孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

120.孤独の魔女と陽光のバカンス

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学術国家コルスコルピ、その中心地はディオスクロア大学園など知識の殿堂揃うまさしく叡智の都と言えるものだ、それ故に他国からはコルスコルピはお硬く 皆勉強ばかりしている国とばかり思われている

だが、違う コルスコルピの本質は溢れる叡智や勉強などではない、コルスコルピが尊ぶのは『伝承』、古来より続く伝統を守り伝え続けることにある

それ故に中央都市以外の街並みはかなり古い様式での生活をする者達が多く、便利な道具に頼らず昔ながらの方法で生きる古村も多く存在する

コルスコルピの端 大陸の外側に位置する海岸沿いの村がある、名をデルフィーノ漁村 元々は小さく細々と海で古来より伝統の方法で漁を行う小さな古村だったのだが

この地方の領主が代替わりしたこの村は大きな転機を迎えることになる、新たに領主の座に就いた男はディオスクロア大学園で出会ったデルセクトのとある緑髪の王と知り合った際 衝撃を受けた

それはその王の国では昔ながらの光景を観光地にしていると言うではないか、古い…それはただそれだけで価値がある 見にくる者は多くいる、そしてそれは金になり 金は領地の力になる

感銘を受けた領主は数年デルセクトで商人として働き 留学の末領主に就任、その後 自らの領地に大改革を齎した

それは伝統的風景の観光地化、そこで目をつけたのがデルフィーノ漁村だったのだ

あそこはここら近辺では特に変わった風習を持っているし、何より海が綺麗だ これは見世物になると踏んだ領主は村長と話をつけてデルフィーノ村近辺を観光地に改造

冒険者や貴族が道楽に訪れた羽を休めることができるように豪華な宿泊施設を作り 村の伝統料理を出せる店を援助し 伝統衣装や装飾を売り物として販売、他にも世界各地で観光地と言われる場所を模倣し次々と肥大化させていった

お陰で村を訪れる人間は増え さびれて消えていくだけの村に今一度活力の炎が灯った、中には伝統を売り物にするなどけしからんと怒る者もいたが

これを言っては元も子もないのかもしれないが、はっきり言って伝統だけではやっていけない いくら海で魚を捕ると言っても年中海に出れるわけではない、老年の村長はかつて経験した不作による大飢饉の経験から村に蓄えを残せるようにと強引に観光地化を推し進め 今のリゾート地デルフィーノ村があるのだ


そりゃ、周りの村々からは色気を出して金を求めた厭らしい村と白い目で見られるが、そうは言っても例年多くの貴族達が訪れ村に力を貸してくれるようになった現状を顧みれば 結局は観光地化してよかったとも言える



観光地 デルフィーノ村、美しい海と白亜の砂浜 古の伝統を肌で感じることが出来る歴史の秘宝、今の世の忙しさに辟易したなら 一度は訪れ羽を休めるのも良いものか……


そんな村に エリス達は今日訪れる事になった、事の発端は魔女アルクトゥルス様の提案…レグルス師匠とアルクトゥルス様が付き添い四人の弟子達をこのデルフィーノ村へと連れて行ってくれるというのだ

せっかくの長期休暇、家でただただ漠然と過ごすのは勿体無いとエリス達は二つ返事でこのデルフィーノ村へと出かける事になった

師匠曰く 期間は凡そ一ヶ月、レグルス師匠はずっといるが アルクトゥルス様は仕事があるので午前中か午後のどちらかしかいないらしい、エリス達はフォーマルハウト様の持つ別荘で過ごす…

そうと決まれば早速移動だ、エリス達はみんなスーツケースをそれぞれ一つ持ち移動を開始する、…けど どうやって移動するのだろう

なんて思ってたら、アルクトゥルス様曰く『抱えて連れて行く』…とのこと

つまり移動法は単純 魔女様達がエリス達を抱えてすっ飛ぶ それだけ、ややこしいことなんて何もない

アルクトゥルス様がエリスとラグナを レグルス師匠がメルクさんとデティを、確かに魔女様が抱えて移動すれば直ぐにデルフィーノ村へたどり着くことが出来るな、結果だけを言うなればね


超高速で移動する魔女に掴まれての移動、楽な訳がない 時間すれば凡そ数分の出来事だが体感で言えば数日くらいの濃度があると言ってもいい、目まぐるしく変わる風景と感じたこともないような風圧

エリス達はデルフィーノ村に到着する頃には、揃ってゲェーを吐いてた、そう言えば魔女様達は『朝食は抜いておけよ』と言っていたが これが理由が…

ともあれ到着だ、デルフィーノ村 十分そこそこ休憩したエリス達は自分達が小高い丘の上にいる事に気がつく、そして 丘の下…そう 視界を埋め尽くすその景色にも また気がついた

