孤独の魔女と独りの少女

徒然ナルモ

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八章 無双の魔女カノープス・後編

252.魔女の弟子と災厄の結末

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「ぬははははははははは!、なんじゃあお前!カノープスの弟子じゃったか?残念じゃのう!、もう少し早うくれば一緒に殺してやったというのにのう!、ぬはははははは!!」

「陛下!陛下!、気を 気をしっかり…息を、息をしてください!陛下!陛下ぁっ!」

エリスは今、何を見ているんだ?

メグさんとの戦いを終わらせ、不気味な気配を感じて慌てて師匠のところに…、カノープス様とシリウスの決戦の場に赴いたと思ったら

こんな惨状が広がっていた…

将軍は血を吐き倒れ 息をしているかも分からない、カノープス様に至っては胸に槍が突き刺さり 血を吐いてエリス達の目の前で生き絶えた

負けたのか、帝国が…シリウスに…

こんな…こんな事、エリスが邪魔をしたからか…?、エリスがあの時 シリウスを助けなければ、こんなことには ならなかったのか…?

これが、これが結末なんて…そんな

目眩と共に、視界が白く染まるのを感じる、まさかの事態に エリスは混乱の極致にある、されど そんな中でも動く影が一つ…

「よくも…よくもぉっ!、私の陛下をッッ!!」

メグさんだ、愛する皇帝陛下を殺され 激憤の極致にある彼女は、シリウスを睨むと共に 牙を剥いて襲いかかる、未だ完全復活していないとはいえ 将軍とカノープス様を殺した存在を相手に 容赦も躊躇もなく襲いかかるのだ

「青いのう、怒る程に怨敵を殺したいなら、まず発狂するのではなく冷静になって状況を観察せよ、そして相手の力と己の力を比べ……」

「喧しいッッ!!」

襲いかかるメグさんを前にベタベタと喋るシリウスに向けて、メグさんが放つのは神速の蹴り

エリスでも見切る事も視認する事も出来ないほどの最高速の飛び蹴りを容赦なくシリウスに向けて放つのだ

しかし、相手が悪過ぎる

「無理じゃと悟れ!、お前程度じゃあ何にも出来んとなぁっ!」

一瞬だった、一瞬でシリウスに肉薄したメグさんが それ以上の速度で振り下ろされたシリウスの拳により叩き落とされ 地面へと抉り込まれる

「がはぁっ!?」

「ワシはワシを殺そうとする者は皆殺しにすると決めておるんじゃ、それがどんなに未熟な幼児でもなぁ、死に去らせ!カノープスの弟子!」

「う ぐぅ!」

地面に抉り込まれ めり込み、未だ痛みに悶えるメグさん目掛シリウスが断頭の刃の如き足を振り上げ、その頭蓋を叩き割ろうと…

ダメだ!メグさんが殺される!!

「やめろぉぉぉッッ!!!」

刹那の直感に従い 旋風圏跳で全力で加速し、その全速度 全体重を上乗せした瞬速の拳を 足を振り上げるシリウスの頬目掛け放つ、させるか エリスの友達まで殺させるか!

そう、気炎に燃えてシリウスを殴りつけるが…

「おお?、エリスか?」

効いていない…!、多少よろけはしたもののまるで効いている気配がない…!?

「師匠の顔ぶん殴るとかどんな教育されとんじゃお前…」

「あ 貴方はエリスの師匠じゃありません!!!」

「じゃかまぁしゃあ   !!!」

返す刀に飛んできたシリウスの拳、それは防ぐとか避けるとか そういう次元に存在する一撃では無かった、気がついたらエリスは遥か彼方まで移動しており 次いで殴り抜いた音が聞こえ その後ようやく訪れた激痛によってやっと自分が殴られたことを悟る程だ

レベルが違い過ぎる、これが師匠の体を乗っ取ったシリウスの力…!?、強く過ぎる…!

「私は…貴方を、陛下の命を奪った存在を…絶対に許しませんっ!!」

「おん?、なんじゃメイド まだ立つか」

するとその隙に立ち上がったメグさんは 既に攻撃の支度を整えていた、右手には巨大な紅蓮の籠手を装着しており、燃え滾るような炎の魔力を発生させている

あれは、エリスの煌王火雷掌を相殺した魔装! 確か名前は

「大火炎舞魔装!『アークドライブ・フレイムインペイル』ッッ!!」

放つ、古式魔術にも匹敵する炎拳を メグさんは目の前のシリウスに 零距離の仇敵を相手に、まるで杭でも打ち込むかのように凄絶に叩き込む

「今更そんなもオモチャが効くかいッッ!!」

されど シリウスはそれを魔術も何も使わず片手で受け止めて、剰え炎も籠手も何もかもを袋でも潰すかのように容易く握り潰してしまう

「がぁっ!?、このぉっ!」

装着してきた籠手の爆発に傷つきながらも メグさんは怯まず、ナイフを片手にシリウスの首を切り裂こうと 影すら追いつけぬ速度で飛びかかる

「悲しいのう…」

「なっ…」

しかし、しかしだ 効かないのだ、シリウスには、影すら追いつけぬ 光すら届かぬ速度でもシリウスは虫でも落とすかように反応し、飛びかかるメグさんの顔を掴み 再度、地面に叩きつける

その衝撃で瓦礫の山全域が揺れ、地面は全て隆起し、まるで 火山でも噴火したかのような衝撃が足元を揺らす…

やめろ、やめてくれ…

「これ以上師匠の体で!、エリスの友達を傷つけないでください!」

「悲しいのう悲しいのう」

飛びかかる 旋風圏跳で、思考はない あるのはただ止めなくてはと言う感情だけ、エリスが出せる最大の速度で背後から飛び掛るも

「かはぁっ…」

最早、シリウスはこちらを見る事もなく 鉄のように硬い拳骨で裏拳を飛ばし エリスの顔面を的確に射抜く、ただそれだけで頭蓋も脳みそも何もかも潰れてしまったかのように、体から力が抜けて ゆらりと地面へと落ちていく

墜落のほんの一瞬、肩越しにこちらを見るシリウスの顔が見えた、笑っていた ただただ愉悦に浸るように笑っていた

「力が無いとは悲しいのう、守りたい物も矜持も 全てがその手から溢れ落ちていくのじゃからな」 

一瞬だった、シリウスと接敵してより一分未満

その僅かな時間でエリスとメグさんは

「ぐっ…かはぁ…」

「う…うう」

「力とは全てではないが、富も名声も 友情も愛情も…全てを保持し続けたいならば 、やはり力がいるものじゃ、それが足らぬから お前達は何も守れぬのじゃ」

シリウスを前に制圧された、ただ一つの傷さえ与えられず 魔術の一つも使わせる事もできず、敗北した

次元が違い過ぎる 、エリスが今まで戦ってきた敵達とは明らかに住む世界が違う、実力では到底敵わず 作戦なんて子供騙しも通じず、逆転の芽も何もかも 全てが無駄に等しいと感じられる程の相手

エリスの旅の中で、いや 或いは人生における、史上最強の敵を前に エリスは体と共に心までズタズタに壊されてしまった

「さて、どうするか?メイドは殺すとして エリスは…、まぁ識の力は惜しいが、最悪ここまで事が進んだなら 必要はないしのう、憂さ晴らしに殺しとくか」

「ぐっ…師匠」

エリスに手をかざし 冷たく見下ろす師匠の目は、見た事がないくらいに残酷だ…、見ているだけで頭がどうにかなりそうなくらい嫌悪感を感じる

やめてくれ、師匠の体でそんな目をしないでくれ、師匠は優しい人なんだ そんな事しないんだ…

「すみ…ません、陛下…貴方の仇すら…取る事が出来ない私を、お許し…ください」

エリスの隣ではボロボロと涙を流し全てを諦め 自らもそちらに向かうと懺悔の言葉を口にするメグさんの姿がある、ダメだ…諦めるわけにはいかない、せめて彼女だけでも守らないと…!

