236 / 308
八章 無双の魔女カノープス・前編
215.孤独の魔女と不壊の友情
しおりを挟む『いやぁ凄い腕だった、今回は完敗だぜ!』
『その歳でそこまでの実力、それは魔女の弟子だからというより、貴方自身の努力の賜物なのでしょうね』
『恐れ入ったよエリス殿、あんたの力 疑ってて悪かった、陛下が保護を申し出るわけがわかったよ』
『なぁ!凄い記憶力を持ってるって聞いたけど…俺の事覚えてる?、ああそうそう!あの時殴り飛ばされた男だよ!、はぇ~本当になんでもかんでも覚えてるんだなあ』
あれから、帝国軍との軍事演習を終えた後は、軽いお祭り騒ぎだった
彼らからの信用を得る為 エリスは帝国軍相手に軍事演習を申し込んだのだ、結局最後はアーデルトラウトさんに負けてしまったけれど、それまでエリスが見せた獅子奮迅の戦いは帝国軍達に伝わっていたようで
一気に有名人になってしまった、幸い 軍事演習を終えた後は帝国の医療団が怪我を治して回ってくれていたようで、後に響くような怪我をした人間はいなかった、後に響かないなら後腐れもないと 帝国軍の人達は笑ってエリスを迎え入れてくれた
まぁ、アーデルトラウトさんやマグダレーナさんと言った一部の人間は未だにエリスへの警戒を緩めていないが、それでも 過半数以上の人達からの信頼は得られたので良しとする
というか、凄い人気ぶりだ、この間までの距離を置いた感じとは全く違う、完全に味方 完全に友として見てくれているようで、戦闘が終わり 駐屯地で休んでいるとあっという間に人だかりが出来て囲まれてしまった
『年は幾つ?え?17?若いなぁ!』
『エリスちゃん可愛いねぇ、今度ウチに遊びに来ない?』
『是非今度開かれる軍事会議に出席してほしい、君の戦略眼は独特ながら間違いはないからね』
あちらこちらからかけられる声に、エリスは若干引く…いや、信頼を得られるために戦ったわけだけどさ、いくらなんでも信用されすぎでは?ゼロかイチか?この人達は
と苦笑いしているとメグさんがこっそり注釈を入れてくれた
『以前申したように、エリス様は信頼を得る土壌が既に存在しています、帝国軍の中にもエリス様に興味がある方々は多くいたのです、その感情が堰を切ったように溢れているだけでございます』と
言ってみれば『気になる子がいるなぁ、でも得体が知れなくて怖いなぁ』と思っていたところに軍事演習、彼らとて戦士 戦えば人となりは何となくわかる、故に一度戦えばもう顔見知り、顔見知りなら臆する事なく話せる
話せる理由が出来たなら、この際話しかけちゃおうぜ?ってな感じだろう、故に一気に距離を詰められたように感じただけ、帝国側は既にエリスと距離を詰めようとしてくれていたのかも知れない
あ…もしかすると、ルードヴィヒさんはそれを感じていたからこそ、そのジレンマを解消するため あんなことを言ったのかも知れないな
まぁそんな事もあり、もう帝国との溝について気にすることはあるまいと理解し、エリスは帰路に着く、気がけば居住区画の空は赤くなり始めている、もうそんな時間か
「今日はお疲れ様でした、エリス様」
「ああ、聞いた話では随分かましたらしいな、師として誇らしい とだけ言っておこう」
「いやぁ…えへへ」
メグさんから褒められ 師匠から褒められ、何だかエリスは今気分がいい、帝国軍の皆さんにも褒められまくったし、エリスだって褒められれば気分もいいし煽てられると調子にも乗る
まぁ、調子には乗れど図には乗れませんけどね…
なんて照れ臭さを隠しながら居住区画を道なりに歩き エリス達の屋敷を目指す…
「にしても、帝国の皆さん強かったですね」
「そうですね、今回はありませんでしたが 本来ならあそこに中型から大型の魔装による火力支援も加わりますし、帝国の真の力はまだまだ奥がありますよ」
そうだ、今回エリスは帝国軍相手にいいところまで行けた、だがだからと言って今からエリスが帝国軍を相手にして陥落寸前まで持っていけるかと言ったら話は違う
あれは飽くまで軍事演習、強力な兵器は使ってないし 何よりそもそも帝国軍の士気も低かった、真の力はまだまだあるんだろう、師団長とも二人しか出会えていないしね
「帝国軍の扱う魔装か、興味深かったな…」
「おや、レグルス様も魔装欲しいですか?、陛下にお伝えすれば陛下直々に特製の魔装を作成してくれるでしょう」
「う…いいよ、なんか凄いの作ってきそうだし、持て余しそうだ」
その話を聞いていて、ふと気になったことがある、うん まぁ今聞いてみるか、まだ屋敷まで少し距離がる、話の物種になればいいだろう
「あの、すみませーん 一つ質問いいですかあ?」
「ん?、なんだエリス」
「いえ、気になったなんですけど…魔装って、カノープス様が作ってるんですか?、陛下直々に特製の魔装をって言ってましたし」
気になったというのはカノープス様の事だ
思い返すのはコルスコルピの中央都市 ディオスクロアの地下に隠されていた対天狼最終防衛機構の事だ、今の文明を遥かに凌駕する技術で作られた技術などが詰め込まれたあの防衛機構
あれの作成者もカノープス様という話、そして今にして思えばあの防衛機構は魔力機構に通ずる物がある…、もしかしたらカノープス様はそういう物作りが得意なのかな?なんて、知っても知らなくてもいいことを質問してみる すると
「はい、魔装の開発者は陛下自身ですので」
「あ、やっぱりそうなんですね…」
「違うぞメグ、魔装の開発者はカノープスではない、カノープスは飽くまで魔装の作成や改造が得意なだけだ、そもそもアレのルーツは帝国ではない」
「へ?、そうなのでございますか?…、申し訳ありません 勉強不足で」
「無理もない、カノープスもどうせ話さないだろうからな、それに大元の魔力機構と今の魔力機構は根本から違う、昔のヤツは 実用性皆無だったからな、オモチャの域を出なかった」
「じゃあ、作ったのは誰なんですか?師匠」
「名前は知らん、だが開発したのは双宮国ディオスクロアの兵器開発局だと聞いている」
双宮国ディオスクロア…っていうと八千年前にあった十三大国のうちの一つで、師匠達の故郷でもある国か…、ってことは魔力機構自体は八千年前からあったのか
と そこまで考え思い出す、そういえばデルセクトに入る前 汽車を見た師匠が言ってたな
『魔力を用いて物を動かし、その上に乗るという発想は昔からあったが、動かす物の質量が大きくなれば必要となる魔力も多くなるという性質のせいで上手くいかなかった』と
多分 それ魔力機構のことだ、八千年前から魔力機構はあるにはあったが、多分そういう事情で実用化はされていなかったんだろう、それを改造改良し 現代に実用性のある道具 または武器として復活させたのが帝国の魔力機構なんだろうな
だから、昔からある技術なのに何処の国にも存在しないのか…
「ディオスクロアの兵器開発局が作るには作ったが、結局実用まで漕ぎ着けなかったその設計図をカノープスは持っていたんだ、昔も便利な道具をいくつか作っては私達に見せびらかしていた」
やはりそうなのか、すると ふとメグさんが首を傾げ
