馬丁の僕が敵国将軍のお嫁さんになって幸せになった話する？

●番外編

番外編：ココの為に密かに将軍が頑張ったり、ココが夫に惚れ直す話①

　結婚してから、三か月経過した頃の事。
　
「テオドシウス様の様子がおかしいんだ」
　
　いつものお茶の時間に、僕は共通の友人であるアシュリーにそう切り出していた。
　夫とも古くからの友人であるアシュリーは、派手な外見に反して誠実な男であり、夫と上手く行ったのも、このアシュリーによる所が大きい。
　
　当初は、夫であるテオドシウス様が、アシュリーに対して焼きもちを焼いたりと少々揉めたのだが、今では僕に対してアシュリーが変な気を起こすことがない事がやっと確かな実感となったようで、アシュリーとだけは二人で会う事を許されていた。
　
「……お前の前ではあいつは常におかしいと思う」
　
　アシュリーは僕の言葉にティーカップをソーサーに置くと、たっぷりと間を空けた後、そう言った。
　
　テオドシウス様が、僕にだけ異常なほどに甘々な態度だというのは僕も良く分かっているし、それを見たアシュリーや部下の人たち、皇帝陛下さえもその変わりようにかなり引いているのは知っている。
　
　だが、今回僕が言いたいのはそう言う事じゃないのだ。
　
「あのね。そういう話じゃなくてさ……明らかに何かを僕に隠してるんだよね。テオドシウス様」
　
「不審な行動が多いと？」
　
　アシュリーの言葉に僕は神妙な顔で頷いた。
　
　異変に気付いたのは一週間くらい前。
　
　僕に対する態度が冷たくなったとかじゃないのだけれど、昼夜問わず、こそこそとテオドシウス様が、どこかに出かけていく場面を何度か見かけているのだ。
　泊りがけという事はなくて、就寝時間までには帰って来てはくれているものの、殆ど毎日と言って良い位出かけているのは、さすがにおかしいと感じ始めていた。
　
　結婚してから、テオドシウス様は基本的に僕にべったりだった。
　
　僕がちょっと見られるような外見になったこともあって、テオの元愛人（？）的な人たちが僕に話しかけてくることは殆どなくなったものの、それでも皆無とまではいかないので、僕を守る意味も込めて出来るだけ僕の所に居てくれていたのだ。
　テオドシウス様に悪感情を持たれたくないからか、テオドシウス様が居る前ではその人たちからの僕への嫌味も無くなるから。
　
　それでも敵もさるもの。制裁を受けない様に上手く立ち回る輩は、中々尻尾を見せないらしく、日々地味な戦いがあるけどね。
　
　でも、僕はもう気にすることは殆ど無かった。
　
　だって、テオドシウス様が僕以外にそういう意味で興味を持つことは無いんだろうなって、最近は何となく感じているから。
　
　テオドシウス様の様子に、周囲が驚いているのがその証拠だ。
　
　それくらい、テオドシウス様から愛されているという自信はあった。
　
　しかし、そんな中で謎の連続の外出。
　信頼してはいるけれど、どうしても気にはなってしまう。
　
「テオドシウス様が浮気とかは思ってないよ。あの人意外とすぐにそういうの表情に出る人だから。でもさ、もしかしたら僕の事で何かあの人に悪い事が起こっているんだったら、って思うとさ……」
　
　テオドシウス様は、僕の為なら何でもしてしまう所がある人で、僕を傷つけるような相手にはかなりあくどい方法で制裁を加える事がある。
　
　さすがに多少の嫌がらせでは相手を害する事はないけれど、前に公式の場で僕に大恥をかかせようとした子爵令息の家が、翌週お取り潰しにあっているのだ。
　
　それからも、度々限度を超えた嫌がらせに対しては、権力を使っているという話だし……。

「……まぁ、あり得ない話ではないが、以前の子爵令息の件以降は、そういう輩は本当に居なくなっているよ？　あの子爵令息は、皇帝陛下が関わっている式典で将軍の奥方に恥をかかせようとしたのだから自業自得だったし、裁きも左程おかしいものでは無かったが、あの件でテオドシウスにとって君が唯一にして最愛という認識は広まった。最近は嫌味を言った後すぐに相手が引くだろう？」
　
「……うん」
　
　確かに最近の嫌味は、以前に比べてキレがないというか、悔し紛れみたいなところはあるとは思っていた。