動け!、動け!エリスの体!

「ぐっ、…うぅぉおあああああ!!」

「お?、なんじゃ?」

全身の血管が千切れそうな勢いで立ち上がり、そのままメグさんを守るようにメグさんに覆いかぶさる、せめて この人だけでも守る!、絶対に!エリスの命に代えても!

「え、エリス様!?やめてくださいそんな!、貴方だけでも逃げて!こんな…こんな事!」

「守るつもりか?無駄じゃ、この国ごと全部消し去るんじゃ…生き残る奴などおるまいよ」

そう口にしながらシリウスは手の中に魔力を集め、今 魔女の力を完全開放した魔術を用い 全てを破壊しようと、エリスごと何もかもを破壊しようと手に力を込め

その手の中の魔力球を…、破裂させる

「ッッッ…………!!!」

来る!そう覚悟を決めて顔を背け全身に力を入れる、無理だと分かってきても 引くわけにはいかないから、エリスはただ無力にもその場で体を強張らせ……

ん?

「お?、なんじゃ?」

いつまでたっても何も起こらないのを不思議に思い、もう一度シリウスを見ると、シリウスも不思議そうに首を傾げて 己の手を見ていた、魔術を発動させないのか?

「魔力が破裂して散ってしまった、おかしいのう…こんなミスした事ないんじゃが……、まさか まだなのか?、しぶとい奴め…」

「え?…え?、何が…」

己の手と体を憎々しげに睨みつけるシリウスに思わず目を白黒させる、何が起こってるんだ?、一体何が…いや今はいい!、とにかくメグさんを逃さないと!

「メグさん、今のうちに逃げて!、今のエリス達じゃこいつに勝てません!」

「な?、逃さんぞ!魔術でなくとも この肉体でぶっ殺せば良いだけじゃしのう!」

「なぁっ!?」

しかし、シリウスも諦めない 今度はその足を掲げエリス達を諸共踏みつぶそうと力を込める、ダメだ!魔術でなくとも全霊の蹴りを受けたらエリス達は一溜まりも無い!、けど 受け止める術も逃げるだけの時間も無い…!

や ヤバ…死ぬ……!

「やめろ外道ッッ!、其奴等に手を出すなッッ!!」

「ぬぅっ!?、もう戻って来おったんか!?」

刹那、虚空にヒビが入り 大気をガラスのように叩き割りながら伸びて来た手によってシリウスの体は殴り飛ばされる、エリス達が押しても引いてもビクともしなかったシリウスが 吹き飛ばされたんだ

一体何者 一体何事、そんな混乱の中にあるエリスとメグさんの二人を 虚空より現れた腕の持ち主は抱きかかえ 鼻息荒くシリウスを睨む…

それは

「え!?カノープス様!?」

「陛下!?」

「すまぬ 助けに入るのが遅れた我を許すことを許すぞ」

カノープス様だ、さっき間違いなく死んだと思ったカノープス様だ、え?生きてたの?、と思えばその胸には穴の一つも空いていない、槍によって開けられた風穴が

あれ?、直したの?それともなんとかしたのか?、そう思い 先程カノープス様が倒れていた地点を見れば…、そこにはちゃんと 先程生き絶えた槍の刺さったカノープス様の姿が

…カノープス様、二人いるんだけど…

「あの、カノープス様…死んだんじゃ…」

「そうですよ陛下!、ほ ほらあそこ!ほらあそこ見てください陛下!、彼処で陛下死んでますよ!、あれなんですか!陛下!?」

「落ち着けメグ、あれをよく見よ…」

「よく見る?…」

そんな言葉に従い エリスとメグさんは少し離れた地点で倒れているカノープス様の遺骸を見つめる…、すると それに合わせるようにカノープス様の遺体が 光の粒子となって消えていくのだ

き 消えたぁっ!?カノープス様の遺体が消えた!?、ってよく見たら倒れた将軍達も同じように消えてるぅっ!?、 

どういう事だ、エリス…おかしくなっちゃったのかな

「あ、あはは…陛下 私どうにかなってしまったんでしょうか、陛下の遺体が消える幻覚を見てますよ」

「違う逆だ、お前は我が死ぬ幻覚を見せられていたのだ」

「幻覚?…、まさか今のは 幻惑魔術!?」

幻惑魔術…そう口にしたメグさんの言葉に カノープス様は静かに首肯する

その魔術の名前は聞いたことがあった、『幻惑魔術』…それは他人の神経を狂わせ 視覚を惑わし、実態のない幻覚を見せる魔術だ

直接的な攻撃力はないが、生き物には全て効くという破格の性能を持つが故に一般的な普及はされていない禁忌魔術の一つだ…けど

エリスが気になったのはもう一つ、師匠にかつて言われたことがあった

それは、この世で最も巧みに幻惑魔術を使う、幻惑の達人の名だ

けど、けれど まさか…いやでも

「げ 幻惑魔術ってことは、陛下 もしかして」

「ああ、恐れていた事態が起こった、我も将軍も 突如として襲来した奴によって幻覚を見せられ、一時戦線を離脱させられ お前達に絶望を与えるため、我が死ぬ幻覚を見せたのだ」

それもこれも全て奴の仕業よ とカノープス様が見据えるのは殴り飛ばされたシリウス…、の少し右側、その隣に位置するような空間を見つめるが

何もいない、…いや 『何もいないように見える』だけで、そこにいる 有り余る魔力が視界から滲んでくる、あんな絶大な魔力を持った人間がそこに居て なんで気がつかなかったのだと思う程に強力な気配を持つ存在は

先程のカノープス様の遺体同様、光の粒子となって 今度は姿を現わす

「あれは……!」

姿を見せた存在、それは黒と白のシスター服に艶やかなその身を包んだ水色の髪を持つ 清らかな静水の如き風格を漂わせる女性だ、見た事はない だが『幻惑魔術の使い手』という情報と『シスター服』という情報だけで断定出来る

あれは

「夢見の魔女…リゲル!」

夢見の魔女リゲル、エリスが出会っていない最後の魔女にして エリス達の旅の到達点 教国オライオンを統べる教皇…、夢見の魔女リゲルが突如としてその場に現れたのだ

夢見の魔女リゲルといえば、今世界で最も力を持つ巨大宗教 『テシュタル教』の開祖にして、自身もそのテシュタル教の敬虔な信徒であり 国民全員にテシュタル教を布教した張本人

