孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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六章 探求の魔女アンタレス

168.孤独の魔女と閉じられる幕

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「……………………」

あれだけ騒がしかったヴィスペルティリオも、まるで夢が終わったようにただただ静かに風が薙ぐばかり、瓦礫が砕けた砂塵が舞い散り ただただ凄惨な戦いの後だけが残る

そんなズタボロになった遺跡群の只中、一際酷い瓦礫の真ん中でエリスは立つ、既に魔力覚醒は閉じられ髪の光もコートの線も消えている、戦いが終わった安堵から 勝手に消えてしまった

まぁ、それはいい いいんだが…

「やはり残りませんでしたか」

目の前には風化した肉片、魔獣王の死体が灰のように朽ちて 今も風に吹かれ塵に消えている…、当然だ 魔獣王の核はエリスが撃ち抜きトドメを刺した、力の源であるコアを失えば アインは魔獣王としての力を維持できず 灰になって消えた

ただそれと同時に、アレクセイさんの肉体も消えてしまった…、魔獣王の肉体はアレクセイさんの肉体を元に作られている、それを倒せば あの遺体も消えてしまうことは明白だった目を背けていただけで ちゃんと理解はしていた

何処かで…、あいつを倒せば全部元どおりになると甘ったれていた自分がいたのだろうな

「せめて、埋葬してあげたかったんですがね」

灰の山を一握り掴みあげる、エリスがこんなに気にかけても本物のアレクセイさんはエリスのことなんか知らない、あの学園生活を過ごしたのはエリスを騙していたアインの方だ

けれども、エリスの記憶にある彼は…たとえ演技でも アレクセイさんだった、アレクセイこそがエリスの友だった、一方通行で独り善がりで思い込みも甚だしくとも、エリスは彼に友情を感じていたからこそ

もう亡くなっている彼に対して出来る唯一の弔いをしてあげたかったんだが、そうもいかないらしい

「……すみません、なんて 謝っても貴方には何のことかわからないでしょうけど、それでも謝らせてください」

アクロマティックの気まぐれにより奪われた命 、十年前に15歳の時に死んでいるから、本来生きていたなら今頃25歳くらいか…随分お兄さんだな

世の無常に命奪われた彼と 策謀の中にありながらエリスが出会えた事、ある意味奇跡とも取れる出会いに エリスは感謝します

「どうか…、安らかに」

掬い上げた灰を高く掲げれば アレクセイさんの灰は風に乗り消えていく、エリスを運んでくれる風 エリスと共にある風 相棒とも言える風に祈る

風よ、どうか彼を安住の場所へ…、もう誰かにその身を利用されることのない、ゆっくり眠れる場所へ 連れていってあげてください

「………………」

風に髪を揺らされながら静かに目を閉じる、…叶うなら 本物の貴方とも友達になりたかった、バーバラさんと一緒に 学園に通いたかった、貴方にも あの学園の景色を見せたかった

「………、では さようなら」

今度こそお別れだ、手の中に既に灰は無く 風が彼の一部を何処かへ連れていった、それが何処かは分からないが、分からなくていい …誰にも分からなくていいんだ

軽く礼をし別れを告げると共に踵を返す…

「エリス、終わったか?」

「ええ、ありがとうございます」

ふと、振り返るとラグナ達がいた…、ラグナ デティ メルクさん アマルトさん…、皆エリスの友達だ、…誰も欠け無くてよかった、出来るなら これからも欠けずに生きていきたい

彼らを守るために、エリスもまた強くなろう…

「これで全部終わり?、もう敵いない?」

「ああデティ、もう敵はいない これで終わりだ」

キョロキョロ見回すデティの頭をメルクさんが優しく撫でる、あの黒色の魔獣達がどうなったか分からないが、魔獣王の肉体が朽ちた以上 奴らもまた無事ではいまい、事実 争う音はどこからも聞こえてこないしね

「はぁーっ!、終わりかー!疲れたー!」

アマルトさんがその場に座り込み息をつく、彼も疲れたろうな エリスと戦い アイン達を相手に立ち回り、そのまま魔獣と連戦し 魔獣王との戦いだ、はっきり言って一番ハードな戦いをしてきたのは彼だ

それに、彼がいなければ勝てなかった…エリス達四人だけではきっと

「アマルトさん」

「あん?なんだよエリス」

「ありがとうございます、アマルトさんのお陰で助かりました、とっても頼りになりました」

「……へぇ」

アマルトさんは頭を下げるエリスを見て、何やら驚いたような 衝撃を受けたような顔で目を見開く、何か言いたかったようだが それさえも吹き飛び、口は一言 息を吐くばかりだ

「な なんでしょうかその顔、エリスがお礼を言うの、そんなに変ですか?

「…いや、ただ 何つーかさ、そんな風に礼を言われて 褒められたの初めてっつーか、むず痒いな これ」

褒められたのも礼を言われたのも初めてなのか、いや 彼は何をやっても当たり前の家で生きてきた、どんなに努力しても褒められない家で生きるうちに 何かをして褒められないことが当たり前になっていたんだ

そして、奮闘して 礼を言われるのも…、そんな環境で生きていたから…彼は

ふむ、と息を吐きラグナの方を見れば 彼も静かに頷く、デティもメルクさんもだ、心は同じか よし!

「…………」

「え?なに?、なんで俺無言で囲まれてんの?、何?怖いんだけど!」

「…………」

「なんか言ってぇ!?」

無言で取り囲む、四人で乙女のような悲鳴をあげるアマルトさんをぐるりと、逃すまい囲み そして、四人でアマルトさんに手を伸ばし

「アマルトさんは凄いですよ!あの剣技なかなか出来るものじゃありません!」

「お前って凄い頼りになるなぁ!、突っ込みがちな俺たちを纏めてくれて助かったぜ!」

「ああ、君のように冷静沈着な男がいたからこそ此度の勝利はあった、礼を言う」

「アマルトすごーい!いいこいいこー!」

「なんじゃお前らぁぁぁッッ!!??」

何って、ただ褒め殺してるだけですが?、四人で囲んでアマルトさんの事撫でまくってるだけだ、だってアマルトさんは頑張った、とても頑張った 

いろんな人達を守るために命をかけて、危険を顧みず戦い そして守り抜いた、褒められて当然のことをしたから褒めたまでだ、讃えられて当然のことをしたから讃えているんだ

「いきなりなんだよお前ら!急に変だぞ!!」

「変なことありませんよ、アマルトさんは頑張りましたから、褒められ讃えられることをしたから 褒めて讃えてるんです、当たり前のことですよ」

「だからってお前…こんなあからさまに」

「でもあからさまに褒められたほうが嬉しいだろ?」

「う……、まぁ 否定はしないけど、でも頭撫でるのはやめろよな、ガキじゃあるまいし」

またまたぁ、褒められ慣れてないからか エリス達の褒め言葉に何やら顔を真っ赤にしているアマルトさんは なんのかんの言いつつ抵抗はしない、うん 素直結構…素直なほうがいいよ、人間はきっと

