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ぬくもり⑤
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「払った金を返せだなんて俺、言わないよ?
でもそれだと気を遣うって言うなら、そうだなぁ......。
俺料理は好きだけど、掃除とかは苦手なんだよね。
だから千尋さんがしてくれたら、すっごい助かる」
にこっと無邪気に子供みたいに微笑み、彼は言った。
その語り口調も表情も、穏やかで優しい。
なのに、何故だろう?
私が口にした言い訳を、ひとつずつ確実に潰されているような。
......ペットなんていう可愛らしいモノではなく、着実に獲物を追い込もうとする肉食獣を前にしているような気分になるのは。
強欲な姉はたぶん、この男からたっぷり家賃をふんだくっているはずだ。
ここは悪く言えば繁華街から離れているが、よく言えば閑静な住宅街ってやつだし。
それに自分で車の運転が出来るのであれば、生活に不便はない。
セキュリティだって万全で、フロントには24時間、コンシェルジュだって常駐している。
購入する際も本当に自分に全額払い終える事が出来るだろうかと、正直かなりびびりながら契約書に判を押したもの。
まだ学生の彼がそんなに大金を払えるとは思えないから、きっと家賃を出しているのはこの人のご両親だろう。
......なのにそこに得体の知れない無職のアラサー女が転がり込んで、良いものなのだろうか?
それに彼と私は、男と女。
相手が地味で色気がないことに定評のあるこの私でも、絶対に間違いが起きないとは言い切れない。
そんな想いが、表情に現れてしまったのだろう。
彼は視線をそらしてしゅんと項垂れ、ぽそりと小さな声で言った。
「やっぱり、駄目だよね。
......困らせて、ごめん」
それに庇護欲と母性を煽られて、気付くと反射的に今度は私の方が彼の体を抱き締めていた。
「駄目じゃない!
ぜんっぜん困らされてなんて、ないから。
むしろこちらが、ありがとうございます!」
ホッとしたように綻ぶ、彼の表情。
大学生の四回生だと言っていたけれど、笑うと一気に雰囲気が幼く、可愛らしいモノに変わる。
そんな彼の笑顔を前に、気付くと私もまた笑っていた。
うん。やっぱり、気のせい......よね?
彼の愛らしい唇が一瞬だけ、悪魔みたいに凶悪な形に歪んだ気がしただなんて。
でもそれだと気を遣うって言うなら、そうだなぁ......。
俺料理は好きだけど、掃除とかは苦手なんだよね。
だから千尋さんがしてくれたら、すっごい助かる」
にこっと無邪気に子供みたいに微笑み、彼は言った。
その語り口調も表情も、穏やかで優しい。
なのに、何故だろう?
私が口にした言い訳を、ひとつずつ確実に潰されているような。
......ペットなんていう可愛らしいモノではなく、着実に獲物を追い込もうとする肉食獣を前にしているような気分になるのは。
強欲な姉はたぶん、この男からたっぷり家賃をふんだくっているはずだ。
ここは悪く言えば繁華街から離れているが、よく言えば閑静な住宅街ってやつだし。
それに自分で車の運転が出来るのであれば、生活に不便はない。
セキュリティだって万全で、フロントには24時間、コンシェルジュだって常駐している。
購入する際も本当に自分に全額払い終える事が出来るだろうかと、正直かなりびびりながら契約書に判を押したもの。
まだ学生の彼がそんなに大金を払えるとは思えないから、きっと家賃を出しているのはこの人のご両親だろう。
......なのにそこに得体の知れない無職のアラサー女が転がり込んで、良いものなのだろうか?
それに彼と私は、男と女。
相手が地味で色気がないことに定評のあるこの私でも、絶対に間違いが起きないとは言い切れない。
そんな想いが、表情に現れてしまったのだろう。
彼は視線をそらしてしゅんと項垂れ、ぽそりと小さな声で言った。
「やっぱり、駄目だよね。
......困らせて、ごめん」
それに庇護欲と母性を煽られて、気付くと反射的に今度は私の方が彼の体を抱き締めていた。
「駄目じゃない!
ぜんっぜん困らされてなんて、ないから。
むしろこちらが、ありがとうございます!」
ホッとしたように綻ぶ、彼の表情。
大学生の四回生だと言っていたけれど、笑うと一気に雰囲気が幼く、可愛らしいモノに変わる。
そんな彼の笑顔を前に、気付くと私もまた笑っていた。
うん。やっぱり、気のせい......よね?
彼の愛らしい唇が一瞬だけ、悪魔みたいに凶悪な形に歪んだ気がしただなんて。
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