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「ん……。頭が痛い」

 アデリーナはいつもとは違い、起きるのが辛く頭を抑えながら起きた。昨日の夜の記憶がほとんど思い出せない。いつここに来て寝たのかすら分からず、彼女はベッドから起き上がってひとまず水を飲むことにした。

「思い出しました。私、昨日……」

 水を飲んでしばらくすると椅子に座っている彼の姿を視認し、そこでようやく昨日のことを思い出した。

「お酒を飲んで酔って、確かクロスさんに助けてもらって。寝る時、そういえば……」

 だんだんと思い出していく中で昨日寝る前に彼に向けて言った言葉を思い出し、顔はボッと赤くなり、風邪を引いたときのような熱を帯びる。なんて自分ははしたないことを言ってしまったのだろうと軽く後悔し、一抹の望みではあるが彼にその言葉が聞こえていないことを願った。

「はぁ、私はなんてことを」

 酒が入っていたからと言ってあんなことを言ってしまったのは恥以外の何ものではない。彼女は過去の自分に恥じてヘナヘナとその場に倒れ込んでしまった。

「覚えてないふりでもするべきなのでしょうか」

 彼と話すのが気まずい。だからと言って避けてしまうのは良くないし、どんなに頑張ったとしてもいずれ話すことになるのだろうからその話題をいかに触れないことが重要だと思う。

「そこで何をしてるんだ?」
「あ、クロスさん。起きていたのですね。おはようございます」

 彼女は座り込んで考えているといつのまにかクロスが起きていたようで、平然を取り繕った。

「昨日は大丈夫だったか?」
「ええ。気にするほどでもないです」
「そうか。今の体調は?」
「はい、絶好調ですよ。特に悪いところはありません」
「そうか、ならいい。今日はどうしようか」
「あの、クロスさん」
「どうした?」

 彼女は彼の話を遮った。というのも彼が妙によそよそしいのだ。他人からすればあまり気が付かないほどの変化。しかし、彼女にとってはそれが気のせいだとは思えないほど彼がよそよそしく自分に気遣っているように見えた。そのまま、無視しても良かったが、彼女はその原因が自分の発言にあることが分かりきっているため、自分が蒔いた種をどうにかして回収したかった。やはり、彼の耳にも伝わっていたのだと思いながら、この雰囲気からはせめて脱出したかった。

「昨日のあれは忘れてください。酔った勢いで言ってしまったもので、私が無礼でした」
「分かっている。そんなことは気にしていない」
「そうですか、なら良いのですが」

 彼女は彼の返答を聞いて誤解がなかったようで一安心した。

「では、今日はいつもと同じく町を回りましょうか」
「あぁ、分かった」

 そう、いつもと同じで良い。昨日は少し変化があっただけで別に今日も変わるというわけではなくいつも通りを貫いたらいい。二人は身支度を済ませて少し遅い朝の町に向かった。
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