そして、卓越した いや世界最大の幻惑魔術の使い手、あらゆる存在に夢を見せる事が出来ると言われるほどの力を持つと言われており、その上 世界で最も早く弟子を取った魔女としても知られる

…最後にして最初の魔女の弟子 闘神将ネレイド・イストミアの師匠、その人だ

「なんでオライオンの魔女がこんなところに、というか…シリウスの味方を」

「リゲルもまたシリウスの魔の手に掛かっておるのだ、奴め レグルスの肉体を乗っ取れたからと最早なりふり構わず己の手中にあるリゲルの意思を奪い己の手駒としたのだろう」

なるほど、魔女様達の洗脳は飽くまで体を奪うため、でも師匠の肉体が手に入った以上もう魔女の洗脳は必要はない、故に 己の救援として利用する為 洗脳を強め意思を奪い、手駒にしてしまったんだ

見れば リゲル様の目には光が宿っていないようにも見える、そこに 本人の意思の介在する余地はなさそうだ

「ぬははは!、そういう事じゃ!、こいつがワシの用意した逃走経路!、よく来てくれたのうリゲル」

「…ええ、師の言う事であれば叶えましょう」

「にしちゃあちょい助けに来るの遅くないかのう…」

「朝のミサがありますので」

「もう夜なんじゃが…」

「おのれシリウス…、どこまで我の友等を侮辱すれば気が済むのだ!、レグルスの体には飽き足らず リゲルの意志まで!」

「悔しいならやり返してみせぇ、取り返してみせぇ、ワシはここにおるぞ?」

「チッ…!」

しかし、カノープス様は悔しそうに顔を歪ませる、それもそうだ 何せ状況が一転してしまった、シリウス一人でも手を焼いていたのに ここに夢見の魔女リゲル様の救援、魔女を二人同時に相手にするのはカノープス様とてキツイのだ

ましてや今のカノープス様はかなり消耗している、このままやり合えば負ける可能性もある…

けど

「引きません、エリスは…!」

「エリス?、やめよ お前…もうズタボロではないか」

「こうなった責任はエリスにもあるんです、それに 折角師匠が目の前にいるんです、助けるなら…それが最後のチャンスかもしれないんです!」 

そう言うと共にカノープス様の腕の中から這い出て痛む体で立ち上がる、そうだ このままみすみす逃せば世に凄まじい災禍を解き放つことになる、何が何でもここで決着をつけなければ

これが…この場を、決戦の場にするべきなんだ!

「…助ける助けるとは言うが、手はあるのか?」

「あります、と言いたいですが それはこれからです、識の力使ってシリウスの弱点を探ります、そうすれば 確実に助けられる手も見つけられる筈です」

「そうか、……お前には色々諸々言いたいことがあるが、今は飲み込もう…、将軍も未だリゲルの幻覚に囚われいる、リゲルがこうしてここに現れた以上一刻の猶予も無い…戦力はあればあるだけありがたい、メグ お前は…??

「無論、まだまだやれます…!」

「……そうか、逃げろというのは 寧ろ酷か、分かった では行くぞ魔女の弟子達よ」

立ち上がるメグさんと共に エリスはカノープス様と構える、標的はシリウス そしてシリウスを守るように立つリゲル、識の力でシリウスを見るにもっと近く必要がある、もっとしっかり見る必要がある…!

故に!構える!、ズタボロの体引きずって エリスはシリウスを見据える、超極限集中で確実に奴を視認し調べる必要がある、その為の戦いは避けられそうにも無い

「ぬははは!、死に損ないと雑魚二匹が構えておるぞ!、ちょうどええ…リゲル 相手をしろ」

「ええ、師の命令であれば…叶えましょう」

するとリゲル様は両手を広げ魔力を拡散する、それと共に世界が歪み 幻覚が世に顕現する、それは巨大なヴェールだ…シリウスを守るように暗黒のヴェールがかけられた

あれじゃあ識を使ってもシリウスの姿を確認できない、やるなら あのヴェールとリゲル様を突破しないと!

「これは、リゲル様を突破しないと…シリウスを視認出来そうにありませんね」

「ですね、陛下と私で援護します、エリス様は前へ…」

そんなエリス達を見て ただ悠然と手招きをするのはシスター服を風にたなびかせる魔女リゲル様、ああして立ってるだけなのに 威圧がエゲツない…、今からあれを超えていくのかぁ

「うふふ、お相手を…願います」

「二人とも気をつけよ、リゲルの見せる幻は凄まじい精度だ…、惑わされるな 確たる己を持て」

「はい、カノープス様…!」

行く 行きますよ今そこに、師匠 待っていてください、魔女リゲル様だって超えて そこに行きますから、しばしお待ちを!

「行きます!」

そして駆け出すエリスに答えるように 魔女リゲル様はゆっくりと手を前に差し出し…

「微睡む世界は瞼を閉じる、今 全ての目は閉ざされ 現世から背けられる、在るのは夢現 写すのは夢見、ここは楽土 幻の郷、それは正夢か逆夢か、刮目し 御堪能あれ」

詠唱だ、来る 魔女の魔術が!夢見の魔女の幻惑魔術が!、神域の絶技として讃えられ 八千年間の治世を実現させ シリウスさえ打ち倒した魔女様の一撃が今 エリスに向けられる!

「『幻夢無限・魘霧夢見』」

発動する魔女リゲル様の魔術、それは世界を歪め光の粒子が嵐のように巻き起こり 霧となって形を作り出す

光の粒子が形つくるのは刃だ、黄金の刃 それが辺り一面に広がる麦畑のように視界全域を覆い、その上で刃の一つ一つが生き物のように動き流動する、これが リゲル様の幻惑魔術…!

凄い範囲だ、凄まじい規模だ、幻惑魔術を受けたことはないが 精々が人の立ち位置を誤認させたり軽い幻覚を見せたりする程度だと聞くのに…

まるで現実のようだ、刃の存在感が本物のようにエリスの危機感を煽る、けど

「所詮は幻覚、分かっていれば恐れることはありません!」

今更千刃の海を見せられた程度で立ち止まらない、これは幻覚 現実には存在しない、ならば恐れなければいいだけだ!

幻に惑わされること無くエリスは果敢に刃の海に突っ込む、すると意思を持つかのように黄金の刃のうちの一本が地面から射出され エリスに向かって飛んでくる

その存在感にややたたらを踏みながらも、エリスは立ち止まらず 刃を幻を手で払う、幻覚は邪魔だ!そこを退いてくれ!


「愚か者!レグルスの弟子よ!それに触るな!」

「へ?…」

刹那、黄金の刃を払おうと突き出された手が…、エリスの手が


刃に切り裂かれ 鮮血と共に、宙を舞った

「え……?」

意識が明滅する、今 エリスの手が飛んだ?…あれ?、右手の手首から先がない、これも幻覚か?、これも幻なのか?

で でも、流れ出る血は熱く 傷口から伝わる痛みは……

「グッ…!?ギャァッッ!?!?」

痛い!痛い痛い痛い!熱い熱い熱い!、痛い!熱い!、き 斬られた!?斬れた!?、なんで!幻覚じゃ!

どうして!?なにが!、ああああああ!エリスの!!エリスの腕がッッ!!

あまりの激痛に地面を転がり悶え苦しむ、痛い!痛い!痛い!腕が!エリスの腕が!

