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14.優しすぎるお義兄様
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「無事か⁈」
慌ただしいノックに扉を開けると額に汗を滲ませた義兄様が挨拶も無しに言う。
暗殺に失敗したことを知って駆けつけてくれたのだろう。
「無事です。…今のところは。」
昨晩の状況をどう判断すれば良いのか分からず歯切れが悪くなる。
「これ、痛かっただろう。王宮で殿下が夜伽のときに側妃を痛めつけた。と話題になっていたから、もうダメかと思った。」と向かい合う私の喉元を見て言う。
朝一で既に噂になっているということは、この部屋の使用人達は大変口が軽い様だ。
痛めつけたというのも、私の体についている歯形を見たからだろう。
「この程度で済んだのが、奇跡だと思います。」
殿下の怒りが何故か鎮まり、これ以上の傷にならずに済んだ。
それどころか、優しく触れてきた。
暗殺されかけたのにだ。
殿下が何を考えているのか分からず結局昨晩も眠れなかった。
「それで昨晩は何があった?」と神妙な面持ちで義兄様が聞いてくる。
聞き耳をたてている使用人達を人払いし、義兄様とテーブルに向かい合わせで座り、昨晩の事を説明する。
「今回のことが、旦那様の指示だと気づいている様子でした。」
大体の説明が終わり、一番伝えなければいけないことを言うと義兄様は
「そうか。ただ、今の状況を鑑みると、昨日の事を殿下が誰にも話していないとしか考えられない。」と話す。
義兄様の言う通り王族の命を狙ったのだから、その場で捕らえられてもおかしくはなかった。翌日になっても何のお咎めのない状況が不可解で、殿下が昨日起こったことを握り潰したとしか考えられないのだ。
「やはり、殿下にも何か目的があるから、罰せずにあえて泳がせているのでしょうか。」
「だろうな。シアー侯爵家が裏で糸を引いていると分かっているのに、俺と会うことも制限されていないのも、何か意図があるのだろう。」
「義兄様。侯爵家からうちの領地への支援は失敗した以上望めませんか?」気がかりになっていたことを確認する。
「そのことは父上に陳情するつもりだ。失敗はしたが、ツィーリィは約束を果たし実行した。父上もそれに応えるべきだと俺は思っている。」と頼もしい言葉が返ってくる。
「あと、ツィーリィがここから安全に脱出する方法だな。」と義兄様はさらに付け加える。
不器用すぎるくらい真っ直ぐな、この義兄は本当に見捨てないつもりだったのか。
「正直、私のことは殿下の一存次第なので、いざとなったら切り捨ててください。」王宮に入った時から覚悟していた事を伝える。
「駒の様に使われて、用済みになったら切り捨てられるなんて、ツィーリィは、それでいいのか⁈」
私の返事を聞いた義兄様が問いただす様に言う。
「ここに来た時からその覚悟はしていました。もし私を哀れに思うなら、私のお願いを一つ聞いてくれませんか?」
「俺にできることならば、何でもする。」
「私が、今回のことで反逆罪に問われ罰された時、ファナー家が取り潰しや領地没収などの罰を受けない様に取り計らってください。旦那様は、私もろとろ切り捨てると思うので坊ちゃまにしかできないことです。」
ファナー家の娘として、坊ちゃまにお願いする。
「…分かった。でも、ツィーリィも見捨てたりしない。ツィーリィが覚悟を決めている様に、俺もそう決めていた。」と真剣に言う。
旦那様が、坊ちゃまを未熟だと言ったのは、この優しすぎる部分なのだろう。
「ありがとうございます。義兄様、そろそろ執務が始まるお時間では?」
「…あぁ、だが。」
「私なら、大丈夫です。義兄様は義兄様のやるべきことに集中してください。」
「…分かった。もし身の危険を感じたら、すぐにここから逃げろ。」と義兄様はダメ押しの様に言い、部屋を後にした。
一人になりおとずれた沈黙の中で考えるのは、彼のこと。
喉元に触れるとピリッとした痛みが走る。
殿下、あなたは今なにをお考えなのですか?
