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序章
さてどうしようか
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はい帰宅しましたよ。
終いにはスーパーマーケットに寄って、夫婦仲良く晩御飯のおかずを買い込んで帰宅。
こんな日が早く来てくれないかなぁ。
(すっかり慣れてるチビちゃんは、車内で騒がずのんびりお留守番が出来る)
我が家はマンションの側に車を停車出来るスペースが取れないので、離れた駐車場から大荷物を運んで来る事になる。
私はチビのリードを持ちながら、軽いけど大きなチビとヒロのご飯を両手で抱えて、社長は靴の箱2箱とお米とベルクスの買い物袋いう、持ちにくくて重たい荷物を指で吊って脇に挟んでトコトコと。
「ちぃちぃ」
玄関を開けると、物音を聞きつけたヒロがお出迎えしてくれた。
うさぎが鳴かないって言う人は誰だ?
チビみたいには鳴かないけど、甘えたい時は鳴きっぱなしだぞ。
「やっこらせ。」
私は玄関にある納戸を開けて、チビ達のご飯をしまい、社長からアディダスとコンバースの箱を受け取った。
チビはリードを垂らさないように自分で咥えて、ヒロと一緒に室内に消えて行く。
「リードが床に引き摺られる音を嫌がって、チビが勝手に覚えただけだよ。」
と、社長は言う(弁解?)けれど、芸達者なヒロと言い、この家のペットの躾はどうなっているんだ?
………
「おほっ!いい感じで漬かってるよ。」
帰宅後、元の作務衣に着替えた社長が、冷蔵庫から何やら白い物体をニコニコしながら取り出した。
私は買った物を整理して、仕舞うべきスペースに仕舞い、お留守番してくれたヒロをご褒美に撫でてあげて、撫でられる順番をお座りして待っているチビに微笑む事に忙しい。
「なんですか?」
「おかず。朝から作っておいたんだ。」
社長がお皿を斜めに傾けて見せてくれた物は、ええと。
「鱈、ですか?」
「うん。西京味噌で漬けておいた。」
この社長の元で働き始めて、この社長と一緒にご飯を食べる事が増えて、私は魚の知識が増えた。
多分、一般的な女子高生よりも、ご飯のおかずとして魚を食べる機会は多いだろう。
味覚がお子様な私としては、魚より肉!野菜より肉!肉肉!肉!!
下半身関係も肉食の肉食女子なんだけど、クソっ!
社長が作るご飯は魚介も野菜も美味しい。
何故だ!
★ ★ ★
「ゼンリン地図の塗り潰しじゃ、読者の興味を維持出来ないと思うんですよ。そのご町内の人以外。もぐもぐ」
そんな企画は、ご町内フリーペーパーでもお断りだろう。
うぅ。茄子の浅漬けが美味しい。
これ、社長が麺つゆで揉み込んだだけだぞ。
和芥子だけで食べても、お茶碗がどんどん軽くなっていく。
「そんなのは、スマホの位置取得ゲームに任せれば良いです。」
「スマホのナビってそんなに精度良くないぞ。だからポケモンにしてもドラクエにしても、大雑把にしてるだろう?」
「え。社長ドラクエやってるの?」
私もしてる。
何故教えてくれないんだよ。
あぁ、社長のプライベートスマホまではさすがにチェックしてないからなぁ。
しかもこの男、別に隠そうともしないで、いつもそこら辺に置きっぱなしにしてるし。
どうせパスワードはおんなじなんだろう?
ここ事務所の電話番号と、大学時代の学生番号と、誕生日の3つを適当荷物使い分けている。
スマホは6桁の数字だから、ここの電話番号だろう。
クソっ。
ただの木綿豆腐が美味い。美味いゾウ!