「これが…デルフィーノ村」

「やっと着いたか」

「くぅ~疲れた!そして到着!」

「白い砂浜…蒼い海…これが!海!海かーっ!」

エリス達は並んで丘に立ち 目の前に広がる巨大な蒼玉のような海を見る、美しい ただ海として存在するだけなのに

何故こんなにも綺麗なのか …、この世界にもしも至高の芸術家がいるとするならばそれは太陽だろう

陽光を反射する砂浜と輝く海、煌めく太陽がその美しさ全てを際立たせている…ああ 見ているだけでうっとりしそうです

「そういえばラグナとデティは海を見るのは初めてでしたね」

「メルクさんはあるのか?」

「港町で事件を解決したことがあるからな、だが その時はこんな風に海の美しさを感じる暇なんか無かったからな、衝撃は君達と同じだよ」

ヘットの時か それとも港町で見ていたか そういえばクルーズも経験していたな、どちらも仕事で尚且つこんな風に純粋に景色を楽しむ暇はなかったからな、みんな 海に負けないくらい目をキラキラさせている

「おいおい、お前らは海を見に来たんじゃないぜ?、海に遊びに来たんだ 景色程度で満足すんなよ?」

いつのまにかサングラスをかけラフな格好に着替えたアルクトゥルス様がニタリと笑う、この人付き添いに来た割にはめっちゃ楽しむ格好をしているな

「海が美しい時間は限られる、お前達 早く遊びに行って来なさい」

師匠はいつもの格好だが、心なしかやや表情が軽い …師匠も楽しんで…って

「師匠達はいかないんですか?」

「ああ、私達は先にフォーマルハウトの別荘に行っているよ、彼女が貸してくれた別荘とはいえ借り物だ 屋敷の主に変わり暫く使わせてもらうんだから、挨拶がてら先に様子を見てくる」

「それにオレ様達がお前らに混ざって遊ぶわけにはいかねぇからな、若いのは若いのだけで遊んできな」

「いいんですか?」

「いいってお前らもうお守りの必要なガキじゃねぇだろ、おら とっとといけ!」

目を見合わせるラグナとエリス デティとメルクさん、行けって…行くか?でも確かにもうエリス達は大人とは言えないものの子供でもない…と自分では思っている、それになんだかこの四人でならなんでも出来る気がしてくる

行くか?遊びに?とラグナが目配せする

行こう!遊びに!とデティが目を輝かせる

行くか、遊びにとメルクさんが目を伏せ微笑む

じゃあ 行こっか、遊びに!

「よっしゃー!久々に遊ぶぞーっ!」

「あ!ずるいラグナ!私も行く!」

「いくら観光と遊びが目的だとは言えだからと我等の肩書きを忘れては…っておい聞け!」

「行きましょう、メルクさん」

ピョーンと丘を飛び降りるラグナに慌ててついて行くデティとそれを諌めるようにため息をつくメルクさん、そしてそんな彼女を連れて行くエリス…、四人の観光が 一夏の思い出が始まる

「行ったな」

「ああ、行ったな 呑気にも」

「じゃあ私達は私達で準備を始めるか」

「おう、地獄の前に天国見せとかなきゃなぁ」

そんな四人の背中を見る二人の魔女は 暗い木影の中…鋭く 歯を見せ笑うのであった

…………………………………………………………………………………………


「ようこそ~、デルフィーノ村へ~」

エリス達がデルフィーノ村の入り口に着くなり 村の入り口に待機していた二人の女性に歓待される、変わった衣装だ 葉や花を使い作られた民族的な衣装と見慣れない花で作られた冠…なんとも陽気なスタイルだ、今は夏なので気候が比較的暖かいが 年中あんな格好してるなら寒いんじゃないのか?それとも時期によって変えるのか?

「上から見た時も思ったが、すごい場所だな…村ってより 本当にリゾート地って感じというか」

ラグナがデルフィーノの有様を見てほうと息を吐く、蒼い海をバッグに木で建てられ分厚い藁を乗せた独特な民家が軒を連ね、中には海の上に建てられた家も存在する、街を繋ぐ道は全て白い木で作られ ところどころに生えたヤシの木が雰囲気を醸す

観光地化に当たって村を改造したからか、必要以上にリゾートとしての側面が強いな

「凄いねぇ!凄いねぇ!私こんなところに来るの初めてー!」

「私もだ、確かにこんな素晴らしいところがあれば私もリゾート地に作り変えるかもな」

「おい、店が沢山あるぞ!行こう!」

「ラグナ、ワクワクしてますね」

いつもは努めて冷静であろうする彼も 目の前の光景に当てられたのか、ウズウズしながら村へと足を踏み入れる、まぁエリスもワクワクしてるんですがね?みんながいなければ踊り出しそうなくらいには

「しかし、この村 衣装というか服というか、着ている物が独特ですね」

さっき村の入り口で出迎えてくれた人同様、みんな葉や花をあしらった原始的な格好をしている、コルスコルピは昔ながらの伝統を重んじる国故 こういう衣装的なものも昔ながらの製法で作られた物を着る場合が多いらしい…それ故か、なんかとても新鮮というか 別世界に来たみたいだ

「なんか、カロケリのみんなを思い出すな」

「確かにそうですね」

「ここの村の人達はデルフィーノの景観を保つ為に態とああいう格好をして外を歩いているらしいぞ、裏じゃ普通に服を着ているそうだ」

「身も蓋もないですよメルクさん…、というかやけに詳しいですね」

「これに書いてあった」

そう言って目の端をキラリと輝かせ取り出すのはこの村のガイドブッグ…いつの間に買ったんだそんなもの

「ねぇみんな!私あれ着てみたい!」

「あれって、デルフィーノの伝統衣装ですか?」

「うん!というかこの村暑いから 涼しい格好したい!」

「この本によれば、衣装の貸し出しもしているみたいだぞ?、いつまでも堅苦しい格好をしているのもなんだ、着替えるか?」

「いいねぇ、じゃあ着替えてくるか」

なんて言ってるうちに服屋が目に入る、みんなが着替えるならエリスも着替えようかな 、デティの意見でとりあえず着替えることが決まったエリス達はみんなで浮き足立ちながら脇道へ逸れて服屋へ駆け込む

