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ワーレ王太子視点3
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向かった洋服店は、王都でも一番の規模を誇るお店だった。貴族のドレスから庶民の洋服まで幅広く扱っている。店内は多くの女性でごった返していた。
先ほどまで足取りも軽く進んでいたリチャーズだったが、店内の女性の多さを見ると少ししり込みした。私は、そんなリチャーズの腕をつかんで店内に入っていった。リチャーズは最初こそ物珍しそうに店内をきょろきょろしていたが、ある一点を見つめた。私がリチャーズの視線の先を見ると、ひとりの女性が客である女性に接客をしているところだった。私ははっとした。
「あの人に最近の流行を聞いてみよう」
石の様に固まっているリチャーズを、無理やりその女性のもとに連れていった。その女性に声をかける。
「ちょっと聞きたいのだが...」
それだけで十分だった。その女性は声を出した私を見た後、その横にいるリチャーズを見た。そして先ほどのリチャーズと同じように固まった。しかしリチャーズと違うのは、みるみる間に顔が真赤になり目も潤んできた。まさしく番を見た時の表情そのままだった。やはり庶民の彼女は薬を飲んでいなかった。
そんな女性を見たリチャーズもしばらくの間その女性を凝視していた。
たださすがリチャーズだった。踵を返すと、走って店を出てしまった。女性はあっけにとられていたが、すぐにリチャーズを追いかけた。急いで店を出たが、通りにはすでにリチャーズの姿はなかった。
先ほどまで高揚していた彼女の顔が、急にどんよりとした表情になった。
「どうしたんですか?」
私はその女性に声をかけた。その女性ははじめ声をかけた私に気が付かなかったが、しばらくしてやっと我に返ったのか私の方を見た。そして少しだけ嬉しそうな顔をした。
「先ほどの方と一緒にいらっしゃいましたよね」
「ええ」
女性は、消えてしまった自分の番の手がかりを得られて嬉しそうだった。
私は店の奥に案内された。そして話を聞くと、女性はここの洋服店の店主の娘だという。女性が自分の両親を呼んできた。両親も娘の番の発見に最初こそ喜んでいたが、私の身なりを見るなり気落ちしたようだった。やはり洋服店を経営しているだけあって、身なりを少し見ただけで庶民ではないと見抜いたようだ。
「あのう、やはり貴族の方ですか?」
父親がわかってはいたようだったが、それでも娘のために確認せずにはいられなかったようで聞いてきた。
「ええ」
私は自分の身分は伏せて、リチャーズの実家である伯爵家や婿養子に入る伯爵家の事を教えた。娘はそれを聞いて泣き出してしまった。母親が必死に慰めている。
私は彼らに協力することを約束した。はじめこそいぶかしげにしていた両親も、私が彼が婿入りするその令嬢を好きだという事実を告げると納得してくれた。もちろん娘は大喜びだった。
そこからが大変だった。店を出ると、リチャーズが通りの隅で私を待っていた。
「すみません。勝手にいなくなってしまって」
「いやいいんだ。それよりさっきの女性が君の番なんだね」
私は何気なさを装いながら、リチャーズに問いただした。
「はい。たぶん。でももう会うことはしません」
「どうしてだ?」
「私は婿入りする身です。フェロメナや多くの人に迷惑をかけてしまいます」
やはりリチャーズだった。でも私は、どうしても彼の信念を変えなくてはいけない。私は考えていたとっておきを彼に言うことにした。
「実は、私にも番がいるんだ」
それだけでリチャーズにはわかったようだった。実は番かどうかもわからないのだが、この場合は仕方ない。フェロメナには番の認識なんてないのだから。
しかし私は、今のリチャーズの気持ちを利用して切々と訴えた。番の相手は、たぶんフェロメナだと。しかし彼女には君がいる。どうしようもない恋をしていると。
リチャーズは今までなら、私たちは貴族ですからもっといえばあなたは王族なのですからと、きっと鼻で笑っただろうが、今自分も番というものを目の当たりにして少し心境の変化があったのだろう。
黙って私の話を聞いていた。どうも彼の気持ちも激しく揺れ動いているようだ。
「リチャード、少しだけ薬を飲むのをやめてみたらどうだろう。そして本当に彼女が番かどうか見極めるんだ。もし彼女が本当に君の番だったら、考えようじゃないか」
「考える?」
今までのリチャーズだったら、とてもそんな話を聞くこともしなかったのだろうが、やはり番をこの目で見たのとでは違うなと私は一人ほくそ笑んだ。
「そう。もし君の番が本当に彼女だったら、彼女と一緒になればいい。聞いたところ、彼女の両親があの洋服店を営んでいる。君は貴族ではなくなるが、君には商才がある。立派に洋服店を営んでいけるだろう。私も協力させてもらう。王室御用達という看板はほしくないかい? この国にも働きかけよう」
「ですが、フェロメナは?」
「それも大丈夫だ。私が彼女を幸せにする」
「でもあなたは将来国王になるお方です。いくらフェロメナが伯爵家の令嬢だといっても...」
「そこは大丈夫だと思う。フェロメナの母方は、さかのぼれば私の国の王女だった」
「でもそうなると、パーソンズ伯爵家は?」
「それは将来、私とフェロメナの子の一人が継いでもいい」
