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【勇者が仲間になりたそうにこちらを見ている③ ~ただ一人の反逆者~】
【第三章】 成功しなかった瞬間移動
しおりを挟む翌朝。
目が覚めたのは名前を呼ばれながら身体を揺すられていることに気付いてからだった。
起こしてくれたのがセミリアさんであると把握するのと同時に、目の前にあるセミリアさんの顔と自分の寝顔を見られていたことに若干の恥ずかしさを覚える。
最近は毎日同じ時間に鳴るようにセットした目覚まし時計で起きているので完全に油断してしまっていた。
「お、おはようございます」
寝ぼけ眼を擦って身体を起こす。
腕時計を持ってきていないので正確な時間は分からないが、感覚的には十時とか十一時とかという昼前ぐらいな気がする。寝過ぎだろう……僕。
「おはようコウヘイ、よく眠っていたようだな」
「すいません、起こしてもらっちゃって。起きる時間のことを全然気にしてなかったもので」
「なに、気にするな。慌てて起きる理由もないさ」
そう言ってもらえるのはありがたいけど、胴部と手足に防具を着け、腰に剣を携えているいつもの格好になっているセミリアさんを見るに、ひょっとするとみんな既に準備が出来ていて僕待ち状態なんじゃなかろうか。
そう思うと結局申し訳なくなってっくる。
というか、昨日までの流れ的に起こされるならミランダさんかアルスさんなんじゃないかと今更気付いたりしたのだけど、部屋に二人の姿はない。また食事の用意でもしているのだろうか。
本当に働き者だなぁ。なんて思いながら二人の所在を確認してみると、食事の用意や働き者であることは当たっていたものの一番肝心な所で僕の予想とは違った答えが返ってきた。
「それが、二人は朝早くに馬車で城に戻っている。なんでも急な欠勤が重なって人手が不足しているということのようだ。お主が起きていれば一緒に城へ向かうことも考えていたようだが、なにぶんその手紙が届いたのが随分と早い時間だったのでな」
「そうだったんですか、二人とも大変ですね」
確かこの世界では鷲が手紙を運んでいるんだっけか。
訓練されているというようなことは聞いた覚えがあるけど、どうやって届ける相手の居場所を把握しているんだろう……大体の居場所情報から鳥自身が捜索するのかな。
「そうだな、私も二人は本当に良く働いていると思う。だからこそ私達も頑張って彼女達の生活を守らなければと思わされるのだから立派なものだ」
「そうするためにも、僕達も出ましょうか。一番最後に起きた僕の台詞じゃないですけど」
「コウヘイの大きい方の荷物は二人が城に運んでくれている。私は外で待っているから顔を洗ってくるといい。急がなくてもよいからな」
気を遣わせまいと微笑んで見せ、軽く僕の肩を叩くとセミリアさんは部屋を出て行った。
結局あの大荷物を運ばせてしまってるし、早いところお城に行ってお礼を言っておかなければ。
そう決めて、僕もベッドから降りると出発の準備をすることに。
といっても家を出る時に着替えてきたので顔を洗って鞄を肩に掛けるだけなのだが、いざお城に出発と建物を出たところでまたしても新たな事実が発覚することになった。
「え……セミリアさんはお城に行かないんですか?」
思わず聞いた言葉を繰り返した。
勿論何か事情があってのことなのだろうが、セミリアさんはやや申し訳なさそうに続ける。
「すまない、ミランダやアルス殿に先に話していたせいで伝えた気になってしまっていた。私はこれからリュドヴィック王の遣いで出掛けなければならないのだ。帰りは早くとも二日後になると思う」
「それなら仕方ないですね。別にセミリアさんが悪いわけでもないですし、不満があって聞き返したわけではないのでそんな顔しないでください。ただ、僕一人でちゃんと到着出来るかなぁと思っただけなので。ジャックが居るから大丈夫だとは思いますけど」
「私のエレマージリングを使えば関所まで飛べる。そこからなら迷うこともないだろう」
セミリアさんは自分の腕に嵌めていた腕輪と懐から取り出した巾着袋を僕に差し出した。
「金も渡しておくから必要な物があれば買い揃えてから城に行くといい」
「何から何までありがとうございますと言いたいところなんですけど……僕にそんな魔法道具は使えないんじゃないでしょうか」
「魔法力は必要無いアイテムだ、常用していなければ好き嫌いはあるようだが使えないということはない。行きたい場所を頭にイメージして詠唱するだけでいい」
「魔法力がいらないなら僕でも大丈夫そうな気が少しだけしてきましたけど、ちなみに…失敗したらどうなるんですかね、これ」