「何故、兵器開発局が実用化出来なかった物品の設計図を陛下が持っていたのですか?、普通実用化出来なければ設計図も諸々破棄されるはず、それをどうやって入手したのでしょうか」
あ…言われてみればそうだな、兵器開発局といえば由緒あるところだろう、実用化しなかったとはいえ作られた設計図を手に入れるなんて容易でもないだろう、当時魔女としての権力を持たなかったカノープス様がどうやって
すると、師匠は意外そうな顔で目を丸くすると
「なんだ、カノープスの奴 言ってないのか?」
「何をですか?」
「奴の本名さ、聞いたことはないか?」
本名…一応エリスは知っている、時刻みの間で見ましたからね、確かカノープス様の本名は『カノープス・プロパトール』だったはずだ、けど…それと何か関係が
「一応聞いてはいます、カノープス・プロパトール…でございますよね」
「少し足りないな、奴の本名はカノープス・プロパトール・ディオスクロア…、つまり 双宮国ディオスクロアの正統なる王族だ」
「王族…ディオスクロアの!?」
びっくらこいた、カノープス様って魔女になる前から王様だったのか、それなら確かに兵器開発局の設計図も入手できるな…
いやじゃあなんでシリウスの弟子なんか…いやそれ以前に何故時刻みの間にはディオスクロアの記載がなかったんだろうか、それとも名乗る名前が変わると勝手に彼処に記載される名前も書き換わるのだろうか、分からない…
「まぁ、奴には兄がいて その兄が王をやっていたからな、弟子入りした時にはディオスクロアの名を捨てていたからな、…あ これ言わない方が良かったか?、すまん忘れてくれ」
そんな無責任な…、なんてメグさんと一緒に呆れているうちにエリス達は自宅でもある屋敷に到着する、ううむ 聞いて良かったのか悪かったのか、少なくとも カノープス様はこの魔女世界ができる前から そういう由緒ある家系の一人だったということだ
…ある意味じゃ、このディオスクロア文明圏全体は まるまる彼女の国…とも見れるのかな
「なるほど…通りで…、おや?もうお屋敷についたようですね、ではエリス様とレグルス様はダイニングで休んでいてくださいませ、直ぐにお夕食の準備を…」
「待ってくださいよメグさん、今日はエリスが作る約束でしょう?」
「はて、そうでしたか?」
「そうでしたよ、メグさんも今日は無理したんですから休んでてください、エリスがパパっと作るので…」
「でも…」
「でももストライキもありません、待っててくださいよ 約束ですよ!」
屋敷に入るなり繰り広げられる攻防、だが今日はエリスが作る約束だったじゃないか、そりゃメグさんの立場的にエリスに任せるのは心苦しいかもしれない、だがエリスは彼女を友だと思っている、ならいつまでも彼女を顎で使いたくない
いきですね?、わかりましたね?と念押ししながら歩いていると…
「ありゃ?、エリスちゃん メグ殿にレグルス様、どうしたんですか?」
「ってリーシャさん!?何故ここに…」
屋敷の灯りをつけながら奥から現れるのはリーシャさんだ、いや何故ここに …ん?そういえばリーシャさん、軍事演習には参加してなかったな
「いやぁ、なんか何処探しても誰もいないから、寂しさ紛らわす為に屋敷にお邪魔してましたぁ、どうせ家帰っても一人ですし 寂しいし」
「だからと、勝手に上がられては困りますよリーシャ様、ここはエリス様のレグルス様の邸宅、許可を取っていただかないと」
「ああ いや別にリーシャさんはいいんです、それよりリーシャさん これから晩御飯なので一緒にどうですか?」
「え?本当!やったー、ラッキー」
ンヘヘ と嬉しそうに笑いながらリビングへと向かっていくリーシャさんをメグさんはやや面白くなさそうな目で見つめる…、勝手に許可したこと 怒ってるのかな
「あの…メグさん?、怒ってます?」
「いえ、…別に」
怒ってそうだな、というか前々から思ってたがメグさんリーシャさんに対して当たり強くないか?、嫌いなのかな…、あんまりそういう感情を表に出すひとじゃないとおもつてたが、エリスの見込違いか
「メグさん、リーシャさんはエリスの友達です、出来ればあんまり邪険に扱わないでください」
「別に邪険にはしていないです、ただリーシャ様の行動は読み切れない部分が多く…、って そんなことよりエリス様、夕飯のご準備を」
「ああそうでしたね、んじゃ軽く作って…」
この辣腕を振るう時が来たと腕捲りし、さぁこれから厨房に向かおうとした、次の瞬間
コンコンコンと 三度玄関の扉が叩かれる…、いや …いやいや誰だよ、これからって時に
「誰でしょうか…」
「はて、この屋敷に客人は来ないはず、エリス様の身の安全を確保する上でこの屋敷に近づけるのは私とリーシャ様の二人だけ、後は立ち入りを禁止しているはずです」
え?そうなの?、そんなに厳重だったの?、いやまぁ確かにあれだけエリスを囲んでいた帝国兵の皆さんもエリスが家に帰ると言ったらそそくさと離れていった、あれってそういうことだったんだ
…じゃあ、誰だ?とエリスの目が険しく鋭くなり、師匠に判断を仰ぐが…
「…応対はお前達に任せる」
なんてあくび混じりに手を払いリーシャさんに続くようにリビングへと去ってしまう師匠、…師匠が特に警戒してないってことは大した相手じゃない?、いや偶に師匠 敵が来ても対処をエリスに任せて自分は静観を貫くことあるからな…、あんまりアテにならないか
まぁいい、ここは帝国領 警戒することなんかないか
「まぁいいです、出ましょう」
「あ エリス様…」
ここにはエリスもメグさんもリーシャさんもいる、最悪師匠もいる 襲撃ならば寧ろ望むところな戦力だとエリスは大して警戒もせず、玄関に向かいその扉を躊躇いなく開ける
すると
「あら?、貴方は…」
そこに立っていた人物を見て、エリスは思わず口をあんぐりと開ける、案の定敵ではなかった、ただ 来訪者の姿は意外なものであり…
一言で言うと、サングラスを掛けた男だった、彼は軽くサングラスを下にズラし、黄金の瞳孔をちらりとこちらに向けて
「ここ、孤独の魔女とその弟子の邸宅…であってるよな、って聞こうかと思ったら本人が出てきやがった」
玄関の向こうにいたのは、第五師団の団長 フリードリヒ・バハムート その人であった…、いや なんでこの人訪ねて来てるんだ?、この人エリス達の家に遊びに来るくらい仲良かったか?
否だ、話したこともない 、一体何をしに来た…、そう尋ねようとした瞬間、フリードリヒの背後からヒョコヒョコと二つの顔が出てくる
「ああ!、エリスさんですよ!」
片方はフィリップさんだ、エリスが昼間ボコした彼が 今はもう傷一つなくそこで笑っている、そしてもう一人は
「よう…、小娘…テメェいい家住んでんじゃねぇか…」
ピキピキと青筋立つながらギリギリと歯軋りをする…、トルデリーゼさんの姿があり
ってぇ!?
「なななな なんですか!?貴方達!お礼参りに来たんですか!?」
若干一名部外者がいるものの、昼間 エリスが倒した人たちが勢揃いしている、それが群れを成して家に現れた、恐怖しない方がおかしい 警戒しない方がどうかしている
って言うか実際トルデリーゼさん、今にも飛びかかりそうな顔してるし!
