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衝動②
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歌い、躍りながらもこっそり深呼吸をして瞳を閉じて、再度開いた。
それからもう一度客席に目をやってみたけれど、やっぱりあれはどう見ても千尋さんで。
しかも俺のイメージカラーである青ではなく、仁の赤いペンライトを手に握り、更には仁の写真のプリントされた団扇をぎゅっと胸に抱いている。
そしてこれが見間違いや幻覚などではなく、現実なのだと理解した瞬間。
......俺の中で何かが、プツンと切れた気がした。
なんで千尋さん、俺じゃなく仁の応援なんかしてるワケ?
......千尋さんまで、アイツを選ぶのかよ?
これまで圧し殺して来た、苛立ちと不満。
それらが一気に爆発し、俺の理性を吹き飛ばした。
ここからは本来ならば、仁のソロパートだ。
だから俺はバックダンサーとして、盛り上げ役に徹するだけ。
でも......ふざっけんな、千尋さんは俺だけを見てろよ!
リハーサルとは異なり、一歩前に出る俺。
凶悪な形に、歪んでいるであろう唇。
それに気付いた仁の眉間に、一瞬だけ深いシワが刻まれた。
いつもはおっとりしていて、穏やかな印象の彼だけれど、一旦ステージに上がると仁はまるで別人になる。
彼は俺に向かい、挑発するみたいにニヤリと笑って、片手を挙げてヒラヒラと振った。
『この位置を、奪えるもんなら奪ってみろよ』
そう言われた気がして、頭にカッと血が昇った。
彼の放つ圧倒的なスターオーラに気圧されそうになったけれど、今さら後には引けない。
マイクを強く握り直し、『アイドルの皆川 奏らしい演技』なんてモノすべて忘れて、本来仁が一人で歌うパートで彼の声に被せて全力で歌った。
だけど声量も歌唱力も、やっぱりまるでコイツには敵わなくて。
......完全なる、俺の敗北。
「下克上狙うには、まだちょっと早かったみたいだな。
......また、出直しておいで」
俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で、そっと耳元で囁かれた。
それから仁は余裕な感じでククッと楽しそうに笑い、俺と肩を組んだ。
情けなくて、悔しくて。
......だけど無理矢理また笑顔を作り、そっと拳を握り締めた。
それからもう一度客席に目をやってみたけれど、やっぱりあれはどう見ても千尋さんで。
しかも俺のイメージカラーである青ではなく、仁の赤いペンライトを手に握り、更には仁の写真のプリントされた団扇をぎゅっと胸に抱いている。
そしてこれが見間違いや幻覚などではなく、現実なのだと理解した瞬間。
......俺の中で何かが、プツンと切れた気がした。
なんで千尋さん、俺じゃなく仁の応援なんかしてるワケ?
......千尋さんまで、アイツを選ぶのかよ?
これまで圧し殺して来た、苛立ちと不満。
それらが一気に爆発し、俺の理性を吹き飛ばした。
ここからは本来ならば、仁のソロパートだ。
だから俺はバックダンサーとして、盛り上げ役に徹するだけ。
でも......ふざっけんな、千尋さんは俺だけを見てろよ!
リハーサルとは異なり、一歩前に出る俺。
凶悪な形に、歪んでいるであろう唇。
それに気付いた仁の眉間に、一瞬だけ深いシワが刻まれた。
いつもはおっとりしていて、穏やかな印象の彼だけれど、一旦ステージに上がると仁はまるで別人になる。
彼は俺に向かい、挑発するみたいにニヤリと笑って、片手を挙げてヒラヒラと振った。
『この位置を、奪えるもんなら奪ってみろよ』
そう言われた気がして、頭にカッと血が昇った。
彼の放つ圧倒的なスターオーラに気圧されそうになったけれど、今さら後には引けない。
マイクを強く握り直し、『アイドルの皆川 奏らしい演技』なんてモノすべて忘れて、本来仁が一人で歌うパートで彼の声に被せて全力で歌った。
だけど声量も歌唱力も、やっぱりまるでコイツには敵わなくて。
......完全なる、俺の敗北。
「下克上狙うには、まだちょっと早かったみたいだな。
......また、出直しておいで」
俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で、そっと耳元で囁かれた。
それから仁は余裕な感じでククッと楽しそうに笑い、俺と肩を組んだ。
情けなくて、悔しくて。
......だけど無理矢理また笑顔を作り、そっと拳を握り締めた。
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