「結局、何処かに出かけて行くのが王道だと思うんですよ。」
「どこ行くかね。5街道や国道16号一周とか、見たことあるよ。」
「歩くんですか?」
「いや、当然車かバイクでだな。」
「バイク?」
「原チャリだな。スーパーカブとか。」
「あぁ、札幌行ったり佐多岬行ったり。」
「指宿です!」
「なんだよそれ~聞いてないよぉ。」
馬鹿な話で盛り上がれるのは楽しいね。
「大体、どうして社長はご町内塗り潰しなんか思い付いたんですか?」
あまり思い付かない発想だと思う。
「ん?あぁ大学に入ったばかりの頃かな。原付免許を取って、ジェンマって言うスクーターを買ったばかりの頃。うちの市の、今考えると相当縮尺の細かいマップルを買ってね。」
社長は味噌汁を幸せそうな顔をして飲む。この味に私は追いつけるだろうか。
「僕は産まれて半年くらいで、うちの父親が家を建てて以来、大学時代以外は大体この辺に住んでいる。徒歩、自転車、スクーター、自動車と自分の行動速度が上がるたびに市内を走り回った。自分のお金で初めて買った地図を見た時に、通っていない道、見た事ない風景があるんじゃないかなぁと、妄想していたもんだよ。」
「社長、そこは妄想でなく、空想とか想像って言葉を使って下さい。」
なんでこの人の作る椎茸とがんもどきの煮物はこんなに美味しいんだろう。
サヤエンドウの豆の芯が微妙な歯応えを残していて、噛むと椎茸の煮汁がピュッと飛び出る。
こんなの、女子高生が好むおかずじゃないのに、私は確実に社長の「お婆ちゃんのご飯」に餌付けられている。
逆に言えば、この人のご飯に勝つご飯を私は作らないとならないわけか。
花嫁修行を始める数ヶ月。
先は長いなぁ。
「ゴールを決めるべきだと?でも、粗方の街道は既に歩かれているんだろう?」
「そうでもないですよ。」
ご飯をおかわりしながら、考えていた事を取り止めもなく語り出す。
「社長、おかわりは?」
「おねがい。」
社長のお茶碗を受け取る。
そうだ。その内お茶碗を夫婦茶碗荷物変えてやろう。
お土産屋で見かけるよなあ。
「地味な街道を歩けば良いんです。毎月一本。」
「地味な街道?」
「例えば鎌倉街道とか大山道。水戸街道に佐倉道。脇街道よりも更に脇な、参勤交代では使わない様な庶民が歩く街道を十二本歩きましょう。社長はそれほどカツカツなスケジュールではありませんし。」
「積極的な営業活動はしてないからね。」
「ホームページを私が作るくらいで、ブログもツイッター(Xとか言い慣れないぞ)してませんしね。」
「別に伝えたい事も無いし、そもそも僕に興味を持っている人、何人いるのさ。」
「ホームページのカウンターは結構回ってますよ。」
これはマジ。
私が上げているチビやヒロの可愛い奴とか変わらないほど、取材やら企画活動を別立てで紹介しているページが良く閲覧されている。
だから、今更ながらブログを書きなさいと、いつ申し立ててやろうとか考えていた。
「無駄遣いしなければ、今後2~30年後には相続するであろう親の財産もあるし、多分まぁ、細かい仕事をコツコツこなして行けば、死ぬまでお金は足りるんじゃ無い?」
駄目だろ、駄目社長。
そりゃあと50年生きるとしても、600ヶ月で割っても、子供を2人作って私立に通わせても、それなりに裕福な生活は送れるだろうさ。
この人は贅沢の仕方を知らないし。
私も持参金をそれなりに親からふんだくって持っていくつもりだし。
「昔の地図が枕元に積んでありましたから、社長も似たような事を考えていたのではありませんか?」
「んん?」
これ、はしたない。
箸を咥えたまま考え事しない!
「ちぃ」
ほら、ヒロが長めの牧草を咥えて真似してる。
「自分が歩いたところ、歩こうとしているところの復習と予習かな。寺院の場所はあまり変わらないし、電柱に書いてある住居表示の字名を見れば、歴史や地形が想像できるから。」
「それです!」
「ど…
「れです?ってボケはいりません。」
「秘書に会心のボケを潰された。」
社長の言う事がだんだん想像付く様になってきたのは、未来の婚約者(なんだこの言葉)としては、成長なのかな。
「歴史好きな社長の目線で、ルポタージュすれば良いんですよ。道端の道祖神とか、小さな神社の意義意味とか。明確な目標がある先を急ぐ旅物が軽視しがちな、小さな歴史を拾って行く旅と言うのはどうでしょう。」
「ふむ。多少マニアックにしても、雑誌の色には合いそうだな。」
よし、社長が食い付いた。
社長は0から1を発想するなら、私は1を10にしてやる。
何も出来ない秘書として、唯一の抵抗だ。
「勿論、理沙ちゃんも全力でサポートするよ。」
社長のモードが柔らかくなったのを瞬時に判断して、甘ったれ女子高生モードに私も切り替える。
「ならば2~3日拘束しても大丈夫かな?」
「拘束という言葉がなんかいやらしいけど、私(わたし)的にはなんでも受け止めるよ。」
高校も授業はもう無いし、大学も多少は時間に自由が効くでしょう。
「そうか、なら、車で後をついて来て欲しい。」
「え''」
「並行交通機関がないと、ハンガーノックを起こした時に、神奈川や千葉の街中で遭難する自信があるぞ。」
しまった。
ペーパー(パッパラパー)若葉ドライバーの私には、大変な試練じゃないか。
終いにはスーパーマーケットに寄って、夫婦仲良く晩御飯のおかずを買い込んで帰宅。
こんな日が早く来てくれないかなぁ。
(すっかり慣れてるチビちゃんは、車内で騒がずのんびりお留守番が出来る)
我が家はマンションの側に車を停車出来るスペースが取れないので、離れた駐車場から大荷物を運んで来る事になる。
私はチビのリードを持ちながら、軽いけど大きなチビとヒロのご飯を両手で抱えて、社長は靴の箱2箱とお米とベルクスの買い物袋いう、持ちにくくて重たい荷物を指で吊って脇に挟んでトコトコと。
「ちぃちぃ」
玄関を開けると、物音を聞きつけたヒロがお出迎えしてくれた。
うさぎが鳴かないって言う人は誰だ?