「いらっしゃいませ~、おや?皆さん観光の方ですか?」

「はい、衣装が借りられるって聞いたんですけど」

「それではこちらへどう~ぞ~」

店員さんもニコニコだ、陽気な太陽と同じくらい明るく暖かい、店員さんの手で促されフラフラ連れて行かれるのは試着室…、当然ながら男女で別れているので、エリス達は適当な衣装を手に取り分けられた個室へと入る

…こうやって手に取ってみると分かるが、これ本物の草だ、こんなので体隠せるの?なんかの拍子に その…出ちゃわない?大丈夫かな

なんて気にしながらスルスルと服を脱ぐ、暖かいと言っても服を着てなければやや肌寒い、慌てて衣装を着込む、ティーリーフスカートと言うらしいそれを体につけると…

やはり寒い、と言うかこれ 肌晒し過ぎでは…お腹とか丸見えだし、は 恥ずかしい…、みんなと居ると言う高揚感に騙されたが、よくよく考えればエリス一人だと絶対にこんな格好しないな

「それに…胸元もややきついですし、サイズを間違えましたかね」

エリスの把握しているサイズよりも大きくなったか?…成長は止まったと思ったんですけど それでも大きくなるものは大きくなりますね、そう感じながらきつく紐を縛り 着ていた服を綺麗に畳んで個室を出る、…エリスが一番乗りか

なんて思っていると個室の扉が勢いよく開けられ

「ジャーン!あ!エリスちゃん!」

「デティ!、似合ってますね」

「でしょー!、可愛いでしょー!」

デティはエリスと違い花を多くあしらった衣装だ、胸元にもスカートにも花 頭にも花、その小さな容姿も相まってまるで陽気な花の妖精のようだ、可愛らしい

「とっても可愛いですよ」

「えへへ、唯一不満点があるとするなら最初エリスちゃんと同じサイズ取ったらブカブカで…仕方なく子供用の衣装使ったって点かな、ハハハ…」

己の小ささに急に暗くなるデティ、なるほど それ子供用か…エリスと同じ歳と言ってもデティの小ささじゃ仕方ない気もするが、本人はやはり身長のことをめちゃくちゃ気にしてるようだから言わないけど

「エリスちゃんいいなぁ、セクシーで」

「せ セクシーですか?、あんまりお腹見ないでください」

「いーじゃんくびれてて綺麗だよ?ほらほら」

「さ 触らないで…くすぐったいです」

ツンツンデティに脇腹を突っつかれていると、もう一つの個室の扉が開く、男性用の方だ つまり…ラグナ!

「お、みんな完璧に着替えてるな、どうよ 俺の服」

へへへと笑うラグナ、ラグナもエリスと同じような服や何かの骨のアクセサリーをあしらった服を着ているが、それが様になっている …普段から鍛えているからか、平均以上に鍛えられた筋肉に目がいく

…けど、思えばエリス半裸のラグナ結構見てるな、朝稽古の時とか基本ラグナは上半身裸だし、この間の火事の時も上裸だったし、いつも上裸な気がしてきた

「ラグナ なんか戦士みたい」

「まぁアルクカースの人間だからな、国民全員戦士みたいなもんよ、俺も含めてな」

「それにしちゃムキムキな気がするけど…エリスちゃん?何顔赤くしてるの?」

「えぇっ!?エリス顔赤いですか!?」

おかしいな、見慣れてるはずなのに 思えばほっぺも熱いような、あうう…

「え エリス!?大丈夫かそんな格好っ!肌出し過ぎじゃないか!?、殆ど裸じゃないか!」

「裸って言わないでくださいよ!、ラグナも殆ど裸じゃないですか!」

「こう言う衣装だろ!?」

「あーはいはい、イチャイチャしないでくださいねー…というかメルクさん遅いね」

イチャイチャって別に…!、…いや でも確かにメルクさん遅いな、あの人いつもあっという間に着替えるのに、あの人に限って着替えに手間取るということはあるまい

「メルクさん、大丈夫ですか?手伝いますか?」

「だだ!大丈夫!大丈夫だ!、だから入らないでくれ!」

拒否されてしまった、女同士でも気になるのかな…でももうこの際裸みたいな衣装なんだから、気にすることはない気がする、と思った瞬間 メルクさんの個室の扉が開けられ 中からメルクさんがおずおずと出てくる

…が、その衣装は

「うぅ…見るな…」

「なんですか?その格好」

「なんかこの村の村長って感じだな」

「というかミノムシみたい」

首から下をもうもうとした葉で覆い デティの言うようにミノムシみたいなスタイルで外に出てくる、それ逆に暑くないか?、冬場の猟師が寒さをしのぐために似たような格好をするのはみたことあるけど、ここでそれする?