そう思う、少なくともエリスは

「…あーあ、お前らといると…なんもかんもがバカらしくなってくら」

「馬鹿らしいですか?」

「ああ、悩んでるのも 捻くれてるのも馬鹿馬鹿しい、…あからさまに 分かりやすく か…、そうだなエリス」

「はい?」

するとアマルトさんは膝の土を払いながら立ち上がると 真摯な瞳でエリスのことを見据える、ジッと 真っ直ぐ…

「エリス、ちゃんともう一回 勇気振り絞って言うからさ、ちゃんと聞け…いや聞いてくれ」

「…はい」

「すぅー、はぁー…よし!」

そして その頭をエリスに向けて下げる、あの時下げなかった頭を 今度は勇気を振り絞って

「酷い目に合わせてすまなかった!、そしてありがとう…最後まで 本当に」

「…はい!」

呪いをかけたこと 苦しませたこと ノーブルズを使い虐げたこと、そして それでも助けてくれたこと 許してくれたこと、全てに対しての謝罪とお礼を、それをキチンと目を見て頭を下げて謝る

エリスとアマルトさんの決着とは、殴り合って甲乙をつけることではない、今までの出来事に精算をつけること、それは結局 こう言う形しか無い、許し許され それでいい…それはバーバラさんが教えてくれたこと

だから

「キチンと受け取りました、その言葉…」

「そっか…そっか、うう 明け透けに言われるのもはっきり言うのも恥ずいなぁ」

「でも大事なことですよ、とっても」

「…だな」

エリスは許した 全てを、謝られたから許した、謝って済む問題じゃないなんて言葉もあるけどさ、それは結局当人達が決めることだ

この場合はエリスとアマルトさん、だから 決める権利は二人にある、アマルトさんは謝罪した だからエリスもそれを真摯に受け止めることを選んだ、それで終わりなんだ 全部ね?

「これで、なんの遺恨も無し ですよね、アマルトさん」

「無しにしてくれるならな」

「じゃあ無しにしましょう、あれはもう昔のことです」

「懐デッケェな…」

「さてと、そろそろ要塞に戻るぞ?、要塞から魔獣の気配は感じんが それでも非常時であることに変わりはあるまいよ」

エリス達の会話に手を打って入りそろそろ移動を始めないかとメルクさんが言う、確かに 終わった感出してるけど、それはなんの損害もないと確定してからだ…無いとは思うが死人が出てる可能性もある

となれば喜ぶのはまだ早いのかもしれない

「ですね、では戻りましょうか、エリス達の学園に」

戦いを終え 歩き出すエリス達は、揃い学園へと歩みを進める

大いなるアルカナの幹部達による魔女の弟子掃討計画、悪魔のアインによって引き起こされたこの事件は ようやく終焉を迎えた、結果としてエリス達五人は力を合わせることも出来たし 万々歳だ

ラグナ デティ メルクさん アマルトさん、…そしてエリス 

「しっかし 今日はすげー大変な一日だったなぁ、強い奴とたくさん戦えて俺満足」

「ラグナってほんとバトルバカだよねぇ!、私大変だったんだよ!ねぇエリスちゃん聞いて!」

「ええ聞きますよデティ」

「そうだな、大変だった ちなみに私は一度死んだ」

「お前らなあ、…嬉々として話す内容じゃないだろ、ドン引きだわ」

カストリア大陸に存在する弟子全員が集結しての戦い、厳しくもあったが 嬉しくもあったな、カストリア五人組…ふふふ 独りぼっちだったエリスに、こんなにもたくさん 頼りになる友達が出来たとは

人生分かんないもんだなぁ、あの時崖から転落し足がへし折れながらも希望を信じて前へ進んだまだエリスになる前のエリスに教えてあげたい

頑張って生きたその先には、貴方の信じた希望がありますよ と

………………………………………………………………

エリス達が魔獣王を倒し 学園へ戻ると既にあの黒の魔獣アンノウンの姿はどこにも無く、後には瓦礫と その中で今だに立ち続ける学園の姿、そしてその麓に集まる生徒達の姿が見える

イオ達だ、ズタボロになりながらもそれでも力強く立ち 集まる生徒達相手に何か話している、エウロパもガニメデもカリストも みんないる、みんな無事だ

「おーい!みんなー!」

ピョンピョン跳ねながらデティが叫ぶ、勝利の凱旋 全て終わらせたぞと言わんばかりに拳を掲げる…当然 エリス達も みんな揃って、勝ちましたよ 皆さん

「…おお、おお!全員無事か!みんな!」

イオの顔がこちらを向くなりみるみる明るくなりエリス達を出迎えてくれる、みんなで

「キャー!デティフローア様!流石です!」

「ほんとにあのでっかいの倒しちゃったんだ…、凄いわね…本の中の英雄みたい」

「うぉぉぉおおお!正義は勝つのさ!どんな時も!」

カリスト達も駆け出し手を掴んだり抱きついたりと喜びに溢れている、みんな助かった みんな無事だった、イオ達もエリス達も一人の死人を出すことなく乗り切れた、それが嬉しくてたまらないんだ みんな…エリス達も…みんな

「エリスぅ!、よくやった!褒めてやるぞ!」

「ピエール?」

ふとガニメデ達がラグナ達と喜びを分かち合う様の中、エリスにもお声がかかる、ピエールだ

彼がふふんと踏ん反り返りながら腕を組んでる、偉そうだな…別にピエールは何もしてないだろうに、いや 彼も命の危機にあって何かしていたのかもしれない、王族として やるべき仕事は戦いだけではないからね

「ピエールぅ、お前なんもしてないだろ?偉そうにするんじゃなくて言うことがある…違うか?」

「う、バーバラ…わ 分かってるよもう!、ありがとう エリス…兄さん達を助けてくれて…、お前らがいなかったら 兄さん達…死んでたから」

突如後ろから現れたバーバラさんに肩を叩かれ竦んだピエールは、そう 素直に口を割る、イオ達を助けてくれてありがとうと、なるほど だから褒めてやる か

彼も心配してたんだろうな、兄のことを…でも自分には戦う力がない、だから 戦いを終わらせてくれたエリスに感謝、か…

「いえ、イオさん達が戦い抜いたのはエリスのおかげじゃありません、イオさん達が死力を尽くして奮戦したからです、お礼はいりませんよ」

「謙虚だねぇエリス、でも礼くらい受け取ってあげてよ、こいつは本気で感謝してんだからさ」

な?とバーバラさんに肩を叩かれ その微笑みを見る、……感謝か…

しかし バーバラさんはしっかりピエールの手綱を引いているようだ、彼女が付いてるならピエールも道を誤ったりしないだろう、ピエールも性根自体は腐り切ってない 彼女が付いてるなら安心だ

「でさ、エリス」

「はい?、どうしたんですかバーバラさんそんな真剣な顔で…」

「アレクセイが、敵だったんだって?」

「………………」

ああそうだ、敵だった…それにバーバラさんに大怪我を負わせた犯人、エリスとノーブルズを激突させる火種にする為 わざとエリスと中のいい友達を傷つけエリスを孤立させる作戦、そのためだけにバーバラさんに瀕死の重傷を負わせたのがアレクセイ…アインだ

エリスの中ではアインと本物のアレクセイさんは別という扱いにはしてるが、そんなもん詭弁でしかないからな

「はい、彼がバーバラさんに大怪我を負わせた張本人でした」

「そっか、でも勝ったんだよね?」

「はい、勝ちました…」

「で?アレクセイは?、ぶちのめして連れてきたの?」

「いいえ、色々ありまして…その 消滅しちゃました」

「…そっか、そっか」

バーバラさんはやや 複雑そうな表情をしている、そりゃそうだ 彼女の中のアレクセイさんはまだ友達だった頃のアレクセイさんで止まってる

本性を見たエリスと近い バーバラさんはそれを見ていない、だからまだ納得しきれないんだろうな、どう言うことか その口で問いただしたかったんだろう、…だが アインはもうこの世にいない