チビみたいには鳴かないけど、甘えたい時は鳴きっぱなしだぞ。
「やっこらせ。」
私は玄関にある納戸を開けて、チビ達のご飯をしまい、社長からアディダスとコンバースの箱を受け取った。
チビはリードを垂らさないように自分で咥えて、ヒロと一緒に室内に消えて行く。
「リードが床に引き摺られる音を嫌がって、チビが勝手に覚えただけだよ。」
と、社長は言う(弁解?)けれど、芸達者なヒロと言い、この家のペットの躾はどうなっているんだ?
………
「おほっ!いい感じで漬かってるよ。」
帰宅後、元の作務衣に着替えた社長が、冷蔵庫から何やら白い物体をニコニコしながら取り出した。
私は買った物を整理して、仕舞うべきスペースに仕舞い、お留守番してくれたヒロをご褒美に撫でてあげて、撫でられる順番をお座りして待っているチビに微笑む事に忙しい。
「なんですか?」
「おかず。朝から作っておいたんだ。」
社長がお皿を斜めに傾けて見せてくれた物は、ええと。
「鱈、ですか?」
「うん。西京味噌で漬けておいた。」
この社長の元で働き始めて、この社長と一緒にご飯を食べる事が増えて、私は魚の知識が増えた。
多分、一般的な女子高生よりも、ご飯のおかずとして魚を食べる機会は多いだろう。
味覚がお子様な私としては、魚より肉!野菜より肉!肉肉!肉!!
下半身関係も肉食の肉食女子なんだけど、クソっ!
社長が作るご飯は魚介も野菜も美味しい。
何故だ!
★ ★ ★
「ゼンリン地図の塗り潰しじゃ、読者の興味を維持出来ないと思うんですよ。そのご町内の人以外。もぐもぐ」
そんな企画は、ご町内フリーペーパーでもお断りだろう。
うぅ。茄子の浅漬けが美味しい。
これ、社長が麺つゆで揉み込んだだけだぞ。
和芥子だけで食べても、お茶碗がどんどん軽くなっていく。
「そんなのは、スマホの位置取得ゲームに任せれば良いです。」
「スマホのナビってそんなに精度良くないぞ。だからポケモンにしてもドラクエにしても、大雑把にしてるだろう?」
「え。社長ドラクエやってるの?」
私もしてる。
何故教えてくれないんだよ。
あぁ、社長のプライベートスマホまではさすがにチェックしてないからなぁ。
しかもこの男、別に隠そうともしないで、いつもそこら辺に置きっぱなしにしてるし。
どうせパスワードはおんなじなんだろう?
ここ事務所の電話番号と、大学時代の学生番号と、誕生日の3つを適当荷物使い分けている。
スマホは6桁の数字だから、ここの電話番号だろう。
クソっ。
ただの木綿豆腐が美味い。美味いゾウ!