「エリス様は落ち着いてください!」

そんなエリスを宥めるようにメグさんが駆け寄り体を起こそうとするが、なにを言ってるんだ…なに言ってるんだ!

「落ち着いてられませんよ!、エリスの腕が!腕がッ!」

「あります!よく見てください!」

「え…?」

腕がある?、何を言って…と 激痛に苛まれ血が吹き出る右手を見て…、あれ ある 腕がある

あれ?あれ?、さっきまで血が吹き出て刺すような激痛が迸ってた右手首に エリスの右手がくっついている、今しがた取れたはずの右手が…あれ?

というか、あの まだ痛いんですけど…

「これは一体、今 刃の感触が確かにあったのに、痛かったのに…、幻覚じゃ…」

「リゲルの幻惑魔術は視覚だけで無く凡ゆる神経に作用するのだ、五感に加え痛覚も感覚も、全てを惑わせ 恰も本当に体を傷つけられたかのような感覚に陥らせる、当然 痛覚を惑わせるから痛みも残る…」

カノープス様の話を聞いて 理解する、あれは確かに幻覚だ、だが 触れれば五感全てが惑わされ触れた感覚も斬られた痛みも発生するのだと

…昔、腕を斬られ 隻腕となった冒険者から話を聞いたことがある

腕を斬られ 失っても、時折無くなった筈の右手が痛むのだと、でも右手はもうどこにも無いから痛みを取り除く術は存在せず、幻の痛みに永遠に苦しみ続けるのだと

彼らはそれを『幻肢痛』と呼んでいた、リゲル様の幻覚はその逆であり 同じものだ

本来の幻肢痛は無い筈の右手からかつての傷の痛みを感じ、リゲル様の与える幻肢痛はある筈の右手から無い筈の傷の痛みを与える

どちらも幻であるが故に対処する方法はない、傷はない筈なのに 傷の痛みという現実だけが確かに存在してしまうのだ

「そんなバカな…」

つまりだ、あの目の前で生み出された幻覚は 五感全てに作用する、見ることが出来て 触った感覚があって、斬られれば痛みが発生するならそれはもう幻覚ではない…現実と一緒だろうそれは

リゲル様は この現実をいくらでも編纂する事が出来るのだ、幻惑を極めたが故に世界すらも惑わせ現実を書き換える魔術…、これぞ神域の絶技だ、エリスじゃあ到底及ばない

「迂闊に触るなよ」

「えぇ…、じゃあ…」

じゃあ最初に言ってよ と言いかけるが、やめておく、事実迂闊に触ったのはエリスだしね

しかし参った、あの海みたいに広がってる刃が全部幻でありながら現実のものと同じように作用するって?、オマケに幻覚だからいくらでも用意でき 幻覚だから防御も出来ないと来た

これは、これは…

「やるしかないか…」

「ああ、だがあまり受けすぎるなよ?現実に傷が出来るわけではないが あまり痛覚に負担をかけすぎると脳回路が焼け焦げて死ぬぞ」

怖ぁ!、え?ひょっとして魔女リゲル様って 八人の魔女様の中で一番怖い魔術の使い手?…

「うふふ、これは悪夢か凶夢か…、助かりたくば神に祈りなさい」

するとリゲル様が指をくるりと回せば それに伴い世界が…編纂されていく、地面がまるで海のように畝り始め 刃が空中にも次々と生まれ始める、まるで地獄のようだ

しかもより最悪な事にその剣が…その鋒が全て、エリス達の方を向いて…!

「信ずる者は…、救いましょう」

その一言と共に、剣が次々と射出される、数千 数万にも登る黄金の刃が 一切の間隔を空けずに凄まじい速度でこちらに飛んで来るんだ

よ 避けなくては!

「『旋風圏跳』!!」

故にエリスは前へ進み、前進によって刃を回避する、今はちょこまか逃げ回っている暇はないんだ!

雨のように降り注ぐ巨大な刃、一つ一つが風を切る感覚が肌から伝わってくる、とても幻覚とは思えない、これが魔女の魔術ですか!

「おや、先程我が痛みを受けたというのに 勇ましくも向かってくる子が一人、ふふふ…ならこれならばどうですか」

更にくるりと指をもう一回転、リゲル様の合図と共に空を飛ぶ剣は編隊を組み直す、それぞれがまるで鳥のように意思を持って 確たる軌道でエリスを狙う、そうだ これはただの刃じゃない、全部が全部リゲル様の生み出している幻覚なんだ

ならその軌道も思うがままか!

「くっ!、うっ!」

全神経を集中させてひたすらに回避に専念する、ジグザグとステップを踏むように刃の雨の中を冷や汗を振り切って走り抜ける、こんなにも大急ぎで走っているというのに リゲル様が一向に近づく気配がない、寧ろ 遠ざかっているような…

「まさか!?」

はたと気がつき周囲を見回す、…違う 違うぞこれは!、向かってる方向が違う!

ひたすらリゲル様目掛け走っていたから気がつかなかったが 周囲の瓦礫の配置などで場所を確認してエリスの記憶と照らし合わせる、すると『リゲル様の居場所が先程とは違う場所に移動している』事に気がつく

くそっ!、やられた 真っ直ぐ走ってるつもりでも いつのまにか視覚と方向感覚を狂わされていた!、こんな事まで出来るのか!ただ近づくだけでも至難の業なのか!魔女とは…!

「くっ!」

「おやぁ、気がつきましたか」

記憶を頼りに 本来シリウスとリゲルがいた場所、今は何もいないはずの方向目掛けて転換し飛び立つ

確かに感覚を狂わせる幻惑魔術は恐ろしいが、『本来の位置』を記憶してしまえば見失わない、記憶とは感覚ではない 奴の魔術でもどうやっても狂わされることはない!

「凄いですね、流石はレグルスの弟子…」

エリスが方向転換すれば、いつ間にか元の位置に戻っていたリゲル様が微笑む、まるでその笑みは聖女のようだ…、しかし そんな聖女の笑みで放つのは地獄の弾幕、猛烈に攻め立てる弾幕はリゲル様に近づけば近づくほど濃くなり…

「ッッ!?」

刹那、気を抜いたわけでも無く 油断したわけでも無く、純粋に 非常に単純に エリスの反応が間に合わず、避ける為 体を逸らしたその目の前に刃が迫っている事に気がつく

避けても避けた先に刃がある、それを数度繰り返した所為で 最早避けるだけの余裕が無く…

「ッ…!!」

咄嗟に、今までの経験から咄嗟に両手の籠手で刃を防ごうとしてしまう、頭の片隅では無駄だと理解しているし、事実 それは無駄な行為であると知らしめるように刃は飛来し


容易く籠手と両手を切断し エリスの胸に深々と突き刺さり、血が…鮮血が …噴水のように吹き出て……

「ごがぁッッ!?」

身を捩り地面を転がり口から嘔吐し胸を触る、傷がない 両手はある、あれは幻覚だ 幻覚なのに肉が裂かれる感覚とその痛みだけが残っている、回避不能なレベルで飛んでくるというのに 防御も不可なんて…本当に厄介な魔術だ!