「そうだよ小娘、お礼参りだこの野郎…」
「ちげぇだろトルデ、ここで喧嘩すんなら帰れよお前」
「……チッ」
「え?、喧嘩しに来たんじゃないんです?」
「違う違う、喧嘩しに来たんならご丁寧に玄関ノックしねぇよ」
「じゃあ何しに…」
そう問いかけようとした瞬間、…ガタガタと床を鳴らし背後から足音が響く、それはリビングの方からの足音で…、その足音につられフリードリヒさんの黄金の目がそちらを向くのが見える
そして
「エリスちゃーん?、どったのー?…ってぇっ!?フリードリヒ!?トルデリーゼ!?」
「ようっ!リーシャ!遊びに来たぜ!」
「テメェリーシャ!あたし達に挨拶に来ねぇとか水臭いぞ!友達だろ!あたし達!」
……まぁ、少なくとも喧嘩しに来たわけではなさそうだ
………………………………………………………………
特記組、それは皇帝陛下から才能を見出された軍人達が、皇帝指定の特別な訓練鍛錬に励むことを義務付けられた者達のことを言う
特記組に入る方法は一つだけ、マルミドワズに存在する帝国軍学校を成績優秀で卒業した人間だけが加入出来る、そしてそこで大体四~五年鍛錬を積んで、皇帝陛下から合格を貰えば晴れて特記組出身の軍人としてデビュー出来るんだ
特記組出身の判子は言ってみれば出世街道への切符に近い、特記組出身者は軒並み師団長か或いは要職についてるし、歴代の将軍もみんな特記組出身だからね、帝国軍の中でも特別な存在だ
さて、そんな特記組に入る十五年前 とある奇跡が起こる
歴代の特記組の中でもトップクラスの実力を持つ、それこそ百年に一人と呼ばれるような逸材が揃って合格を勝ち取り 同時に軍部に鳴り物入りを果たしたのだ
それを『特記組最強世代』と呼ぶ、個人の実力ならそれよりも前に合格を勝ち取っていた三将軍達の方が上だろう、だが それに次ぐレベルの実力者が一気に五人も軍に入ったんだ 目立つに決まってる
特記組最強世代の名は…
単騎で一個師団を相手取った逸話を持つ『人魚 リーシャ・セイレーン』
対防衛戦では帝国五本の指に入ると言われる『神羅 ジルビア・サテュロイ』
体内に戦艦を抱える歩く兵器『人型戦略兵器 トルデリーゼ・バジリスク』
特記組最強世代の筆頭『絶界の伏龍 フリードリヒ・バハムート』
そして最後の一人はフリードリヒと並び特記組最強の一人として数えられる『歩み潰す禍害…』、…いや 彼はもう帝国軍に居ないから省いても良いか
ともあれ、この五人の同期達は期待され、或る者は期待に応え或る者は期待に応えられず帝国を立ち去った…、リーシャさんは後者だ
師団長候補として期待されながら、負傷により戦線を離脱し 共に歩んだ仲間の元を去り…そして十五年の時を経て、今 ようやく友の所に帰って来たのだ
「酒が飲みたくて仕方ねぇーー!!!」
「人の家に上がり込んで第一声がそれってどうよ…」
「ほへぇ、本当にいい家住んでんだなあ…」
「これ僕の家よりも大きいですよー、さすがエリスー!」
…今、エリスの目の前 ダイニングはいつもと違い、なんとも賑やか…いやこれは騒がしいと言うのだろうが、そんな景色が広がっている
リーシャさんに会いに来たといきなりこの屋敷の扉を叩いたのは師団長のフリードリヒさん トルデリーゼさん フィリップさんの三人だ、一時は昼間の報復か!と思ったがどうやら本当にリーシャさんに会いに来ただけのようで、今は屋敷の広さに三人揃って驚いている…宛ら友達の家に遊びに来たくらいの軽さだ
…そう言えば、フリードリヒさんとトルデリーゼさんは、ジルビアさんと同じでリーシャさんと同期でしたね、二人とも特記組出身…と来れば、その関係はジルビアさんに並みに深いはずだ、十年ぶりに帰って来た友達がいるとなれば 会いに来てもおかしくはないか
「…………」
「…あはは」
そして、そんなエリスの隣でずももと暗いオーラを出して三人を睨んでるのはメグさんだ、この屋敷は安全確保の都合上 軍部の人間も立ち入れないことになっている、そう彼女は語っていた
しかし、そこは師団長三人、…どうやら特権を使って自分達がこの屋敷に立ち入れるようにしたらしいのだ、無茶苦茶だが…いいじゃないですか、友達に会いに来るくらい
まぁ、フィリップさんは別にリーシャさんと友達じゃないみたいですが、…いやなんで来たんだあいつ
「賑やかになったな」
「すみません、師匠」
「お前が謝ることではない、それより 彼等に夕餉を馳走してやろう、今日 彼等には付き合ってもらった形なのだ、少しでも礼をしよう」
「大丈夫です、もう 作ってありますから」
いきなりではあったが彼らは客人、ならば持て成すのが家主の仕事 それは心得ている、故にキッチンに飛び込んで超特急で夕御飯を作ったんです、まぁ 本当はメグさんを休ませるつもりだったのですが、如何にせよこれは想定外なので メグさんにもキッチンに立って頂き、料理を済ませた
「ほう、早いな」
「既にこちらに用意してありますので、皆さん!席についてください ご飯を食べるので」
台車に乗せた料理を運びながら、声を飛ばせば ダイニングで騒ぐ四人も師匠も、揃って席に着く、そもそも二人で使うには大き過ぎたんだ、後二十人くらい増えても問題はない
席に着いた皆さんに向け、料理を一つ一つメグさんと配り回る
「ひょえー、凄い これエリスちゃんが作ったの?」
「はい、メグさんのお手伝いもありましたが…」
「いえ、私は飽くまでエリス様の指示に従いその手足として動いたに過ぎません、パイをお作りになった時から察してはいましたが、よもや旅人の身でこれほどの腕をお持ちとは、メイドとして感服するばかりです」
よせやい、そんなに褒めるなよう、照れらい
アマルトさんやメグさんには敵わないまでも、エリスはこれでもここまで沢山の料理を食べて腕を磨いて来たんです、腕前に関してはメルクさんのお墨付きですからね…、いや あの人はエリスの料理大好きだからな、あんまり信用なる意見ではないな
「へえ、これ エリスが作ったのかい」
「へ?あ はい」
ふと、フリードリヒさんの手前にソテーを置くと、チラリと目を向けてエリスの方を見る、な なんですかね…
「料理が出来て…、博学で頭もキレて、戦場に立てば鬼のように強く、そんでもって美人…か、こんな人間いるんだな びっくり、完璧じゃんよ!」
「か 完璧では無いですよ、そんな…」
「いいや、完璧だね、トルデなんて料理も出来ないし頭も悪いし、おまけに今日エリスにも負けてるし」
「まーけーてーねーしーぃ!、って言うかメグッ!テメェゴルァ!、よくもあたしをあんな所に飛ばしやがったなテメェ!、大慌てで戻って来てみりゃあたしなんか負けたことになってるしよぉ!おい!聞いてんのか!」
フリードリヒさんの煽りに激怒し立ち上がるトルデリーゼさんは配膳するメグさんに詰め寄るが…、涼しい…あまりに涼しい顔だメグさん、流石です
「はて、戦線を離脱させられ 戻って来たのが終戦後、これを負けと言わずしてなんといいましょうか、あれが軍事演習だから良かったものの、実戦であれば貴方の部隊は全滅でしたよ?、良かったですね演習で…、部隊を全滅させた無能な指揮官にならなくて」
「テメェ…、いやあれは卑怯だろ!お前エリスにあたしの武器の情報を渡してただろ!」
「相手が何も知らないと思い込むことほど恐ろしいことはございません、良い経験になりましたね、次からは気をつけましょう」
「ッッ~~~!!!!」