「結局、何処かに出かけて行くのが王道だと思うんですよ。」
「どこ行くかね。5街道や国道16号一周とか、見たことあるよ。」
「歩くんですか?」
「いや、当然車かバイクでだな。」
「バイク?」
「原チャリだな。スーパーカブとか。」
「あぁ、札幌行ったり佐多岬行ったり。」
「指宿です!」
「なんだよそれ~聞いてないよぉ。」
馬鹿な話で盛り上がれるのは楽しいね。
「大体、どうして社長はご町内塗り潰しなんか思い付いたんですか?」
あまり思い付かない発想だと思う。
「ん?あぁ大学に入ったばかりの頃かな。原付免許を取って、ジェンマって言うスクーターを買ったばかりの頃。うちの市の、今考えると相当縮尺の細かいマップルを買ってね。」
社長は味噌汁を幸せそうな顔をして飲む。この味に私は追いつけるだろうか。
「僕は産まれて半年くらいで、うちの父親が家を建てて以来、大学時代以外は大体この辺に住んでいる。徒歩、自転車、スクーター、自動車と自分の行動速度が上がるたびに市内を走り回った。自分のお金で初めて買った地図を見た時に、通っていない道、見た事ない風景があるんじゃないかなぁと、妄想していたもんだよ。」
「社長、そこは妄想でなく、空想とか想像って言葉を使って下さい。」
なんでこの人の作る椎茸とがんもどきの煮物はこんなに美味しいんだろう。
サヤエンドウの豆の芯が微妙な歯応えを残していて、噛むと椎茸の煮汁がピュッと飛び出る。
こんなの、女子高生が好むおかずじゃないのに、私は確実に社長の「お婆ちゃんのご飯」に餌付けられている。
逆に言えば、この人のご飯に勝つご飯を私は作らないとならないわけか。
花嫁修行を始める数ヶ月。
先は長いなぁ。
「ゴールを決めるべきだと?でも、粗方の街道は既に歩かれているんだろう?」
「そうでもないですよ。」
ご飯をおかわりしながら、考えていた事を取り止めもなく語り出す。
「社長、おかわりは?」
「おねがい。」
社長のお茶碗を受け取る。
そうだ。その内お茶碗を夫婦茶碗荷物変えてやろう。
お土産屋で見かけるよなあ。
「地味な街道を歩けば良いんです。毎月一本。」
「地味な街道?」
「例えば鎌倉街道とか大山道。水戸街道に佐倉道。脇街道よりも更に脇な、参勤交代では使わない様な庶民が歩く街道を十二本歩きましょう。社長はそれほどカツカツなスケジュールではありませんし。」
「積極的な営業活動はしてないからね。」
「ホームページを私が作るくらいで、ブログもツイッター(Xとか言い慣れないぞ)してませんしね。」
「別に伝えたい事も無いし、そもそも僕に興味を持っている人、何人いるのさ。」
「ホームページのカウンターは結構回ってますよ。」
これはマジ。
私が上げているチビやヒロの可愛い奴とか変わらないほど、取材やら企画活動を別立てで紹介しているページが良く閲覧されている。
だから、今更ながらブログを書きなさいと、いつ申し立ててやろうとか考えていた。
「無駄遣いしなければ、今後2~30年後には相続するであろう親の財産もあるし、多分まぁ、細かい仕事をコツコツこなして行けば、死ぬまでお金は足りるんじゃ無い?」
駄目だろ、駄目社長。
そりゃあと50年生きるとしても、600ヶ月で割っても、子供を2人作って私立に通わせても、それなりに裕福な生活は送れるだろうさ。
この人は贅沢の仕方を知らないし。
私も持参金をそれなりに親からふんだくって持っていくつもりだし。
「昔の地図が枕元に積んでありましたから、社長も似たような事を考えていたのではありませんか?」
「んん?」
これ、はしたない。
箸を咥えたまま考え事しない!
「ちぃ」
ほら、ヒロが長めの牧草を咥えて真似してる。
「自分が歩いたところ、歩こうとしているところの復習と予習かな。寺院の場所はあまり変わらないし、電柱に書いてある住居表示の字名を見れば、歴史や地形が想像できるから。」
「それです!」
「ど…
「れです?ってボケはいりません。」
「秘書に会心のボケを潰された。」
社長の言う事がだんだん想像付く様になってきたのは、未来の婚約者(なんだこの言葉)としては、成長なのかな。
「歴史好きな社長の目線で、ルポタージュすれば良いんですよ。道端の道祖神とか、小さな神社の意義意味とか。明確な目標がある先を急ぐ旅物が軽視しがちな、小さな歴史を拾って行く旅と言うのはどうでしょう。」
「ふむ。多少マニアックにしても、雑誌の色には合いそうだな。」
よし、社長が食い付いた。
社長は0から1を発想するなら、私は1を10にしてやる。
何も出来ない秘書として、唯一の抵抗だ。
「勿論、理沙ちゃんも全力でサポートするよ。」
社長のモードが柔らかくなったのを瞬時に判断して、甘ったれ女子高生モードに私も切り替える。
「ならば2~3日拘束しても大丈夫かな?」
「拘束という言葉がなんかいやらしいけど、私(わたし)的にはなんでも受け止めるよ。」
高校も授業はもう無いし、大学も多少は時間に自由が効くでしょう。
「そうか、なら、車で後をついて来て欲しい。」
「え''」
「並行交通機関がないと、ハンガーノックを起こした時に、神奈川や千葉の街中で遭難する自信があるぞ。」
しまった。
ペーパー(パッパラパー)若葉ドライバーの私には、大変な試練じゃないか。
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