わけあり乙女と純情山賊

猫又

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氷のヤルー

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 リリカはさっと馬に乗ったままでヤルーの前に飛び出した。
 飛びだしさまに弓に矢をつがえ、ヤルーめがけて矢を射った。
「う!」
 ヤルーは突然の急襲に身を避け損じた。ヤルーの右腕にリリカの矢が突き刺さる。
 リリカは高笑いをしながら、馬を操った。さっとヤルーから逃げ出す。
「追え!」
 ヤルーの怒鳴り声に二人の部下がさっと馬を走らせる。
「ばーか、ばーか!」
 リリカは馬を軽々と操りながら、ヤルーの前から姿を消す。だが、逃げ出したわけではない。ヤルーを打ち合わせておいた場所までおびき出すのだ。リリカは馬には自信があった。だが、必死である。追いつかれたら負け。
 ヤルー自身も鬼のような形相でリリカを追いかけてくる。
 リリカはでこぼこした山道を器用におりていく。時たま、矢をつがえ敵を狙うが、そう上手くいくはずもない。
「あと、少し!」
 リリカは必死で馬を開けた盆地へ乗り入れた。
「うう!」
 その時、合間をつめていた敵の放った矢がリリカの太股に突き刺さった。
「やばい!」
 激痛に馬の手綱がリリカの手から離れた。
 リリカの身体はもんどりうって地面に転げ落ちた。馬はヒヒーンと鳴いて、そのまま走り去る。
 リリカは自分の足に刺さった矢を引き抜いた。血がどっと流れ出る。
「この女!」
 ヤルーが馬の足を止めた。
「くそガイツのとこの女か! 女だてらに健気なこったが、残念だな。ここで死にな!」
 ヤルーが剣を腰から引き抜いた。
 ヤルーの部下はにやにやと嫌な笑いをしてリリカを見下ろしている。
「ふん! 女に片腕をもっていかれた間抜け野郎! ここで死ぬのはおまえの方さ!」
 リリカがさっと腕を上げた。その途端にヤルーの上からばさっと液体が落ちてきて、ヤルーの二人の部下はびしょぬれになった。
「わ! 何だ! こ、こりゃあ……油じゃねえか!」
「そうさ。で、これが何か分かるか?」
 リリカはよろよろと立ち上がると、ぱっと矢の先に火をつけた。
「よせ! やめろ!」
 ヤルーは逃げようと、慌ててきびすを返し、走りさろうとした。
「残念だけどさ、弓には自信があるんだ」
 リリカは狙いを定めて、矢を放った。
「ぎゃああああああ!」
 壮絶な悲鳴が上がり、ヤルー達は一瞬のうちに火だるまになった。
「これで一人目……」
 リリカは誰にともなくつぶやいた。
「リリカ!」
 リリカが振り返った。
 真っ青な顔でガイツが走りよってくる。その後ろから、ウルミラにライカも見える。
「ガイツ……間にあった? 隠れ家は無事?」
「ああ……何てこった……ヤルーを仕留めちまうとは……」
「女達もそうばかにならないでしょ?」
 リリカが笑った。
「全くだよ……リリカちゃん、あんたのおかげで助かったよ。誰もケガするでもなかったしね」
 ウルミラが嬉しそうに言った。
 ガイツはほっとした様子でリリカの細い身体をぎゅっと抱き締めた。
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