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27話 ちょっと意地悪
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「えっと、赤坂くんのお母……さん? お姉さんじゃなくて? いやでも、家庭調査表にはお兄さんの名前しか……あれぇ? っていったい何歳……」
和野先生は母さんを見ると困惑しながら小さい声でブツブツと呟いているけど、それはバッチリ僕達に聞こえていた。
「はい。拓真の母です。29歳です」
「に、にじゅうきゅっ!? わ、私とほとんど変わらないで高校生の息子さん!? え、待って。ってことは」
ちょっと和野先生、そういう逆算をするのはダメだと思うよ?
「先生、母さんは確かに母さんですけど、二人目の母さんです。父が再婚したので」
「え……あ、あぁ! そういうこと!」
「です」
「そっかそっか。やっと納得できたよ。それじゃあ三者面談を始めますね。えっと、まずお義母さん──」
そしてやっと始まる僕の三者面談。なのにちょいちょい料理が得意だとか貯金はたくさんあるとか、実家は金持ちだとか自分の自慢を挟んでくるのはどうしてなんだろう? そしてさっきから先生の母さんを呼ぶ呼び方に違和感を感じるのはなんでだろう。
「ではこれで三者面談を終わりますね」
「先生、ありがとうございました」
「いえいえ。私もお家での赤坂くんの様子が聞けて嬉しかったですし」
「それはアタシもです。学校での拓真は……家とまったく変わらない事がわかりました。ただ一つ聞きたいんですけど、この子……モテますか?」
母さん? いきなり何聞いてるの? この人にソレ聞いたらダメだって。
「はい、モテます。私が知っているだけで四人の女子がいつも周囲にいます。そのなかでもオススメは一番歳上の人ですね。包容力もあって経済力も見込めますので、お義母さんからもオススメしてくれたら」
ほらね。ねぇそれ先生のことだよね? そうだよね? 真顔で何言ってるのかな? まず先生は女子じゃないよね。 あと、先生以外の三人って渡瀬さん、藤宮さん、奈央ちゃんのことだよね? 言っておくけど別にモテてないからね? 彼氏のフリしてるだけだからね? そこちょっと勘違いしないで欲しいんだけど。
「四人も! ちょっと拓真、アンタやるじゃない。もう全員モノにしちゃったら?」
「無理だよ嫌だよ誰も好きじゃないし」
「はぅ……っ!」
ほら、もういいから出ようよ。終わったんだからさ。あ、でも彩音さんに誤解されてる問題はどうしよう。渡瀬さんとホテルなんて行ってないのに。行くつもりも予定も無いのに。廊下に出たらどんな目で見られるか不安だなぁ。睨み視線の波動で体ごと吹っ飛ばされたりしないよね? 大丈夫だよね?
「「ありがとうございました」」
母さんと二人でお辞儀をして進路指導室を出ると、渡瀬母がすぐに足早に僕の目の前に来て手を振り上げた。そして──
パンッ
と僕の頬が叩かれた。避けることは簡単だったけど敢えて叩かせてあげた。
母さんは何も言わない。ただ見てるだけ。
渡瀬さんは驚いたよう顔をして少し腰を浮かせ、彩音さんはそんな渡瀬さんをじっと見つめてる。良かった。僕は睨まれなかった。
「私達の娘にいったいなにをしたの」
「美織さんはなんて言ってましたか?」
「そんなことはしてないって言っていたわ!」
「それは嘘ですね。今朝も朝から一緒でした。だから美織さんは今ノーブラですよ」
「なっ!」
「ち、ちょっと拓真!? なにを言ってるの!?」
さすがに渡瀬さんも口を出してきたね。そして渡瀬母の目線は渡瀬さんに向かった。そして手を伸ばすと渡瀬さんの胸を触る。
「……本当に着けてない……。みーちゃんあなた……」
「あ、えっと……これは……」
胸元を手で押さえて後ろに下がる渡瀬さん。
「そんな……私達の娘なのにそんな……」
さすがにノーブラを確認したのは効いたのかな? さっきまでの過剰なまでの信頼が崩れてきたみたいだね。さて、僕の母さんを軽蔑の目で見たんだ。その報いは受けてもらうよ。
あとね? 確かにいつも頭おかしいことばかり言ってくるのは困るけど、それが無くなるのもちょっと最近つまらないんだよね。
だから……ちょっと意地悪するね。
