皇国の栄光

ハルの紙切れと単冠湾の艦影

１９４１年１１月２７日、来栖三郎大使はある覚書をアメリカのハル国務長官に手渡された。
内容は、中国権益をすべて放棄することや、軍備の縮小など酷いものだった。
「これは主権国家対等の原則を著しく無視する提案です。我々は到底受け入れられません。」
来栖は怒気をはらませながらも冷静に言った。
「主権国家もなにも貴国は中国人を実験の道具にしているではないか。これではただの野蛮国だ。」
ハルは軽蔑するように言い放つ。
「それは貴国の悪質なプロパガンダでしょう。我が国を貶めるような発言はお控え願いたい。」
来栖も反論した。
「これだからジャップは。もう話し合いは終わりだ。我がアメリカ合衆国はこの要求を変える気はない。それでは。」
そう言ってハルは去っていった。
翌日、来栖と野村はルーズベルトと会談したものの状況が好転するとは思えなかった。
ここに日米交渉は決裂し、翌日に御前会議が開かれ対米開戦が決定した。
これにより帝国陸海軍は臨戦態勢に移行。
特務機関も米英の機密情報を随時政府に伝え、陸海軍は完全な共闘体制になった。
国民も新聞に煽られ、開戦一色だった。
それでも来栖は最後まで努力する旨を政府に伝えた。
その後彼は何度も日米首脳会談を要請したが犬養とルーズベルトが顔を合わせることはなかった。

１１月３０日。
単冠湾に山口多門はいた。
ついに大本営から出撃命令が下った。
ハワイにｘデー、１２月８日に攻撃を仕掛けるためだ。
もしかしたら引き返すかもしれない。
だが今の状況は厳しいことを山口は知っていた。
最後まで希望は捨てないつもりだ。
そして戦う勇気も持っていた。
陸から手を振る子供たちがとても小さいながらも見えた。
山口は改めて自分が守るべきものを確認した。
それを守るためにこの作戦は成功させると決意を固めた。
この作戦の参加兵力は以下の通りだ。
空母、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴。装甲空母、大鳳、阿蘇。
戦艦、比叡、霧島。
超甲巡、摩周、十和田。
重巡、利根、筑摩。
軽巡、阿武隈。
その他、補助艦６２隻。
搭載機は零戦五二型、天山、彗星だった。
また各艦に対空装備を増設していた。
鹿児島の錦江湾での血のにじむような訓練を行い、練度も最高だ。
後は米国に悟られないように出撃するだけだった。
山口は意を決したような顔をして幕僚に指示する。
「全艦、巡行速力！これより真珠湾に向かう！」
「「「はっ！」」」
次々に艦が動き出していく。
こうして連合艦隊は単冠湾を出撃した。
皇国、アジアの未来を背負って遠いハワイを目指した。