アクロマティック本体はまだこの世のどこかにいるみたいだけど、それとアインは別物だ

「まぁ、仕方ないか…敵だったんだもんね、それも学園丸ごと消しちまおうとする大悪人、仕方ないよ」

「すみませんバーバラさん…」

「謝ることないよ、ただアタシはさ また全部アンタに背負わせちゃったのが また辛くてさ、アレクセイはアタシとアンタの友達…なら 二人で終わらせたかった」

「…………」

そうですね、とは答えられなかった…

アインは恐ろしい相手だった、エリスでも勝てたのが奇跡みたいな相手だ、こう言っては悪いがバーバラさんではあの場に立てなかった、彼女も弱くはないが一線級とは呼べない、そんな彼女を連れ立って戦っていたら…最悪共倒れだった

だから、お世辞でも慰めでも 一緒に…とは言えない

「…なんてな、わかってるよ 足手まといなのはさ、だからそんな顔しないでよ」

「……っ!」

違う、理解していたんだ バーバラさんは、自分では不足であることを理解している、その上で後悔しているのだ

その場に自分がいなかったことを後悔しているのではなく、その場についていける実力にないことを、隠れていることしかできなかった自分を恥じているんだ

別に悪いことではない、責められ詰られるようなことじゃない、でも彼女にとってエリスも友達だからこそ 友達に全てを任せて隠れているのがたまらなく悔しい、もし逆の立場だったらエリスは…ちょっと想像できないくらい恐ろしい

だからこと、思う…エリスは強くならなければならないと、こんな思いをしないためにも そんな思いをさせた身として、絶対に負けられない 絶対逃げられない、もっと…もっと強くならないと

「ありがとね、エリス…色々とさ」

それだけ言うとバーバラさんはピエールの手を引いて去っていく、色々と…色々か、色々ってのは それこそ…色々 何だろうな、言葉にしてたら キリがないくらいの色々だ

でもバーバラさん エリスも感謝してるんですよ、色々とね

「アマルト、お前もよくやってくれた お陰で学園の生徒が守られた、お前のおかげだ…流石だな」

「お前もかよイオ、そんな…褒めんな」

するとエリスの後ろでアマルトさんとイオさんが何やら親密に話している、アマルトさんの肩を叩き よくやったと褒めるイオさん、けど もう褒められるのは暫くいいよと照れるアマルトさんを見て

「な……」

衝撃を受ける、口をあんぐり開けて 信じられないものを見たと言った具合にイオさんはワナワナ震え

「あ アマルト、お前照れているのか?」

「なんだよ、照れたら悪いかよ」

「いや…、ここ最近のお前は私にそんな 隙を見せるようなことなどしなかったから、驚きというか懐かしいと言うか新鮮というか…びっくりだ」

「大袈裟だろ、それになイオ…俺が隙を見せられるのはお前だけだ、もうこの際だから言っとく」

すると答えるようにアマルトさんもイオの肩を叩くと ニッと歯を見せ

「最後まで俺を見捨てないでくれてありがとうな、俺が 戻ってこれるギリギリのところで踏ん張れたのは、お前が最後まで俺の側にいてくれたからだよ、親友であるお前がな」

「あ…アマルトぉ、お前…お前ぇ」

「泣くなよ、王子だろお前」

「王子でも泣くんだよぉ、アマルトぉ~」

ゔぇ~ と情けない声を上げてアマルトさんに縋り付くイオさん、エリス達よりもずっと前からたった一人でアマルトさんのことを案じ続け、なんとできないか 自分には何もできないのかと悩み続けた彼がいたから 、アマルトさんはエリスの声に応える事が出来た

きっとイオさんがどこかでアマルトさんに見切りをつけていたら、アマルトさんはもっと容赦無く迷いなく学園を滅ぼしアリスタルコスという家をこの世から消し去っていた、生徒達の未来を潰す道を自分で選んでいた

そんな風に落ちぶれなかったのは、イオさんがずっと側に居たからだ、アマルトさんにとって唯一無二の親友は イオさんなんだ

「何々アマルト、貴方随分いい顔するようになったわね」

「ほんと、別人みたいにさっぱりしてる…」

「いや!今の君の方がずっといいよ!、君ならいつか そうやって何かを乗り越えることができると僕は信じていた!!!」

「カリスト…エウロパ、ガニメデ…その、お前らにも辛く当たったな、悪かった…」

「謝るくらいならこれからちゃんと仕事してくれればいいわ」

「仕事?」

するとカリストさんは懐から取り出した紙束をアマルトさんに叩きつけるように渡す、紙の束…なんだろうか、訝しげな顔で紙を広げたアマルトさんは それに目を通すなり顔を歪め

「これマジ?」

「マジも超マジ、それが学園の修繕費よ、魔獣の攻撃で形こそ残ってるけど学園はボロボロ、元の形に戻そうと思うと このくらいかかるわ」

「カリスト、お前財務大臣の娘だろ…なんとかなんない?」

「なんとかしようとしてるでしょ?、国庫から出したら国が素寒貧になっちゃうからそれ私達で折半することになったから、ガニメデの家が二割 エウロパの家が二割 私の家が二割 アマルト四割」

「俺だけ多いじゃねぇか!!、そうだ!アドラステアの家!あそこアルカナと繋がってたらしいじゃねぇか!、あの家に六割出させよう!というか全額負担でもいい!」

どうやらあの紙にはこの学園の修繕費が書かれているようだ、まぁ 魔獣王アインの所為で 学園はもうズタボロだ、このまま授業したら 隙間風が酷いだろうな、何せ其処彼処に穴空いてるんだから

「敵と繋がってたこそ 金銭面に関しては変にフィロラオス家を関わらせたくないの、それにこれ…貴方の学園でしょ?」

「………………」

カリストの言葉を受けて、アマルトさんは静かに学園を見上げる…

窓は割れ 壁は崩れ、要塞としての形も学園としての形も失いかけた学園を見上げて…、小さく息を吐く

アマルトさんの学園だ かつてそう言われるとアマルトさんは怒ったという、アリスタルコスの思い通りになってたまるかと理事長の座を嫌い、学園を己のものにすることを嫌がった