「あれ? どうしたんですか? 信じてるんじゃないんですか? 心配いらないんじゃないですか? どうして自慢の娘さんが言ったことよりも僕が言ったことを信じてるんですか? なにか理由があって付け忘れたとか考えないんですか? あぁそうそう。さっきのホテルに行こうって言うのは嘘ですよ。行ったことなんてありませんし、まずなによりも特に好意も持ってないので。あまりにもあなたが美織さんを見ようしないので嘘をつきました」
「な、な、な……」
「ただ信じるだけでその本人を見ないから言ってる言葉の真偽がわからないんですよ。あなたはさっき僕の母を馬鹿にしましたよね? 自分が産んだかどうかなんて関係ないんですよ。確かに血はつながっていませんが、母さんは僕の母さんです。話をすれば目を見て聞いてくれて、悪いことをすれば怒られも殴られもします。良いことをすれば褒めてもくれます。そして、僕の為に泣いてもくれます。あなたの【信じる】はただの無関心と一緒なんですよ。ただ見るだけでその中を覗こうとしない。ペットでも飼ってるつもりなんですか?」
「そ、そんなつもりは……」
「ありますよね? さっき見てて思いましたが、返事がなくても話し続け、それに何も感じてない。あなたが見ているのは結局、【私達の子供】じゃなくて、【子供育てて偉い自分】なんですよ。そんな人を僕は──母親とは認めない」
「……っ!」
ふぅ、久しぶりにたくさん喋った気がするなぁ。後でのど飴舐めないと。
というか渡瀬家って今から面談なんだよね。終わってから言えば良かったかな? けどまぁいっか。早く帰って本屋行かないと。今日は毎月買ってるプラモデル雑誌と月刊誌の発売日だし。帰ろ帰ろ。
「あ……拓真……」
「ん? 何?」
渡瀬さんどうしたんだろう。彩音さんも。二人とも顔が真っ赤だね。さすがに自分の母親がいろいろ文句言われて恥ずかしかったのかな?
「な、なんでも……ない……」
「そう? じゃあ僕は帰るね」
僕は少し先で待っててくれていた母さんの元に行くと、一緒に歩き出した。
「拓真」
「なに?」
「アタシは拓真の将来が心配になってきたよ」
「なんで?」
「いつか刺されそうだなぁって」
なんて不穏な事を言うんだこの母親は。
和野先生は母さんを見ると困惑しながら小さい声でブツブツと呟いているけど、それはバッチリ僕達に聞こえていた。
「はい。拓真の母です。29歳です」
「に、にじゅうきゅっ!? わ、私とほとんど変わらないで高校生の息子さん!? え、待って。ってことは」
ちょっと和野先生、そういう逆算をするのはダメだと思うよ?
「先生、母さんは確かに母さんですけど、二人目の母さんです。父が再婚したので」
「え……あ、あぁ! そういうこと!」
「です」
「そっかそっか。やっと納得できたよ。それじゃあ三者面談を始めますね。えっと、まずお義母さん──」
そしてやっと始まる僕の三者面談。なのにちょいちょい料理が得意だとか貯金はたくさんあるとか、実家は金持ちだとか自分の自慢を挟んでくるのはどうしてなんだろう? そしてさっきから先生の母さんを呼ぶ呼び方に違和感を感じるのはなんでだろう。
「ではこれで三者面談を終わりますね」
「先生、ありがとうございました」
「いえいえ。私もお家での赤坂くんの様子が聞けて嬉しかったですし」
「それはアタシもです。学校での拓真は……家とまったく変わらない事がわかりました。ただ一つ聞きたいんですけど、この子……モテますか?」
母さん? いきなり何聞いてるの? この人にソレ聞いたらダメだって。
「はい、モテます。私が知っているだけで四人の女子がいつも周囲にいます。そのなかでもオススメは一番歳上の人ですね。包容力もあって経済力も見込めますので、お義母さんからもオススメしてくれたら」
ほらね。ねぇそれ先生のことだよね? そうだよね? 真顔で何言ってるのかな? まず先生は女子じゃないよね。 あと、先生以外の三人って渡瀬さん、藤宮さん、奈央ちゃんのことだよね? 言っておくけど別にモテてないからね? 彼氏のフリしてるだけだからね? そこちょっと勘違いしないで欲しいんだけど。
「四人も! ちょっと拓真、アンタやるじゃない。もう全員モノにしちゃったら?」
「無理だよ嫌だよ誰も好きじゃないし」
「はぅ……っ!」
ほら、もういいから出ようよ。終わったんだからさ。あ、でも彩音さんに誤解されてる問題はどうしよう。渡瀬さんとホテルなんて行ってないのに。行くつもりも予定も無いのに。廊下に出たらどんな目で見られるか不安だなぁ。睨み視線の波動で体ごと吹っ飛ばされたりしないよね? 大丈夫だよね?