「くそっ…、傷一つ付いてないのに死にそうだ…!」

「ふふふ……」

黄金の刃を転がりながら避けつつ、リゲル様を見る、相変わらず余裕の笑み というか頑張って立とうとする赤子でも見るかのような慈愛の笑みだ

全く本気を出していない、そんな感覚がありありと伝わってくる、完全に弄ばれている…弄ばれているのに手も足も出ないし、リゲル様も手も足も出していない

「ああ、くそ…」

……思い出すのはデルセクトでの戦いの一幕、あの時もエリスは師匠を救う為ほんの一瞬だったけれど暴走したフォーマルハウト様と戦ったんだ

結果は惨敗どころかそもそも戦いにすらならなかった、あれからかなり強くなっても また結果は同じなのか

魔女の高みとは、世界最強の領域とはどれ程に高いのだ…!

「『時界門』!」

「っ!、メグさん!」

苦戦するエリスの前に躍り出るのはメグさんだ、そうだ!メグさんの時界門を使えばこの剣雨も突破出来る!

「メグさん!頼みたい事が…!」

「ッ……!」

するとメグさんはエリスの呼び声にくるりと振り向き…、あれ?なんか剣握ってない?ってか顔が鬼のように怒っているようにも見えますし、その剣をエリス目掛けて振り上げているように見えるんですけど これも幻覚ですか?

「このッッ!!」

「ちょっ!?メグさん!?」

幻覚ではなかった、いきなりメグさんがエリスに斬りかかってきたのだ、なんでまた!この場に及んでなんでエリスを攻撃するんですか!?、もう解決したんじゃないんですか!?、そう抗議する為にその目を見る…

すると

「おのれシリウス!陛下の仇!」

「って幻覚を見てるんですか!」

目が虚にクルクル回っていた、恐らくリゲル様に幻覚を見せられて惑わされているんだ、幻覚を見せて同士討ちまでさせるか…!、というか!この剣の雨の中幻覚を見せられて襲ってくるメグさんの相手なんか 出来るわけが…!

「シリウスぅぅぅっっ!!!」

「エリスですよ!シリウスじゃありません!ってか剣が!、幻の剣が!メグさんしっかり!」

「ぅぅぅううううう!!!」

ダメだこれ!、聞こえてない!、メグさんの剣を籠手で防ぎながら見る、周囲の剣を、当然この隙を見逃すはずがなく 剣の雨は諸共エリスとメグさん二人まとめて串刺しにしようと囲むように飛んできて────


……そして、全てが歪んだ

「え?…」

周囲の剣も 空間も、その奥のリゲル様も まるで見えない何かに押されるように歪み…、不可視の衝撃が世界を押し飛ばすように それらは纏めて 一切合切が

吹き飛ぶ…

「邪魔である!、我が道を阻む事は例え友であろうとも許さぬ!」

カノープス様だ、見ればエリス達の遥か後方からリゲル様に向けて拳を突き出している、恐らくは時空魔術の一つなのだろうが 舌を巻くのはその威力

拳による一撃で数多の幻覚もリゲル様も纏めて吹き飛ばしてしまったのだ、しかもあれで消耗し尽くした状態にあるというのだから恐ろしい、あれが八人の魔女最強の存在 無双の魔女の力か

「くふっ、流石はカノープス…しかし、今日は一段と威力が低いですね、それは疲れからですか?それとも友への温情ですか」

「両方だ!、レグルスの弟子!メグを叩き起こせ!、道は我が作る!」

「あ、はい!メグさん!メグさんメグさんメグさんメグさん!起きて起きて起きて!エリスはエリスですよシリウスじゃありませんエリスエリスエリス!」

「ぶぶぶぶっっ!?」

暴れるメグさんを捕まえその両頬をビンタで連打する、起きろ起きろ起きろ!夢見てる場合じゃありませんよメグさん!

「…はぇ?、私は何を…ってかエリス様なんで私のこと殴ってるんですか、ショックです」

「それはエリスも同じです!、さぁ早く!シリウスの元へ!」

「は はい!」

「よし、起きたな…!『絶界・空無辺処自在天』!」

エリスとメグさんが復帰したのを見て カノープス様は両手を合わせ発動させる 時空魔術を

空間が捻れ 、カノープス様を起点にエリスとメグさんを巻き込むように伸びたそれはシリウスの待つその場へと一直線に伸びていく、…視認できるわけじゃない だが分かる

これは道だ、何人たりとも阻む事が出来ない 覇道、それを態々作ってくれたのだ、世界を統べる皇帝が直々に

「この魔術は…」

「メグさん知ってるんですか?」

「え ええ、『絶界・空無辺処自在天』…陛下の持つ五大奥義の一つ、この空間の内側には如何なる法を持ってすら干渉できません…、魔女様の魔術と言えど突破出来ない空間の絶技…、でも」

クルリとメグさんは不安そうに振り向く、見ればこの魔術を形成しているカノープス様は この結界の内側に入っていないようにも見える、そればかりか先程から手を合わせた姿勢から動いていない…、まさか

「この魔術を使っている間陛下は動けません…」

「え、じゃあ…」

「急ぎましょう!、このままでは陛下が狙い撃ちにされます!」

蒼ざめた顔のままエリスの手を引いて先を急ぐメグさんは言うのだ

今 世界最強の皇帝は有史以来見せた事がないほどに無防備な状態にあると、そして結界の外にはカノープス様の他にもう一人、魔女がいる

「おや、カノープス…お優しいですね、貴方は相変わらず」

カノープス様の一撃を受けてなお立ち上がりフラフラと歩くリゲル様が標的にするのは、どうやっても干渉できないエリス達ではなく…、無防備なカノープス様だ

「我が弟子がやると言ったのだ、我が伴侶の弟子がやると言ったのだ、なら 賭けてみるのも悪くあるまい…!」

「そうですか、…では 賭けのチップをいただきましょうか」

するとリゲル様は再び金色の粒子を手の中に集め、作り出すのは夢幻の大鎌…、鋭く伸びる金色の鎌をカノープス様に向けるのだ、しかしカノープス様は動けない エリス達を守るために動こうとしない

あの鎌も幻覚だ、実在しない物体だ、だが…あれがどういうものか エリスはよおく理解している、や ヤバくないか?

このままじゃカノープス様が危ない、しかしそれでもメグさんは振り返らない、己の師を信じ 師の信頼を裏切らぬ為シリウスの待つヴェールの向こうへと急ぐ

「さてカノープス、貴方はどんな苦痛ならば耐えられないのでしょうか、どんな痛みなら参るのでしょうか、試してみても…良いですか?」

「フンッ!、やってみろ!我を動かせるのは我のみぞ!、如何なる艱難であれ 我が歩みを止める障害にならぬ事を、今一度知るがいい 我が友よ!」

「ええ、では…遠慮無く」

鎌を振り上げるリゲル様の姿は、幻惑魔術を使っていないにもかかわらず エリスには死神のようにさえ見えた、そんな悍ましい地獄の苦痛を前にカノープス様は眉一つ動かさず、受け入れるように目を閉じて……


「なぁぁあぁぁにやっとんじゃぁぁぁああああ!リゲルテメェェェェ!!!」

「ッッ!?この声は…ぐぶぁっ!?」

刹那、外界より飛来した紅の流星が大地に着弾すると共に蹴り飛ばした

天から降り注いだ星が鎌を振り上げるリゲル様を容赦なく蹴り飛ばし 瓦礫の山を越え遥か彼方の空の彼方まで吹き飛ばしたのだ…、何が起きたか 一体誰が理解できようか

あまりの出来事に思考停止するエリス、突如巻き起こった衝撃に目を丸くするメグさん、…そして そんな中ただ一人カノープス様だけが笑う

「登場が乱暴だぞ、アルク…!」

「それが助けられた人間のセリフかねぇ…!」

違う!星じゃない!アルクトゥルス様だ!、第三陣の足と目をしていたはずのアルクトゥルスがここまで飛んでくると共にリゲル様を蹴り飛ばしたのだ!