けど、今は

「わかったよ、なんとかしてみる」

「流石、アマルトね」

「その褒められ方は嬉しくねぇな、というか これはあのクソ親父に渡せばいいだろ?、まだ俺は理事長じゃないんだしさ」

「ああ、理事長なら…」

と カリストが口開きかけた瞬間、崩れかけた学園から一団が姿を現わす、生徒達よりも一回り大きな体躯、先生達だ

リリアーナ筆頭教授達、イオ達とともに学園防衛に勤めていたからか みんな傷だらけだ、けど その顔色は明るい

「喜び給え諸君!、学園はズタボロだが生徒や街人に関してはみんな無事!、滑って転んだ人間はいるが魔獣による怪我人および死者は無しだ、目出度いねぇ!」

「皆、この非常時に良く的確に行動した!、皆の迅速な動きがこの結果をもたらしたんだ!」

リリアーナ筆頭教授とグレイヴン筆頭教授が避難していた生徒達に怪我人がいないことを大々的に発表する、そっか…

これで死人が出ていたら エリスはここまで純粋に喜べなかったろう、誰も死ななくて 死なせなくて、本当に良かった…守れたんだな、本当の意味で

「いやぁ、エリス君 君はやはり魔術師として素晴らしい腕前を持つと言わざるを得ないよ」

「え?エリスですか?」

するとリリアーナ筆頭教授は脇目も振らずエリスを褒めにスタスタ歩いてくる、いや…でも頑張ったのはエリスだけではないし、そんな手放しに褒められるようなことは…

「君、第二段階に至ったんだろう?ここから見ていたよ」

「し 知ってるんですか!?」

「君も使ってるだろう?遠視の魔眼さ、それで観戦していたのさ、防衛の片手間にね」

そっか、別に遠視の魔眼は別に特別な力ではない、卓越した魔術師なら誰でも使える…、しかしそうか あれ見られていたのか

…第二段階 逆流覚醒の域にエリスは至った、ギリギリのところでやっと覚醒し、アインを打ち倒せた…、これで師匠にも良い報告が出来るぞ

「ふむ、その年で第二段階とは素晴らしいね、私が第二段階に入った時なんか まだ20歳で第二段階なんて天才だ!と周りの凡才に囃し立てられたが、いやぁ君はそれ以上の天才…」

「えぇっ!?リリアーナ先生も第二段階に入ってるんですか!?」

「勿論さ、これでも七魔賢の一人なものでね、私含め 第二段階に入っているのは七魔賢の中にも四人いるよ、そのうち二人は更に第三段階に入っている」

唖然とする、第二段階はこの世で一握りの人間しかなれないと思っていたから…、リリアーナ先生が強いのは知ってたが まさか先生も第二段階へ

いや、考えてみればグロリアーナさんも第二段階の人間だ、なら他の七魔賢の人達もそのくらい強くても違和感はないな、というか 更に上の第三段階?、師匠含め魔女様達が第四段階であることを考えると 魔女一歩手前まで行ってる人たちもいるのか

…これは、もしかしたらエリスが知らないだけで魔力覚醒してる人間は大勢いるのかも…、第二段階に入ったからと言って 敵無しなわけではなさそうだ

「君達魔女の弟子なら全員第二段階に入れるだろう、君ならきっと私を超えて第三段階にも行ける、精進し給えよ」

「はい、先生」

「ふふふ、あはははは いいねぇ…優秀な魔術師とはそれだけでいい、さて ここらで真面目なお話だ、諸君!聞き給え!」

するとリリアーナ先生は杖をコンと地面へ突きつけ 周囲の人間の目を引きつける、大事な話か …ん?

あれ?、なんかおかしくないか?、大事な話があるなら なんでリリアーナ先生がするんだ?、普通ここはフーシュ理事長がするべきでは、と思い先生達の一団を探しても フーシュ理事長の姿はない…

「フーシュ理事長は私が殴り飛ばして気絶させてしまったのでね、ここは私が代理を務めるよ」

殴り飛ばしたの!?なんで!?、何があったんですか一体!?

しかし、驚愕するエリス達を置いてアマルトさんだけが納得する…、『ああ だからこの請求書が俺のところに来たのか』と、親が殴られたことに関しては特に気にするところはないらしい

「大騒ぎで忘れているかもしれないが、今日は!今は課題の最中だ…しかし、諸事情により続行は不可能となってしまった」

そう言えば課題の最中でしたね、エリスは完全に無参加に近かったので課題の最中という感じはなかったが、確か 遺跡の中からアンタレス様の宝玉を探し 終了時持ってる数が一番多い人間が勝ち!的なやつだったな

しかし、とエリスは振り返り 遺跡群を見る…

跡形もない、どこもかしこもエリス達の戦いの爪痕で粉々だ…、瓦礫の山と言ってもいい、この中から宝玉を探すのは色々と厳しそうというか、危ないというか…

「なので!今年の課題はこれにて終了とするよ!」

…まぁそうだろうな、続行は難しい …かと言って別の日というわけにもいかない

これで、エリスの学園最後の課題は終わりだ、間が悪かったとは言え ダダはこねられない、けどさ…はぁ~最後くらい一位取りたかったなぁ~

「というわけで、現時点で宝玉を確保している者!前へ!」


宝玉を確保してるって、こんな短時間で確保してる人間なんていない と思いきや

「はい、こちらに!、いや運が良かったですよ 避難する最中に転がっているのが見えましてね、まさに天に恵まれました」

かなり運が良かったチームが一つ 前へ出る、あれは二年生のチームだ エリス達の後輩だ、彼らは自慢げに一つ 宝玉を抱えながら前へ出る

彼らが優勝か…

「うん、ラデフツキーのチームが一つか、他には?」

ラデフツキーと呼ばれる爽やかな青年の手に持たれた宝玉を見て リリアーナ先生は探す、他に宝玉を持ってるチームはあるかと

しかし、居ない だってあんな短時間で確保できた奴なんかいるわけがない、課題の勝利条件は宝玉を多く持つチーム、つまり 誰も持ってない中宝玉を一つだけでも確保した彼らこそが優勝ということに…

「エリスちゃんエリスちゃん」

ふと、デティが後ろから裾をちょいちょい引っ張る、なんだろうか 今エリスプチ凹み中でして、楽しいお話には付き合えそうに…

「これ、見て」

「……え?」

後ろを振り向くと、デティの手に握られた物に目が行き 驚愕する、だって その手には…確かに宝玉が握られていて…

「いつの間に!?!?」

「私の魔力感知を持ってすればぁ?まぁ?ちょ~よゆ~な訳でしてぇ~」

まぁー!チョチョイのチョイですわぁ?とピィーンと鼻を高くして宝玉を抱えるデティ、そうか!デティは卓越した魔力感知を持つ、つまり 宝玉にこびりついた僅かなアンタレス様の魔力を見れば どこにあるかなんて明白なんだ!

凄い!凄いですよデティ~!とデティの頭を撫でくり回す、あんな短時間で見つけてくるなんて!ファインプレーです!

「デティ~!今日はハンバーグですぅ!」

「うへへへ、エリスちゃんくすぐったいよう」

「おや?、どうやら宝玉を確保したチームは他にもいるみたいだね、宝玉を確保したのは全部で2組 されど両方とも一つづつか」

デティの持つ宝玉を目にしたリリアーナ先生が何やら嬉しそうに、そしてちょっとだけ困ったように顔を歪める

他に宝玉を確保した人間はいない、デティの一つとラデフツキーという青年の一つ、それ以外三つは瓦礫の山に消えてしまったのだろう、つまり …優劣のつけようがない

この場合はどっちが有償になるんだ?、それとも引き分け?