「はい、トルデリーゼ様 エリス様のお手製のパスタでございます、こちらを持って御着席を」
「お…覚えてろよ…!」
パスタを手渡され、仕方なしと席に着くトルデリーゼさんの顔は、もう真っ赤っかです
対するメグさんの顔は相変わらず冷ややか、あの表情以外ないんじゃ無いかってくらい顔色を変えない…
なんというか、相性が悪そうですね二人
「ぷっ…あははは、変わんないね トルデ フリードリヒ、二人はあの頃のままだ…懐かしいな」
そしてそんな様を見て笑うのはリーシャさん、…彼女のその顔は 見たことのない顔だ、エリスやクリストキントに見せていたそれとは違う、ある意味素とも言える気楽さに『ああこの人達、本当に知り合いだったんだ』なんて感想さえ浮かんでくる
「そう言うお前は変わったなリーシャ、聞いたぜ?今タバコ吸ってんだって?、やめとけやめとけ、あんなもん不味いばっかで特なんか一つっもねぇよ」
「そう言うフリードリヒだって、昔から吸ってるじゃん」
「そりゃお前、かっこいいからに決まってんだろ、サングラスに咥えタバコ…イカすぅ」
「それがなければねぇ」
マダグレーナさんやジルビアさんのあの反応的にリーシャさんは帝国に歓迎されていない、なんて勝手に思い込んでいたが どうやら違うようだ、久々の旧友との再会に嬉しそうに微笑み笑い合っている なら、暫くは再会に水を差すのは控えようか
「はい、フィリップさんもどうぞ」
「わーい、ありがとうエリス、美味しそうだね」
「え…ええ」
そしてこいつは何故いるんだ、フリードリヒさんたちの要件はわかるが、何故フィリップさんまでここに居る…、そして何故呼び捨て、距離も近いし
ま…まぁいい、エリスは学びました この旅で学びましたよ、よく分からない出来事はまぁいいで流せばいいんです、いちいち気にしてたら体が持ちません、まぁいいの法則です
「さてと、はいどうぞ師匠」
「ん、ご苦労だったな」
「メグさんのおかげでそこまでご苦労して無いです、では頂きましょうか…」
「そうだな、…ああいや待て プロキオンから貰った酒があったな、あれを出そう」
「かしこまりました、ではこちらに」
ポンッと音がする、見れば既にメグさんの手の中にプロキオン様から貰ったお酒が握られており 今そのコルクが外されたのだ
プロキオン様が師匠にくれたエトワールの秘蔵酒、どうやらメグさんが後日もう一度クリストキントに飛んで取ってきてくれたようなのだ、多分 エリス達を迎えにアルシャラに行った際 各地に例のピンを刺しておいたのだろう、これでメグさんはいつでもアルシャラに向かえるってわけだ
今度時間が出来たらクリストキントに行ってみんなを驚かすのも…、いやそんないたずらにメグさんを付き合わせるのも悪いな、言ったら多分メグさんは嬉々として参加するだろうが
「うひょ~、これって高いやつじゃなかったか?い いいんですかねぇレグルス様」
「構わん、魔女が持て成したと言うのに、安酒を飲ませたとあれば名折れだ」
「ありがとうございまーす、でも僕お酒飲めないので結構でーす」
「では、レモンスカッシュもござますよ?、エリス様もどうです?」
「スカッシュ?なんですかそれ」
なんて言っる間にエリスとフィリップさんのグラスに注がれるのは、なんか泡立つ透明の液体だ…
ふむ、スンスンと匂いを嗅げばその名の通りレモンの香りがする、レモネードのようなものか?、しかしこの泡は…
「わーい、僕これ大好きですよ エリスさんもどうぞ?」
「え ええ…では」
チロリ とスカッシュを口に含むと…
「ッッ!?これは!」
なんじゃこりゃ!口の中で泡が弾ける!、パチパチと刺激を放つ不思議な液体…しかし、これは…
美味い、美味いぞ…!、初めて飲む飲料水だがとても美味しい、この弾ける泡が齎す清涼感が喉越しを際立たせ後に残る香りもまた一層雅となる、不思議な飲み物だが美味しいぞ!これ!
「こちらは炭酸水と言いまして、麦芽の発酵酒を作る際生まれるガスを水に混ぜた所 偶然生まれた産物でカストリアの地方国で生まれたとされています、それを材料にレモンの果汁と砂糖を混ぜたものがレモンスカッシュになります」
「麦芽の発酵酒、確かビールでしたか?へぇ、そんな製法があるんですね…」
「ビールは好かん、あれは下卑た飲み物というのだ」
そんなことないと思うが…、師匠はどうやら麦酒よりも果実酒の方が好きらしい
いやしかし美味しいな…、んー この飲み口はエトワールの湧き水を使っていますね、恐らくですが使われたレモンもかなりの高品質、多分アジメクのレモンを使っています
世界各地から一瞬でどんな物品も仕入れることができるアガスティヤ帝国だからこそできる最高の一品ですね、見事です
レモンの苦味を砂糖が程よく抑えてあり、炭酸が弾けて風味豊かな香りを口一杯に広げていく、これは食事にも合いそうだし、多分 ナリアさんも好きだと思う、あの子グレープエード大好きだし
「さて、ではエリス様のお料理を堪能しながら…、皆さんの訪ねた理由をお聞きしましょうか、皇帝陛下が定めた法を態々特権を使って捻じ曲げてまでここに来た理由、お聞かせ願えますでしょうか、師団長の皆々様」
「…………」
音もなく席に着くメグさんの口ぶりには、静かなる怒気が込められているような気がした、来るなというのに来た その事に関して怒りの覚えるのは当然である
そしてそれは、フリードリヒさんたちも理解の上、ならば その心や如何にと問いかける
「別に、特に用事はない、留守だったら明日来るつもりだった」
「……なるほど」
あ 怒ってる、メグさん怒ってる、顔は笑ってるけど心が笑ってない、じゃあ来るなよと言わんばかりの笑顔だ…
だが、フリードリヒさんはニヒルに笑うと
「だけどさ、トルデリーゼやフィリップを倒して 帝国軍相手に大立ち回りかました女の子、どんなもんか拝んでみたいと思うのは悪いことか?」
「思うことは悪いことではありません、それを行動に移すのが悪いことです」
「悪いことにならないようにちゃんと話つけてきたぜ?」
その行動を咎めているような気がするんだが…、だけどフリードリヒさんからは悪い気配は感じない、こう…ここに来て何かしてやろうというような企みも見えない、豪放磊落とただ遊びに来ただけ そんな自由奔放さを感じるばかりだ
なら、別に怒ることなかろうよ
「いやぁ、フリードリヒさぁ…、そうやって周りを巻き込むのはどうかと思うよ私はさ」
「えぇ、だってリーシャだってここにいるじゃん」
「私はいいのよ、だってエリスちゃんと友達だから、ねぇ~?」
「はい、エリスとリーシャさんは友達です」
「あ!ずっけぇ!じゃあ俺とも友達になろうよ、ねぇ~?エリスちゃーん」
え…いやだ…、だってエリスこの人のこと知らないし、そもそもいきなり距離が近…そう、言いかけた瞬間
「エリスは!僕と友達になるんです!」
バンッ!と机を叩きながら立ち上がるフィリップさんに場は静まり返り、その視線が一斉にそちらに注がれる…いきなりなんだ…、というかこの人は何しに来た…
「あ あの、フィリップさん?」
「すみません!本題が遅れました!、エリス…いやエリスさん!、僕はあの軍事演習で貴方の勇姿に惚れました!、僕の生涯の伴侶となってください!幸せにしますから」
「ブッ!」
師匠の口に含んだ酒が宙を舞う間に、フィリップさんは凄まじい速度でテーブルを回りエリスのところまでやってきて、膝をついてその手を取る…え?
……えぇっ!?求婚!?いきなり!?何故ぇっ!?
