黒白の護り手~黒に染まりし運命の娘~

織月せつな

文字の大きさ
49 / 52
香琴国――祢々切 3――

しおりを挟む
 獣人を探して歩いていたロミーだったが、また天遣族を見つけて、大変分かりやすい嫌そうな表情をした。
 あれは見なかったことにしよう。そう決めたロミーだったが、見逃したことで獣人に被害があったらクラウスに怒られてしまうかもしれない。それと同時にアメリアに嫌われる、といった図式が浮かび、それは嫌だと返しかけていたきびすを戻す。
 天遣族を見逃そうと見逃すまいと、ロミー自身が報告しなければ主の知るところとはならないのだが、今日の自分は考えが冴えていると自画自賛しているロミーは気付かない。また、クラウスに何を言われたところでアメリアが彼女を嫌ったりすることはないということについては、自分に自信がない為の激しい思い違いであるということにも、思い至れずにいた。

「……?」

 暫く離れた位置からその天遣族を観察していたロミーは、相手の様子がおかしいことに気付く。
 逃げた獣人を捜しているというよりは、その者自身も何かに怯えて逃げてきたかのように、身を隠す場所を探しているようだった。
 二翼のうち左側は半ばから折れていた。あれでは飛ぶことは叶わないだろう。
 茶色の髪は肩の辺りで揃えられ、全体的に細い体躯ではあったが、胸にはかなり存在感のある膨らみが見える。
 ロミーは自分の平たい胸を見下ろし、二翼の女性の胸と見比べる。フィリーネのそれもなかなかに主張していたが、それよりも更に大きいのだ。何か入っているに違いない。そう考えたロミーは躊躇うことなく女性に近付き。

「!」

 ハッとロミーに気付いて強張った表情を浮かべた彼女のそれを掴む。

「きゃあぁっ!?」

 女性は一瞬、胸を刺されるか何か……攻撃を受けたのだと思った。
 ロミーの鎖状の尾が揺れるのが見えたからだ。しかし。

「……」

 片方だけだったその行為は両手になっていた。
 無表情と思える顔の中で、目だけが興味深そうに揉んでいる柔らかく張りのあるものに注がれている。
 相手が人族の男性であったなら、女性は突き飛ばすなり平手打ちするなりしていただろう。しかし、魔族であり同性である上に、全く敵意を感じない。女性は困り果てた上に泣きそうになった。

「きもちいい」

 ぱかりと口を開けたかと思うと、幼いような声で楽しげにロミーが言う。

「やわらかいの、ロミーもあったらよかったのに」

 全く遠慮する気配もなく、今度は顔を埋めて感触を楽しんでいる。
 ロミーのやっていることは痴漢であるが、女性は相手を刺激しないようにおとなしくしていることしか出来なかった。
 しかしそれが運命を分けたのだろう。
 満足したロミーは怯えた目を向ける女性に、にこりとあまり上手ではない笑顔を向けた。

「ロミー、じゅうじんさがしてるの。おねえさんは、じゅうじんいじめるひと?」
「――っ」

 ロミーの言葉に女性は頭を振る。

「わたしも、逃げてきたの。大切なお役目だと聞いて来たのに、あんな残酷なこと……」
「ロミー、さっきね、によくころしたの。こわい?」
「……えっ?」
「バスティアンゆるさないっていったら、おこったから、ロミーしっぱいした。おいはらう、できなかった」
「……そう」

 女性の瞳から怯えの色が消える。
 少なくとも自分を追って来る者の仲間ではないと察したからだろう。

「エイセル様……あの方は、あなたに何をしたの?」

 その優しい声音に、ロミーはアメリアの話をした。どれだけ酷なことをされたか。また、どれだけ綺麗な存在・・・・・になったか。
 女性は赤子にされた仕打ちを嘆き、翼が戻ったという奇跡に安堵の涙まで流した。