「ううむ、困ったな どうすればいいか、出来れば引き分けにはしたくない…、せっかくの課題だ 優劣をつけておきたい気持ちはあるが、はてさてどのようにしたものか」

エリスはちらりともう一つの宝玉を持つチーム、ラデフツキーという名の青年を見る

…ラデフツキー、確か名前はラデフツキー・カリポス 魔術科の生徒でありエリスと同じく試験を免除され入学された秀才、エドワルド先輩が卒業したら次は彼が魔術科最強になるのではと言われる 所謂世代最強の魔術師

彼の父親は冒険者 母は元国軍剣士という家系に生まれており、生まれながらにして剣も魔術もどちらも得意としていると聞く、その上に偶然ながら宝玉を確保出来る天運の持ち主…中々の実力者だ、将来何になるか分からないが まぁ何をやっても大成するだろうな

彼の周りを囲む人間も中々のものだ、剣術科 地理学科 魔術科 戦略科…戦力的申し分ない、ラデフツキーが集めたのだとしたら 彼の慧眼もそれを引きつけたカリスマも、中々のものだ

彼らとエリス達、謂わば二年最強チームと三年最強チーム 、このどちらが勝るのか ここではっきりしてほしいと周囲からも声が上がるが、さて どのように裁定したものか

こういう時 、そう 例えば確保した数が同数であった場合 どう処理するのか、それを決めるのは発案者の魔女アンタレス様の仕事だが、…彼女は今ここにいない

アイン曰く暴走しているようだ…、師匠が向かってるから大丈夫だと思うけれど…

「仕方ない、この件は一旦持ち帰りにして また後日…と言っても数ヶ月後になるだろうが、その時また取り直しということにするか」

リリアーナ先生も悩んだ挙句そう答えを出す、決めるなら今日決めたいが 決めようがない、故に仕方なし と誰もが納得したその時

「いえここで決めるならここで決めたらいいわ」

響く まくし立てるような早口の言葉が飛んできて、裁定を止める…

「せっかく大大的にやったのだから決着も盛大にするべきよ でなければ興醒めもいいところよ」

それはエリス達の後ろから…、崩れた遺跡の山を越えて現れる、だらしなく伸びた髪 睨みつけるようなタレ目、そして、特徴的なバチバチのイヤリング

…ふと、視界の端でアマルトさんがため息をつき項垂れる、なんでそんな顔するんだか 本当はまた会えて嬉しいくせに

「だから私が場を用意するわこの探求の魔女アンタレスがね」

「アンタレス様…っ!」

魔女だ、探求の魔女アンタレス様が帰ってきたのだ、服はややボロボロだけど…確かに帰ってきた、暴走している様子はない と言ってもエリスは暴走してるところ見たことないから分からないんだけどね

魔女様達の姿を見たリリアーナ先生達が一斉に跪く、それに倣って周りの生徒もまた膝を折る、だからエリスもまた跪いて…

「ぐぇっ!」

跪こうとした瞬間 アマルトさんに襟を掴みあげられ止められる、何するんですかアマルトさん!と抗議の涙目を向けると彼は『魔女の弟子であるお前まで跪くな』と睨まれる、いや いいじゃないですか跪くくらい

「あらアマルト随分スッキリした顔してるわね」

「お陰さんでな、あんたの無茶振り受けてたら全部バカらしくなった」

「それでいいのよ貴方は色々難しく考えすぎ…もっとバカになっていいの」

「へーへー」

アンタレス様とアマルトさんはなんか…仲睦まじい感じで話してる、わかっちゃ居たけどこの二人やっぱり師弟なんだなぁ、ちょっと態度あれだけど…

「エリス」

「へ?、あ!師匠!」

するとアンタレス様の脇に立っていたレグルス師匠が声をかけてくれる、やっぱり師匠がなんとかしてくれたんだ!、…というか

「ようラグナ!」

「ゲェッ!師範!なんでここに!」

「げぇーとはなんだげぇーとは!、弟子の晴れ姿見に来たんだろうが!」

「嘘つけ!師範そんな殊勝な人じゃ ぐぇーっ!」

何故かアルクトゥルス様もいる、なんでいるんだろう…本当に、この人仕事あるんじゃないのか?

「そこ うるさいわよ…おほん さて課題の件だけれど」

と一言で師匠達にクギを刺すアンタレス様、師匠もアルクトゥルス様も同じ魔女だが、ここ コルスコルピに於いてはアンタレス様こそがトップなのだ、一応客人である二人はこの場においては逆らえない、ラグナの首を絞めるアルクトゥルス様もエリスを抱きしめようとしてくれた師匠も、一旦は言葉を収め後ろに下がる

「…課題の最中散々なことになってしまったようね その最中席を外していた不覚…謝罪するわけれど皆で結託して艱難を跳ね除けたこと嬉しく思う」

「ほんとだぜ 、この大変な時にどこ行ってたんだかこのお師匠さんは」

「うるさいわ馬鹿弟子…それで 課題だけれど宝玉を集めたチームが二つ どちらも同数らしいわねどちらも素晴らしいけれどやはり課題である以上優劣はつけねばならないということで」

と アンタレス様はゆっくりと手を差し出す…、あの動きには覚えがある

この対天狼最終防衛機構を発動させた時と同じ動き、同じ魔力の動き…そして、同じ地面の揺れ…

「用意するわ?私が場所を…動け!対天狼最終防衛機構!出しなさい!闘技場を!!」

闘技場 そういうのだ、アンタレス様は そう命じるのだ、その言葉にこの街全体が答えるように形を変える

目の前の瓦礫の山、それが真っ二つに割れる地面の下へ片付けられていき あっという間に広場の床が沈み開き 中から別の床が出てくるのだ、巨大な何かが…超超巨大な円形の建物が開いた虚空より浮かび上がってくる

何か…なんて疑問に思うまでもない、だって言ってたもん 『闘技場を!』ってさ、だから今から出てくるのは

「闘技場…」

あっという間に地下から現れた闘技場が目の前に屹立する、…この街どういう仕組みになってんだ

「これが闘技場…というか私達が昔戦闘訓練に使うために作った頑丈な修練場ですここでならどれだけ暴れても大丈夫ですよ」

「懐かしいなぁ!レグルス!、よくここでやりあったな?、また昔みたいやるか?」

「やらん、だが…確かに懐かしい 我々の思い出の地だ、ええと 設計はカノープスで構成はフォーマルハウト…だったか?」

ああ、錬金術師であるフォーマルハウト様が作ったのか、彼の方ならどうやっても壊れない物質とか作れそうだしね、でも…設計はカノープス様なのか

無双の魔女と呼ばれ 八人の魔女達の中で最強と名高い人物、その呼び声通り 世界最大の魔女大国の盟主としてこのディオスクロア文明圏に君臨する人物、ポルデューク大陸にいるから出会うのはこれからになるんだけど

その人が設計をしたのか、もしかしてこの遺跡群の仕掛けもその人が?…どういう人なんだろうか

「これが闘技場…そして闘技場を出した意味 分かりますよね」

ザワザワといきなり現れた闘技場に騒めく生徒達にアンタレス様が怪しく笑いかける、闘技場を出したんだ その中でおままごとするわけないよな、やることなんか一つだけだ

「殴り合いましょう んで勝った方が優勝…分かりやすいでしょ?」

決闘だ、ちょうど残ったの二チームだし 真っ向勝負で決めれば簡単に優劣が定まる、ごちゃごちゃしてなくて助かる、結局 戦って決めるのが一番簡単だし得意だ

「僕は構いません、ラグナ様達は戦いの後の連戦になりますが…そのくらいならハンデとしてちょうどいいでしょう?」

ラデフツキーは挑発するようにラグナを見る、まあ…確かに アルカナ幹部から流れるように魔獣の群れと戦い休むことなく魔獣王と激戦、一日でこんなに戦ったのは初めてなレベルだ

それがハンデになり、それで相手が受けてくれるなら いいじゃないか、受けて立とうよラグナ

「おう、いいぜ ハンデがそれだけでいいってんならな」

「ふふ、この学園を救った英雄達との一戦か、皆さんには助けられましたが 勝利は譲りませんよ」

譲ってもらっても困る、折角の課題だ やるなら全霊でかかる相手に全霊で挑む、連戦だが そんなもん関係ないね!