「え ええ…、いきなり求婚されても困りますよ…」
「いきなりじゃありません、貴方のあの勇ましい立ち姿 一瞬で僕の弱点を見抜く眼力!、まさしく龍!僕はドラゴンが好きです!そして貴方は龍です!なので貴方が好きです!」
「どんな理屈ですか…」
「僕と結婚してください!」
…なんでこう…エリスは、急に結婚を申し込まれることが多いんだ…、バシレウスといいなんといい、流石にこう…もう慣れましたけど、だからと言って 平然としてられるわけじゃない
「すみません、お断りしてもいいですか」
「えっ…」
「エリスは今、誰かと一緒になるつもりはありません、ここに来たのも旅の最中だからです、だから 結婚はしません」
「そんな…」
悪いが、結婚は出来ないと伝えると フィリップさんはまさか断られると思ってなかったのか、ガックリとうなだれ死んだように動かなくなる
気の毒だが、気の毒を理由に結婚はしない、エリスは結婚するなら…もっとこう…ねぇ?、エリスより強い人じゃないと
「おい貴様…」
「へ?レグルス様?」
「求婚を申し出に来たのか?エリスの魅力に気がつく慧眼は褒めてやるが、なんの持参品もなしにいきなり結婚してくれは些か不躾だ、何はともあれ誠実さを見せろ、それが出来ないならこの子に近づくな」
「……それって…」
脅しだ、誠実さを見せろのはつまりお前は不誠実だと…、師匠の言葉が身に染みたのかフィリップさんをゆっくりと立ち上がり…
「つまり挽回のチャンスをくれるってことですね!次回はきちんと準備をして誠実さを見せます!、エリス!待っててね!」
「………………」
ダメだなこれは…、まぁ納得して席に戻ってくれたからいいけど…
「はははは、フラれたなフィリップ」
「でも諦めません!」
「そうかい、あんま迷惑かけんなよ、こっちの言い分一方的に通そうとする男は嫌われるぜ」
「助言感謝します!」
「厄介なのに好かれたねエリスちゃん」
「あはは、もう慣れました」
そういえばフィリップさん…今はもう潰えたとはいえ元王族の血筋だったな、エリスは変な王族に好かれる傾向にあるようだし…ラグナは変じゃありませんが、困ったな
「で?、リーシャ お前エトワールに居たんだよな」
「ん?そうですよトルデちゃん」
「その呼び方やめろ…、あー その…どうだった?エトワールは、その…」
「楽しかったですよ、別に 屈辱と挫折に苛まれて監視員になったわけじゃないですし、ちょっとでも帝国の役に立ちたくてやってたわけですしね、別に気にしなくていいですって」
事実、リーシャさんはクリストキントに馴染んでいた、もう家族の一員だったとも言える、あんまり顔には出さないが 彼らと離れたことを少なからず悲しんでいる
けれど、罷り間違ってもイヤイヤ小説家をやっていたとは思えない、だから 気を使うなと笑って伝えるも、トルデリーゼさんは顔を歪める…あ この顔見たことある
ジルビアさんがリーシャさんを見るときの顔だ、それと同じだ
「でも…でも!、でもさ!あんた…あんなに訓練してさ、あたし知ってるよ あんたがウチら同期の中で一番早くから遅くまで自主練してたの、知ってんだよ…」
「まぁ、そうしないとついていけないほど みんな優秀でしたからねぇ、トルデも ジルビアもフリードリヒもあのクズも、みーんな優秀でしたんで 負けないようにするにはひたすら練習練習!って感じで」
「それで勝ち取った力なのに…、こんな…」
「ね、私も油断が過ぎましたよ…、まさかねぇ あんな大怪我するとは…」
「おちゃらけんなよ!あたしは本気で…!」
「トルデ!…やめろ、それ問い詰めてどうすんだよ」
「っ…フリードリヒ」
止められる、トルデリーゼさんか、必死なのは見ているだけで伝わってくるが、リーシャさんはそれに答える気がないのも分かる、見ていてトルデさんが可哀想になるくらいだ
「リーシャは後悔してないって言ってたろ」
「嘘に決まってんだろ!そんなの!」
「例え嘘でも信じてやるのが友達だろ、友達が信じりゃ それは真実だ、だから俺は信じる、リーシャが後悔しないようにな」
「ぐっ…うぅ…」
納得いかない だが、トルデさんは座る、彼女もリーシャさんを思う気持ちは本物だから…、いい友達を持ってますね リーシャさん
「はぁ、相変わらず男前ですねぇフリードリヒ」
「だろ?、でさ エトワールって言えばやっぱ芸術の国じゃん?、リーシャはさ どんな風に過ごしてたんだ?教えてくれよ、やっぱ画家とかに扮してたのか?」
「えぇ…、私絵を描くの苦手って知ってるでしょ、普通に小説家ですよ」
「小説家!やっぱりな、リーシャには物書きの才能があるって俺昔から言ってただろ?トルデ」
「リーシャは昔から騎士物語とか好きだったもんな、あたし リーシャの書くお話は難しくないから好きだ」
「ちょちょっ!、みんなで急に褒めないでよ!、まぁ最初の一本は上手く流行りに乗れて売れたけどさ、それ以来鳴かず飛ばずで十年過ごしてたんだよ?…、そこを助けてくれたのがこのエリスちゃんでござい」
「え!?」
いきなり話を振られて仰天しフォークを取落す、三人の仲のいい会話を聞いて、やっぱり友達は大切だなぁとか昔から騎士物語描いてたんだなぁとか、そんなことに思いを馳せていたら、気がつけばフリードリヒさんトルデリーゼさんの視線がこちらに注がれる
「あ いや、別にエリスは何も…」
「エリスちゃんはもう参って参って自殺寸前の私を慰めて叩き起こして、奮起させてくれたんだ、この子のおかげで私の作品はヒットしたし 最後にいい思いもさせてもらった、本当に感謝が尽きないよ」
「自殺寸前って…相当追い詰められてたんだな、いや だとすると本当に感謝だな、俺からも礼を言わせてくれ エリスさん」
「そうだな、友達の命を助けて 剰え夢も叶えてくれたんだ、友の恩人はあたしの恩人だ、…昼間は色々と失礼なこと言って悪かった、エリスさんよ」
「え エリス『さん』はやめてくださいませんかねぇ!?」
なんか急にさん付けをされて 照れるとかではなく単純に恐縮だ、この二人は帝国の師団長の中でも随一の実力者、帝国からの信任は欲しいが そこまで敬われたらなんか窮屈ですよ
「流石です!エリス!未来の僕の妻!結婚して欲しい!」
「嫌ですけど…」
そしてフィリップさんは変わらないんですね、いや別にいいんですけど…
「しかしなぁ、リーシャが向こうで小説家かぁ…よかったのか?、それ投げ出してこっち来て」
「よかったの、いい思いもさせてもらったしさ やりたいこともやったし、そろそろ帝国に帰ろうかなって…、監視員の任期はもう切れてたしさ」
「じゃあ…師団に復帰するのか?」
「……………………」
リーシャさんは答えない、料理を食べる手も止めて、静止する
軍に復帰するのか…か、普通に考えればそうだろう、彼女が師団を辞める原因になった怪我とはどんなものかは分からない、けれど多分 その傷も癒えている、戻ろうと思えば戻れるはずだ…けれど、今に至るまでリーシャさんの態度はとても曖昧なまま
「…この際、はっきり言っておくよ、フリードリヒ トルデリーゼ」
「ああ」
「なんだ?」
「私さ、エリスちゃんの護衛って任務が終わったら、退役するよ、そんで田舎に帰って、おかーちゃんと暮らすつもり」
「…そうか」
軍は辞めるつもりだと そう言うのだ、傷は癒えた こうして帝国に帰った、だがマグダレーナさんの言うように、もう彼女には 情熱がないのだろう