その時だ。フェロメナとの子どもと私がいった時に、不意にリチャーズが私を見た。その目が少しだけ揺れたように感じたのは光の加減だったのかもしれない。
先ほどまで足取りも軽く進んでいたリチャーズだったが、店内の女性の多さを見ると少ししり込みした。私は、そんなリチャーズの腕をつかんで店内に入っていった。リチャーズは最初こそ物珍しそうに店内をきょろきょろしていたが、ある一点を見つめた。私がリチャーズの視線の先を見ると、ひとりの女性が客である女性に接客をしているところだった。私ははっとした。
「あの人に最近の流行を聞いてみよう」
石の様に固まっているリチャーズを、無理やりその女性のもとに連れていった。その女性に声をかける。
「ちょっと聞きたいのだが...」
それだけで十分だった。その女性は声を出した私を見た後、その横にいるリチャーズを見た。そして先ほどのリチャーズと同じように固まった。しかしリチャーズと違うのは、みるみる間に顔が真赤になり目も潤んできた。まさしく番を見た時の表情そのままだった。やはり庶民の彼女は薬を飲んでいなかった。
そんな女性を見たリチャーズもしばらくの間その女性を凝視していた。
たださすがリチャーズだった。踵を返すと、走って店を出てしまった。女性はあっけにとられていたが、すぐにリチャーズを追いかけた。急いで店を出たが、通りにはすでにリチャーズの姿はなかった。
先ほどまで高揚していた彼女の顔が、急にどんよりとした表情になった。
「どうしたんですか?」
私はその女性に声をかけた。その女性ははじめ声をかけた私に気が付かなかったが、しばらくしてやっと我に返ったのか私の方を見た。そして少しだけ嬉しそうな顔をした。
「先ほどの方と一緒にいらっしゃいましたよね」
「ええ」
女性は、消えてしまった自分の番の手がかりを得られて嬉しそうだった。
私は店の奥に案内された。そして話を聞くと、女性はここの洋服店の店主の娘だという。女性が自分の両親を呼んできた。両親も娘の番の発見に最初こそ喜んでいたが、私の身なりを見るなり気落ちしたようだった。やはり洋服店を経営しているだけあって、身なりを少し見ただけで庶民ではないと見抜いたようだ。
「あのう、やはり貴族の方ですか?」
父親がわかってはいたようだったが、それでも娘のために確認せずにはいられなかったようで聞いてきた。
「ええ」
私は自分の身分は伏せて、リチャーズの実家である伯爵家や婿養子に入る伯爵家の事を教えた。娘はそれを聞いて泣き出してしまった。母親が必死に慰めている。
私は彼らに協力することを約束した。はじめこそいぶかしげにしていた両親も、私が彼が婿入りするその令嬢を好きだという事実を告げると納得してくれた。もちろん娘は大喜びだった。
そこからが大変だった。店を出ると、リチャーズが通りの隅で私を待っていた。
「すみません。勝手にいなくなってしまって」
「いやいいんだ。それよりさっきの女性が君の番なんだね」
私は何気なさを装いながら、リチャーズに問いただした。
「はい。たぶん。でももう会うことはしません」
「どうしてだ?」
「私は婿入りする身です。フェロメナや多くの人に迷惑をかけてしまいます」
やはりリチャーズだった。でも私は、どうしても彼の信念を変えなくてはいけない。私は考えていたとっておきを彼に言うことにした。
「実は、私にも番がいるんだ」
それだけでリチャーズにはわかったようだった。実は番かどうかもわからないのだが、この場合は仕方ない。フェロメナには番の認識なんてないのだから。
しかし私は、今のリチャーズの気持ちを利用して切々と訴えた。番の相手は、たぶんフェロメナだと。しかし彼女には君がいる。どうしようもない恋をしていると。
リチャーズは今までなら、私たちは貴族ですからもっといえばあなたは王族なのですからと、きっと鼻で笑っただろうが、今自分も番というものを目の当たりにして少し心境の変化があったのだろう。
黙って私の話を聞いていた。どうも彼の気持ちも激しく揺れ動いているようだ。
「リチャード、少しだけ薬を飲むのをやめてみたらどうだろう。そして本当に彼女が番かどうか見極めるんだ。もし彼女が本当に君の番だったら、考えようじゃないか」
「考える?」
今までのリチャーズだったら、とてもそんな話を聞くこともしなかったのだろうが、やはり番をこの目で見たのとでは違うなと私は一人ほくそ笑んだ。
「そう。もし君の番が本当に彼女だったら、彼女と一緒になればいい。聞いたところ、彼女の両親があの洋服店を営んでいる。君は貴族ではなくなるが、君には商才がある。立派に洋服店を営んでいけるだろう。私も協力させてもらう。王室御用達という看板はほしくないかい? この国にも働きかけよう」
「ですが、フェロメナは?」
「それも大丈夫だ。私が彼女を幸せにする」
「でもあなたは将来国王になるお方です。いくらフェロメナが伯爵家の令嬢だといっても...」
「そこは大丈夫だと思う。フェロメナの母方は、さかのぼれば私の国の王女だった」
「でもそうなると、パーソンズ伯爵家は?」
「それは将来、私とフェロメナの子の一人が継いでもいい」
その時だ。フェロメナとの子どもと私がいった時に、不意にリチャーズが私を見た。その目が少しだけ揺れたように感じたのは光の加減だったのかもしれない。
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