「よっしゃー!最後の戦いだねー!負けないよー!」

「ふふっ、そうだな どれ、軽く捻ってやるとするか」

デティもメルクさんも揚々と名乗りをあげる、みんなバトルモードだ、ラデフツキーがどれだけ強いか知らないが、あの戦いを経験したエリス達だからこそ言える

みんなとなら 負ける気がしないね、…うん みんなとなら、みんな…か

「では宝玉を持つ人間な闘技場内へ それ以外は観客席に移動しなさいこの学園最強を決める戦いそれを観戦することも勉強の一つよ」

魔女アンタレス様の令に従い 先生達が慌てて生徒達を誘導し観客席へと連れて行く、ラデフツキー達は皆杖や剣を抱え、先に闘技場へ向かう…みんなそそくさといなくなる、ただ一人を除いて

「よーし!、じゃあ俺たちも行くぞ?エリス デティ メルクさん!」

「ああ」

「ぶちのめそー!」

そう気炎をあげるエリス達を尻目に 一人闘技場に背を向け踵を返す男がいる…

「大変だねぇ課題参加者は、俺ぁもうクタクタだからさ 先帰って寝てるわな、お疲れさん」

アマルトさんだ、彼は一応課題には不参加…どのチームにも属さず参加表明はしていないようだ、だからもうこれ以上関わる理由も必要もないよな と…一人要塞の方へと帰っていく

そうだよな、さっきまでは学園がなくなるかどうかの瀬戸際だったから共闘していただけ、いくら心通わせるまでになったとはいえ、これは課題 また別問題

エリス達四人は一応チームを組んで参加してるしこればかりは…、四人か…

…ふむふむ

「すみません、ラグナ…一つ相談が」

「ん?なんだ?」

ラグナの肩を引きその耳元に口を当て、ごにょごにょ考えを話す というかエリスの意思 我儘だ、けど きっと必要なことだと思うから 相談する

「ごにょごにょ…」

「何二人で内緒話してるの!私も混ぜてよ!エリスちゃん!」

「ラブコメの気配…ではないな、なんの相談だ?」

「…ふむふむ、なるほど…面白いこと考えるな、エリス」

エリスの話を聞いてニヤリと笑うラグナ、いい考えでしょう?我ながらナイスアイデアだと思ってますよ

「んじゃ、早速イオに声かけてくるか」

「ねぇー!二人で秘密はやめてよー!」

「すみませんデティ、…実はですね」

と今度はデティの耳元に口を当て…

ふふふ、うん いい考えだな、我ながら

……………………………………………………….

ラデフツキー・カリポスは野心的な男だった

もと三ツ時冒険者の父と 宮仕えの剣士だった母を持つラデフツキーは小さい頃から二人の指導を受けていた、この残酷で厳しい世界で生きていく為の知識と武器を受け取ってたのだ

母は言った 力ある者が勝つと、父は言った知識ある者が勝つと、だからラデフツキーは力と知識を持つ者になった

そんな彼の目的は一つ 冒険者協会最高幹部になることだ、冒険者協会最高幹部とは絶対強者の別名でもある、皆 魔女大国最強戦力級の実力を持ちながら国に属さずあるがままに在野で力を振るう その姿にラデフツキーは夢を見た

力を手に入れても魔女のために使えだけでは勿体ないから、力を使うなら自分の為だけに使う

そう決意したラデフツキーは両親の指導を受け終わると共にディオスクロア大学園へと入学、世界に名を残す人間は全てここを通る、ならラデフツキーもここへ通うべきだと自分で思った

…それは名声の為、ここにいる未来の英雄達を打ち倒し 将来自分の部下にする為に、多くの味方を作り多くの敵を倒し配下に引き入れてきた彼は遂に 学園の頂点すらも飲み込もうとしていた

あれこれあったが課題の結果 ラデフツキーは学園最強と名高い四人と戦うとになったのだ

ラグナ エリス デティフローア メルクリウス、全員が魔女様から直々に指導を受けた怪物級の強さだ、あの魔獣の海を渡りきり敵を打ち倒した功績を打ち立てたまさしく未来の英雄

別格だ、今までラデフツキーが倒し飲み込んできた奴らとは完全に別格、真っ当に戦えばラデフツキーとて勝負にならない、だが…好機は巡ってきた

ラグナ達は度重なる連戦で目に見えて疲弊していた、勝つなら今しかない

ラグナ達は今や学園の英雄だ、そんな彼に勝てばラデフツキーの学園内での評価は決定すると言ってもいい、そして彼らをうまく丸め込み下につけることが出来れば冒険者協会最高幹部なんて小さな夢軽く叶えて更に上へ行ける

まさしく千載一遇のチャンス、偶然落ちていた宝玉を拾った時からラデフツキーはつきにつきまくっている

(…今なら勝てるはずだ)

ラデフツキーはチームを率いて広い闘技場のど真ん中で剣と杖を握る、周囲には観客として生徒や避難していた街人がぐるりと席を埋め尽くしている、ギャラリーは万全だ

(チームも今学園で集められる人間の中では最高のものを集めた…)

集めたのはラデフツキーの慧眼で選んだ精鋭達だ、剣士は既に一流へと開花を始め 魔術師は魔術科では僕に次ぐ実力者、地理学科も戦略科も戦闘をできる人間を選んでおいてよかった

おまけにこちらは消耗なし、避難していたからね…、魔獣くらいなら倒せたけど 無闇に命を危険に晒すのは愚か者のすることだからしなかった、最悪魔獣の包囲を突破して逃げるくらいのことはできたからね

こちらは万全 向こうは連戦により消耗、勝てない戦いではない…!

『皆の衆ーぅ!静粛に~!、これより課題でつかなかった決着をつける為のサドンデスマッチを開催しまぁーす!、実況解説は祭り・喧嘩・殴り合いといえば!そう!オレ様!、オレ様でお送りします』

『せめて名乗れ アルクトゥルス』

観客席の中で一際豪華な展覧席に座る三人の女性、この国の支配者アンタレス様 そしてその客人レグルスとアルクトゥルスが闘技場を見下ろす、拡声魔術を用い進行役を務めるのは大柄な女性アルクトゥルスだ

噂に違わぬ美貌ぶり、あんな女を妻に娶れたらと考えてしまう、が この戦いに勝ち評価と評判を手に入れれば地位は盤石、女はそのあと好きなのを選べばいいか

魔女の前で魔女の弟子を倒せば ラデフツキーの名は全世界に轟く、そうなれば…そうなれば

『まず赤コーナー!』

『どこが赤いんだ…』

『学園でも秀才と唄われるトップチーム!、宝玉を手に入れこの場に立てたまさしく天運を味方にする男!ラデフツキー率いるチームジーニアス!』

そんなチーム名つけた覚えはないが…、まぁいい 戦況には影響しないしな、というか…

『さて、見たところ結構強そうだが?、どう思います?解説役のレグルスさん』

『誰が解説役だ誰が、…そうだな 魔力量も申し分ないし、後ろに続く仲間達も弱い者はいない、呆気なく終わることはないだろうな』

と闘技場内を見回すが、ラグナ達の姿が見えない、まさかギリギリまで体力を回復させる心算か?、まぁ この大衆の観客が見守る中逃げ回りはしないだろうし、いざとなったら抗議して引っ張りだすまでだ

決してこの機会を逃すわけにはいかない、必ず仕留める…

『そして!そんなチームジーニアスと相対するチームは!、青コーナー!』

そう アルクトゥルスが僕たちの対面に存在する入口の方を指す、…来るか ラグナ!

