わけあり乙女と純情山賊

猫又

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惚れてる?

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 それから十日ほど、リリカはガイツの元に止まった。
 十日のうちに傷は完治し、跡も残らずに奇麗になった。
「よかったねえ」
 ウルミラが包帯を取りながら言った。
「うん、ブルさんの薬のおかげね。ありがとう」
「いいんだよ。もしリリカちゃんの傷がブルの薬で治らなかったら、ブルはお頭にぶっ殺されるとこだよ」
 ウルミラが本気ともとれない口調で言って笑った。
「どうして?」
 ウルミラは呆れた顔で、
「どうしてって、そりゃ、あんた、惚れてるからだよ」
 と言った。
「誰が?」
「お頭が」
「誰に?」
「リリカちゃんに」
「……うっそ」
「おかしな娘だね。惚れてなかったら、ここに連れてくるもんか」
 ウルミラはさもおかしそうに笑った。
 ガイツがリリカに惚れているのはすでに周知の事実である。
 クールでワイルドを売り物にしていたガイツがここの所、妙に浮かれている。
 リリカの後ばかりついて歩くので、誰かがそれをちゃかしたら、虫の息になるまで殴られたとか、誰かが酔ったはずみでリリカの尻を触っただけで追放されたとか。
「それは……困るわ」
「あら、どうしてだい?」
「だって……いつまでもここにいるわけじゃないし、親切にしてもらったのはありがたいけど。それにライカさんはガイツが好きなんじゃないかな?」
「うーん、まあ、それはそうみたいだけどねえ。人の気持ちばっかりはどうにもならないよ。お頭はリリカちゃんが好きなんだし。それに、シンがライカに惚れてるからねえ。お頭はそれを知ってるし、ライカに望みはないだろうよ。リリカちゃんは女嫌いのお頭が初めて惚れた女だからねえ。そう簡単には手放さないだろうよ」
「困ったなあ。まあ、お礼にチューくらいして行こうか」
 ウルミラがけらけらと笑った。
「はい、もういいよ。どうやら完治したようだ」
「ありがとう」
 リリカはウルミラの小屋を出ると、ガイツの小屋に向かった。
 この十日で谷の構造もだいぶん覚えた。出口やトラップを仕掛けてある場所も教えてもらったし、今なら自分でここから出て行ける。
「リリカだけど、今、時間ある?」
 小屋の前で声をかけると、中からドタンバタンと音がしてガイツが顔を出した。
「おう、リリカ。入れよ」
 ガイツはにこにこと嬉しそうな顔でリリカを見た。
 リリカはガイツの小屋に入ると、
「どうやら傷も完治したし、いつまでもお世話になってるわけにもいかないからそろそろ出発しようと思ってるんだけど」
 と言った。
「え?」
「あたし、目的があって旅をしてるのよね。ここは居心地もいいんだけど、いつまでも居着くわけにはいかないの」
 ガイツは見る見るうちにしおれてしまった。
「そ、そうか……リリカ」
 ガイツが何か言おうとした時に、
「お頭! 大変だ。都から盗賊討伐ってのがやってきやがった!」
 とシンが息せききって小屋に走り込んできた。
「何?」
「スリーキングの奴らが都近くの農村を襲いまくってるらしいからな」
「そうか」
 ガイツはリリカに振り返ると、
「リリカ、その話はまた後で」
 と言い残しシンを伴い飛び出して行った。
「スリーキングですって?」
 残されたリリカは暗い声でつぶやいた。
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