黒白の護り手~黒に染まりし運命の娘~

織月せつな

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美扇国――十束 1――

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 大神族の双子の名は、純白の髪の方をラザファム、黒髪の方をムスタファといった。共に十七歳であるという。

「うわーん、またぐるぐるだー」
「怪しまれる方が悪いのにー」

 フィリーネの糸で縛り付けられた双子。今回は後ろに回した手首を固定された上で腹部を縛られているだけなのだが、子供のように大粒の涙をこぼし続けている。
 蜘蛛の糸であることが、嫌で堪らないらしい。

「どうなさるおつもりですの? わたくし、この辺りに埋めておくのが宜しいと思いますわ」
「おはな、さくー? わうわうなくの」
「花は鳴きませんし、獣人を埋めても肥料になるくらいですよ」
「…………」

 耳に優しくない会話に、当人たちだけでなく、アメリアまでもが涙目になった。

「あの、人狼討伐のお手伝いをしてくれたということで、放してあげませんか?」
「アメリア様は甘過ぎますわ。――まさか、そういうのがお好みでして?」
「えっ?」
「この耳ですの? それと、この尻尾がアメリア様を惑わせてらっしゃいますのっ?」
「痛い痛い痛いっ」
「握るなよー、引っ張るなよーっ」

 ぐいぐいと、千切れても構わないとばかりに耳や尻尾を引っ張られ、双子はまた「うわーん」と泣き始める。
 ロミーは自分の尻尾を掴んで眺め、石像か何かのように動かない。彼女がもし双子のような姿であったなら、しょんぼりと耳と尻尾を垂れ下げていただろう。

「ああ、それとも、この軟弱な態度が母性本能に訴えるというものですの? わたくしなら、咬み殺してしまいそうですわ!」
「怖いよー、いじめっ子だよー」
「軟弱じゃないもん、蜘蛛がおっかないだけだもーん」

 どうにも収拾がつきそうにない状況に、アメリアが助けを求めるのはクラウスだ。
 クラウスは考え込む様子でいたが、アメリアの視線に気付き、小さく咳払いをする。

「神子の身を案じての行動ですから、今回は見逃しましょう」

 言うと、アメリアがパッと笑顔になり、そのまま双子の方を振り返る。
 双子も笑顔になってアメリアに応えたが、フィリーネは頬を膨らませ、調子に乗るなとばかりにムスタファの耳に齧りついた。

「ぎゃんっ」
「フィリーネ。可哀想だから、そういうことしないで?」
「はーい」

 アメリアがたしなめると、フィリーネは素直に返事をして、駆け寄ってアメリアの腕に抱き着く。
 その頭を撫でながら、フィリーネは実は双子のことを
気に入っているのではないかと考えていた。
 美少年や(泣き顔になったりしなければ)美青年といっても過言ではない容姿をした二人である。そこにアメリアの中では可愛らしいという評価の、獣の耳と尻尾を持っているのであるから、構いたくて仕方なくなってしまう、愛情の裏返しというものではないかと。
 それをフィリーネ自身に問わないのは、そうに違いないというアメリアの強い思い込みがあったからだが、そんな風に思われていると知ったらフィリーネは発狂したかもしれない。精神の安寧の為にも、問わずにいたのは正解だった。

「ところで、何故あなたたちは人狼を追っていたのです?」

 渋るフィリーネを宥めて糸を解くと、双子は糸が巻き付いていた辺りを頻りに擦りながら答える。

「俺たちの家を壊したから、とっちめてやろうと思って」
「壊された時、追い返すことしか思い付かなかったからさ、見付けたら仕返ししてやるつもりだったんだ」
「このずっと先の港の方にいた癖に、急にこっちに来て赤兎を襲ってたし、迷惑してたんだよ」
「赤兎はオレたちの友達だったからな」

 赤兎とは、この大草原の名につけられた程、草原の何処にでも姿が見られるくらいに生息していたウサギの一種である。
 その肉はやや筋っぽさはあるが美味であり、食用として乱獲されたこともあって、今は数を減らしている。そのお陰で、草原には赤兎ではなく花が占領するようになり、観光地となったのだが。

「そうですか。ならば、この前夜に馬が襲われたのは、人を狙ってのこともあるでしょうが、赤兎を狩れなくなったこともあったのでしょうね」
「お、オレたちの所為じゃないぞ!」
「ええ。遅かれ早かれ、赤兎だけでは空腹を満たせず、天幕ドームが狙われるのは時間の問題だったでしょう。人狼の数を把握してはおりませんが、あまり群れるものでもないわりに、たくさん率いていたようですから、一応は討伐完了ということになりますね」

 死骸は魔物であるが故に風化してしまい、既に数を確認するどころではないが、双子がボスと思われるものを滅したことで、仮にまだ仲間がいたとしても目立つような真似はせず、ひっそりと人に溶け込むようにして生きていくだろう。

「これで、俺たちが人狼じゃないって、証明出来たよな?」
「そうさ、オレたちは大神族だもんな」
「それなのですが」
「なにー?」
「まだ信用してくんないの?」

 ラザファムは面倒そうに髪を乱しながら頭を掻き、ムスタファはしゃがみ込んでバシバシと尻尾で草を打つ。

「あなた方の他に、大神族の生き残りはいますか?」

 訊かれて、双子は同時に動きを止めた。

「オレ、知らない」

 ムスタファが頭を振る。

「俺たちはファビアンに育てられた。ファビアンも大神族だった。元々、香琴こうきん国にいたみたいなんだけど、俺たちが物心ついた時には、もうこっちにいたから、仲間がいたとしても何処にいるか分からないんだ」

 ラザファムの瞳に翳りが生じる。ファビアンについて尋ねると、既に亡くなっていると答えたことから、その時の寂しさと悲しさを思い出したのかもしれない。

「そうでしたか。残念なことです」

 悼むように頭を下げるクラウスへ、双子が胡散臭げな目を向ける。心にもないことを。彼らはそう思ったのだが。

「もし、他の大神族の方にお会いした時には、ファビアンさんのことと、あなた方のことを伝えておきましょう。仲間の安否を知りたがらない程、大神族は非情ではないでしょうから」
「……どうだか」

 誰一人顔の浮かばない仲間に、クラウスへ向けていた感情を歪めて濁らせたものを抱えながら、吐き出すように呟く。

「だったら、オレたちも連れてってよ」
「なっ……」

 ムスタファの言葉に、ラザファムは諌めるように肩を掴む。
 フィリーネは「まあ、図々しい」と怒り顔になり、ずっと風景の一部と化していたロミーが展開について行けずに小首を傾げる。

「オレだって、仲間のこと知りたい。ファビアンが言ってたことが本当なのか確かめなきゃいけないんだ」
「ムスタファ」
「行かなきゃ、いつかきっと後悔する。いつか行くにしても、今じゃなきゃいけない気がするんだ。だから――」

 クラウスがアメリアに目を落とす。その予感はあったが、やはりアメリアは「一緒がいいです!」と言いたげな表情でクラウスを見上げていた。

「妙な取り合わせなのは、今でも十分言えることですからね」

 溜め息混じりに了承すると、フィリーネに咬みつかれそうになったが、アメリアが飛び跳ねて喜んでいる為、気を削がれたようで未遂に終わる。
 ラザファムはまだ迷っているようだったが、はにかみながら握手を求めるアメリアの手を握った時には、仕方ないと受け入れたようだった。
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