『大王 魔術導皇 同盟首長 旅人、えれー豪華なメンツだけを集めて作られた豪華なチーム!、オレ様が手塩にかけて育てた魔女の弟子達!』

入り口の奥から現れる複数の影、凄まじい魔力と威圧に場の空気が凍る…、お おいおい、消耗してこれか?連戦の後なんじゃないのか?、あまりの魔力の高さに思わず体が震える

これが これこそが、この学園最強の四人の強さ、素晴らしい…!

ん?、あれ?闇の奥で揺れる影を見て違和感を感じる

…いやあれ、なんか…多くないか?

『紹介しよう!ラグナ率いるチーム! カストリア五人組!』

その紹介の通り現れたのは ラグナ…そしてそれに率いられるチーム、五人組…そう 五人だ

「うぉっしゃー!やるぜー!」

雄叫びをあげながら両手を掲げる大王、学園最強との呼び声高き男、魔女の弟子達のリーダーラグナは意気揚々と闘技場足を踏み入れる

「…………」

対するラグナとは逆に静かにラグナの背後を歩くのは、これまた学園の女性最強と呼ばれる女 、各地で数多くの伝説を残した旅人エリス、弟子達の中では参謀や副リーダーを務める人物は影のようにラグナを支える

「すげー!すげー数の観客!、き 緊張するぅー!」

小さな背とそれに似合わぬ絶大な魔力、もはや生徒を超えて教師の一人にさえ数えられる魔術導皇デティフローア、学園の中には彼女をマスコット扱いする動きもあるが 

とんでもないとラデフツキーは青褪める、なんだあの魔力は 感じるだけで肌が焼けるようだ…

「ふむ、意外に中はしっかりしているな…」

クールな切れ目を流し油断なく周囲を眺めるのはかの広大な同盟国家群のまとめ役を任される若き首長 メルクリウスだ、女性を虜にし男性さえ跪かせる怜悧な美貌はただ静かに前へと歩む

これが…参加者の全てだったはず、あれがラグナ達のチームだったはず、今までの学園生活を彼らは四人で過ごしていたはず…、なのに

なのに!なんで!

「ふぃー、かったりー…」

何故!彼らと一緒にアマルトが居るんだ!、学園理事長の息子 この国最強の剣士タリアテッレに次ぐとさえ言われる剣豪 アマルトが、しれーっとラグナ達と並んでる!いやいや 話が違うぞこれは!

「あ あの!魔女様?なんでアマルト先輩があそこに?」

『おう、ラグナ達のチームは四人だったからな、公正にするために一人加えて五人対五人にすることにしたってさっきイオから連絡きたぜ?、幸いアマルトはどのチームにも入ってないからな、ちょうどいいじゃんか 人数的にも、互角だしさ』

互角じゃ困るんだよ!、ただでさえ勝てるか怪しくなってきたのに!、数の有利も消えた…

「悪いなラデフツキー」

「あ アマルト先輩…?」

「俺さぁ、ずぅーっとこいつらと敵対してきたのにさ、こいつらと来たら一回戦っただけで仲間意識なんか持ちやがって、俺疲れてるのに無理矢理参加させんだぜ?」

「つ 疲れてるなら…休んでいても」

「だから悪いって言ってんだ、どうやら その仲間意識っての、俺にも芽生えてたみたいでな、正直誘ってもらえてすげー嬉しいから、誘ってくれたこいつらに恥じないように、俺 全霊で戦うつもりだから」

「そ そんな…」

そう言いながらアマルトは鋭利な片刃のナイフに血を纏わせ一振りの長剣へと変え、こちらへ構える…、やる気だ あの先輩容赦無く後輩を食うつもりだ…

「アマルトもやる気みたいで助かったよ…、っしゃー!行くぜ!カストリア五人組!」

「はい、エリス達五人が揃えば無敵です」

「どんな敵だってボッコボコのギタギタだよ!」

「ああ、…きっと これからもずっと先も、我らならばきっと」

「そーいうノリ好きじゃねぇけど、今だけ乗ってやるよ、カストリア五人組…世に知らしめてやろうぜ?」

ラグナは拳を エリスは脚を デティフローアは杖を メルクリウスは銃を、アマルトの剣に並ぶように構える、や やばい…強さも想定外人数も想定外展開もまた予想外…!

負ける!これは負ける!最悪だ…めちゃくちゃ最悪…

『それでは両者見合ってー!』

「ま 待ってせめてもう少し」

『はじめーーーーー!!』

容赦なく 切られる戦いの火蓋、いや 待ってもらってももうすることなんかない、出来ることなんかない、完全に見通しが甘かった、勝った後の予想ばかりして 目の前の戦いの分析を怠った!

もっと考えていれば!もっとハンデをつけて貰えば…!もっと もっと!

「ヒィッ!?」

そんなラデフツキーの思考を遮るように、あっという間に肉薄し飛びかかってくる五つの影

それを見てラデフツキーは何を思ったか?、どう防御するか?どう争うか?作戦?計画?立ち回り?、どれも違う

ただ、漠然と思い浮かんだのは

(これ無理なやつだ…)

その刹那後のことだった、闘技場に一際大きな轟音と共に歓声が轟き、 ラデフツキー達が宙を舞ったのは…

……………………………………………………………………

『優勝者!カストリア五人組!!』

「よっしゃー!」

「秒で終わったな…」

地面に倒れ伏すラデフツキー達を尻目に喜ぶラグナと拍子抜けとばかりに頬を引攣らせるアマルトさん、いやこれほど圧倒的になるとは エリスも想定外ですよ

エリス達カストリア五人組対ラデフツキー達の戦いは 数秒の間に終わった、というか戦いにもならなかった、五人組の攻撃が同時に炸裂し 一撃でラデフツキー達がぶっ飛んだのだ

呆気ないと言ってはラデフツキーさん達に申し訳ないですが、…でもね ラデフツキーさん、エリス達は確かに消耗してますが さっきまでの激戦の熱が残ってるんですよ?、バトルモードのままなんです

疲弊なんか感じませんし、何より 手加減も出来ないんですよ…

「まぁ、、勝てて何よりというかなんというか」

はははと笑うアマルトさんを見て、何やら無性に嬉しくなる、誘ってよかった

あれからラグナに話を通し 相談したのは『エリス達チームの最後の一人にアマルトさんを迎えないか』という内容だった、正直チーム登録は終わってる、けど イオさんに無理言って実現させてもらった

エリス達が声をかけると、アマルトさんは 何やら嬉しそうに振り返り

『なんだよ、やっぱ俺…必要か?』

だってさ、当たり前でしょう…エリス達にはもうアマルトさんが欠かせないんです、だってもう彼はエリス達の友…親友とデティ 朋友のラグナ 盟友のメルクさんに続く、学友なんだからさ

エリス達はもう四人じゃない 五人、五人組…カストリア五人組なんだから!