「いいだろう!私はこれでいいんだ!」

「暑いと思いますけど!」

「暑くない!…暑くなんかな!」

暑そうだ…、体の草をわさわさ揺らしながらきっぱり言うが、メルクさん それ鏡で見ましたか?明らかに変ですよ、まぁ本人がいいならいいですが、やはりメルクさん一人に衣装選びをさせたのは間違いだったか…

「しかし動きやすい格好だな、お 小物もあるみたいだぜ、これ借りようかな」

そういうとラグナは石と木で作られたこの村の伝統的な銛を手に取る…邪魔でしょうそれ…

「なんか長い棒を見ると反射的に手に取っちゃうんだよなぁ」

「ラグナは男の子ですね」

「ラグナは男の子だね」

「ラグナは男の子だな」

「そうだよ!男だよ!、くっ…魔女の弟子の女性比率が高い!」

「男ならアマルトがいるじゃないですか」

今 エリスが出会った事のある魔女の弟子は五人、うち三人が女性 そして男性がラグナとアマルトの二人だ、今のところ女性比率の方が優っている、聞いた話では夢見の魔女リゲル様の弟子 ネレイドさんも女性であるようだし、このままでは女性だらけになってしまうな、ラグナはさぞ肩身が狭かろう

「アマルトか…、アイツとも こんな風に遊びに来たりするようになるのかな」

アマルトとか…、今のままでは難しいだろう、彼の悪意と敵意を解かない限りエリス達は分かり合えない、今は対立してるけど…最終目標としてはエリス達と彼が和解するところにある

「大丈夫ですよ、アマルトとも いつかこうやって海に来ましょう」

「嫌がりそう」

「嫌がっても引っ張って連れて来ましょう」

「その為にも、我等も学園で頑張らねばな…、ガニメデという一角を潰したのだ、長期休暇が明ければ 再び戦いの日が続くだろう」

「そうですね」

謀らずして真面目な空気になってしまった、平和な学園生活を捨てたのはエリス達の行いだ 後悔はない、これからのことを考えるならアマルトと激突するのは必然にして必須、だが 苦しい戦いが続くだろうな…

陽気な雰囲気に似合わず真面目な顔で佇むエリス達、楽しむ空気ではなくなってしまったかに思えた瞬間、…地を揺らす轟音が轟きエリス達は驚き顔を上げる

「な なんの音ですか!?」

「わ 悪い、腹が鳴った」

「ラグナお腹にライオンでも飼ってるのー!?」

「そういえば朝飯も食ってなかったな、ラグナの腹の魔獣が暴れる前に飯でも食いにいくか」

「よっしゃー!食うぞー!」

ラグナのおかげか、或いは腹の虫のおかげか 再び陽気な雰囲気が漂いエリス達は店を出る、この村にはこの村特有の伝統料理があると言うし 今から楽しみだ

…そう、立ち去るエリス達、店の中 誰もいなくなり寂しくなった静かな店の中






…虚空に、パチリと目が映る

「おいおい、どういう事だよ、なんでこの村に魔女の弟子が四人もいんだよ、アインの奴 自分に魔女の弟子の処理は任せろって言ってたろうが…」

虚空に映った目は忌々しげに目を細める

「だが 案外ちょうどいいかもしれねぇな、ここらで一丁手柄あげて 俺のNo.を引き上げるのも悪くねぇかもしれねぇ、コフもいなくなった事だしな…そろそろ俺のNo.を9から上へ上げる時が来たのかもしれない…くくく」

ニタリと笑う目は、そのまま虚空に溶けるように消えて行く、この村に 暗雲を齎しながら

………………………………………………………………

フォークが皿を叩く 空の皿が既に空けられた皿の上に乗りこれまた音を立てる、香ばしい匂いと芳しい香り、エリス達はテーブルに並べられた料理を前に舌鼓を打つ

「美味しいですねぇ!これ!」

「あれも魚これも魚、海にこんなにもご馳走があるとは驚きだ」

「おいひいぃ~」

エリス達はあれからこの街で一番大きな食事処へ足を運んでいた、この村…元々漁村であったこともありメニューは海産物がメインだ

魚の塩漬けとか水に貝が浮いたようなスープなど野暮ったいものを想像していたが

出て来たのはこれまぁご馳走の数々、こーんなに大きな魚を丸々香草と海水で蒸し焼いた料理、大ぶりのムール貝をワインで茹でたもの、海藻のサラダ、肉や魚で和えたパスタなどなど、一つ一つを挙げ連ねればきりがないほどだ

「魚一つ 貝一つとってこんなにも沢山の料理があるなんて驚きですね」

「川魚とは違った味だな、特に すぐそこで獲り そのままキッチンへ直送だからな、味もまるで違う」

「お魚美味しいねぇ!美味しいねぇ!」

特にこの店の伝統的な風景もいい、木で編まれた家屋はただそれだけで雰囲気を醸し出し 大窓の外から覗く青の絶景、暗い小部屋でこの料理を食べてもこんなに美味しくはないだろう

ここだからこそこの味が楽しめ、ここだからこそこんなにも美味しいのだ

料理とは皿の上だけで完結するものではない、口にする空間も含めて 一つの料理なんだ、素晴らしい そう思いながらエリスは貝を一つしゃぶる、美味しい

「たひかに!内陸地じゃあ魚がすぐ腐っちまうから こんないい魚は食えないよな!、あ!お代わり!さっきのやつ全部で三つづつ!」

ラグナは一度に三枚の皿を空にしそれを別の皿に重ねる、ラグナの周りには空皿が塔のようにいくつも重なり、厨房はもうてんやわやの勢いで大回転だ、ラグナの胃袋のせいで店側が他の客の立ち入りを断るほどに