十年だ、彼女が帝国を去って十年、その間に出来た溝とはあまりに大きい、同期は既に確たる地位にいて 部下も大勢いる、そんな中 今更軍部に戻って励む気にはなれないのだろう
フリードリヒさんはどこかわかっていたかのように腕を組み、トルデリーゼさんは何か言いたげに口をパクパクしているが、今この時に至ってもまだ言葉は出てこない
「ジルビアにはそれ、伝えたのか?」
「んーにゃ、この間会ったけど…『今更帰ってきてもお前の居場所はない』だってさ、嫌われたよ」
「そっか」
「なんだよそれ!、ジルビアのやつそんなこと言ったのかよ!、ふざけやがって…アイツのせいだろ!リーシャが怪我して戦線を離れる理由になったの!、リーシャは命賭けてジルビアを守ったのに!、アイツはそれを…それを…」
「いいんだよトルデ、別に感謝してもらおうと思ってないしさ、それにジルビアが私の穴を埋めようと頑張ってくれてたのは知ってるし、それでいいよ」
「……くそっ!」
ドスンッと再び着席するトルデリーゼさん、立ったり座ったり忙しい人だ、けれど 気持ちは分かる、気持ちは分かるが もうどうしようもない、リーシャさんは自分で納得している
これがまだ血を流す傷ならなんとかなったかもしれない、けれどリーシャさんにとってそれはもう古傷だ、傷跡は治せない どれだけ頑張っても、治せないんだ
「………………」
重い沈黙だけが流れる、…ふーむ 空気が重い、飯の味分からん…
「あー、すみません、飯時にする話じゃなかったですね、レグルス様」
「いや構わん、だが 友の気持ちを尊重するなら、彼女の覚悟に至るまでの道程も汲んでやれ、お前達が戦いの十年を過ごしたように、リーシャも独り戦う十年を過ごしていたんだ、それは長く苦しいものではあったが決して惨めなものなんかではないのだと」
「はい、承知しました」
「…そうだよな、リーシャだって向こうで頑張ってたんだよな…悪い」
「いいのいいの、それにさ どの道この年齢になったら辞めるつもりだったしさ、最後の大仕事が 友達守ることだなんて、光栄なことじゃないのよさ、ねぇ エリスちゃん」
「あはは、ありがとうございます、悔いのない仕事になるようエリスも頑張ります」
「はは、何をさ」
何をだろうな、でも分からないが 頑張らないといけない気がする、彼女の最後の仕事がエリスの護衛なら、立派な仕事だったと言えるような そんな仕事にしたいと思うんだ
「さて、酒も食事もご馳走になって、ダチとも話せたし そろそろ俺達はお暇するぜ、おい トルデ フィリップ、行くぞぉ」
「おう、んじゃあなリーシャ、また昔みたいにどっか遊びに行こうな?」
「えぇ、トルデ団長の時間を私なんかが独占してもいいんですかぁ?」
「やめろよそう言うの、あたし達はダチだろ?」
なはは の笑いながら立ち上がりグータッチで別れの挨拶を済ませるトルデリーゼさんとリーシャさん、二人の気安さは確かに友達特有のもの、あの狂犬みたいな人もリーシャさんと言う友達の前じゃ 一人の人格者に見えるんだから不思議だ、見えるだけだが
「じゃあ僕も帰ります、今日のところは、でもエリスさん 必ず貴方の心を射止めてみせますから!、僕!的外したことないので」
「エリス相手に一発も矢を当てられなかった人がよく言います」
「あはは、確かに!そう言う不遜な所も大好きです!じゃあまた明日!」
明日も来るのか…
「じゃあな、エリスさん」
「え?、ああはい、フリードリヒさんも、また アルカナとの戦いの時はよろしくお願いします」
「おうよ、…アンタには確かに借りが出来た、俺は借りた金は返さないが 借りた恩は必ず返す男だ、リーシャを救ってくれた恩は必ず返すよ」
借りた金も返してくれ…、なんて思ってるうちに三人はフラーっと屋敷を出ていく、大した用事ではなかったが、友達と話せて嬉しそうなリーシャさんを見ていると、どうでもよくなってくるな そんなこと
「…トルデ フリードリヒ…ジルビア、懐かしいな…アイツが居ないから全員集合ってわけじゃないけど、懐かしい、帰って来て良かったな」
ふふふ と肩を揺らし安らかに笑うリーシャさんの笑顔、救われる…そう言ってくれると
少なからず、クリストキントと引き離してしまったことを悔やむエリスには、救いの福音たる言葉だ、友達と再会出来たなら 良かったな…
「…さて、お客様がいなくなったことですし、後片付けをしますか」
スッと立ち上がるメグさんの手元の皿はいつの間にか空だ、そういえばご飯中この人一言も喋りなかったな、いやそれどころか食べてる音さえしなかった…、相変わらず視界内に入れてないと動きの見えない人だな
「では、エリスも手伝いますね 師匠はどうしますか?」
「私は暫く一人で飲んでいよう、リーシャ 付き合え」
「え?私でいいんですか?」
「メグは仕事 エリスは酒を飲めん、お前くらいしかいないからだ、独り酒もいいが、今はお前と飲みたい気分だ」
「嬉しいな…、分かりました ではお付き合いさせてください、レグルス様」
二人でグラスに酒を注ぐのを見ながら、エリスとメグさんは二人で食器の片付けに入るのだった…
う、しかし…体が痛むな、傷を癒したとは言え 今日の戦闘はかなり無理をしたから、ちょっと疲労が溜まっているのかもしれない、今日は早めに寝よう
「…………エリス様?、この後お時間をよろしいですか?」
「え?」
と思ったが、どうやら直ぐには寝れないようだ
………………………………………………………………
カツカツと軍靴を響かせ一人歩く、帝国軍本部たる宮殿の内部をおっとりとした足取りで歩く、もう夜だと言うのに未だに伊達でかけるサングラスをやや下にズラしながら、エリス達の屋敷を後にしたフリードリヒは 一人歩く
トルデリーゼは家まで送ったし、フィリップはエリスに見合う男になるとか言って こんな夜更けに自主練に出かけた、一人になった俺は暇を潰すようにプラプラと本部まで戻って来ちまったっけわけだ
そうフリードリヒは自傷気味に一人笑う
…このまま家に帰って寝る気にはなれなかった、あの場じゃ平静を装ったが リーシャの姿を見て、あんな言葉を聞かされた後じゃ、眠る気には到底なれない
「…退役、ねぇ」
リーシャは今回の任務を機に軍を去るようだ、別に引き止めるつもりはない、それがリーシャの望みなら 彼女の兄貴分として、それを認め笑って送り出すべきだろう
しかし、と フリードリヒは柄にもなく、ちょっと真面目に考える
「まさか、次に軍を去るのがリーシャとはな…」
あの日 あの時、まだ俺達五人が特記組で鍛錬を積んでる頃は思いもしなかった
リーシャ 俺 トルデリーゼ ジルビア そしてアイツ…、この五人は帝国の士官学校からの付き合いだ、もう二十年来の友達と言ってもいいくらいの長い付き合いとなる
あのがむしゃらに己を磨き上げてる頃は、こんな風に永遠に五人で一緒にいるもんだとばかり思ってた、けど こうして大人になって 時間が過ぎると共に俺を取り巻く環境はどんどん変わっていた
俺は相変わらず単純なままなのに、世界はどんどんややこしくなっていく
「もう残すところ、俺とトルデとジルビアだけか…」
一番最初はアイツだった、アイツが居なくなって もしかしたらこの友情は永遠ではないのかもしれないと何処かで悟り、そしてリーシャがジルビアを庇って戦線を離脱しその悟りは確信になった
…リーシャに真っ先に会いに行かなかったのだってそれが原因だ、会いにいくのを忘れてたとは言ったが、そんなわけはないに決まってる…
俺は目を背けて居たかったんだ、リーシャが居なくなるかもしれないという事実から…、あの言葉を聞きたくなかったから…
