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しおりを挟む結論から言うとロナルドがリイナへ伝えた約束はなかなか守られなかった。というのも……。
「マリアさん。そろそろアン様が来られる頃だわ。」
「リイナ。走ってはいけません。赤ちゃんに負担を掛けますよ。」
「そうだった、ごめんね。」
リイナは自身のお腹を優しく撫でた。少し目立つようになったお腹をマリアが優しい眼差しで見つめている。
リイナとロナルドの想いが通じ合ったあの日。十年間愛する人とひとつ屋根の下で暮らし、我慢に我慢を重ねていたロナルドの理性は飛んでしまいそのまま押し倒されてしまった。リイナの方も十年以上想っていた相手に求められたことで嬉しさが勝り受け入れてしまっていた。その日から他の使用人たちの目を盗むように逢瀬を重ね、リイナは籍を入れる前にあっという間に妊娠していた。
この国では婚約者との婚前交渉も婚前妊娠もタブーとされてはいない。だが、リイナを娘や孫のように可愛がっている執事マシューと侍女長マリアにロナルドはこっぴどく叱られ、流石のロナルドもたじたじとなっていた。ロナルドが既に結婚手続きの手筈は整えており、リイナとロナルドはすぐに籍を入れた。
現在リイナはロナルドの妻としてマシューから執務を教わり、マリアからはマナー教育を受け日々忙しくしている。また社交界に出てロナルドと踊るのは暫く先になるだろう。
「リイナ様!今日は宜しくお願いしますね。」
「アン様!お待ちしておりましたわ。」
お茶会の実践練習もマリアとしていたリイナだが、リイナと同じく社交に慣れていない聖女アンも一緒に練習するのはどうかとロナルドが不本意そうに提案してきた。聖女アンの婚約者に頼まれ、ロナルドは断りきれなかったようだ。
国一番の有名人、聖女アンとのお茶会練習に初めは恐々していたリイナだが、アンの明るく人懐っこい性格にすぐ心を許した。それになんと言ってもアンは婚約者ギルバートにベタ惚れであり、お互いに惚気話をするのが楽しくて仕方なかった。
「アン様、先日話されていたパンの新作はどうされたのですか?」
アンは聖女としての活動の傍らパン屋で働いており、王都内でもトップクラスに人気だ。
「ふふ、無事成功してギルバートさんに褒めて貰えました!今度リイナ様にもお持ちしますね!」
「わぁ!楽しみ!ロナルド様にも食べてもらわないと!」
「ロナルド様の反応……少し怖いです……。」
二人は顔を見合わせてクスクス笑っていると、マリアがパンッと手を叩き「お嬢さん方、始めますよ?」と促した。部屋に向かいながら、リイナはこっそり「アン様。今度私にパンの作り方を教えていただけませんか?」と尋ねた。リイナが誰の為に作りたいか手に取るように分かったアンは「もちろん!」と大きく頷いた。
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