お前、コレ好きだろ? 特別に触らせてやる」
確かにもふもふは好きだけど、ブラッシングさせてくれるなんて珍しい。
気が変わらないうちにと早速手にしてみると、何だかとてもごわごわしていた。
もしかして、私にさせてくれる為に放っておいたのかな?
「これは……手強そう」
「ははは。ゆっくりやればいい。時間なら、たっぷりある」
「うん、そうだね」
朱皇くんの言葉に同意して、ごわごわ尻尾にブラシを通し続ける。
穏やかな時間の流れに頬がゆるむ。
ただ本当に、この尻尾のごわごわは手強かった。
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