お隣さんはヤのつくご職業

古亜

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お見舞いは履歴書と2

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「え、面接受けてくれるの!?」

宣言通り次の日にもお見舞いに来てくれた有以子に、私は面接を受けてみたいと伝えた。
有以子は大喜びですぐにその旨を代表さんに連絡して、カバンからファイルを取り出した。

「じゃあこれ履歴書。写真は……まあ、なくても大丈夫よ!予備もあるから安心して書き損じてね」

どうせ暇なんでしょ?と言われれば頷く以外なかった。

「書くけど、ほんとに大丈夫かな?もし落ちちゃったらごめんね」
「なんでそんな弱気なの。あのブラック環境を生き抜いた梓なら余裕で採用されるって。自信持ちなよ」

有以子はまるで既に私の採用が決定したように喜んでいて、お見舞いと称して自分で持ってきたパンを食べていた。

「ねぇ、採用決まったらぱぁっと旅行行かない?未払い賃金ふんだくって。まあ、ふんだくるもなにも元から自分のもののはずなんだけどね」

例の内部告発メールで従業員一同何かが吹っ切れたらしく、弁護士に依頼して会社と一戦交えることになったらしい。その弁護士についても告発メールの後、従業員の一部に労働問題に強い弁護士リストが届いていたとか。
後は給与明細とかパソコンの履歴とかの各々の証拠を集めればいいとのこと。
告発した人、よっぽど会社恨んでたんだな。

「どこ行きたいとかある?海外とか行っちゃう?」
「海外かー、行ったことないなぁ」

まずパスポート作らないと。
有以子はスマホであちこち調べて楽しそうだ。
その間に私は履歴書の書けそうなところを埋めていく。基本的なところは書いたけど、志望動機ってどう書けばいいんだ……?履歴書書くなんて就活以来で感覚とかすっかり忘れてる。
そもそも私、その会社の社名すら知らないよ?

「新しい業界で自分の可能性を試したいとかでいいんじゃない?会社が倒産しそうっていうのは代表さんも知ってるし、会社潰れたから就職したいって理由でも許してくれると思うよ」

うん。まあ就職したい理由は結局そこなんだけどさ。というかそんなガバガバな求人で大丈夫なの?ブラック企業でしたなんてなったら変わらないよね?

「最初は怪しいなって思ったよ?でも起業に関われるって面白そうだし、代表さんもいい人だよ。まあ勘だけど、人を見る目には自信あるから」

まあ有以子がここまで言うんだから受けるけど。再就職先は見つけたいし。

「そうだ、何かいるものない?もうそんなに入院期間もないだろうけどスマホもないんじゃ退屈でしょ?」
「え、じゃあ転職関係の本とかほしいかも。お金は後でちゃんと出すから」
「いらないと思うけどねー。まあ梓が欲しいんなら買ってくるよ。他はほら、食べたいものとか」
「食べたいもの……」

あるにはある。吉崎さんが作ってくれるものなら何でもいいから食べたい。でも吉崎さんの作った料理なんて有以子には頼めない。

「とりあえず入院終わったら何か私が奢るから、それまでん食べたいもの決めといてね。あ、フランス料理とかはやめてよ?」
「退院直後にそんな高級品食べたら胃がびっくりするって。そもそもフランス料理なんてマナーもよくわかんないし」
「それは私もー」

それからしばらくは有以子ととりとめもない話をして、私は退屈しないで済んだ。

「とりあえず履歴書は明日までに仕上げといてね。また取りに来るから」

そう言って有以子は病室を出ていってしまう。そうすると一気に病室をがしーんと静かになってしまって、少し寂しかった。
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