「ラグナすごい食べますね、分かってましたけど」

「朝から何にも食ってないからな、それになんか新鮮でさ」

「新鮮?確かにこの魚とっても新鮮ですよね」

「そうじゃなくてさ、なんて言うか こういう風に落ち着いた空間でみんなと出かけてこういう風に食事するのが新鮮で、楽しくてな」

だから腹も減るとラグナは次々と料理を食べて行く、魚は手掴みで骨ごと噛み砕き、貝なんか殻ごとバリボリ食べている、じょ…情緒もクソもない…、まぁ彼が楽しいならそれでいいですが

「これが一ヶ月間毎日食べられるなんて幸せなバカンスだねぇ」

「ええ、それに食べてなんとなく製法も分かったので、海魚が手に入れば家でもいつでも作れますよ」

「本当!?ラグナ!家に帰ってからも毎日海行って魚釣って来て!」

「無理だよ…授業あるし、家から海までどれだけ距離があると思ってんだ」

「じゃあ庭に海作ろう!」

「それは普通に池なのではないですか?」

「メルクさん!海買って!」

「海はみんなのものだからなぁ」

なんて話をしながら香草で蒸した魚の身を解し口に運ぶ、美味しいなあ…そういえばマレウスで出会ったヤゴロウさんという方が、拙者の祖国では魚を生の切り身にして食べるとか言っていたな

このくらい新鮮な魚なら案外…いや、いやいや でも生は怖いなぁ

シリウスやバシレウスは生で食うのが好きみたいだけど、あの人達とエリスの胃袋を一緒にしてはいけない、シリウスは言わずもがな バシレウスはドブネズミをそのまま口にしても平気な顔をしている胃袋を持ってるんだから

…バシレウスか、思考が二転三転して落ち着くのは彼の顔…あの悪魔のような恐ろしい男の笑顔、確か彼はエリスと同じ歳だったな、彼も一応王族 もしかしたらディオスクロア大学園に入学して来たり…

嫌だなぁ、もう会いたくないなぁ

「ん?、どうしたエリス 浮かない顔して…もう腹一杯なのか?」

「ラグナが食べ過ぎだから逆に食欲失せちゃったんじゃないのぉ?」

「え!?本当かエリス!ごめん直ぐに控えるよ…!」

「い いえいえ、そうじゃないんです、ただこう…旅の最中あった嫌なことを、ふと思い出してしまって、すみません 食事中に」

「いや構わんよ、どうだろうエリス よければその事、私達に話してはみないか?、いつぞやのように胸が軽くなるかもしれないぞ」

メルクさんの言ういつぞやとは デルセクトでの旅の最中のことか、あの時はメルクさんに胸の内を吐露して エリスも幾分胸が軽くなったな、…よし

「あの時のほどのことではないのですが、皆さんはバシレウス・ネビュラマキュラという男性を知ってますか?」

「バシレウス?知らないなぁ、俺は聞き覚えがない、デティは?」

「私はある気がするんだけど、どこで聞いたか思い出せないなぁ…聞いてないといえば聞いてないような、聞いたような」

「なんだそれは、お前達もう少し国外の王達に目を向けろ、バシレウスとは一年ほど前 マレウスの国王の座に就いた若き王だな?、会ったことはないが 聞けば千年に一度の才人と呼ばれているそうだ」

流石にメルクさんは知ってるか、マレウスは隣国だもんね

バシレウスは才人だ、魔術の腕も武術の腕も エリスを遥かに凌駕している、その上で底が見えない、しかし 才能よりもエリスは彼の人並み外れた部分に恐ろしさを感じる…あれは人の皮を被った別の生き物だ

「年齢的にはエリスやデティと同じ歳と聞いた、通称は蠱毒の魔王…魔女さえも超える王 という意味らしいぞ」

「若いな 俺が言えた事じゃないが…随分な人物であることは分かる、で?実際凄いやつなのか?」

「凄いです というより強いです、もし 今ここでバシレウスとエリスが戦っても勝負にならないでしょう、バシレウスの…無傷の圧勝で終わる、断言できます」

「そ…そんな強いのぉ、強すぎじゃない?そいつ魔女の弟子じゃないんでしょ?」

「へぇ、そんな強い奴がマレウスに…、戦り合ってみてぇな」

「やめてくれ、バシレウスもお前も一国の王だ 殴り合えばそれは即ち戦争だぞ、特にマレウスは魔女に対して強硬な姿勢を取っているし、バシレウスの治世になってそれは如実になっている…手を出すなよラグナ」

「分かってるよメルクさん、それで?その凄い奴がどうしたんだ?」

「はい、実は彼に求婚されまして」

刹那、バターンとラグナが椅子ごと倒れる、メルクさんもデティも目を丸くして次いで口を開け…

「えぇー!?エリスちゃん結婚申し込まれたの!?」

「ここに来てライバルの出現だと!熱いな!」

「え…え…エリスが…け…けけ…結婚……、終わった…」

デティがゲェーッと口を開きメルクさんが何やら熱い!熱すぎるぞ!と目を輝かせ、ラグナは倒れたまま死にかけの虫のように手足をヒクヒク痙攣させている、結婚?ふざけないでほしい 

