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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている② ~五大王国合同サミット~】

【第三十三章】 一方その頃

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 ~another point of view~


 二カ国ずつ二つのグループに分かれて向かった水晶の試練。
 人知れず死闘を繰り広げていたユノ、グランフェルト両王国一行とは対照的にシルクレア王国、サントゥアリオ共和国の面々で構成された一団は滞りなく試練と呼ばれる関門を乗り越え、既にサミットの会場である孤島へと帰還している最中であった。
 中でもサントゥアリオ共和国から派遣されている五名は早々に出国し、波に揺られながら帰路を辿っている。
 その船内の一室では船の操縦を任されている兵士を除く四人が一つの机を囲んでいた。
「皆さん、ご苦労様でした。大事なくこの時を迎えることが出来て何よりです、陛下もお喜びになってくれるでしょう」
 全員が席に着いたのを確認したところで最初に口を開いたのはこの派遣隊を率いる若き女戦士だ。
 その名はエレナール・キアラ。
 通称【雷鳴一閃ボルテガ】と呼ばれる齢二十三にしてサントゥアリオという大国を守る王国護衛団の総隊長を務める若き旗頭である。
 耳が隠れる程度の短めの金髪に、背に負った金色に光る大きな槍が特徴的な風貌はその名と共に国外にも広く知られている。
 そんなキアラの言葉に最初に反応したのは正面に座る大柄な男だった。
「ワンダーがヘマをしなければより良い報告が出来たのでしょうがね」
 男は人間味の無い冷たい目と表情で、ギロリと正面に座る少年を睨み付けた。
 首筋に斬り付けられた様な傷跡が覗くかなりの長身にがっちりとした体格を持つこの男はヘロルド・ノーマンという先代国王の時代から護衛団に属していた護衛団副隊長の肩書きを持つベテラン兵士だ。
 数年前までは総隊長をしていたこともあり国内でその名を知らない者はほとんどいない。
 その冷血漢ぶりと絶えず口を衝く皮肉や嫌味、冷嘲を怖がっている兵士は多く、まさに今そんな言葉を投げ掛けられた少年もその一人だった。
「ご……ごめんなさい」
 泣きそうな表情で縮こまっている少年は俯いたまま小さな声でそう返すのが精一杯だった。
 若干十五歳でありながら魔法部隊の隊長を任せられているコルト・ワンダーは気の強い方ではない。
 加えて元来部隊長になるだけの器や力を持っているわけでもないのだからその肩書きらしく振る舞えと言うのは無理があることだった。
 種族柄魔法使いの少ない国にあってそれなり、、、、の魔法を扱えたというだけの理由で抜擢されただけであることは本人も理解しているのだ。
「ノーマン副隊長、その件は既に終わったことです。いつまでも部下を責めるのは止めなさい。それからコルトも、ミスがあったかどうかは別として、もう少しビシっとしなさいといつも言っているでしょう。オドオドしているばかりでは人はついてこないわ」
 すかさずキアラ隊長が割って入ることで見るに堪えない悪意の眼差しの矛先を変えた。
 叱責も混じってはいたが、それでもワンダーはホッとする。
 持って生まれた能力から連絡係を任せられることが多いワンダーはこの滞在期間中にシルクレア王国勢への連絡でミスをしていた。
 取り立てて大きな問題が生じるようなものではなかったし、国王の代理として隊を率いるキアラ隊長が頭を下げることですぐに解決したものの自分に非があることに違いはない。
 それでも敬愛するキアラ隊長はいつも自分を庇ってくれる。この場に隊長が居なければ間違いなくもっと酷い言葉を吐き捨てられていただろう。
 そんな背景もあってワンダーにとってキアラは近くに居るだけで安心出来る存在であった。
 一方でノーマンは『フン』と嘲笑するように鼻を鳴らしはしたが、それ以上は言わなかった。
 いつだって思いやりの欠片も無い副隊長の言動はキアラ隊長にとって受け入れられるものではなかったが、言って聞き入れる相手ではないことは分かり切っている。
 ゆえに批難したいのを堪え、一睨みするだけに留まり言葉を続けることを選ぶ他なかった。
「ではコルトは陛下へ帰還の連絡を」
「承知しました」
 ワンダーが敬礼を返すと、キアラ隊長は反対側に座る老人へと身体の向きを変える。
「それから御大は報告書の作成をお願いします」
「任されましょう」
 キアラ隊長の言葉に、唯一兵士以外でこの船に乗る老人は人当たりの良い表情で即答した。
 マット・エレッド。
 城に仕える大臣であり、上級大臣という複数いる大臣の中で一番高い地位にいる人物だ。
 齢は六十を超え十年前に一度引退している身であったが、前任の上級大臣が突如辞任したために急遽呼び戻された経緯があり、その経験の長さから他の大臣や兵士からは御大と呼ばれている。
 そのエレッド上級大臣を含めたこの場に居る四人こそが今尚魔王軍や反王国派との争いの続くサントゥアリオ共和国を支え、ジェルタール王を支える国家の中心人物であった。
 一体感が薄い感こそ否めないが、それでも任務を遂行し船は順調に波を越えていく。
 そんな彼等が戦渦の渦に巻き込まれるのは少し先の話である。
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