「失敗したところで目的地と多少ずれた場所に移動してしまう程度だろう。商人や兵士達でも必要な時には使用するぐらいの物だし、コウヘイに使えぬわけがないさ」
そう言ってくれるのは心強いけど、どうしても一抹の不安は残る。
とはいえ、いつまでもそんなことばかり言っていると怖いから駄々を捏ねているようで格好悪いし、何よりセミリアさんに迷惑を掛けてしまうことも間違いない。
ワープ自体は何度も経験してきたし、今回は特に何をすれば終わりという目的もなくこの世界に滞在するのだ。いつもセミリアさんが一緒にいるわけではないということもそろそろ考えておくべき頃合いか。
「分かりました。ではやってみます」
「うむ、私も出来るだけ早く帰るつもりだが、それまで王や王女のことをよろしく頼む。言うまでもないだろうが、発動呪文はアイルーンだ」
「はい、ではお先に行ってきます」
右腕に貰った腕輪を嵌め、今まで城に行く度に通ってきた関所を頭に思い浮かべる。
ノスルクさんの家、この町、件の関所、お城の四ヶ所に関しては何度も行き来してきた場所だ。忘れるはずもない。
そして、
「アイルーン」
少しの覚悟と共に呪文を口にすると、いつもの様に視界が歪んでいく。
この歪んでいる間横に誰も居ないというのは結構な恐怖だけど、そんな時間も数秒のこと。すぐに四方の風景が形を取り戻し始めた。
しかし、やがて元通りになった視界の先に広がっていたのは見たこともないどこかの町だった。
「え…………どこ、ここ」
戸惑いながらも辺りを見渡してみる。
しかし建物一つ取っても見覚えのある物は皆無だった。
人気の少ない小さな町であることは分かるが、それよりも急に現れた僕を不審に思ったのか僅かに目に入る人影が漏れなくこちらを向いている。
『相棒、どうやらやらかしちまったみてえだな』
胸元でようやく発言してくれたジャックからは特に動揺する様子も感じられない。
もしジャックが居なければ孤独さ倍増だったであろうことを考えると、本当にありがたい存在だ。
「これは……確認するまでもなく失敗しちゃったってことだよね」
『だろうな。まさかエレマージリングでこんなことになるたあ、得手不得手ってのはあるもんだな』
「失敗したのが僕のせいだったらごめんなさいって感じだけどさ、僕に限らず僕の世界の人間には使えないってパターンだったらどうしようもないよね、これ」
『目的地じゃなかろうが移動自体が出来てる時点でそんなパターンはねえと思うがねえ』
「それもそうか……取り敢えず、お城に行くにはどうすればいいかを聞いてみないと」
お城まで近かろうが遠かろうがワープでの移動はせずに行こうと決めて誰に聞くべきかと考えようとしたのだが、そこにきてあることに気が付いた。
「そうか、そもそもここがグランフェルト王国のどこかとは限らないのか……」
『そういう頭が良く回るだけ存外冷静なようだな。だがまあ、そういう意味では不幸中の幸いだったとも言える』
「そうだね。人が住んでないどこかだったら帰る手段も無いところだったよ」
『説明の必要もねえのは話がはええが、だったらどうするよ』
「どっちにしろお城の場所を聞いてお城のある町に行ってみるほかないんじゃないかと思う。さすがにここはどこですか? なんて聞いたら不審者丸出しだし、他所の国だった場合に聞いたところで帰る方法を教えてもらわないといけないだろうしさ。リュドヴィック王やセミリアさんの名前を出せばどうにかなる相手がいるかもしれないってことも含めて」
『手紙を送るにしたってこの町ににゃ伝鳥屋もねえみたいだし、妥当なところだろうな』
意見も纏まったところで、僕は少ない候補の中から出来るだけ人が良さそうな人を選びこの国の王様が済む城との位置関係を聞くことにした。
結果一人のおばあさんに訪ねることに成功。
そもそもここが別の国だった場合、王国制度の国であるかどうかも不明な状態なんだけど、そこまで聞いてしまうともはや本当に知りたいことをぼかしている意味がなくなるので簡潔に『お城まではどう行けばいいか教えてもらえないでしょうか』とだけ聞いておいた。
幸いなことに不思議そうな顔をされたもののお城のある町の場所を教えてもらえて、しかもこの町から一つ隣の町がそれに該当するという運が良いのか悪いのか分からない状況であることを知ることが出来た。
そんなわけで、僕は見ず知らずの町から東に向かってひたすら歩く。
十キロ程度だという情報の元、大体二時間ぐらい経った頃だろうか。朝食を抜いたせいでお腹も空き始める中、僕はようやく建物の山を目にすることが出来るのだった。
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