「結婚なんかしませんよ!あんな奴と!…」

「あんな奴?、嫌な奴なのか?」

「はい、いきなりエリスの手を掴んで頬を舐めてお前を嫁にするって…、抵抗しても力で捩じ伏せでエリスは危うく無理矢理結婚させられるところだったんです」

「力尽くで!?サイテー!」

「人格に難ありと聞いていたが…そうか…」

「…なんだと?」

するとラグナが立ち上がる、その目は先程までの力ない目ではない…激怒に彩られた鋭い目、その目で射抜かれたエリスは恐怖と若干の胸の鼓動を覚えてしまう

「力尽くでエリスを引っ張ったのか、そいつ…!」

「はい、それでエリスに首輪をつけて…飼ってやると、あんな奴と結婚したら エリスは人として扱われないのは目に見えています」

刹那、歩き出したラグナの手をメルクさんが掴んで止める

「どこへ行くラグナ」

「…マレウス」

「落ち着け、今ここでお前が駆け出して何になる、今エリスはここにいる 無事でここにいるんだ、それでいいじゃないか」

「いい訳ないだろ!、そいつ…俺のエリスに 求婚したばかりか無理矢理物にしようとしたんだぞ!、何に手ぇだしたか分からせてやる」

ラグナはバシレウスの所に行く言うのだ、エリスに乱暴した事について怒っている ピエールの時以上に、だが彼をこのまま行かせれば マレウスとアルクカースは戦争をする事になる、いやもしかしたら魔女国家総てと非魔女国家総ての大戦争になる…それは防がなくては

それに、ラグナとバシレウスの激突…どっちが勝つかは分からないが、バシレウスの底知れなさ…もしかしたらラグナはバシレウスに殺されてしまうかも知れない、それは嫌だ とても嫌だ

「大丈夫ですよラグナ!エリスはあいつとなんか結婚しませんし…それに、エリスの為にラグナが傷つくのは嫌です…」

「それにお前はアルクカースとデルセクトの戦争を抑える為に王になったんだろう、そんなお前が大国同士の戦争を起こしてどうする!」

「…っーー、…はぁ ごめん 頭に血が上り過ぎた」

「いえ、いいんです…すみません エリスの為に」

「ああ、俺はお前のためならなんだってする、俺がお前を守る 全てから」

ラグナの目は真剣そのものだ、いつぞやの時語った、エリスを守る為に修行してきたという言葉 それはきっと、真実なのかもしれない…

…彼は優しいな、きっと誰にでも優しいのだろうな、何せ 彼は王だから…

「ありがとうございます、ラグナ」

「お…おう」

「はぁー!お腹いっぱい!」

「私も、もう入らん…皿も片付いたし、そろそろ出るか?」

「え?、あ…俺まで食えるが」

「ラグナは本当によく食べますね、お腹破裂しないんですか?」

「もうここ数年 満腹という感情を味わったことがないんだ、いくら食べてもお腹が空いてるというか…、偶に自分で自分が怖くなるよ」

エリス達も怖いよ、ラグナを野に放ったら山一つ禿山になりそうなくらい食欲旺盛だ、ラグナが国王という身分で良かったとさえ思う、こんなのが野生にいたらえらいことだった

なんて話も程々に、もうこれ以上食べたらこの店を閉めなきゃいけなくなると店長に泣きつかれたので食事は一旦やめにする、別荘に着いたらまた晩御飯が待ってるでしょうしね

その後エリス達は特にすることもなく、いや 特にすることもないという暇さを味わう為 あちこちの店をフラフラした、別に何かを買うわけじゃない

貝殻のペンダントがあれば綺麗だね とか

変わった土産物があれば これが欲しいとか

美味しそうな料理があればまだ食べたいとか

我が国でもこんなリゾート施設を作るのも良いかもな とか

なんでもない話をして村を回る、髄まで味わい尽くすように…そして行き着いたのは、海辺 砂浜だ…

「冷たーい!泳ぎたーい!」

「ダメですよデティ、この衣装借り物なんですから 水で汚したら悪いです」

「そっか、泳げるような服でもあればいいんだけどね」

「別荘にそういうものがあるだろうから、泳ぐのは明日にすればいい…まだまだここにいるんだからな」

そう話し込みながらエリス達は揃って砂浜に座り、足を波につける、冷たい…

そういえば、以前師匠と海に来た時は 師匠と一緒に海で遊んだなぁ、あの時はラグナとデティを海に連れて一緒に遊びたいと思っていたが、まさかその夢が叶いとは…

「ふふふ」

「ん?、どうしたんだ?エリス」

「いえ、皆さんと海に来たいと 旅の最中ずっと思っていたんで、夢が叶って嬉しいんです」

「そっか、…俺達もあんまり自由のある身じゃないからな、こうしてみんなで海に来れてること自体奇跡みたいなもんだ」

「だよねぇ、アジメクの魔術導皇 アルクカースの大王 デルセクトの同盟首長、それが揃って休みを取って 海で一日遊ぶなんて、今思えば凄いことだよね」

「巡り会わせてくれた魔女様に感謝だな」

「ですねぇ」

ぼやーっと海を見る、海は広い どこまでもどこまでも、見果てないほどに海は広がっている

今まで旅をしてきたカストリア大陸は とても広かったが、海は世界はそれよりもずっと広いんだ、きっと エリスの人生では見切れない程に、世界は広い…大陸の外にも ディオスクロア文明圏の外にも、エリスの全く知らない世界がある

