わけあり乙女と純情山賊

猫又

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噂の評判

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 次の日、リリカは朝早くに目を覚ました。ウルミラと子供達が起きないようにそっと小屋を抜け出す。黙って出て行くのは礼儀がなっていないだろうか? そんな思いもあるが、やはり山賊は山賊。いつ気が変わって奴隷に売られるかもしれないのだ。
 リリカはそっと足音を立てないように、隠れ家の出口を探した。隠れ家といっても一軒家ではない。谷のあちこちに何十人もの仲間がそれぞれに小屋を持ち、独り者や夫婦者の生活基盤が成り立っているようだ。昨夜宴会をしたのは、大きな谷の上の広場だった。
 谷は迷路のように入り組んでいて、リリカはどこから逃げ出せばいいのか皆目分からない。うろうろしているうちに早起きの山賊達に声をかけられる。
「おう、リリカちゃん、早いな!」
「おはよう……」
「お頭はまだ眠ってるのかい?」
「さあ、知らないわ」
 リリカは必死になって、この男の名前を記憶回路から探した。一応、昨夜に皆の名前を紹介されたはずなのだが……
 顔中ひげもじゃで、真っ黒に日焼けして、なんだかくまみたいだわ、と昨夜思ったはず。
「えーと、エリエさんだったっけ」
 リリカの言葉にエリエが笑った。
「お、嬉しいねえ、おいらの名前まで覚えてくれたのかい! あんまり嬉しいから、さっそくリリカちゃんの馬と荷物を取りに行ってくらあ!」
「あたし自分で取りに行くから、道を教えてくれたら、大丈夫だけど」
「だめ、だめ。ケガをしてるんだろ? 無理はすんなって。それにおいらがお頭にどやされるさ」
「でも、もう痛くないしー。あの薬、よく効くみたいね」
「そうだろ? あれはブルの奴のお手製なんだよ。あれが万病に効く効く。奴にじかにそう言ってやってくれたら、喜ぶぜえ」
「ふうん」
「じゃ、ちょっくら行ってくらあ!」
 リリカに手をふって去って行くエリエをリリカはため息とともに見送った。
「どうした?」
 ガイツの声にリリカは飛び上がった。
「び、びっくりした」
「傷はどうだ?」
 優しい笑顔でガイツが聞いた。
「もう大丈夫。今日にでも失礼できると思うわ」
「だ、だめだ!」
 とガイツが言った。
「え? どうして?」
「それは……その……それだけの傷がそう簡単にふさがるはずがない。ゆっくりと養生しないとだめだ」
 あたふたと言うガイツを見てリリカは首をかしげた。
「でも……そう迷惑をかけられないし……」
「迷惑なんかじゃねえ!」
「そう……それはどうもありがとう」
 リリカはガイツを見上げた。チビのリリカはガイツの腹の辺りに顔がくる。
「いや、その……俺達も休暇でここんとこ暇だしな、好きなだけいてくれればいい」
「山賊なのに、親切なのね」
「あ? ああ、誰彼かまわず襲うってわけじゃないさ。俺達が襲うのは都の貴族どもだけだ。女子供には手を出さない」
 リリカはふふっと笑った。
「へえ、どこの娘さんにも親切なんだ。で、あっちこっちからさらってきてはあんたのハーレムを作るんだ? ここにはたくさんの娘さんがいるのは、そういうわけ?」
「ち、違う。ここにいる娘達は仲間の女や女房達で、俺は……別に……決まった女はいない」
 ふふふと笑うリリカのチャーミングな笑顔にガイツは顔を赤くしていいわけをした。
「へえ、よりどりみどりって事か」
「違うと言ってるだろ。俺は……」

 その時、二人の会話に入って来た者がいた。
「頭は女嫌いなのよ」
 リリカが振り返ると、大きな女が立っていた。派手なドレスを着て、ブルネットの髪の毛を一つに束ねた美しい女だった。
 リリカはまた彼女をも見上げた。
「ライカ、余計な事を言うな」
 ガイツがむっとした顔でライカを睨んだ。
「だから、リリカっていったっけ? あんたを連れてきた事に仲間がびっくり仰天よ」
「あらら」
「ね? あんたいくつ?」
「十五だけど……」
「まあ、若いのね。その若さでどうして一人旅なんかしてるのよ? お子様はおうちへ帰りなよ」
 ライカの言葉にリリカは毒気を感じた。
「迷惑だってんなら、今日にでも出て行くわ」
 ついむっとなって言い返す。リリカは負けず嫌いだった。
「ライカ、リリカはケガをしてるんだ。しばらくここに滞在すると昨夜言ったはずだ。くだらない事を言うな」
 ガイツの言葉にライカは唇をとがらせてふんっとリリカに背を向けた。
 リリカもむっとなったまま、反対方向に歩きだす。そのリリカの背中にガイツの声が追いかけてきた。
「リリカ、気を悪くするなよ。山賊なんて奴らは口は悪いんだが、そう悪気があって言ってるわけじゃないんだ」
「あっそ」
 ツーンとしたまま歩くリリカにガイツはため息をついた。
「リリカ……」
 リリカはくるっとガイツに振り返って笑った。
「あなた達の親切はありがたいと思ってるから、別に気を悪くなんかしないよ」
「そうか」
 ほっとした様子でガイツが言った。
「でも、どうしてそんなに親切なのかな? あなた達の評判は凄いものなのに、随分と噂とは違うみたいだけど」
「別に、誰にでも親切ってわけじゃない。リリカにだけだ」
 と、もごもごとつぶやくように言ったガイツの言葉はリリカには届かなかった。
 何故なら、ウルミラが朝食の準備ができたと告げに来たからだった。

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