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勝利
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ブル、シンを先頭に戦っていた仲間達はガイツの到着にようやくほっと胸をなでおろした。仲間達は大馬車を強奪する事には成功していたが、その後に襲ってきたゴードンの手下どもには苦戦していた。大きな戦いの後で、誰も彼もが疲れきっていたのである。
「お頭! ったく、どこに行ってたんすか!」
シンが大汗をかきながら、怒鳴った。
「悪い、悪い。ほら、土産だ」
ガイツは布に包んだ丸い物をどさっと地面に投げ出した。
地面に落ちて転がった拍子に、布から中身がはみ出して見えた。
「お頭! ゴードンの首じゃねえか!」
ブルの叫びに誰も彼もの動きが止まった。
ゴードンの手下どもは、恐怖の顔でゴードンの恐ろしい首を見つめている。
顔色は真っ青で目はかっと開き、口からは血が吹き出し、すでに乾いて固まっていた。
「ゴードンのお頭が……死んだ」
手下どもが口々につぶやいた。すでに剣を腰におさめている者もいる。
「ああ、宝を取り返しに行ったついでにな。ゴードンは死んだぞ! 逃げる者は追わないが、死ぬまでやる気なら相手になるぞ!」
ガイツの言葉に一人、二人、と馬を返し始めて、わあわあという悲鳴とともに、ゴードンの手下はいっせいに逃げ出して行った。
「さて、引き返すぞ。今夜は宴会だ! 派手にやるぞ!」
ガイツが叫び、仲間がわあっと歓声を上げた。
リリカは温泉につかっていた。身体は疲れていたけれど、気分はとてもよかった。
肩の荷を下ろしたような気分だった。
ガイツのおかげだけれど、敵討ちは終わった。これで故郷の村に帰れる。この三年の間、ただの一度も帰っていない。墓参りもしていない。
「一度帰って報告しなきゃね。村中のお墓に敵は討ちましたって。これで、皆安らかに眠れるよね」
リリカは涙を流して、故郷の事を考えた。
男達は田畑を耕し、牛を飼い、狩りに行く。女達は糸をつむぎ、衣服を縫い、たくさんの料理をこしらえる。そんな生活を思い浮かべて懐かしく思った。
「故郷かあ……帰って、残った人達とまた最初からやり直そうか……それとも……」 ちゃぷんと音がしたのでリリカは振り返った。
大きな岩の向こうにガイツの大きな背中が見える。
「ガイツ!」
リリカは岩陰から顔を出した。
「リリカ……落ち着いたか?」
ガイツが振り返った。一枚の岩を隔てて二人の距離はほんのわずかだった。
「うん。ガイツ、どうもありがとう。本当に感謝してるわ。まさか来てくれるなんて思ってなかったもの。びっくりしちゃったな。危うく砂糖菓子みたいに食われるとこだった」 リリカがへへへと笑った。
「リリカ、これからどうするつもりだ?」
そんなリリカを優しいまなざしで見つめながら、ガイツが聞いた。
「一、度お墓参りをしに帰ろうと思ってる。皆に報告をしなきゃね」
「そうか。そうだよな」
「うん」
リリカは岩を回って、ガイツの隣に移動した。
「ガイツはずっとここにいるの? またどこかに引っ越しをする?」
「俺はずっとここにいるさ。ずっとな」
「そう」
並んで湯につかりながら、しばらく二人は無言だったが、やがてガイツが、
「これじゃあ、廃業かな……ウルミラにまたどやされるな」
とつぶやいた。
「出会ったのも温泉だったわね」
「そうだな。肩に怪我をしていたな」
「あの時は驚いたり、びびったりで生きた心地もしなかったわ。悪名高い山賊ガイツに助けてもらったなんてさ。結局最後まで助けてもらって、あたしは何も出来なかったな」
「そんな事はないだろう。立派に敵討ちはしてのけたさ」
「そうかなあ……そうね」
リリカはまたふふっと笑った。
「リリカ……帰ってしまいっきりなのか?」
「へ? しまいっきりって何?」
リリカが首をかしげた。
「だから……その……墓参りをしたら、そのまま村に落ち着くのか?」
「……ガイツ、あたしね、許婚がいるんだよね」
「い、許婚だと!」
ガイツの声が裏返って叫んだ。
「そう、村であたしが帰るのを待ってるはずなんだけど……」
「そ……そうか……」
山賊ガイツ、見るも無残な顔になり、ぶくぶくと湯の中に顔を沈める。
「もう、あたしの事を死んだと思ってるかもしれないけどね。猛反対を押し切って敵討ちに飛び出しちゃったから」
「そ、そうか……許婚か……」
ガイツは湯の中から立ち上がった。
ふらふらと温泉から出ると、無意識のまま身体を拭き、服を着る。
「リリカ……先に帰ってる……こ、今夜は宴会だからな……」
ふらふらと馬に飛び乗ると、ふらふらと去って行った。
「ガイツ!」
リリカはガイツの背中を見送ってからくすくすと笑った。
「お頭! ったく、どこに行ってたんすか!」
シンが大汗をかきながら、怒鳴った。
「悪い、悪い。ほら、土産だ」
ガイツは布に包んだ丸い物をどさっと地面に投げ出した。
地面に落ちて転がった拍子に、布から中身がはみ出して見えた。
「お頭! ゴードンの首じゃねえか!」
ブルの叫びに誰も彼もの動きが止まった。
ゴードンの手下どもは、恐怖の顔でゴードンの恐ろしい首を見つめている。
顔色は真っ青で目はかっと開き、口からは血が吹き出し、すでに乾いて固まっていた。
「ゴードンのお頭が……死んだ」
手下どもが口々につぶやいた。すでに剣を腰におさめている者もいる。
「ああ、宝を取り返しに行ったついでにな。ゴードンは死んだぞ! 逃げる者は追わないが、死ぬまでやる気なら相手になるぞ!」
ガイツの言葉に一人、二人、と馬を返し始めて、わあわあという悲鳴とともに、ゴードンの手下はいっせいに逃げ出して行った。
「さて、引き返すぞ。今夜は宴会だ! 派手にやるぞ!」
ガイツが叫び、仲間がわあっと歓声を上げた。
リリカは温泉につかっていた。身体は疲れていたけれど、気分はとてもよかった。
肩の荷を下ろしたような気分だった。
ガイツのおかげだけれど、敵討ちは終わった。これで故郷の村に帰れる。この三年の間、ただの一度も帰っていない。墓参りもしていない。
「一度帰って報告しなきゃね。村中のお墓に敵は討ちましたって。これで、皆安らかに眠れるよね」
リリカは涙を流して、故郷の事を考えた。
男達は田畑を耕し、牛を飼い、狩りに行く。女達は糸をつむぎ、衣服を縫い、たくさんの料理をこしらえる。そんな生活を思い浮かべて懐かしく思った。
「故郷かあ……帰って、残った人達とまた最初からやり直そうか……それとも……」 ちゃぷんと音がしたのでリリカは振り返った。
大きな岩の向こうにガイツの大きな背中が見える。
「ガイツ!」
リリカは岩陰から顔を出した。
「リリカ……落ち着いたか?」
ガイツが振り返った。一枚の岩を隔てて二人の距離はほんのわずかだった。
「うん。ガイツ、どうもありがとう。本当に感謝してるわ。まさか来てくれるなんて思ってなかったもの。びっくりしちゃったな。危うく砂糖菓子みたいに食われるとこだった」 リリカがへへへと笑った。
「リリカ、これからどうするつもりだ?」
そんなリリカを優しいまなざしで見つめながら、ガイツが聞いた。
「一、度お墓参りをしに帰ろうと思ってる。皆に報告をしなきゃね」
「そうか。そうだよな」
「うん」
リリカは岩を回って、ガイツの隣に移動した。
「ガイツはずっとここにいるの? またどこかに引っ越しをする?」
「俺はずっとここにいるさ。ずっとな」
「そう」
並んで湯につかりながら、しばらく二人は無言だったが、やがてガイツが、
「これじゃあ、廃業かな……ウルミラにまたどやされるな」
とつぶやいた。
「出会ったのも温泉だったわね」
「そうだな。肩に怪我をしていたな」
「あの時は驚いたり、びびったりで生きた心地もしなかったわ。悪名高い山賊ガイツに助けてもらったなんてさ。結局最後まで助けてもらって、あたしは何も出来なかったな」
「そんな事はないだろう。立派に敵討ちはしてのけたさ」
「そうかなあ……そうね」
リリカはまたふふっと笑った。
「リリカ……帰ってしまいっきりなのか?」
「へ? しまいっきりって何?」
リリカが首をかしげた。
「だから……その……墓参りをしたら、そのまま村に落ち着くのか?」
「……ガイツ、あたしね、許婚がいるんだよね」
「い、許婚だと!」
ガイツの声が裏返って叫んだ。
「そう、村であたしが帰るのを待ってるはずなんだけど……」
「そ……そうか……」
山賊ガイツ、見るも無残な顔になり、ぶくぶくと湯の中に顔を沈める。
「もう、あたしの事を死んだと思ってるかもしれないけどね。猛反対を押し切って敵討ちに飛び出しちゃったから」
「そ、そうか……許婚か……」
ガイツは湯の中から立ち上がった。
ふらふらと温泉から出ると、無意識のまま身体を拭き、服を着る。
「リリカ……先に帰ってる……こ、今夜は宴会だからな……」
ふらふらと馬に飛び乗ると、ふらふらと去って行った。
「ガイツ!」
リリカはガイツの背中を見送ってからくすくすと笑った。
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