凄いな…でも、第三陣はどうしたんだ…?、ん?まだ誰か来る?

「エリスゥゥゥッッ!無事かァァァッッ!」

「え?、ら ラグナ!?」

今度はアルクトゥルス様の後を追うように瓦礫の山を弾き飛ばしながらラグナまで現れたのだ、いや アーデルトラウトさんはどうしたんだ!?まさか倒したのか!?

「陛下!ご無事ですか!」

「む、アーデルトラウト将軍…!」

と思ったらアーデルトラウトさんもラグナと一緒に飛んできた、どうやらここの状況を察して一時休戦して二人で向かってきてくれたらしい

でも、ここに来て頼もしい援軍だ!、魔女様とラグナと人類最強の一角!一気にこちらが有利に…ッ!?

「あ!、師範!後ろ!」

「へ?」

その瞬間 エリスは見る、自慢げに笑うアルクトゥルス様の背後から 光の粒子と共にヌルリと現れる死神が、大きく鎌を振り上げる姿を…

あれは、リゲル様!?でもさっき空の彼方まで吹き飛ばされたはずじゃ…いや、あれも幻覚か!?

「グッッ!?」

刹那の一閃、黄金の煌めきを光芒とし 振り上げられた鎌が真っ直ぐにアルクトゥルス様の首を両断する

魔女様の肉体さえも切り裂く幻の刃は容易くアルクトゥルス様の首を胴体から切り離し、アルクトゥルス様の首が鮮血と共に空を舞い…

「師範が死んだぁぁぁっっ!?!?殺されたぁぁあぁっ!?」

「死んで…ねぇよっっってぇぇぇぇぇ!!いってぇぇぇえ!!!」

それも幻覚だ、実際は何も無い アルクトゥルス様の首も切れていないし傷一つついていない、しかし走る激痛にアルクトゥルス様は堪らず地面を転がり激痛に叫ぶ

魔女様の肉体は如何なる攻撃をもってしても傷つかない、しかしリゲル様の一撃は傷を作らず 痛覚をそのまま刺激する、如何に頑健な肉体を持とうとも 痛みに強くとも、堪らず叫び声を上げてしまうものなのだ

「ふふふ、お久しぶりですねアルク…、いきなりでちょっと…ビックリしましたよ」

「リゲルぅぅぅ!、オレ様お前超苦手ぇぇぇ!!」

倒れて涙目になるアルクトゥルス様は叫ぶ 自分の頭の上で微笑むリゲル様を見て苦手だと、そりゃそうだ 肉体派で物理攻撃を得意とするアルクトゥルス様と幻覚でひたすら逃げながら防御無視の攻撃を飛ばしてくるリゲル様の相性は最悪…

リゲル様はアルクトゥルス様にとっての唯一の天敵のような存在なのだから

「でも、…状況はなんと無く分かるぜカノープス、リゲルはオレ様に任せろ…」

「ああ、頼むぞ アルク」

「おうよ、ラグナ!離れて見てろ!これが魔女の…オレ様のマジだぜっっ!」

「はい!師範!」

しかし、それでも戦う 拳を握りしめてアルクトゥルス様は雄叫びをあげ鎌を持つリゲル様へと飛びかかる、さしものリゲル様もアルクトゥルス様の相手をしながらエリス達の妨害は出来ない

後はもう、シリウスの元まで急ぐだけだ!

「行きましょう!メグさん!」

「はい!」

背後から響く轟音から目を背けエリスは真正面を向く、後はシリウスをこの目で収めるだけだ…!


そう、気合いを入れ直した瞬間…………

「ふむ、隔離空間による防御か 厄介じゃのう」

エリス達の視界が光に包まれる、耳を劈く程の爆音が鳴り響き 大地が震え遍くが砕かれる…、魔術だ エリス達に向けて魔術が放たれたのだ

誰が撃ったか、言うまでも無い この場で唯一自由に動ける存在、この戦いの元凶…

シリウスだ

「カノープスめ、どこまでワシの邪魔をするか…、しかしその最後の賭けがこんな小娘とは 落ちぶれたのう」

シリウスは自ら幻のヴェールを破り捨て こちらに向けて古式魔術をぶっ放してきたのだ、もしカノープス様が道を作ってくれなければ エリス達は今頃シリウスに消しとばされていただろう

…そうか、この道はリゲル様からエリス達を守る為では無く シリウスからエリス達を守るためのものだったのか、そりゃそうだ シリウスにまんまと近づいても さっきと同じように返り討ちにあうだけ

だが逆に言えば、今はもう返り討ちにあう心配はない、エリス達には無双の加護があるのだから!

「時空魔術の防壁があるから安心…、そう思うとらんか?」

「ッ!?」

刹那、エリスの思考を読んだが如くシリウスの嫌な声がぬるりと響く

その顔はなんだ、三日月の如く鋭く釣り上げる口角はなんだ、獲物を見るような視線で両手を広げるシリウスが…、何かを掴んだ

「っぐゥッ!?」

その瞬間 苦悶の声をあげたのはエリス達の遥か後方にいるはずのカノープス様だ、何をしたのだ 何をされたのだ、全く分からず双方を繰り返すように見ていると 一つのことに気がついた

「ぬはは、弱っておるのう カノープス」

シリウスが掴んでいるものの正体、それは空間だ…掴めるはずのない 掴めるものではないはずのそれを、まるで毛布でも掴むように歪ませ両手で捕らえてグリグリと引っ張っているのだ

その力に押されるように 引かれるようにカノープス様の体が揺れる…まさか

「ま 魔術の主導権を奪おうと…!?」

「然りィ!その通りじゃあ!、この世の全ての魔術は我が叡智によって誕生したのじゃ、その内部構造は誰よりも把握しておる、無論 術者以上にな…、故に 何処をどうすれば逆に魔術を奪い取れるかを、知っておるのよ」

カノープス様によって形成された結界が 逆にシリウスによって奪い取られ荒れ狂い、逆に中にいるエリス達を圧殺しようと脈動を始める

当然、そんなことはさせまいとカノープス様も抵抗するが…、…普段ならばこんな事にはならなかったのだろう、だが 今のカノープス様は限界を超える勢いで消耗している、魔力残量も十分の一も残っていないだろう