「わたしの名はクリスタ。クリスタ=ドリーセン。あなたが獣人を守って下さるのなら、探すのを手伝います。これ以上、犠牲を出さない為に」

 女性……クリスタは、ロミーがアメリアに従って行動していると思ったのだろう。その庇護下に置いて貰おうという打算的な考えからか、ロミーの手を取ってそう告げる。――と。

「我らを裏切るか。クリスタ=ドリーセン」

 物音一つ立てず、男が上空から降りてくる。
 クリスタは再び表情を強張らせ、ロミーは男の背に四枚の翼を認めると、憎悪を湛えたような眼差しを向けた。

「やはり二翼は使えんな。道具としてすら役に立てないばかりか、下等な魔物に身を委ねるか」
「ギルベルト様、あなたも目を覚ますべきです! 獣人の内臓を呑み込んでも、獣人の能力を得ることなど出来ません。ましてや、魔族を凌ぐ程の力を得られる筈など……!」
「黙れ。だから可能か否かを実験しているのだろうが。そんなことも理解出来ないとは嘆かわしい」
「――ロミー、おまえ、きらい」

 二人のやり取りを眺めていたロミーだったが、クリスタを馬鹿にしているような物言いに腹を立てたらしい。四翼というだけでも十分に敵意を抱くに値する相手だったが、そのことが余計にロミーの虫の居所を悪くさせたらしかった。

「ハッ。魔物風情がこの四翼たる我に歯向かうか?」

 ギルベルトはロミーを魔族だと気付いていないようだった。鎖尾という魔族についての知識がないのだろう。
 ロミーが僅かに身を屈め、尻尾の先端をギルベルトに定めたように向ける。
 臨戦態勢に入った彼女を見て、ギルベルトは不敵に笑った。

「面白い。すぐに後悔させてやろう。来い」

 相手の許可を得た。とばかりにロミーが正面から突っ込む。
 瞬きをする間に起きた素早い動きだったが、ギルベルトは光の盾を発動させて彼女の蹴撃と尻尾の攻撃を防ぐ。

「氷の結晶よ。聖なる力を纏いて魔を斬り裂く剣となれ」

 詠唱と共にギルベルトの周囲に幾つもの氷の剣が出現する。
 ギルベルトの合図で一斉にロミーへと襲い掛かり、避けきれずに彼女の二の腕や太ももを裂いたが、血を散らした傷がすぐに治っていくあたたかさを感じた。

「回復は、任せて下さい」

 振り返ったロミーに、クリスタが力強く頷いてみせる。
 ロミーはニカリとなかなか上出来な笑顔を見せると、ギルベルトに意識を戻してクレセントソードを顕現させた。

「そのつばさ、ディルクにあげる。おまえのいのちは、ロミーがもらう」

 ザッと飛び上がるロミーに、ギルベルトは光の盾を障壁としてぶつけるが、クレセントソードがそれを難なく割ってしまう。
 少なからず驚きつつも炎を呼び出し、頭部をその威力で焼き払おうと試みるが、地面に刺した尻尾によって軌道を変えて避けられ、代わりに背後に回り込まれたかと思うと、背中にクレセントソードが深々と突き刺さる。

「ゥガッ……!」

 ギルベルトはもがき、背中の肉を抉られる激痛を堪えて、手にした氷柱をロミーの腹部に突き立てようとしたが、尻尾にその手を掴まれ、そのまま力任せに捻られて腕を千切り落とされた。

「あぎゃあぁぁぁっ!!」

 鼓膜をつんざくような悲鳴にもロミーは表情を変えなかった。だからといって煩く思わなかった訳ではないらしい。
 ゴンッとギルベルトの後頭部に頭突きを食らわせ、前のめりに倒れそうになったその喉を切り裂いた。

「……ギルベルト……様……」

 その死に様はさすがにクリスタに衝撃を与えたようだ。
 腰を抜かしたように座り込んだ彼女を前に、ロミーは剥ぎ取ってやろうと考えていた翼に手をかけることはしなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...