そう口走りながら胸元に手を当てる…、いつかの時 五人揃って出店で買った鉄のペンダント、五人の友情の証…こればかりはまだ捨てられそうにないな、俺は
「はぁ、みみっちいなぁ俺」
「ん?、どうかされましたか?フリードリヒ師団長」
「んぁ?、おお…ジルビア」
思わず重い声が出てしまった、なんでこう こんな場面でばったりこいつと出くわすかな…
俺の友人の一人にして妹分でもあるジルビアが、山のような書類を抱えて廊下を歩いているのだ…
「こんな遅くまで仕事か?」
「はい、一刻も早く マグダレーナ先生に代わる師団長になる為には、怠けている暇なんてありませんから」
これは、リーシャが戦線を遠のいてからこの方、ずっとジルビアの口癖になってる言葉だ
早く師団長に 早く師団長に、それは俺やトルデが師団長になってからより一層濃くなった…
こいつは、リーシャが戦線を遠のいた原因が自分であることを理解している、リーシャは優秀な奴だった、あの一件がなければ 今頃師団長だっただろうことは言うまでもないほどに、だからこそ ジルビアはリーシャの代わりになりたいんだろうが…
「ああ、なぁジルビア その敬語やめてくれないかな、なんてーかこう、堅苦しいって言うかさ、昔はもっと気安かったろ?俺達さ」
「いえ、フリードリヒ団長は第五師団の師団長、私は第十師団の師団長補佐、補佐と団長では身分はまるで違います、となれば 口調の一つ取っても、違うのは当たり前です」
「ああそうかい…、…そういや さっきリーシャに会ったぜ?」
「…………そうですか」
顔色の一つでも変えるかと思っていたが、思いの外ジルビアは冷静だ、無表情というより 無感情といったところか
「彼女はなんと?」
「退役するってよ、エリス護衛の任務が終わったら だから…もうあんまり猶予はねぇぞ?、お前も何か思うところがあるのは分かるが、言いたいことははっきり言ったほうがいい、でなきゃ…二度と言えなくなっちまうぜ」
喉元まで出かかった言葉を、伝え損なう苦しみを例えるなら喉に刺さった魚の骨と同じだ、別に死にやしないが その苦しみは常に己を蝕む、尤も 魚の骨と違ってこっちはタチの悪いところだがな
なーんて、ニヒルに決めながらジルビアの肩を叩き その横を過ぎ去る、相変わらず何も言いやしないが、それでも伝えたいことは伝えられたからよしとする
「…フリードリヒ団長?」
ふと、横を通り過ぎる俺に向けてジルビアが一つ声をかける、やはりリーシャについて何か言いたいことがあるのかと、やや期待して振り向くが…
どうやら違うようだ、ジルビアはこちらを見てすらいない…
「何?」
「いえ、五ヶ月後の師団長会議にはしっかり参加してくださいよ、フリードリヒ団長は今四連続無断欠勤中です、このままではハインリヒ団長の七連続欠勤に並んでしまいますよ」
「…分かったよ」
「では」
リーシャについては一言も無しか、ジルビアが今何を考えてんのか 分からなくなってきた…、リーシャと仲よかったはずなのになあ
「はぁ…、わからねぇな」
ポリポリと頭を掻きながらため息をつく、分からない…一番分からないのは、自分が何をするべきか どうしたいのかだ、俺は…ジルビアに何をして欲しいんだ?どんな答えが欲しくてあんなこと言ったんだ?
リーシャの退役を止めて欲しかったのか?仲直りして欲しかったのか?それともあの日の件を泣いて告解して欲しかったのか?、そんな事 今更意味ないって分かりきってるのに?
今は、成るように成る としか言えないな、特に俺にはさ
「…………」
…しかし、五ヶ月後か…師団長会議、確か アルカナに忍ばせてた間者から、本拠地特定の密告が届く日はの日だった筈、何事もなければその日に本基地が分かり 俺達はアルカナ全滅の為進軍を始めることになる
そして、アルカナが全滅すればエリスは帝国を離れる、とくれば リーシャも晴れて退役…か
「はぁ、俺に出来ることがあるならその日までに片付けるか、俺に出来ることがあるなら…だけどな」
…………………………………………………………
「あの、メグさん?一体何の用ですか?」
あれから、お酒を飲んでる師匠達を置いて夕食の食器を片付けたエリスは、何やら神妙な面持ちのメグさんに呼ばれ、今 寝室まで連れてこられている
エリス様はどうぞお掛けになって、と言われて こうしてベッドに座ってるわけだが…一体何の用だと言うのだろうか
「いえ、…ただ少し 木になることがありまして」
というメグさんは何やらカチャカチャと音を立てて、寝室の隅に置かれた棚で何かをして…ん?、なんか 変な匂いが…
「なんですか?これ」
「リラックスする効果のあるお香です、アロマ…とも言いますが」
お香か、エリスは縁がなかったが 確かアジメクの方に伝わる文化だとは聞く、えぇっと 薬草を乾燥させた物に火をつけ、その煙を吸うんでしたか?、エリスからしてみればパイプやタバコと何が違うのか分かりませんでしたが…
うん、今分かりました、これは良い煙です 嗅いでいると何やら気分が落ち着きますね…
しかし、こんなものを焚いて 一体何が…
「さて、エリス様 服を脱いでください」
「えっ!?なぜ!?」
「いいから服を脱いでください」
だからなんでって聞いてるじゃん!、ってやめて!手をワキワキさせながら近づいてこないで!怖い!
「おや?、エリス様は脱がされる方が好みですか?」
「今好き嫌いの話してませんよ!、なんですか…メグさんもエリスに求婚するつもりですか!」
「それが出来たならどれ程良いか…、しかしご安心を、ただ マッサージするだけですよ?」
「マッサージ?」
整体というやつか?、体を揉みほぐして体の疲れを取る的なものだと聞いたことがあるが…、え?なに?今からそれをしてくれると?、だから服を脱げと?…
「昼の激戦、あれは如何に実戦慣れしたエリス様でもお辛いものだったでしょう、その疲れは…確実に体に残っています、ポーションが治すのは傷だけで、疲労までは取ってはくれませんから」
「それはそうですけど、いいですよ こんなの慣れっこですし、寝れば疲れも取れます」
「果たしてそうでしょうか…、エリス様の先程の動きには些かならぬ疲労の色が見えました、それでは明日の修行にも響きます、ここは私を信じてはくださいませんか?」
「う…うう」
信じる 信じない、その言葉を出されると弱い、帝国との信頼関係を築こうとしている今は特に
「わ わかりました、ではお願いしますね」
「はい、では服を脱いだらベッドの上にうつ伏せになってくださいませ、あらエリス様 服の上からじゃ分かりませんが、腹筋バキバキでございますね」
「そりゃ毎日鍛えてますから、半端な体じゃ痛い思いするのは自分なので」
筋肉とは即ち鎧だ、殴られた時 物理的に攻撃を弾けるし、何より全身の筋肉が発達していれば上手く受け流すことも出来る、この旅で学んだ事だ 筋肉は即ちパワーであると
というかだ、いくら女同士だからと言っても恥ずかしくないわけではない、全裸を人に見られるのは普通に恥ずかしいんですよ?分かってんのかなこの人
「…あちこちに傷…、歴戦を物語りますね、ポーションを使っても治しきれないほどの傷が彼方此方に」
「ジロジロ見ないでください」
「おや すみません、ただ 服だけでいいのに下着から何から全部脱ぐので見て欲しいのかと」
「先言って!!!」
エリスバカみたいじゃん!、慌てて下着を付け直しうつ伏せになる 、さぁ!やるならやれ!