圧倒的疲労 絶望的消耗、それを見抜いたシリウスが的確に放つ 魔術簒奪を前にカノープスは今魔術の主導権を握られつつあるのだ

「そら、もうええじゃろうカノープス!、魔術を寄越せ!序でに中にいる小娘二匹!圧殺してやるから安心せえよ!」

「ぐっ…最早解除も出来んか…!」

脂汗を流しながらも耐えるカノープス様、しかし スタミナの限界が訪れているカノープス様とスタミナの限界を無視できるシリウスとでは持久力にあまりに差がありすぎる、それはジリジリ水を開け カノープス様の手から魔術を奪い取ろうと鳴動し…

まずい、エリス達を守るために張られたはずの結界を逆に奪われようとしている、シリウスがここまでのデタラメを実現出来るとは想像だにしなかった…!、どうする どうすればいい!、このままではシリウスによって奪われた魔術で逆に…

「うはははッ!主導権!頂いて行くぞ!」

そんな一抹の思考すら許さずシリウスは大きく腕を引き 魔術を引っ張り この取り合いに決着をつけるが如く力を込めて…



「『テンプス・フギット』」



刹那響く詠唱、それはただ 水面に落ちる水滴のように広がり…、結果を生み出す

「げはぁっ…!」

「え!?」

思わず口を開く、いや…だって、先程まで魔術を奪い取ろうと暴れていたシリウスが 口から血を吹いて倒れていたのだから

何が起こったかは分からない、何をされたかは分からない、されどこの現象を生み出した存在は分かる、それは…

「ルードヴィヒ将軍!」

「無事か!メグ!」

人類最強と呼び声高き帝国筆頭将軍 ルードヴィヒさんだ、彼がいつのまにかシリウスの前に立ち 地を吹き倒れるシリウスを見下ろしていたのだ

一体いつ現れたんだ、一体何をしたんだ、まるで分からないが…兎も角人類最強の名は伊達ではないことはわかる

「お前がエリスを連れてきたということはそういうことだろう!、今のうちに進め!」

「輝瑳ぁ!眼帯男ぉ…!、またしてもワシを『殴った』な…」

「いいや、『蹴った』のさ」

「チッ、ワシが知覚できんとは…、時間停止よりも上の領域があったとは知らなんだわ…、じゃがタネはわかったぞ、もうそれは受けんぞ」

接近するエリスとメグさんを差し置いて シリウスの標的はルードヴィヒさんに移る、明確な脅威としてルードヴィヒさんを見ている

史上最強と人類最強が睨み合い 激突するその戦いは、エリス達では見ることさえ叶わぬ程の速度であった……

「フッ!」

「邪魔じゃのう!」

ぶつかり合う魔力と魔力 激突する力と力、それが至近距離でぶつかり合い 破壊と衝撃を辺りに撒き散らす

何が起こっているのか全然見えない、というか 『あ!戦闘だ!今のうちに超極限集中を…』と思った頃には既に終わっていた

「小賢しいッッ!!」

「グッッ!」

シリウスの拳がルードヴィヒさんの鳩尾を抉り その衝撃により将軍が膝をついた、時間にしておよそ数秒の激闘…、されどその密度はエリスの戦いに換算すれば数時間分の物となる程に濃密な鬩ぎ合い

シリウスと言う名の魔女を相手にたった一人でそこまで立ち回ることが出来るのは 世界で彼一人だろう…

「ルードヴィヒさん!」

「将軍!」

膝をつくルードヴィヒさんを前に 声を上げることしかできぬエリス達、エリス達だって全速力で進んでいる、けれど シリウスとルードヴィヒさんの戦いの展開が早過ぎる、エリス達ではまるで彼女達の速さに追いつくことができない

そんな中、シリウスがギロリとこちらを睨み

「じゃかましいわっっっ!!」

怒りのままに こちらに向けて魔術を放つ、あれは恐らく火雷招 されどエリスが放つそれよりも何千倍も色濃く 強く…、そんな一撃が シリウスによって捻じ曲げられ脆くなった結界を突き破るのだ

あ、やば……死ぬ

「っ…!?」

一瞬にして迫る死の光を前に、濃密な終わりの気配を感じるエリス、これはダメだとどこかで諦念が湧いてくる、それほどの一撃を前に エリス達は何も出来ず、いや 何かをするなんて暇さえ与えられない

死ぬ…

「…ッッ!!」

何もかもが静止して見えるほどの速度の中、ただ一人が立ち上がり 眼光を煌めかせ…


「『テンプス・フギット』…!」

言い放つ、その魔術の名を………………







「え…!?」

死んだ そう思った瞬間、エリス達の目の前に現れる影が、二人を光から守る立ち塞がるのだ

それは…

「ぐがぁっっ!?」

「しょ 将軍!?」

ルードヴィヒさんだ、ルードヴィヒさんがエリス達を守るように現れ 火雷招をその身で受け止めたのだ

魔女の放つ古式魔術、それはもはや凝縮された災害だ…、そんなもの体で受け止めて無事でいられる筈もない、ルードヴィヒさんの体は黒く焼け焦げながら…走り進むエリス達の背後へと飛んでいく

「将軍!将軍!!」

「ダメです!メグさん!、ルードヴィヒさんの行動を 無駄にしちゃ!」

慌てて振り返り ルードヴィヒさんを追おうとするメグさんを手で引き走り続ける、もうシリウスは目の前なんだ!

ルードヴィヒさんが生きているか死んでしまったかは分からない、だけど あれは間違いなく死を覚悟した者の行動だ、死を覚悟しエリス達に賭けて その身を犠牲に守ってくれたんだ、それなのに立ち止まるわけにはいかないだろう!

「ッッッ~~~!!!、シリウス!」

「やかましいのう、これ以上増援が来ても面倒じゃし…おさらばするかのう」

逃げるつもりだ、ここからシリウスが!ダメだ!それだけは許すわけには行かない!、ここに来るまでに一体何人の尽力があったと思ってるんだ!、レグルス師匠を返してもらわないと…、エリスはここまで来た甲斐がない!

「双流魔力覚醒!」

故に発動させる二つの魔力覚醒、『ゼノ・デュナミス』と『超極限集中状態』の二つを、これによりエリスは識の力を得る、後はシリウスを視認し 認識して識別するだけで…

「ってもういない!?」

「ぬははー!さらばじゃー!」

しまった、シリウスの逃げ足の速さを侮った、既にシリウスが立っていた地点には砂埃しか残っていない、逃してしまった…シリウスを、この場から

レグルス師匠の体ごと…、も もう取り返すチャンスが……


「させません…!」

しかし、そんな絶望の中 動く影がある

メグさんだ、彼女はズタボロの体を奮い立たせ 最後の跳躍を解き放つ、影すら追い越す 光を掴むような神速の跳躍は、空高く舞い上がっていたシリウスに即座に追いつくのだ

「逃しません!絶対に!陛下の覚悟も将軍の行動も無駄にはさせません!」

「むっ!貴様メイド!、ハッ!お前がワシをどうすると言うのじゃ?」

「こうするんです!メグセレクション No.72 『超大型拘束魔装 ダーウィンズバーク』!!」

空を舞うシリウスとメグさん、しかし実力の差は歴然…されど、そんな中メグさんが放つのはエリスとの戦いで放った蜘蛛の巣型の魔装だ、エリスとの戦いでその大部分が破損してしまったそれを巧みに操り シリウスの足に絡めて 逃す前に咄嗟に時界門を開き その中の何かに糸を括り付ける

「ぬぅっ!?なんじゃこれ!」

「帝国謹製の粘性糸です!、それを今 山にくくりつけました!、逃しません!」

足止めだ、エリスがシリウスを識別するまでの間 空中で足止めするつもりなんだ…!、い 今のうちにシリウスを識別して 助ける方法だけでも調べないと!

