ご飯を食べて異世界に行こう

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第一章 開店

畑仕事と凸凹トリオ

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玉を先頭に、青木さんとたぬきちが縦に並んで社に入っていく、なんかのダンスチームみたいな行進を見送って、僕は茶店の裏に並べてあるシャベルとクワを取りに行く。

しかし、玉・青木・狸の凸凹トリオの行進は可愛かったなぁ。うん。

キャベツは昨日でもう全部採り終わったし、トマトも今日で全部収穫出来るね。
玉が抜いてくれた雑草の山はまだ残っているので、これをまた肥料にして。
今までの畑は休作としよう。
多分、僕の力と荼枳尼天の神力で土地が痩せるって事はないだろうけど、一応ね。恵みをくれる土地に感謝しましょう。

聖域の土地自体は、普通の踏み固められた土なので、本来ならば耕作には、土を濾したり手を加えないと適さない筈なんだけど。
相変わらず僕のクワとシャベルはどこでもプリンに入れるスプーンみたいにサクサク耕せるので。オラオラサクサク。

って、あれ?ここってこんなに広かったっけ?茶店の裏と聖域の壁の間はせいぜい10メートルくらいだったのが、倍にはなってるな。
ま、広ければ畑も広がるし、たぬきちが走り回るスペースも出来るからいいか。 (細かい事は気にしない、してもしょうがない)

前回はあんな滅茶苦茶な成長ペースだと思わなかったから、支柱を立てなかったので、今日最後に収穫したトマトはパンパンに膨らんで、今にも地面に着きそうだった。
だから今回はしっかり支柱を立てて、いつでもミニトマトが掴まれるようにしておこう。(変な日本語だけど、大体合ってるし)

人参・大根は指一本、畝に差して作った穴にぽいぽい種入れておしまい。
じゃがいもとさつまいもは、小学校でやった栽培の知識が頭に残ってた。種芋の切り口に灰を塗れば良いんだよね(竈門があるから灰ならいくらでもあるし)、テキトーに耕した後に埋めてけばOK。

茄子・胡瓜、フルーツコーンの植える場所はどうしようかな。これだけ広いと迷うなぁ。なるたけ水場からは離さない様に、とね。

★  ★  ★

「あれ?こっちも進んじゃってるね。」 
青木さんが1人でやってきた。
「あの仔、本当に玉ちゃんが好きなのね。祝詞を唱えている足元で、ずっと玉ちゃんの顔を見上げてたわ。」
「玉が箒やモップで掃除して始めるから、それを追いかけるのが楽しみなんだよ。あと、それを見た玉がきゃらきゃら笑う声を聞きたいみたい。」
「それもう、ペットと家族の関係性を越えてない?」
「まぁ“うち“だから。」
よし、種蒔き終わり。
「…終わってるし。」

いやいや、畑仕事はまだあるよ。
「金柑と蜜柑の苗木を植えないといけないから。」
「なんか結構、畑で埋まってるけど。私が助け出された時と、随分変わっちゃったね。」
まぁ、この人は目の前の壁の向こうに監禁されていた人だしね。あまり良い思い出もないだろうし。
「………何か?」
青木さんにジト目で睨まれた。
「監禁とか、いやらしいから言わないの。」
「どうしてわかったし?」
「玉ちゃんの言う通りね。菊地さんって顔に考えてる事全部書いてある。」
「え?ほんと?どうしよう。」
顔を両手で覆って捏ねくり回していたら、青木さんが吹き出した。
「この人はどうしてこう、無警戒なのかしら。」
「なんか失礼な事言われたのはわかります。」
「ならば気をつけなさい。」
「善処します。」

★ ★  ★

「とのとの~!」「わんわん」

今日もまたちっこいのが走って来た。

あぁ、青木さんの顔が光り輝く満面の笑みだ。
両手を開いて待ち構える胸に玉が飛び込み、僕はたぬきちに体当たりを食らう。 
なんで?

「なんだかなぁ。」
ガッチリ玉と抱き合いながら、青木さんが愚痴る。
「玉ちゃんは大好きだし、柔らかいし、良い匂いするんだけど、今は、今日はたぬちゃんが来るとこでしょ。」
「たぬきち君は殿の方に夢中ですよ。」
「わふっ。」

「あのね、たぬちゃん。私ゲスト、お客さま。」
「どうせ直ぐ“れぎゅらあ“になりますよ。佳奈さん、こないだからずっと殿んとこに来てるじゃないですか。」
「そうだけど。その通りだけど。」

なんかあっちは仲良く喧嘩してるね。
「わふ」

「ね。なんでたぬちゃんは菊地さんによじ登っているの?」
「わふわふ」
「……。」
あーなんだ。たぬきちの考えがわかるようになってるぞ、僕。
「ここは僕の居場所!だそうだ。」
「は?」
「はい?」
あ、2人して口が開けっぱなしだ。

あれこれ頑張ったたぬきちは、僕の肩に乗ることに成功した。
というか、お腹を僕の肩に乗せて半分ぶら下がっているんだけど。
「わふわふ」
「あーなんだ。さっき青木さんが玉を背中から抱きしめてたのを真似したくなったんだって。」

「殿はとうとうたぬきち君の言葉がわかるようになりましたか。」
「なんと言って良いのやら。」
「まぁ、神様だって殿と仲良くなっちゃうお人ですし、たぬきち君の1人や2人。」
「ねぇ。玉ちゃんがそんな事言うと、2匹目の狸が来るわよ。」

たぬきちの言葉がわかってもなぁ。

★  ★  ★

ところで、苗木植えがまだ残ってるんだな。さすがに作業しづらいので、たぬきちには降りてもらった。
「わん」
いや、仕方ないなぁじゃなくてね。
「わんわん」

「ねぇ、菊地さんがたぬちゃんと会話してるよ。」
「いいなぁ、殿。」
「そっち?」玉ちゃん溜息ついてるけど、そっち?」

と言ってもシャベルで穴掘って苗木を植えるだけなんだけどね。
その後をジョウロを持った玉が追いかけてきて、その後をたぬきちが追いかける。こっちもこっちで凸凹トリオがウロチョロしているわけです。
で、それを見ている青木さんの目がハートマークになっていて。

ところで君。有給まで取って手伝いに来てたんじゃないの?

★  ★  ★ 

バナナ。
「バナナ。」
「この黄色いのなんですか?」
とりあえず一本。皮を剥いて玉の口に押し込んでみた。
「もぐもぐ。」
たぬきちにも一本。
「わふわふ」

「狸ってバナナ食べるんだ。」
「犬科で雑食性だからね。基本的に犬と食べるものは共通だよ。」
「わふわふ」
「殿もう一本。これ美味しいです!」

作業が終わったら店の厨房で一服。
これも僕らの日常になっているのだけど。

いやね。たぬきち用に色々食材を考えたんです。ドックフードは基本としてね。(一応減塩低カロリーを。狸と犬は若干違うし、野菜・果物は食べ放題になる予定なので、何をご馳走しようかな?と。)
ちょっとWiki先生に聞いてみてわかったのは、どこかの動物園の狸用献立にあったので。僕らは朝ご飯済んでるし、お茶請けにはお腹に溜まらない消化の良いものという事でバナナを選択しました。

ついでに玉の時代には無かった果物なので、面白半分に与えてみたら。
はい、こうなった。
玉は次々と僕の剥いたバナナに食らい付き、たぬきちは青木さんが剥いたバナナに食らい付いている。

なんだろうね、この風景。
まぁ、玉も青木さんも、幸せそうな顔してるからいいか。
ついでに青木さんには、後で◯ゅ~るも渡しておこう。
あれで玉とたぬきちの距離がゼロ距離になったしね。

★  ★  ★

さて、アレ出来るかなぁ。
荼枳尼天が教えてくれた柿。
浅葱の実家に生えている柿の木の事を言っているのだろう。熊本の実家にも、今まで暮らして来た部屋にも無かったし。

なんなら2人を連れて(どちらにしても、玉は付いて来るし)、水晶玉を移動しても良かったのだけど。

「お茶どうですか?最近、玉もお茶の美味しい淹れ方を教わったのです。殿流とお婆ちゃん流。どちらも自信あり!ですよ。」
「待って待って玉ちゃん。たぬちゃんが私から離れないの。」
「◯ゅ~るはたぬきち君ほいほいですから。」
「フニフニ」
たぬきちの鳴き声がもはや犬科ですらなくなっているけど、まぁあの凸凹トリオの邪魔をしたら、後で凄く叱られそうなので。かと言って、玉から離れる事はやっぱりちょっと心配なので。

目を閉じて、イメージ。
長屋門を抜けて、玉砂利の中をじゃらじゃら歩く。歩き辛い。何故なら、◯ロックスの偽物を履いているから。ずっと履いていた本物は玉に取られちゃったので、数百円で買い直しました。玉はブカブカなのに嬉しそうに履いてるもん、返してとか、今更言えないし。
というか、想像の中なんだから、そんなネガティブなイメージを描く必要無いんだけどな。なんだろう。

玉砂利の道が右に曲がると、芝生が刈り揃えられた庭がある。その角に柿の木がある。お婆ちゃんに、「柿の木は折れ易いから登っちゃ駄目だよ。」って言われたのだけど、陽の当たる枝先の実は甘くて、子供の僕はほいほい登って、ほいほい収穫していた。

ほいほい。
ほいほい。

ほいほい。両手一杯の甘柿が現れました。ほいほい。

「……。」
「……。」
「……」

やや。たぬきちにまで呆れられた。

「ちょっと目を離したら、何ですかその腕の中柿だらけ?」
「えーと。殿、ひょっとしてこの柿って…。」
「うん。浅葱の実家に生えてた奴。」
「わふぅ」
「やっぱりそうでしたか。あの柿って甘柿ですか?」
「勿論、この柿から木を生やそうかなぁってね。荼枳尼天の推薦だよ。」
「何故気軽に神様に物事を推薦されるかなぁこの人は。」
「種が欲しいので、実は食べましょう。」
「わん!」
うん、良い返事です。
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