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第三部 ダンジョンマスター 中編
ある帝国の働きたくない社畜
しおりを挟む「ふああ~ぁ」
大きなあくびをかいた。
日差しが照り付ける今日。少し昼寝でもしたい時間帯だった。
今日も昼休憩が終わったら仕事、そして残業か......
今日こそは終電に乗りたい、だなんていう夢物語を描いていた。
入社してから三年。ここがブラック企業だと気づいてからはもう地獄のような日々だった。
インフルエンザに感染したから休むという連絡を入れたら有給扱いにされたし、仕事を教えないくせに山のように積んでいき、上司は一人先に帰ってしまう。
はぁ......と、思わず重いため息が出る。
先ほどから吐いてばかりで、幸運が逃げてしまいそうだ。
俺にかろうじて幸運が残っているなら、学生の頃に憧れた異世界に連れて行ってほしいなぁ......
そんな思いを抱いていた時だった。
その光に包まれたのは。
「ふぉっふぉっふぉっ、よく来てくれたの。ここは神の世界、とでも言うべき場所じゃ。おぬしたちにはこれから異世界へと行ってもらって、あることをしてもらう」
胡散臭い爺さんは、俺に、いや、俺たちにそういった。まるで事務連絡のように、淡々と。ふぉっふぉっふぉとかも起伏がないとは。馬鹿が騙されているみたいだが、上司の顔色を伺い続けた俺に不可能の文字はない! わかる、分かるぞこの表情は! ――――――めんどくさい、だ!
「ここにいる百人には、ダンジョンを作ってもらう。ルールはまぁ......いろいろあるから、ナビゲートつけとくので、そちらにきくよーに。なお、異論反論はうけつけないので、頼んだぞ」
......ん? ダンジョンを製作だったら別に構わないだろうけど、ダンジョン運営とかだったら、俺また働いてる?
「もう働きたくないでござる」
そう言った時には、見知らぬところに寝転んでいた。
石畳の道路。周囲の建物も同様に石レンガを積み上げて作られていた。
「ここが......異世界」
目の前に広がっていたのは、俺が学生の頃に求めてやまなかった、別の世界だった。
どうしたらいいのか。
チュートリアルがなければ、生き残るすべも教えてもらっていない。
これでどうしろと。
と思っていたら、突如、いつの間にか手に握りしめていたものが流動し、形をとった。
「情報受信中――――――完了。」
「おはようございます、私はダンジョンマスター支援用ピクシー第86号です」
そう、黒髪のスーツを着た女性は言った。
「ダンジョン支援......これがチュートリアルか。にしても、誰にも叱られない世界というのは、結構気楽なものだな」
「そうですね......けれど、この世界で生き残るためには働くしかないですよ。なにせ、ダンジョンがすべて攻略されると私とあなたは死にますから」
「なんだと......異世界に来ても、俺は働くのか......」
「とは言っても、どちらかというと経営者なので、上司がいない環境は好都合でしょう」
「それは良いな」
「はい。ですから豚のように......いえ、何でもありません。ダンジョンを製作しましょう」
そう言って何事もなかったかのように握りこぶし大の水晶を取り出した。
「これをダンジョン製作予定地においてください。時間は有限なので、その腐った......いえ、何でもありません」
そう言ってすたすたと歩いて行ってしまった。
さっきから、不穏な発言が多いな......
「ここにしよう」
「正気ですか? 殺しにかかってくる冒険者ギルドの裏手に作っても、すぐに倒されるだけですって」
「それがそうならないように頑張るんだよ」
そう言って握りこぶし大の水晶......ダンジョンコアを設置した。
「あとは......こうして......こう」
俺は手で外装を整える。
「はぁ......貴方、どこまで行っても馬鹿なのですね、その前の世界で培ったクソみたいな思考回路をこの世界でもう少し綺麗にしてください」
「やっぱり、そっちが本性か」
Sっ気があるというか言葉に毒があるというか。
そんな彼女は、もう隠すのは面倒と思ったのか、大きなため息をついた。
「さて、ダンジョン作成端末です。手で作ってないで腐ったその脳みそで死なないようせいぜい考えてください」
「毒というより普通に悪口......」
それでも上司より優しい。あのクソ上司は俺のことを毎日のように人格否定してきたしな......
