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一目惚れ
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「ひ、人さらい!」
「心配するな。別に取って食うわけじゃない。手当してやる」
「……」
ニルルの谷は深く険しい。細い道やがけがたくさんあり、大きな岩や草に覆われた危険な箇所がたくさんある。自然にできた物もあるし、ガイツが仕掛けた罠もあちらこちらにある。侵入者をおびきよせる罠や抜け道もいくつもこしらえてある。
ガイツは器用に馬を走らせながら、隠れ家へと戻ってきた。
「お頭だ!」
誰かの呼び声に何人かが走り寄ってきた。
ガイツは馬を下りて、娘の身体を抱き上げた。
「お頭、この娘は? 奴隷に売るんですか?」
娘の顔がぎょっとなった。いかにも風体の悪そうな男達がやってくるのだ。
「温泉で拾った。ケガをしてるから、薬を持ってこい」
ガイツはそう部下に言いつけると、隠れ家の中一番居心地のいい自分の小屋に娘を連れていった。
「あんた、何者? 山賊なの?」
ガイツが娘を柔らかい獣の革のベッドに下ろしてやると、娘は自分の身体の布をしっかりと両手でつかんで、警戒心丸だしでガイツに聞いた。
「まあ、そうだ」
娘の顔が恐怖で歪む。
「あたしをどうするつもりよ……奴隷に売るの?」
ガイツははっはっはと笑った。
「どうするかな。とりあえず、薬を塗ってやるから、肩を見せろ」
娘はぎゅっと布をつかんで身動きしなかった。
ガイツは届けられた薬の瓶を開けて、娘に見せた。
「ほら、薬だ。自分で塗れるか?」
「……」
娘はさっと薬を指ですくうと、自分の肩に手を回した。だが、激痛がして顔をしかめた。
「無理だろう。俺が塗ってやる」
ガイツの大きな手が娘の身体を包んでいた布をさっと取り去り、応急に手当してあった薬草をはがした。
娘の肩が岩の切っ先で深く切れていた。
ガイツは丁寧に薬を塗ってやる。
「しばらくは動かないほうがいいだろうな。まめに薬を塗って、養生したほうがいい」
ガイツは娘の肩に包帯を巻いてやりながら、娘の肌に見惚れた。
何という美しい肌だろう。白く、木目細やかで、しっとりとしている。
「……ありがとう」
警戒しながらも娘が小声で礼を言った。
「お前、名を何と言う? 俺はガイツだ」
ガイツの名を聞いて再び娘の顔が恐怖におののいた。
この辺りでガイツの名を知らない者はいない。
冷酷無比、残虐非道な男、女子供でも容赦はしない。悪魔のような男。
「そう怖がるなよ。別にお前をどうこうするつもりはないさ」
「……リリカ」
「リリカという名前か? いい名前だ」
リリカは戸惑いを隠せずにガイツを見た。
「飯を食ったら、送って行ってやる。家はどの辺りだ?」
リリカはぷいっと横を向いて、
「家はないわ。あたしは旅人だから」
と言った。
「旅人?」
「そう。旅をしているの」
「一人でか?」
「そうよ」
「どうしてだ?」
「そんな事を見ず知らずのあんたに言う必要はないわ」
きつい口調で言ってから、リリカは黙った。ガイツを怒らせたかもという不安が顔に出ている。この山賊は恐ろしい男だという噂を頭から信じ込んでいる。
「まあ、そりゃそうだがな」
「あたしを売るの?」
不安そうな顔でリリカが聞いた。
「売りはしないさ。だから、そう怖がるなよ。急ぎの旅じゃないなら、ケガが治るまでゆっくりとしていけばいいさ」
ガイツが嬉しそうな顔でそう言った。
リリカに一目惚れしたガイツにとっては彼女が滞在してくれれば嬉しいのだろう。
「心配するな。別に取って食うわけじゃない。手当してやる」
「……」
ニルルの谷は深く険しい。細い道やがけがたくさんあり、大きな岩や草に覆われた危険な箇所がたくさんある。自然にできた物もあるし、ガイツが仕掛けた罠もあちらこちらにある。侵入者をおびきよせる罠や抜け道もいくつもこしらえてある。
ガイツは器用に馬を走らせながら、隠れ家へと戻ってきた。
「お頭だ!」
誰かの呼び声に何人かが走り寄ってきた。
ガイツは馬を下りて、娘の身体を抱き上げた。
「お頭、この娘は? 奴隷に売るんですか?」
娘の顔がぎょっとなった。いかにも風体の悪そうな男達がやってくるのだ。
「温泉で拾った。ケガをしてるから、薬を持ってこい」
ガイツはそう部下に言いつけると、隠れ家の中一番居心地のいい自分の小屋に娘を連れていった。
「あんた、何者? 山賊なの?」
ガイツが娘を柔らかい獣の革のベッドに下ろしてやると、娘は自分の身体の布をしっかりと両手でつかんで、警戒心丸だしでガイツに聞いた。
「まあ、そうだ」
娘の顔が恐怖で歪む。
「あたしをどうするつもりよ……奴隷に売るの?」
ガイツははっはっはと笑った。
「どうするかな。とりあえず、薬を塗ってやるから、肩を見せろ」
娘はぎゅっと布をつかんで身動きしなかった。
ガイツは届けられた薬の瓶を開けて、娘に見せた。
「ほら、薬だ。自分で塗れるか?」
「……」
娘はさっと薬を指ですくうと、自分の肩に手を回した。だが、激痛がして顔をしかめた。
「無理だろう。俺が塗ってやる」
ガイツの大きな手が娘の身体を包んでいた布をさっと取り去り、応急に手当してあった薬草をはがした。
娘の肩が岩の切っ先で深く切れていた。
ガイツは丁寧に薬を塗ってやる。
「しばらくは動かないほうがいいだろうな。まめに薬を塗って、養生したほうがいい」
ガイツは娘の肩に包帯を巻いてやりながら、娘の肌に見惚れた。
何という美しい肌だろう。白く、木目細やかで、しっとりとしている。
「……ありがとう」
警戒しながらも娘が小声で礼を言った。
「お前、名を何と言う? 俺はガイツだ」
ガイツの名を聞いて再び娘の顔が恐怖におののいた。
この辺りでガイツの名を知らない者はいない。
冷酷無比、残虐非道な男、女子供でも容赦はしない。悪魔のような男。
「そう怖がるなよ。別にお前をどうこうするつもりはないさ」
「……リリカ」
「リリカという名前か? いい名前だ」
リリカは戸惑いを隠せずにガイツを見た。
「飯を食ったら、送って行ってやる。家はどの辺りだ?」
リリカはぷいっと横を向いて、
「家はないわ。あたしは旅人だから」
と言った。
「旅人?」
「そう。旅をしているの」
「一人でか?」
「そうよ」
「どうしてだ?」
「そんな事を見ず知らずのあんたに言う必要はないわ」
きつい口調で言ってから、リリカは黙った。ガイツを怒らせたかもという不安が顔に出ている。この山賊は恐ろしい男だという噂を頭から信じ込んでいる。
「まあ、そりゃそうだがな」
「あたしを売るの?」
不安そうな顔でリリカが聞いた。
「売りはしないさ。だから、そう怖がるなよ。急ぎの旅じゃないなら、ケガが治るまでゆっくりとしていけばいいさ」
ガイツが嬉しそうな顔でそう言った。
リリカに一目惚れしたガイツにとっては彼女が滞在してくれれば嬉しいのだろう。
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