夜になっても殿下はおろか、私を捕えようとする衛兵すらやって来なかった。
その代わりに、派閥のご令嬢から明日のお茶会の招待状が届いた。
殿下に動きがない以上、無碍に断ることはできない。
そうなると、明日は修羅場に巻き込まれることの予想がつき、寝不足で痛い頭が更に痛むのを感じた。
慌ただしいノックに扉を開けると額に汗を滲ませた義兄様が挨拶も無しに言う。
暗殺に失敗したことを知って駆けつけてくれたのだろう。
「無事です。…今のところは。」
昨晩の状況をどう判断すれば良いのか分からず歯切れが悪くなる。
「これ、痛かっただろう。王宮で殿下が夜伽のときに側妃を痛めつけた。と話題になっていたから、もうダメかと思った。」と向かい合う私の喉元を見て言う。
朝一で既に噂になっているということは、この部屋の使用人達は大変口が軽い様だ。
痛めつけたというのも、私の体についている歯形を見たからだろう。
「この程度で済んだのが、奇跡だと思います。」
殿下の怒りが何故か鎮まり、これ以上の傷にならずに済んだ。
それどころか、優しく触れてきた。
暗殺されかけたのにだ。
殿下が何を考えているのか分からず結局昨晩も眠れなかった。
「それで昨晩は何があった?」と神妙な面持ちで義兄様が聞いてくる。
聞き耳をたてている使用人達を人払いし、義兄様とテーブルに向かい合わせで座り、昨晩の事を説明する。
「今回のことが、旦那様の指示だと気づいている様子でした。」
大体の説明が終わり、一番伝えなければいけないことを言うと義兄様は
「そうか。ただ、今の状況を鑑みると、昨日の事を殿下が誰にも話していないとしか考えられない。」と話す。
義兄様の言う通り王族の命を狙ったのだから、その場で捕らえられてもおかしくはなかった。翌日になっても何のお咎めのない状況が不可解で、殿下が昨日起こったことを握り潰したとしか考えられないのだ。
「やはり、殿下にも何か目的があるから、罰せずにあえて泳がせているのでしょうか。」
「だろうな。シアー侯爵家が裏で糸を引いていると分かっているのに、俺と会うことも制限されていないのも、何か意図があるのだろう。」
「義兄様。侯爵家からうちの領地への支援は失敗した以上望めませんか?」気がかりになっていたことを確認する。
「そのことは父上に陳情するつもりだ。失敗はしたが、ツィーリィは約束を果たし実行した。父上もそれに応えるべきだと俺は思っている。」と頼もしい言葉が返ってくる。
「あと、ツィーリィがここから安全に脱出する方法だな。」と義兄様はさらに付け加える。
不器用すぎるくらい真っ直ぐな、この義兄は本当に見捨てないつもりだったのか。
「正直、私のことは殿下の一存次第なので、いざとなったら切り捨ててください。」王宮に入った時から覚悟していた事を伝える。
「駒の様に使われて、用済みになったら切り捨てられるなんて、ツィーリィは、それでいいのか⁈」
私の返事を聞いた義兄様が問いただす様に言う。
「ここに来た時からその覚悟はしていました。もし私を哀れに思うなら、私のお願いを一つ聞いてくれませんか?」
「俺にできることならば、何でもする。」
「私が、今回のことで反逆罪に問われ罰された時、ファナー家が取り潰しや領地没収などの罰を受けない様に取り計らってください。旦那様は、私もろとろ切り捨てると思うので坊ちゃまにしかできないことです。」
ファナー家の娘として、坊ちゃまにお願いする。
「…分かった。でも、ツィーリィも見捨てたりしない。ツィーリィが覚悟を決めている様に、俺もそう決めていた。」と真剣に言う。
旦那様が、坊ちゃまを未熟だと言ったのは、この優しすぎる部分なのだろう。
「ありがとうございます。義兄様、そろそろ執務が始まるお時間では?」
「…あぁ、だが。」
「私なら、大丈夫です。義兄様は義兄様のやるべきことに集中してください。」
「…分かった。もし身の危険を感じたら、すぐにここから逃げろ。」と義兄様はダメ押しの様に言い、部屋を後にした。
一人になりおとずれた沈黙の中で考えるのは、彼のこと。
喉元に触れるとピリッとした痛みが走る。
殿下、あなたは今なにをお考えなのですか?
夜になっても殿下はおろか、私を捕えようとする衛兵すらやって来なかった。
その代わりに、派閥のご令嬢から明日のお茶会の招待状が届いた。
殿下に動きがない以上、無碍に断ることはできない。
そうなると、明日は修羅場に巻き込まれることの予想がつき、寝不足で痛い頭が更に痛むのを感じた。
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