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坂田さん
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病院で目を覚ました僕は、担当医師の坂田さんからしばらく入院することになるという旨を聞かされた。
曰く、精神状態が安定していないから、自律神経が乱れているらしい。
入院生活は初めてではないが、いつまで経っても治らないこの病気に僕は嘆息した。
幼い頃から入院を繰り返していたこともあって、ここの医師の坂田さんとはかなり親密な関係を築けていた。
少なくとも、学校の奴らよりは。
今僕は、そんな坂田さんに一つの相談をするため、足を運んでいた。
「失礼します」
「おお、角田くん。何かあったのかい?」
そういって柔らかな表情を浮かべる坂田さん。本当に、面倒見の良い近所のおじさんって感じだ。
こんな僕でも、気軽に話せるほどに、彼は優しい。
今日はその優しさに甘えることにした。
「ちょっと相談がしたくて」
「初対面の人と、自然に会話をする方法かい?」
「え、なんでわかったんですか」
びっくりである。相談内容をぴったり当てられるとは。
「緘黙の患者の相談内容はみんなそれだよ。できるなら、他のみんなと同じように仲良く話したい。そうでしょ?」
「はい。できるなら、克服したいと思ってるんです」
坂田さんは少しの間押し黙った後、やがて口を開いた。
「一応、心がけるといいことはあるにはあるけど、正直な話、一朝一夕で直るようなものじゃないと思う。特に、君のように長い間その病気で悩まされている人にとってはね」
薄々、それはわかっていた。自分の意識の変化程度では克服できないことを。
「それでも、知らないよりはマシです。その、心がけることを教えていただけませんか」
「ま、簡単なことだよ。相手話す時、一旦一呼吸おいて、落ち着くこと。心の整理がつかないままに無理やり話そうとしてしまうと、意志に精神が追いつかなくなってしまうからね」
「なるほど。たしかに簡単なことですけど、やらないよりはやった方がいいですよね」
「そうだな。あと、相手の目はあまり見ない方がいい」
「……目?」
予想外のアドバイスに、興味を引かれた。
「ああ。相手の目を見るってのは、人に好印象を与えるイメージがあるが、君にとっては相手に迫られているように感じて不快だろう」
思い返してみれば、確かにそんな経験があった。相手に目を見られると、なんだか全てを見透かされてそうで不安になるのだ。
「だから、君は相手の目は見ないことをおすすめするよ。まあ、あからさまに視線を逸らすとそれはそれで相手に不審がられそうだがな」
「わかりました。ありがとうございます」
「もう相談したいことはないかい?」
「はい、大丈夫です。また何かあれば頼らせてください」
「ああ、いつでもいらっしゃい」
坂田さんの言葉を背に、僕は部屋から出た。
……ホントに、話しやすい人だ。今では、家族以外で心を許している唯一の人と言っても過言ではないな。
曰く、精神状態が安定していないから、自律神経が乱れているらしい。
入院生活は初めてではないが、いつまで経っても治らないこの病気に僕は嘆息した。
幼い頃から入院を繰り返していたこともあって、ここの医師の坂田さんとはかなり親密な関係を築けていた。
少なくとも、学校の奴らよりは。
今僕は、そんな坂田さんに一つの相談をするため、足を運んでいた。
「失礼します」
「おお、角田くん。何かあったのかい?」
そういって柔らかな表情を浮かべる坂田さん。本当に、面倒見の良い近所のおじさんって感じだ。
こんな僕でも、気軽に話せるほどに、彼は優しい。
今日はその優しさに甘えることにした。
「ちょっと相談がしたくて」
「初対面の人と、自然に会話をする方法かい?」
「え、なんでわかったんですか」
びっくりである。相談内容をぴったり当てられるとは。
「緘黙の患者の相談内容はみんなそれだよ。できるなら、他のみんなと同じように仲良く話したい。そうでしょ?」
「はい。できるなら、克服したいと思ってるんです」
坂田さんは少しの間押し黙った後、やがて口を開いた。
「一応、心がけるといいことはあるにはあるけど、正直な話、一朝一夕で直るようなものじゃないと思う。特に、君のように長い間その病気で悩まされている人にとってはね」
薄々、それはわかっていた。自分の意識の変化程度では克服できないことを。
「それでも、知らないよりはマシです。その、心がけることを教えていただけませんか」
「ま、簡単なことだよ。相手話す時、一旦一呼吸おいて、落ち着くこと。心の整理がつかないままに無理やり話そうとしてしまうと、意志に精神が追いつかなくなってしまうからね」
「なるほど。たしかに簡単なことですけど、やらないよりはやった方がいいですよね」
「そうだな。あと、相手の目はあまり見ない方がいい」
「……目?」
予想外のアドバイスに、興味を引かれた。
「ああ。相手の目を見るってのは、人に好印象を与えるイメージがあるが、君にとっては相手に迫られているように感じて不快だろう」
思い返してみれば、確かにそんな経験があった。相手に目を見られると、なんだか全てを見透かされてそうで不安になるのだ。
「だから、君は相手の目は見ないことをおすすめするよ。まあ、あからさまに視線を逸らすとそれはそれで相手に不審がられそうだがな」
「わかりました。ありがとうございます」
「もう相談したいことはないかい?」
「はい、大丈夫です。また何かあれば頼らせてください」
「ああ、いつでもいらっしゃい」
坂田さんの言葉を背に、僕は部屋から出た。
……ホントに、話しやすい人だ。今では、家族以外で心を許している唯一の人と言っても過言ではないな。
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