…ただそう思うだけで、ワクワクしてしまう こんな綺麗な世界がどこまでも広がっている、なんだか嬉しいな エリスの知らないことがあるっていうのは

「みんな知ってるか?、…この海には海賊がいるらしいぞ」

「海賊ですか?メルクさん」

「ああ、それも世界一の大海賊 海魔ジャック・リバイアなる男がこの海を仕切ってるらしい」

ジャック・リバイア…聞いたことがある、確かマレウス付近の海からコルスコルピの海を縄張りにし、世界各地の海も彼の手中にあると言われている海賊の中の大海賊

この世界のどこかにいると言われる山賊達の王たる大山賊 山魔ベヒーリアと並び、海のジャック 陸のベヒーリアと呼ばれているらしい、山賊に良い思い出はないのでよくは思わないが

「海賊かぁ、怖いねぇ」

「…俺、昔海賊に憧れたことがあったなぁ」

ふと、ラグナがポツリと呟くと メルクさんが真っ先にくしゃりと顔をしかめる

「賊に憧れを持つのか?」

「そうじゃないよ、…賊になりたかったわけじゃない、たださ 生まれながらに王として王族として生きることを迫られていたからさ、…見果てぬ世界をただ旅をする海賊の話を聞いて、少し…なってみたいなと思ったこともあるだけさ」

「あ、それなんとなく分かるかもぉ!、王族って自由ないもんね 気楽に生きてる山賊や海賊をちょっと羨ましいって思っちゃうよねぇ…、まぁ 賊に身を落とした当人達からすれば 憤慨モノなんだろうけどさ」

「そうか…私には分からん感覚だが、それはきっと私が王族ではないからか…すまなかったなラグナ」

ラグナとデティは海を見る、仕事も使命も王族としての血も無ければ なんて…彼らとて考えたことがないわけではない、それでもその身を捨てずに戦うのは 彼等が何よりも強い責任感と、国を愛する愛国心を持ち得ているからに他ならない

だからメルクさん、そんな申し訳なさそうな顔しなくてもいいですよ、メルクさんもその心はきっと負けてませんから

「はぁ、…楽しいなぁ」

「ああ、楽しいな」

「またみんなでこうして遊びたいね」

「エリス達ならまた集まれますよ、まだ学園生活も長いですからね」

しばらく、何をするわけでもなくぼーっと海を眺める ただそれだけでも楽しい、偶に一言二言会話するのも楽しい、みんなと一緒に居られる事実だけが 今はただ嬉しい

だが、それでも時間は過ぎるもの だんだんと空が赤みを帯びて肌寒くなってきた、そろそろ戻らねば師匠達が心配するな

「もう時間が時間だな、そろそろ戻るか」

「別荘楽しみだね!フォーマルハウト様の別荘だもんね!、どんなかな!どんなかな!」

「あの方は居住空間は広ければ広いほど良いと思っている節があるからな、度肝抜くなよ」

「場所はエリスが聞いてるので案内しますね、村から外れない海辺にある大屋敷らしいですよ」

そう話し込みながら砂浜を歩く、このまままっすぐ歩いていけば 屋敷が見えてくるはずだ、ここらの砂浜はフォーマルハウト様のプライベートビーチらしいしね 

どんな屋敷なのか そう話を膨らませながら歩いていると、見えてくる 屋敷が…もうとんでもなくでかい、エリス達の住む屋敷の三倍くらいある、あれが別荘?まぁ別荘だろうな フォーマルハウト様の家は何と言ってもあの翡翠の塔、世界一大きな建造物なのだから

白い壁と赤い屋根のおしゃれな屋敷を見て息を巻いていると、ふと エリス達の前の砂浜に二つの影が立っているのが見える

…アルクトゥルス様とレグルス師匠だ、二人とも並んでビーチでエリス達を待っているんだ

「師匠!、すみません!お待たせしました」

「いやいいさ、それよりしっかり遊べたか?」

「はい!、師匠ともお出かけしたいです!」

「私ともか?、まぁ 構わんが」

「可愛い弟子じゃねぇか、ラグナもあれくらい愛嬌があったらなぁ」

「俺に愛嬌を求めないでくださいよ、…というか師範 こんな所で立って待ってたんですか?、別荘で待っていればいいのに」

「ん、ああいいんだ 今から用事があるからな」

用事?、とエリス達が首かしげていると…レグルス師匠は申し訳なさそうに溜息を吐き アルクトゥルス様はもうこれ以上ないくらいの笑みを浮かべる、な…なんだ…?用事?

「よ 用事があるならエリス達、先戻ってますね」

「待てエリス、オレ様が用事があるのはお前らにだ」

「俺達に?、師範 一体何考えてるんですか」

「何?何って決まってんだろうが」

するとアルクトゥルス様はどしんと一つ足をつくとともに腕を組んで…

「今から!!!特訓を始めんだよ!!!」

特訓 そういうのだ、特訓とは何か?決まってる、アルクトゥルス様達は師匠で エリス達は弟子だ、ならすることは決まってる、修行だ…今から?ここで?