「ありがとうございます、アマルトさん」

「ん?、おお…ってなんもしてないけどな」

「一緒に来てくれたじゃないですか」

「うぅ、俺お前のそういう明け透けなところ苦手…、捻くれ根性もんには眩しすぎ…溶ける」

なんで溶けるんですか…

「うぉぉぉおおお!優勝だぁぁぁ!!うぉぉぉおおお!賞品!賞品!」

「デティ落ち着け、がめつくとみっともないぞ、まぁ楽しみなのは私も同じだが」

興奮するデティと諌めるメルクさん…二人とも賞品が気になるみたいだ、まぁエリスもですが…

だって去年の2位入賞の賞品でさえ あのマルンの短剣だったんだよ?、なら今年は何もらえるの?国?もうそんなレベルだ

すると

『見事でした…まぁ私達の弟子なら当然ですね』

そう言って展覧席よりアンタレス様が立ち上がる、この課題の主催者 この国の支配者であるアンタレス様が、ゆっくり立ち上がり エリス達を見下ろす

『さて 今年の賞品ですが…なんでも一つ願いを言いなさい魔女の力で実現可能ならものならなんでも一つ願いを叶えましょう』

ね 願いと来たか、それも魔女様が…

魔女は基本何でもできる、国が欲しいといえば国をくれるだろう 国を滅ぼしたいといえば滅ぼすだろう、それだけの力を持つ 権威を持つ 影響力を持つ、何でもしてくれる なんでも願いが叶えられる

そのあまりの賞品のデカさに思わず観客席がどよめく、何せ魔女様が直々に願いを叶えてくれると言っているのだから

「ね 願いか、どうするか」

「お菓子の山は?ねぇ、お菓子の山は?」

「いきなり言われても困るな…」

思わずラグナ達も相談を始める、願い願い…ううん いざ言われると思いつかないよ、どうしよう みんな得する みんな笑顔になる、そんな願いが思いつかない 

だってエリスはみんなと一緒に居られるだけで幸せだし、それは願うまでもなく叶えられる…

「………………」

すると、ふと エリス達から一歩距離を取るアマルトさんが目に入る、俺は所詮助っ人よ と言った感じだ、此の期に及んでまだ距離を…

ああ、そうか 願い事…一ついい使い方を思いついた

「あーー、ラグナぁ エリス何も願い事が思いつきません、ラグナ?あなたが決めてください」

「は?俺?」

そう、やや芝居がかってラグナに話を振る…と 同時に一つウインクを飛ばせば、ラグナもエリスの意図に気がついたのか、少し微笑むと軽く頷き

「って言ってもなぁ?、俺も浮かばねーし、メルクさん パス」

「む?私…ああそういうことか、 うん 私も浮かばん、大抵の願いは私の力で叶えられるしな、というわけでデティ 頼む」

「え!?いいの!じゃあ私お菓子のや…ぴゃっ!」

慌ててデティの額を突く、そうじゃないそうじゃない 違いますよデティ、お菓子なら後でエリスが山だろうが海だろうが作りますから、ここは…と 見つめると

「…ほぇ?、ああ…なるほどねー、私も浮かばない!お菓子は欲しいけど浮かばない!から!、アマルト!お願い!」

「…え?俺?」

そう 俺、とエリス達四人の視線がアマルトさんに向けられる、エリス達はいいですから アマルトさん、お願いしますよ

「いや俺も別に…」

「本当にそうですか?、願い事や叶えたい事があるなら ここで言っちゃってください」

「願いごと…叶えたい事…か」

エリスの言葉を受け、アマルトさんは小さく 地面を見る、、考えるように 逡巡するように、エリスの言葉を噛み締め 反芻し、そんな中 アマルトさんの瞳に一筋の煌めきが走る

叶えたいことはなんだ、願いはなんだ、アマルトさんの……!

「そうか、ああ あるぜ、一つ…いいか?」

「いいですよ」

「言って来い!」

「それがきっと私達の最善だ」

「やっちゃえ!アマルト!」

「おう!」

そしてアマルトさんはエリス達を超えて前へ行く、そんなアマルトさんの肩を押すように叩く、エリスも ラグナも デティもメルクさんも、揃って 彼の背中を押す

『願いは決まった?アマルト』

「ああ、いや 決まっていたんだ…ずっとな」

『なら言いなさい、ここで…あなたの願いを」

アンタレス様の言葉に反応して、アマルトさんはゆっくりと顔を上げ…胸を張り

「俺の願いは 叶えたいことは、夢は!」

手を広げる、アンタレス様に言うのではなく この場に集まった人間全員に伝えるように、観客席の生徒達 全員に届くように、彼は声を張る

「俺の願いは!、誰かの夢を支える事だ!ここにいる生徒全員!いやこの先ずぅーっと入り続けるまだ見ぬ生徒達の!子供達の!夢を支えてやれるような そんな立派で輝くような!、俺の理想の…最高の理事長、そんな理想の理事長になるのが俺の夢だ!夢なんだぁぁぁっっ!!!」

叫ぶ 天に届くまで 宣言する、逃げ続けた 逸らし続けた そんな自分の中に眠っていた、夢 それを爆発させて宣言する、俺は理事長になりたい それが叶えたい事 夢だと

「今は無理でもいつか…いや近いうちに!俺は理事長になる!、生徒のための!子供達の未来のための理想の理事長になってみせる!、この学園をそんな夢の殿堂にする!伝統なんかクソ食らえだ!、お前ら生徒の未来に比べたらな!!」

だから 俺はもっと強くなる 賢くなる 凄くなる、みんなの夢の為に アリスタルコスが思い描くような次にただ漠然と続けるだけの理事長ではなく 今のための 子供達のための理事長になる、そう語るアマルトさんの目は

今 誰よりも輝いていた

『…それ私に言ってどうするんですか?つまり私は何をすれば?』

『応援してやれ、アンタレス…奴には支えてくれる人間が必要だ』

『レグルスさぁん…』

レグルス師匠の言葉を受けて、アンタレス様も やや考えて…微笑んだ

『分かりましたでは貴方の師として必ずや貴方の夢を叶えられるまでに貴方を鍛えましょう…それでいいですね?馬鹿弟子』

「ああ、頼むぜ?…教えることを教えてくれ お師匠さんよ」

『生意気な…ならこれで今年の課題は終わりです』

何やら少し嬉しそうなアンタレス様は照れ隠しのように手を払い はい解散解散と先生達に命じ課題の全行程の終了を宣言し生徒達を退去させていく…

賞品は受け取った 最高の賞品…、アマルトさんの未来と希望という名の商品を、それがエリス達四人の いや五人にとっての最善だ

「エリス!」

「はい?、なんですか アマルトさん」

するとアマルトさんは勢いよくこちらを振り向き、ニッ!と牙を見せ満面の笑顔でこういうのだ

「サンキューな!」

そう お礼を言ってくれる、サンキューか いいですね、やっぱりお礼を言われるのは、心が暖かくなる、お礼を言って言われて こうやって人は暖かさを知るんだ

だから そんな暖かさを返す、エリスもまたこう答える 同じく満面の笑顔で

「どういたしまして!、アマルトさん!」




こうして…、エリス達の長かった戦いは幕を閉じた、アイン達との 学園での カストリア大陸での 、全ての戦いに幕が閉じて終わる

けれど、人生は劇じゃない 幕が閉じても終わることはない、また新たな道と戦いを進んでいくことになる、エリスが星惑の森を歩み始めた時のように師匠と出会った時のように進み続けるんだ

でも、今度は一人じゃない…最高の友達と 頼りになる仲間達と一緒に、エリスはこれからも人生を進んで行くんだ、幕を超えて 揃って、みんなで


それがきっと、エリスの生き方なんだ
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