「「ありがとうございました」」
母さんと二人でお辞儀をして進路指導室を出ると、渡瀬母がすぐに足早に僕の目の前に来て手を振り上げた。そして──
パンッ
と僕の頬が叩かれた。避けることは簡単だったけど敢えて叩かせてあげた。
母さんは何も言わない。ただ見てるだけ。
渡瀬さんは驚いたよう顔をして少し腰を浮かせ、彩音さんはそんな渡瀬さんをじっと見つめてる。良かった。僕は睨まれなかった。
「私達の娘にいったいなにをしたの」
「美織さんはなんて言ってましたか?」
「そんなことはしてないって言っていたわ!」
「それは嘘ですね。今朝も朝から一緒でした。だから美織さんは今ノーブラですよ」
「なっ!」
「ち、ちょっと拓真!? なにを言ってるの!?」
さすがに渡瀬さんも口を出してきたね。そして渡瀬母の目線は渡瀬さんに向かった。そして手を伸ばすと渡瀬さんの胸を触る。
「……本当に着けてない……。みーちゃんあなた……」
「あ、えっと……これは……」
胸元を手で押さえて後ろに下がる渡瀬さん。
「そんな……私達の娘なのにそんな……」
さすがにノーブラを確認したのは効いたのかな? さっきまでの過剰なまでの信頼が崩れてきたみたいだね。さて、僕の母さんを軽蔑の目で見たんだ。その報いは受けてもらうよ。
あとね? 確かにいつも頭おかしいことばかり言ってくるのは困るけど、それが無くなるのもちょっと最近つまらないんだよね。
だから……ちょっと意地悪するね。
「あれ? どうしたんですか? 信じてるんじゃないんですか? 心配いらないんじゃないですか? どうして自慢の娘さんが言ったことよりも僕が言ったことを信じてるんですか? なにか理由があって付け忘れたとか考えないんですか? あぁそうそう。さっきのホテルに行こうって言うのは嘘ですよ。行ったことなんてありませんし、まずなによりも特に好意も持ってないので。あまりにもあなたが美織さんを見ようしないので嘘をつきました」
「な、な、な……」
「ただ信じるだけでその本人を見ないから言ってる言葉の真偽がわからないんですよ。あなたはさっき僕の母を馬鹿にしましたよね? 自分が産んだかどうかなんて関係ないんですよ。確かに血はつながっていませんが、母さんは僕の母さんです。話をすれば目を見て聞いてくれて、悪いことをすれば怒られも殴られもします。良いことをすれば褒めてもくれます。そして、僕の為に泣いてもくれます。あなたの【信じる】はただの無関心と一緒なんですよ。ただ見るだけでその中を覗こうとしない。ペットでも飼ってるつもりなんですか?」
「そ、そんなつもりは……」
「ありますよね? さっき見てて思いましたが、返事がなくても話し続け、それに何も感じてない。あなたが見ているのは結局、【私達の子供】じゃなくて、【子供育てて偉い自分】なんですよ。そんな人を僕は──母親とは認めない」
「……っ!」
ふぅ、久しぶりにたくさん喋った気がするなぁ。後でのど飴舐めないと。
というか渡瀬家って今から面談なんだよね。終わってから言えば良かったかな? けどまぁいっか。早く帰って本屋行かないと。今日は毎月買ってるプラモデル雑誌と月刊誌の発売日だし。帰ろ帰ろ。
「あ……拓真……」
「ん? 何?」
渡瀬さんどうしたんだろう。彩音さんも。二人とも顔が真っ赤だね。さすがに自分の母親がいろいろ文句言われて恥ずかしかったのかな?
「な、なんでも……ない……」
「そう? じゃあ僕は帰るね」
僕は少し先で待っててくれていた母さんの元に行くと、一緒に歩き出した。
「拓真」
「なに?」
「アタシは拓真の将来が心配になってきたよ」
「なんで?」
「いつか刺されそうだなぁって」
なんて不穏な事を言うんだこの母親は。
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