「特訓!?今からですか!?しかも態々バカンスに来てまで…」

「何言ってんだよラグナ!バカンス?抜けたこと言ってんじゃねぇ!、これはバカンスじゃない!特訓!、いや 合宿に来たんだよ!お前ら!」
 
「ば バカンスじゃないんですか!?リゾートに遊びに来たのでは!?」

「ラグナ言ってたろ?オレ様の指導が恋しいって、学園の間は誰からも修行をつけてもらえてねぇからな、いくら第一段階の際まで来ててこれ以上修行しても一足跳びに強くなれないかと言っても、修行しなけりゃ弱くなる!」

その通りだ、エリス達では現状維持が精一杯…毎日師匠達の指導を思い出して修行していると言っても、エリス達の勘は緩やかに衰えている、もしエリスがマレウスでバリバリに戦ってる頃にガニメデと戦っていたら あんなにも苦戦しなかった

衰えている 鈍っている、エリス達は 間違いなく

「だからオレ様とレグルスのダブルコンビのタッグでお前ら修行しようってんだよ、鈍った分取り戻すためにな!」

「師匠とアルクトゥルス様が一緒に?…」

「そうだ、いやどちらかというと私ではなくアルクトゥルスがメインだ、この海を使って 肉体強化を主にしていくつもりだ、エリス お前も戦闘では体術を使うだろう?、ならアルクトゥルスからも得るものはあるはずだ」

「た…たしかに」

「そういうわけだ、お前ら 明日からオレ様が鍛えてやるから安心しろ、大丈夫 命の保証はしてやる、人権の保証はしねぇがな」

ひえ…なんて恐ろしい顔なんだ、一体何をさせられるんだエリスとラグナは…、するとエリスの後ろでおずおずとメルクさんとデティが離れていき

「た 大変だねエリスちゃん、私達先に別荘に戻ってるから」

「あ ああ、私達の師匠はフォーマルハウト様だけだからな、うん 先に戻ってる」

「何言ってんだメルク!デティ!テメェらもやんだよ、特訓」

「私達もー!?私の先生スピカ先生だけですよ!スピカ先生ここに居ないじゃないですかー!」

デティとメルクさんがギョギョと狼狽える、自分達の師匠は師匠だけ、他の誰からも指導を受けるつもりはないというのだ、まぁ気持ちは分かるが…

「大丈夫、スピカからは許可を得ている…むしろ歓迎されたよ、デティはいつまで立っても小さいままだから、この際思いっきり体を鍛えてくれとな」

「えぇー!?、私肉体派じゃないんだけどー!?」

「いいじゃねぇか、体鍛えりゃお前もオレ様みたいに筋骨隆々間違いなしだぜ!」

「筋肉いらなーい!」

「わ 私もですか?アルクトゥルス様」

「おう、メルク お前もだ、フォーマルハウトから許可も得ている」

「ですが私は元軍人!肉体面においてはデティと違い鍛えています!、今更肉体特訓など」

と言った瞬間アルクトゥルス様の手が一瞬ブレる、と共にメルクさんを覆う葉っぱの服が暴かれ 中から彼女の綺麗な肌が出てきて…

「きゃっ!!??」

「おいメルク…お前、これなんだ?」

「お…お腹…でしょうか?」

アルクトゥルス様はつまむ、メルクさんのお腹を…するとプニーッとメルクさんのお腹がだらしなく伸びる、引き締まっているように見えて 筋肉の上から贅肉が乗っているのだ、そういえばメルクさん 昔はもっと引き締まってたよな…

てっきり成長したものと思っていたが もしかして太った?、そうか…だから衣装を着替えて肉体を 腹を晒すのを躊躇ったのか、でも別にそんな出てるわけじゃないし 引き締まっているといえばまだまだ引き締まっているよ

「フォーマルハウトが言ってたぜ?、最近のお前はあちこちで会食をしてる割には机仕事が多くて体を動かしてねぇってな、別に悪いことじゃねぇが それが原因でデブってたらわけねぇぜ?」

「で デブ…っ!?」

「同盟首長たるもの美しくなくては、フォーマルハウトはいつも言ってんだろ?、お前もおとなしくオレ様の特訓受けて ダイエットしな」

「うぅ…うう!、情けない!己が!」

「メルクさん、十分引き締まってますよ」

「メルクさーん、私もお腹触っていい~?」

崩れ落ち嗚咽するメルクさんを放ってアルクトゥルス様はエリス達の前に立ち腕を組むと、エリス達四人の魔女の弟子を一望し 赤く染まった水平線と共に彼女は叫ぶ

「誰も文句はねぇな?」

「ありますよ!ありましたよ!」

「ではこれより 魔女の弟子肉体強化特訓を始める!」

「無視!」

「というか今からですか!?」

「今からも今から…地獄の特訓地獄だ!」

「地獄が二つ並んで最強に語感が悪い!」

エリス達の言葉を無視してアルクトゥルス様は続ける、今からって今もう日が暮れ始めているぞ、今からやったら夜になる そう師匠に訴えかけようとするが師匠は『諦めろ』と言わんばかりの表情だ

…弟子四人による争乱の魔女特訓、バカンスの皮を被った地獄の特訓が 幕を開けるのだ、今日 この日から

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