って、それよりも。
「端末でこんな便利にできるとか、運営神かよ......」
「よくわかりましたね、運営は神です」
その言葉に少し違和感を覚えたが、それよりもダンジョンを簡単に作れるのであれば、さっさと作ってしまいたい。
屋根をつけて、それをおいて。扉には従業員専用の文字を。
「完成だ」
「これは何ともまた......」
目の前にあったのは少し大きなガチャガチャ。
この世界には、ないものだった。
「課金、したくなるだろう?」
「まぁ......この世界の人たちになじむかどうか」
ちなみにラインナップはポーション等々消耗品や、一つスキルブックというのを入れてみた。スキルが手にはいるのだから、目玉商品だろう。
銀貨一枚で夢をつかめ。
それをキャッチフレーズにしよう。
そう考えながら従業員専用の裏口へと入る。
そこにあったのは大きな地下へとつながる階段。
「こうやって入口を偽装する。そしたら金が集まるしダンジョンもばれない」
「ほう......よく考えましたね、下っ端のくせに」
「はいはいありがと」
そう返すしかなかった。
翌日。見慣れない建物があるということで冒険者ギルドからたくさんの強面が出てきていた。
ずっとガチャガチャを回し続けているが、排出率を絞りすぎたか、スキルブックは排出されていない。
「先ほどからスキルブックと言っていますが、正しくはスキルスクロールですよ、これで何度目ですか、その小さな脳みそにもっと情報を詰めたらどうですか」
「毒がどんどんと強くなってるねぇ、これで三回目だから反省します」
仏の顔も三度まで、のことわざに従い、ずっと三回目をしてから反省していた。
まぁ、それは余談だろう。
「それより、こんだけポイントが集まったんだ、次の施設を創るぞ」
「どうやってポイント取ったんですか」
「その小さい脳みそで考えて......痛い痛い! 教えるからそのアイアンクローをやめてぇ!」
彼女の真似をしてみるだけでこのありさま。まぁ、主人が下僕にかみつかれるのはだれだっていやだな。俺が主人なんだけどな? 俺が主人なんだけどな?
「まぁ、単純に並んでいるところもダンジョンってだけさ」
「あぁ、長期滞在の」
「そゆこと」
その言葉だけでわかるとは、この子、相当優秀かもしれない。優秀すぎて主従が入れ替わってしまうくらいには。
「それで次は何を創るつもりですか
「決まってるだろう、パチスロだ」
「なんでそんなに運要素ばかり」
俺がパチンコをしたいからだ! なんて言ったら殺されそうだ。
「運要素があるほうが、冒険者もいいんじゃないかなって。一攫千金を夢見るってよく言うし」
「まぁ、分かりました......その代わり、ちゃんと防衛してくださいね?」
そう念を押された。まぁその心配もごもっともだろう。なにせ俺はまだ一体もモンスターを召喚していないのだから。ガチャガチャのラインナップ充実に全部消えてしまったのでね。
「それじゃ、作成済みのこれをポチっと」
その瞬間、この国でこれから幾度となく会議の話題にあげられる半分賭博施設、『パチスロ店』が開店するのだった。
「それで、そこにある機械は何ですか?」
彼女はコアルームの一歩手前、ダンジョンマスターが衣食住を整える場所である機械を指さしていた。
「もちろん、パチスロだよ」
何もおかしいことなどない、と言わんばかりの顔をして返答してやる。
「そのむかつく顔をやめてください」
「むかつく顔ってなに? 結構傷ついたんだけど」
そう聞き返したが今度はスルーしてきた。
「もういい」
そう言って俺はパチスロに戻ってやった。
数日後。
俺のダンジョンは、おかしなことになっていた。
手に入るポイントをほぼすべて拡張に使っていたら、いつの間にか冒険者ギルドの酒場のような空気感でどんどんと客が流れ込んでくる。
そしてどんどんと流れ落ちてくる金とDP。
「ここまで美味いとは思わなかった......」
「そうだろう? 結構おいしい商売だろう?」
「ダンジョンだとばれなけばですね。とっととモンスター召喚して私を安心させてください」
そう言われてしまっては仕方がない。
DPは結構余裕があるため、大抵のモンスターは召喚することが出来る。
何を召喚しようか......
召喚リストを覗いて、二種類のモンスターにしぼった。
「まず一体目」
召喚したのはダイスを持ったピエロ。
「何故寄りにもよってアンラッキーピエロを!?」
そう、寄りにもよってと呼ばれるほどに能力値が運に振られているため、戦闘能力のわりに必要DPが高いのである。
だからこそ防衛としては完全に不向きなのだが......
