黒白の護り手~黒に染まりし運命の娘~

織月せつな

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美扇国――十束 2――

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 カタコトカタコト、車輪の回転に合わせて馬車は揺れる。
 薙ぎ倒され、巻き込んで千切られていく草は哀れだが、一度馬車が通ったところで枯れ果てるものでもない。
 だが、アメリアたちの乗る馬車は、二頭立ての少し大きなものであるというのに、走行した跡は殆ど残されていない。
 それなりに振動があって乗車している者たちを揺らしてはいるが、クラウスによる浮遊術が掛けられているようだ。草花を傷めない為、というよりは馬への負担を考慮してのことだろう。疲労を感じるまでの間が長くなれば、その分距離が稼げ、休息の時間が減り、目的地までの時短に繋がる。予定が変更されただけで、それほど急ぐ旅ではなかったが、物事を効率よく進めるには掴んだ流れを見誤らず、逃さぬことだ。故に急ぐ訳ではないが不測の事態に備えなければならないと考えている。

 そう、不測の事態。
 だがこれも運命の枝葉の一葉。
 彼女の覚醒を待たずに連れ出したからこそ、その力を補うべく集う者たちがいるのだ。
 八脚のフィリーネ、大神族のラザファムとムスタファ。鎖尾のロミーも含まれるのかもしれない。
 出会った者全てを迎え入れる訳にはいかないが、ふるいにかける基準が定かではない為、その言動に頼るしかなかった。
 魔族を引き入れることなど、彼の目的からすれば最善の手とは言えないが、最悪の手でもない。契約さえしてしまえば、強い魔族程使い勝手の良いものはなかった。多少の面倒事も目を瞑っていられる程に。
 しかしその所為で、彼の身が蝕まれていくことは、受け入れ難いものだった。

 ――だが、それも仕方あるまい。

 全てのことに無関心で、与えられた使命を淡々とこなすだけの一生であれたら、どんなに楽で無意味なものだっただろう。
 クラウスは自分に凭れ掛かって眠るアメリアに目を落とし、表情を和ませる。
 そろそろ昼食時となるのだが、昨夜はあまり休めなかったことと、馬車の軽い振動が眠気をもたらせたのだろう。
 荷台の方も、クラウスが「お願い」したのが効いているのか、時折声量を抑えて言い合いになったりしているが、静かだった。
 やり取りだけを聞いていれば、魔族がいるなどということを忘れてしまいそうなくらいに、フィリーネの反応は人族に近い。ロミーも変わっているが、見掛けよりずっと幼いものと考えれば納得がいった。

 きゅるるるる~……っ……

 不意に妙な音が間近から聞こえたかと思うと、音にびっくりしたアメリアが跳ねるようにして目を覚ます。

「きゃはははっ」
「やーばい、オレもお腹空いたーっ」

 聴覚が人族より鋭い双子が、おかしくて堪らないといった調子で声量を元に戻す。

「煩いですわよ、あなたたち」
「ロミーも、おにくたべるのてつだう」
「そういうことは手伝うとは言いませんのよ?」
「おにくおなかにかたづけるのてつだう」
「普通に『食べる』ではいけませんの?」
「しろいのとくろいの、ロミーのおにく『ちょっとだけ』っていった」
「お裾分けだから、ちょっとだけなのは当たり前だぞ」
「獲ったの俺たちだからな。神子とー……って、あれ? 神子って肉食っていいのー?」

 先程までの遠慮が嘘のように騒がしくなり、猪肉の取り分の話になったところで、ラザファムが馭者台の近くまで来てアメリアに尋ねる。

「あぅ、あの……はい。食べられます。少しでいいので、私にも下さい」

 空腹を訴える腹部をおさえ、顔を真っ赤にさせながらアメリアが答える。
 僅かに声が震えていたのは、笑われたこともあって恥ずかしくて堪らないからだろう。

「六翼の兄さんは?」
「わたしはあまり食べないというだけで、禁じられている訳ではありませんよ。たまに誤解されている方がいらっしゃいますが、天遣族が肉を口にしないのは、籠り月(新月)の日だけです。まあ、その前後二日を含めて、肉どころか何も口にはしませんけれどね」
「うーわ。前後二日ってことは五日も何も食えねーの?」
「そういうことになりますね」
「籠り月以外は食ってもいいんだろ?」
「はい。ですが何故か、そう習慣付けられてしまったのですよ。違反者でもいたのでしょうかね」
「駄目だわ。俺、天遣族に生まれなくて良かった」
「やだねー、泣くね。オレだったら死ぬ。絶対死んじゃう」
「ムスタファは食べるなって言われても食べちゃうだろうから、死なないだろ」
「あ、そっかー」

 ここは幼い子供の預かり所だっただろうか。と、双子の会話内容に、遠い目をするクラウス。

「じゃあメリーちゃんには、一番美味しいところあげるねー」

 にこにこと幸せそうに笑うムスタファに、アメリアもつられて笑顔になる。
 もう少し先へ進みたかったクラウスだったが、ここで「おあずけ」に出来る雰囲気ではなかった為、仕方なく馬を止めて休憩とする。

 調理の為に火を扱う為の敷石を組み立て、本来は雨天時に利用する馭者台用のシートの上に座ったアメリアたちは、ぽかぽかとした陽気に照らされながら、穏やかで楽しい時間を過ごした。

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