お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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ヤクザさんとおでん

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「あー寒かった。ただいま……って、あれ?小原さん」

仕事の終わった遅い帰宅。今日もいい匂いがするななんて思いながらリビングの扉を開けると、テーブルを挟んで吉崎さんとなぜか小原さんが話をしていた。
……あの、一応こっちは私の部屋ですよね。
花柄エプロンのヤクザに、いかにも借金取りの怖いお兄さん風のヤクザ。なんともちぐはぐな光景だ。たいして驚かなくなった私も私だけど。

「あ、悪いな。邪魔してるぜ」

小原さんは私を見て全く申し訳なく思っていなさそうに言う。まあ、気にしてないからいいですけど。

「いつもより早かったな」
「そうですか?確かに15分くらい早いですけど」
「いや、もう10時過ぎてるぞ。相変わらずブラックだなお嬢ちゃんとこの会社」
「終電じゃないのでマシです」

最近はまだないけど、そろそろ来る気がする。月末だから。そうだ、吉崎さんには言っとこう。下手すると会社にお泊りコースになるから。

「そんなブラック企業辞めてウチの事務にでも就職するか?」

冗談めかして小原さんは言う。なんだかつい最近も同じこと言われた気がする。流行ってるんですかそのヤクザリアンジョーク。

「……ちゃんと野菜は食えよ」

相変わらずお母さんみたいなことを……まあ、食べますよ。このところちゃんと朝昼晩食べてるせいで、コンビニご飯が物足りなくなってしまった。こんな食に執着するタイプじゃなかったはずなんだけどな。

「そうか、吉崎さんの夕ご飯食べられないのか。あー、月末会社行きたくない……」

気付いてしまった。最近の私のモチベーションが夕ご飯だったから、余計に月末繁忙期の仕事嫌になってしまった。

「だからウチに就職しろよ」
「そこで辞めちゃったらさすがに迷惑すぎますって。ていうかさっきから辞めさせるの流行ってるんですか」
「そのうち人手が足りなくなる予定だからな」
「なんですか予定って」

ヤクザさんにも繁忙期とかあるの?というか吉崎さんって忙しいのか正直なところよくわからない。
今も台所になにやら立派なお鍋が。それにその横には湯気を立ててる器も。唐揚げとか煮物とか、私にとっては毎回非常に手の込んだ料理が出てくるし、まさか暇なの?吉崎さん。

「……勝手に人を暇人扱いすんな」
「なんでわかるんですか!?」
「顔に出てんだよ」

そんなわかりやすかったですか私。一瞬エスパーかと思いましたよ。

「情報収集と、たまに外に出てる」
「引き篭もってるんじゃなかったんですね」
「誰が引きこもりだ」

このやりとりを見ていた小原さんがなぜか爆笑し始める。吉崎さんが軽く睨んだから引っ込めてたけど、それでも肩が震えて口の端がヒクヒクしてた。

「頭に向かって引きこもりだの暇人だの言えるの、お嬢ちゃんくらいのもんだよ」
「暇人とは言ってませんよ?」

思いはしたけど。

「……飯にするか」

誤魔化すように言って吉崎さんは立ち上がる。
お腹の空いていた私が頷くのよりちょっと早く小原さんが頷いていた。

「なんでお前が頷いてんだよ」
「いや、ここ来てからずっとあのおでんの匂い嗅いでるんですよ。俺もまだ夕飯食べてないんです」
「コンビニで買って帰れ」
「いや、違うんですよこの辺のコンビニのやつは」
「わ、私は別に気にしませんよ……?」

確かにこんないい匂いの中にずっといて、食べずに帰れはちょっと可哀想というか、私だけ?食べるのはなんだか申し訳ない。
吉崎さんは呆れた目で私を見て、小原さんは期待を込めた目で私を見る。
私も期待を込めて吉崎さんを見ると、吉崎さんはやれやれと頷いた。

「手伝え、小原」
「はいっ!」

めちゃくちゃいい返事だった。いそいそとお皿を用意し始めるのをを見て、子供が手伝いしてるみたいだななんて思ったのは黙っておこう。
私も何かすることあるかなとちらっと台所の方を見たけど、特に私にできるようなことはなさそうだった。
とりあえず、私はお風呂でも掃除してこようかな。
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