「まぁ、まだ入ってこないし良いではないか良いではないか」
「まぁ数体だけですし。大丈夫......ってなんで! なんでその残ったポイントを迷路にしたんですか! トラップは一度作動したら大体が修復が必要でコスパは最悪ですよ!」
「まぁそんなこと言わないで、どーせ誰も来ないから」
「その余裕はどこから......」
ピクシーが最悪の想定をしているとすれば、マスターのほうは最高の想定しかしていない。
そう考えると最悪の想定だけをして普通の回答を出すよりかは、後先考えずにとがったものを出した方がこの立地的にも良いのかもしれない。
「ほーら、次のお客さんだ」
「本当だ......がっつり武器持ってるけど」
ぼそり、と声を漏らした。
が、二人はそのまま黙りこくって監視カメラをまじまじと見つめた。
入ってきたのは三人、そのいずれもが男、一人はモヒカン、一人はスキンヘッド、一人は......アフロだった。
「頭がなかなか特徴的だな......」
「マスターの寝ぐせが引けを取らないくらいのアフロですね」
「俺そんなにひどいか......」
実際、彼の髪は針金並みに太く、もし濡らして寝ようものなら翌日は鶏のとさかのようになっていることだろう。
「それで......座った!」
「この動物園のペンギンのエサやりみたいなやり取りどうにかなりませんか?」
「ならんだろ、実際こっちが支配者側だし」
ともあれ、気前のよさそうなの客が入って来たのであれば、最初ぐらいは勝たせてやらないと後々客が来ないかもしれない。
確率をいじって少し儲けさせる。
「お、お金が増えたあああああ!」
モヒカン頭が当たったようで叫んだ。
「俺も増えたああああ!」
続いてアフロ。
二人はそのまま席から立ち上がって肩を組んでいる。
しかしスキンヘッドが当たらなく、ひたすら金をつぎ込んでいく。
「クソっ、どうして当たらないんだ!」
ひたすら金をつぎ込んでいった。
「あの悪運はどうしようもない」
「確率あそこだけ低いとかないですよね」
「もちろんだ」
遥か深層でその様子を見守っていた二人はその運の悪さに呆れた。
数時間後。
「あぁ......あぁ......」
「よっしゃ増えたー!」
「この金で夜の街いくぞー!」
三人のうち二人ほどが元気に店を出た。
「これでこっちは赤字になってないんだよ......あのスキンヘッドの運が悪すぎた」
「大数の法則無視するスキルとかあったっけ......」
もはや毒も忘れて考え込んでいるピクシーを置いて、ダンジョンを拡張する。
次の階層はずばり。
「エッチなお店だ」
「なんで急に脳内が男子高校生になってるんですか」
「しゃーない、男の脳内は男子高校生から成長しないから」
そう言いながらモンスター、サキュバスを召喚し、店を作った。
「まぁ、風俗っていうよりかはキャバクラって感じだな」
「はぁ、それはマスターが楽しみたいだけでは」
「バキバキモンスター童貞の俺に手を出す勇気何ぞない」
「一周回って清々しいまでの暴露ありがとうございました」
とりあえず、これでまたポイントが一気に減少した。
客にとっては気が付いたら現れていたドアの先がキャバクラなのだ。男どもは一度は足を踏み入れるだろう。
「ちなみに女性用は向こうだ」
「しっかり用意してる当たりただの変態野郎じゃなくて安心しました」
そう、パチスロに来ているのは何も男性だけではない。もちろん女性だって来る。
そう言った人たちにも、勝った後に長期滞在、また金の回収も行いたいのだ。
「金がなくなった奴を取り締まるやくざを用意してなかった」
「あぁ、そういえば」
次の問題が、ポイントがないときに降りかかるという悲劇。
しかしこんな無茶ぶりは慣れっこと言わんばかりに解決策を模索する。
「そうだ、労働力にすればいい」
そう言って二人、人員補充をする。
「はい、プチデーモンです!」
「御用とあればいつでもどこでも!」
かわいい。
身長が自身の半分程度のデーモン、とは言っても子供を二人、召喚した。そのほうがポイントが少なく済むからだ。
「人間の欲望が渦巻いているから、それを対価でいいか?」
「「もちろん!」」
デーモンという種族は対価を先に提示することで最高効率で働いてくれるらしい。しかもそれが恒久的となれば彼らはとても献身的に働くという。
「それで、お仕事は何ですか?」
「あぁ、それはだな。所持金が無くなって暴れまわろうとしているやつがいたら、地下に転送させてほしいんだ。二人で交代し続けて二十四時間。無理な時は事前に連絡。わかったか?」
「「はーい」」
二人に一つ、監視用の端末と転送だけ限定で権限を与えた。
そして地下に道具を置いて。
「これは......また何とも」
「効率的だろう。これで負の感情を搾り取れる」
完成したのは地下労働の施設。とはいっても洞窟を延々と掘る作業だ。そしてレアな鉱石を貢いで、一定額に達したらおめでとう、労働から解放だ。
「労働から解放されると書かれていてもまた賭博場に戻すとは一言も言っていない当たりがまた屑ですね」
「性格悪いというならなんとでも言え。これがこの国で生き残るための施設としては最善だろう」
こちらで武力を用意せず、あっちに勝手に守ってもらう。
そうすれば相手も大きく出られない。
「これでとりあえずはこの国の経済を握ろうか」
その野望を抱き、男は動き出す。
――――これが『賭博王』の最初の動き。
後に大陸の五分の一を所有するのだが、その時はまだ遠い。
「どうだった?」
「ヒトってやっぱりこうなんだなって。得たときは増えたっていうけど、負けたときって最初に勝って増えていても『負けた』って感じる。そしてまた増やそうとしてつぎ込んでいつか負ける。醜いな、いつ見ても」
「結構真面目だった」
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