「怒らせてしまいましたか、では この手を以ってして弁解するとしましょう、アルティメットゴットフィンガーの二つ名を持つ我が整体術、とくとご覧あれ」
「なんですかその二つ…ぅなぁっっ!?!?」
グッ!とメグさんの親指がエリスの背に突き刺さった瞬間、走る電流 甘い痺れが身体中を駆け巡り変な声を上げさせる、こ これがマッサージ!?ちょ ちょっと想定外…
「ぅおっ!?んぐぅっ!?め…メグひゃっ!?、こ これ…!」
「気持ちいいですか?エリス様」
「わ…かりま…せひゅっ!?」
エリスの背に乗り、全体重を親指に乗せてグリグリとあちこちを刺激する、的確にエリスの中にある何かを突き 脈動させる、それはただ闇雲に押しているだけではなく、確実に何かしらの知識と技術を用いて行われていることが体で理解出来る
マズい、抵抗が出来ない、体が動かない、や やばぁ…声我慢出来ない…
「んふぅ…んぐぅ!、ちょ ちょっとタンマ…!」
「ダメです、今やめては効果がありません」
「な なんでぇっ!?、こ こんなに…巧いんです かぁっ!?」
「昔取った杵柄でございます、人間とは千差万別ではございますが、製造される際用いられる設計図はどれも同じ、どこを突けばどうなるか どうすれば良いのか悪いのか、その理解さえあれば どのようにでも出来ます」
昔何してたんですか!ぐっ!ダメだ!そんなこと口に出す余裕もない、必死に腕を噛んで声を殺す、屈辱だ なんだか分からないがとても屈辱だ、いいようにされている気がして屈辱だぁぁぁ!
「ふっ…ふっ、エリス様 私の想定の二十倍は凝ってますよ、今まで体のケアとかは?」
「したこと…ないですっ、考えたことも…ないっ、うぅ」
「それはそれは、では私が今相手しているのはエリス様十年の旅路により累積された疲労言うことですか…、ではこの程度では足りませんね、ギアを上げます お覚悟を」
「出来ませぇぇぇん!覚悟出来ませぇぇぇん!!!ゔっっ!!」
「ノックノーック、失礼しまーす」
嫌だ嫌だと首を振るエリスを他所に、寝室の扉が開かれ外から誰か入って…って今ですか!?、悪いが今 エリスに何かしらの応対をする余裕は…
「何してんの?」
「おや、リーシャ様 今エリス様のマッサージをしているのですよ」
「なるほど、私てっきり二人がセックスしてるのかと思ったよ」
そう思ってんのに躊躇なく入ってくる貴方の度胸の方が大したもんだよ!、と言うメグさん今くらいやめませんか…はうぅっ!
入ってきたのはリーシャさんだ、師匠との酒盛りに一区切りつけたのか、その頬はやや赤くなっているのが見える
「それで、如何されました?リーシャ様」
「いや、さっきの件 謝ろうと思ってさ、エリスちゃんに、今いい?」
「構いませんよ、ねぇ?エリスさ…まっ!」
「ふぐぅっ!」
だめですとは言えない、聞くからマッサージやめろとも言えない、と言うかこの場面を見てリーシャさんもよく椅子に座って話し始められますね!
「…さっきはごめんね、急に私の友達あげて 暗い話までしてさ、…さっき言った通り私はこの任務を最後に軍人を引退するつもりなんだ」
「言っていましたね、フリードリヒ様もトルデリーゼ様も少なからずショックを受けていたようで」
「ね、嬉しい限りだけど…今の私には帝国の為に尽くす気力も情熱もない、今の私にあるのはエリスちゃんに対する恩義だけ、まぁ メグさんには面白くない話だろうけどさ」
「いえ…別に…」
エリスを置いて話進めないでくれますかね、でも…やはり彼女の決意は固いようだ、別に謝ることでもないだろうに、…でも 気になる事が一つあるな
「ゔっ…り リーシャさんは、…いいんですか?」
「何が?」
「悔いはないかと…っ、聞いてるんです!、ジルビアさんの件や軍人としての悔い、そこに思うことはないのかと 聞いてるんです!」
「……まぁ、ないって事は無いけどさ」
「なら…っ!」
「でも今更会って話すのもあれだからなぁ、辞めるって言ったら言ったでなんて言われるか…」
「…………」
「だからいいんだ、ごめんね 変な事に巻き込んで、気にしないでってのを言いに来ただけだから」
なら時と場所を選んでください、とは言えない より一層強くツボを押されて返答できなかった、もしかしたらリーシャさんはエリスが強く言い返せないと踏んで ここぞとばかりにそれだけ伝えに来たのかもしれない
だとしたら卑怯もいいところだ
そうだ、卑怯ですよ…それは、せめて 友達との因縁は決着をつけてあげてくださいよ、
でないとリーシャさんとジルビアさんは友達で無くなってしまいますよ
「じゃあそれだけだから、もう私帰るね お二人も程々にぃ」
「ちょっ からかわないでくださ……あうぅっっっ!!!」
刹那、エリスの一番いい所にいいのが入る、こう 肩甲骨の隙間と言うんですか?そこにグリリ!とメグさんの指が入りエリスの体がビリビリってして…ああ、これ気持ちいいぃ…
ふにゃふにゃと脱力するエリスは気がつかない、目の前のリーシャさんがドン引きするくらいの嬌声を上げていた事に、そして それが屋敷中に響いていた事に
それは…下で酒盛りをしていた師匠の元まで響いていた事に…
「っっーーーー!!!エリスッッッ!!!」
「師匠っっ!?!?」
「レグルス様!?」
突如凄まじい速度で部屋へと突っ込んでくる師匠が顔を青くしながら扉を跳ね飛ばし、そして
「…………」
右を見る 左を見る エリスを見る メグさん見る、鼻を鳴らし匂いを嗅ぐ下を見る 上を見る そして首を傾げ、徐に手を叩き
「なんだ!マッサージか セックスしてるのかと思ったぞ」
「エリスそんな声あげてました!?」
だとしたら恥ずかしいよ!みんなに勘違いされるくらいの声あげてたなんて!、しかし 反面師匠の顔は青いままで
「そうか…そうか、いや なんでもないならいいんだ…ああ、すまん 邪魔したな 続けてくれ」
「師匠?…」
悪かった それだけ言い残し師匠は再び消える、一体なんなんだ…なにがあったと言うのだ
「…エリス様?続けてもいいですか?」
「え?まだやるんですか?」
リーシャさんも帰った 師匠も帰った、もう勘違いする人間はいない、これで存分に出来ますねとばかりにメグさんはがっちりエリスの体をホールドする
「え、ちょっ いいですよ!もう存分に堪能しましたから!」
「いえいえ、この真髄はこれからです、ここから先はもうエリス様をヨガリ倒すつもりでいくので、ご覚悟のほどを」
「いやですいやです!エリスはもう…ぎゃっ!!!!」
こうして、エリスの帝国でやるべきことは終わりました、後はアルカナとの決戦を残すばかり…なんですが
どうしてでしょう、エリスの周りにはまだまだ問題が山積しているような気がするんですけど…特に今エリスの上で血走った目をしているメイドさんとか、謎だらけですし
なんだか…なんなんだろうなぁ、他の国のように 帝国を旅立つ時にはすっきりした気持ちで 次に進めるのか、エリスは不安になってきましたよ
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
47
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる