この醜悪な世界に咲いた、一筋の光を。

蒼紅

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終わらない理不尽

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その日から僕へのいじめはぴたりと止んだ。みんなも仲良くしてくれることはないが、前のように異端者を見るような目を向けることはなくなった。まるで僕なんて元から存在していなかったと言わんばかりに無視をするようになったのだ。まぁ僕からしたらありがたいんだけどね。本当に。
「きゃっ」
 そんなことを考えているといつも通りの悲鳴が響きわたる。
 その声の主はあの時僕を救ってくれた彼女だった。
 そう、彼女は僕を庇ったせいで、僕を替わっていじめを受けることになってしまったのだ。
 声の方に目を向けると、頭から白い粉をかぶった彼女がいた。
 ドアに黒消しが挟まれていたのだろう。
 僕の時のような激しい暴力などはなくなったが彼女はこのような地味な嫌がらせを受けていた。
 数人の大爆笑が響いた。数人以外もクスクスと陰湿に笑っている。
 —腹が立つ。
 何で彼女がこんな目に遭わなければいけないのか。
 いくら考えても答えは出なかった。
 ここまで見た人ならお前が助けてやればいいじゃないかと思うことだろう。僕だってそう思う。
 でも、ダメだった。
 僕には勇気がなかった。彼女を守る勇気がなかった。
 —“彼女にはあった”、勇気がなかったのだ。
 だから僕は、理不尽で狂ったクラスに腹を立てながらも、ただ傍観する他なかったのだ。

——その日の帰り道。
 僕は1人ため息をつきながら夕日が横から降り注ぐ道を歩いていた。
 歩きながら、考える。
(そろそろ、彼女にあの日のお礼を言わないと、あまりにも可哀想だよな…)
 人を救ったのに礼も言われず、挙げ句の果てに自分がいじめを受けるなんて、あまりにも理不尽すぎる。
 今、彼女の周りは敵だらけなのだから、せめて僕だけでもお礼を言って、いじめに巻き込んでしまったことを謝って、味方になってあげなくては。
 ただそれは、頭ではわかっていても、僕にとっては希望論でしかなかった。
 感謝したり、謝罪したりするのは人として当然のことだと今まで何度も言われてきた。
 が、僕にとっては当然なんかじゃなかったのだ。
 別にそんな当たり前のことができないほど、親の教育が悪いわけでもないのに。
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