(…認識!)

目をかっ開き 識の力が込められた視線でシリウスを睨む、さすればこの目は万物を見抜き シリウスの肉体から溢れる情報を全て把握する…って!

(情報量が多い!、なんだこれ…こんな複雑な魔術を使ってるのか!シリウスのやつ!)

シリウスの体から溢れるのは『同化魔術』の知識、しかし たった一つの魔術を読み込むだけで頭がパンクしそうなほどの情報が目から脳に飛び込んでくる、だ ダメだ一目見ただけじゃ把握しきれない!

要らない情報が多すぎる!、エリスの脳みそが識別に追いつかない!

「この…、こんな糸ッキレでワシを阻めると思うか!」

すると、エリスがモタモタしている間にシリウスは糸を引きちぎり 更に風を纏って何処かへと飛び去ろうと加速して…

「逃がさないと言ってるでしょうが!」

動いた、メグさんが咄嗟に切れた糸とシリウスの足を繋ぐように掴み、括り付けたか山とシリウスを繋ぐ糸の代わりとして自らの体を使ったのだ

め メグさん、そんなことしたら 貴方の体が持ちませんよ…!、シリウスの加速は凄まじい それを腕で受け止め山に縛り付けるなんて無茶だ!

「ええい!、離せ!離さぬか小娘が!!」

「ぐっ!!ぅぐぁぁあああああああ!!エリス様!早くッッッ!!」

逃げようと蹴りをメグさんに何度も放つシリウスの顔色は今までになく悪い、全力でメグさんを叩き潰そうと何度も何度も大地を砕く様な蹴りをぶつけるも メグさんは血混じりの雄叫びと共に耐える

全ては エリスに時間を作るために…

「…メグさん、…はい、絶対に…やり遂げます」

故に集中する、識別に…同化魔術の詳細の識別に集中する

『同化魔術、相手の魂と自らの魂を同調させて思考を乗っ取り自らの肉体とする魔術、この術を受け体を奪われた存在の自意識は凍結され自己思考を失い、徐々に魔力に分解され やがて完全に肉体は術者の物に…』

そんな情報はどうでもいい!この術を解く方法はないのか!、師匠を助ける方法は!エリスの友達を助ける為にも!早く!早くッッ!!

脳みそをフルで活用し、今までにないほどの情報を全力で処理し、結果鼻からも目からも血が溢れ 情報量の多さに頭が爆裂しそうになりながらも歯茎を噛み潰す勢いで食いしばり耐えながら識別する

全ては、友達の為 師匠の為 世界の為…!


「クソガキが…、路傍の石の分際でワシを阻むでないわッッ!!」

「ぐがぁぁっっ!?!?」

刹那、全力で足を振るい メグさんの脳天を蹴り抜くシリウス、その一撃は今までの比ではなく 遂にメグさんの限界を超え、彼女の握った糸が根元から千切れ 彼女の体は隕石のように地面に叩きつけられ砂塵に消える

「ぬははははーっ!、手間取ったがこれでさらばじゃー!、じゃあのうゴミ共!この借りは…覚えておくからなッッッ!!、リゲル!来い!」

「ええ、師よ」

そして阻む者の居なくなったシリウスは悠々と空を飛び、手駒としたリゲルを連れて暗天の彼方 闇の奥底へと消えるように飛び去ってしまう

「あれ!?リゲルは!?」

「師範どこ見て戦ってるんですか!、リゲル様は逃げましたよ!」

「何っ!?オレ様幻覚と戦ってたの!?、せっかく勝ったと思ったのにぃっ!リゲルぅぅう!!」

どうやら アルクトゥルス様達も上手くやり込められたらしい…、けど 今のエリスには そんなことを気にする…余裕……は…

「ぐっ…ゲホッゲホッ」

膝をつく、甚大な脳酷使に耐えれず 魔力覚醒は解除され、項垂れるように膝をつけば ポタポタと大地を血が濡らす

うう、頭が割れそうだ…、あんなに複雑な魔術だったなんて想定外だ…

「え…りす…様」

「っ…メグさん、無事ですか!」

すると 砕けた地面の中から這い出てくるメグさんに気がつき、流れる血を脱ぐわぬまま駆け寄る、よかった 生きてる…いや、生きてるだけだ

両腕は今にも千切れそうなほどに血が滲んでおり、何度も何度も蹴りを受けた顔は血と痣で見るも無残な状態だ、こんなになるまでエリスに賭けてくれたのかこの人は…、この人は…!

「なんて無茶を…」

「約束ですから…信じるって…」

「メグさん…!」

「それより、見つかりましたか…、助ける方法…」

識別は間に合ったのかと、命を懸けて作り出した僅かな時間 そこに希望は見出せたかと、メグさんは口にする…

はっきり言ってシリウスの魔術の複雑さは想定外だった、信じられないくらいの情報が詰め込まれており これ一つを理解しようとするだけで脳みそが爆発しそうになったんだ、あれを作ったなんて シリウスは本当に化け物だよ

でも…

「ええ、間に合いました メグさんのおかげです、師匠を助ける方法は…あります!」

あるんだ、師匠を助ける方法は確かに存在する、それを確認出来た それを伝えたメグさんは、目の端に涙を溜めて、力なく その場に倒れ込み…

「そうですか…そうですか、よかった…よかったぁ…」

これで 陛下の心は救われる エリスも師匠を助けられる、全てを完全に終わらせることができる、その方法が見つかったんだとメグさんは安堵し 意識を失う…

ああ、全部メグさんのおかげですよ…、本当にありがとうございます…メグ…さ ん

「っ…」

「エリス!、おい!エリス!」

フラリと力を失い 倒れそうになるエリスを支えるのはラグナの手だ、いつのまにかこちらに駆け抜けていていた彼は 倒れそうなエリスを支え…、なんともまぁ必死そうな顔で 泣きそうな顔でこちらを見て…

「大丈夫か…!」

「ええ、…でも ちょっと眠たいので、お休みさせてください」

「死ぬなよ…」

「死にませんよ、…でも どうかこの後の事はお願いします、メグさんを エリスの友達を助けてください」

「ああ、任せろ!」

「ふふ、では…ラグナ…お願い …し…ま……」

ラグナに任せれば あとは上手くやってくれるはずだ、彼ならきっとこの戦いの後の事を丸く収めてくれる、そう信じてエリスは休むように意識を失う

シリウスは取り逃がしてしまった、レグルス師匠を取り戻す事は出来なかった、けど 得難い情報は得た、…目的は 得た

なら後は、そこに向かって進むだけ…、いつものように

そうだ、エリスの旅はまだ…終わらない、師匠を取り戻して絶対にアジメクに帰るんだ…


そんな深い決意に飲まれるように、エリスはその意識を一時 手放すのであった

…こうして、帝国での戦いは幕を閉じ エリスの新たなる戦いが 始まっていくのだった


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