勇者でも渡り人でもないけど異世界でロリコン魔族に溺愛されてます

サイカ

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魔道具

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「お帰りなさいジーク様」
「ただいまコハク」
「遅かったな」

 いつも夕食の30分前には帰って来ていたのに今日はいつもより遅く、夕食の時間を30分程過ぎた頃に帰って来た。

「すまない。先に食べていなかったのか?」
「俺もそう言ったんだがコハクがジークが帰ってくるまで待つと、言うものだから」
「だ、だって帰って来たら他の人はご飯を済ませていて、自分だけ一人ご飯なんて寂しいじゃないですか」

 父子家庭だったわたしは、小学低学年の頃、お父さんが残業で遅くなった日は一人で夕食を食べてた。それは寂しくて、そして、ある日夜中に見た台所でご飯をチンして食べてるお父さんのその姿がとても悲しげに見えて、その日以来お父さんが帰って来るまで頑張って待つようになった。

「……俺の、ため?」

 ジーク様はわたし達が待っているなんて考えもしていなかったらしく、目を瞬かせる。

「で、何かあったのか?」
「あ、いや、ちょっと寄るとこがあってな」

 そう言うとジーク様は内ポケットから手のひらサイズの箱を出すと、その箱からブレスレットを取り出し、わたしの左腕に付けてくれた。

 ジーク様がくれたブレスレットは三日月型の部分には昼間見た石そっくりな石と、その両隣に淡いピンク色の石がはめ込まれていて、細かいシルバーチェーンの部分で大きさを調節出来るようになっていた。

「……可愛い」
「これを取りに行ってて遅くなったのか」
「あぁ。やっと完成したと連絡があってな」
「え!もしかして、オーダーメイドですか⁈」
「?あぁ」

 なぜそんな当たり前のことを聞くんだと言いたげに首を傾げるジーク様。そして、そんなジーク様の答えに驚きもせず、ブレスレットを観察するクシェル様。

「なるほど、防御系の魔道具か」
「……ま、魔道具?」
「あぁ、これを付けていれば万が一の時はこれがコハクを守ってくれるってことだ。魔鉱石も付いてるから魔力の心配もないしな」

 そう言いながら、クシェル様はブレスレットに付いた真ん中の石を指でさした。

 やっぱり真ん中の石は魔鉱石だったんだ。 昼間見たのと似てるなとは思ったけど。

「気に入ってくれたか?」
「は、はい!勿論です!ありがとうございます」

 わたしを守るために魔道具をオーダーメイドとか、ジーク様過保護……じゃなくて、優しさが過ぎるよ!!

 魔道具自体も勿論嬉しいけど、ジーク様のその気持ちが何より嬉しくて、わたしは左手ごと魔道具を抱きしめた。

「羨ましい……」
「え?」

 クシェル様の呟きに反射的にクシェル様を見る。するとクシェル様は拗ねたようにムスっと口を尖らせていた。

「狡いぞジークばかりコハクに喜んでもらえて!俺も街に出たい。贈り物したい!」
「何をおっしゃっているのですか!魔王様がそのような要件で城を開けるなんてことなんて出来るわけないでしょう」
「そんな事分かっている!」

 更にわがままを言ってルークさんに怒られ声を荒げるクシェル様。

「く、クシェル様わたしは今でも十分過ぎるくらい良くしてもらっています。ここに置いてくれるだけでなく勉強までさせてくれて、今着ている服だって全てクシェル様にいただいたものだし、感謝してもしきれないくらいです」
「そうか?でもなぁ……あ!分かった買いに行けないなら作ればいいんだ!うんそうだそうしよう!」
「え⁈そ、そんな申し訳な「待っていろよコハク最高に質の良いやつを作ってやるからな!」
「待って下さい魔王様、作るってまさか」
「あ、何を作るのかは出来てからのお楽しみだ!」

 手作りなんてとんでもない!申し訳なさ過ぎる。ーーけど、そんなキラキラした目をされたらもう断るなんて事出来るわけもなく。

「は、はい」



「シイナ、それ…」

 席に着いて辞書を広げていると、イダル先生がわたしの左手を見る。

「あ、これは昨日ジーク様に頂いたんです」
「グランツ様に?見せてもらって良いか?」
「はい」

 左腕をイダル先生の方へ伸ばすと、イダル先生はブレスレットをより近くで観察するためにその手を取ろうと手を伸ばす。しかし、触れる寸前に慌てて手を引かれた。

「ど、どうしたんですか?」
「あ、いや……コレがどういったものか聞いて、ないよなぁ」

 先ほどとは違いブレスレットをまるで危険物でも見るかのような目で見るイダル先生。

「防御系の魔道具って聞いたんですけど……き、危険なものなんですか?」
「いや、その……」

(ぐ、グランツ様もか)

 イダル先生はこめかみを抑えるとため息混じりに独りごち、どこか遠い目をした。

 そして数秒の沈黙の後、ジーク様から頂いたこのブレスレットの効果を教えてくれた。

 それは、持ち主の意にそぐわない物が持ち主ないしは魔道具そのものに触れると強い電流が走り、同時に風魔法で持ち主を守るというものだった。

 そうかあの時イダル先生が慌てて手を引いたのは電流を恐れてだったのか。意にそぐわないも何もわたしから腕を差し伸べてるのだから大丈夫だとは思うけど、万が一ということもあるし、怖いものは怖い。触らないに越したことはないという判断だろう。
 わたしだって、電気を発する道具だと知って、付けているのが段々怖くなってきたくらいだしーー

 またその魔道具の位置情報はコレをくれたジーク様に常に分かる様になっているらし。

 まるでgps付きのスタンガンを持ち歩かされている気分だ。

 今度はわたしが遠い目をする番だった。
 
 これだからロリコンは……

「過保護過ぎる」


 因みに魔道具の研究、開発は人族の国で盛んに行われている。それらがここヴェルンシュタイン王国や獣人の国にも普及し、人々の生活をより豊かなものへとしている。
 魔族や獣人族は自分の魔力で魔道具を発動できるが、魔力コントロールが不出来な人族はそれを魔鉱石で補っている。
 しかし良質な魔鉱石は人族の大陸では取れず、魔道具の素材である金属も獣人族との貿易でしか得ることが出来ない。

「獣人族の大陸で魔鉱石は取れないんですか?」
「取れはするが、多くは取れない。それに、輸出量を厳しく制限している」
「どうしてですか?」

 魔法が使えないから魔道具を開発した。
 それなのに自国ではその素材も、エネルギー源も取れない。これではあまりにも酷である。


「それは一度人族が戦争をふっかけてきたからだ」
「え?」

 なんでも、人族を哀れに思った先々代の獣人の王は今より遥かに安い値段で魔鉱石を売っていたらしい。
 金属は獣人族も必要とするため安くでは手放せないが魔鉱石は十分な魔力を有する獣人族にとってはそこまで必要性を感じる物ではなかった。
 しかし、全く需要がないわけではないし(自身の魔力も無限増では無い)、採掘するのにそれなりの費用もかかるためタダというわけにはいかなかったがーー

 欲をかいた人族はそんな獣人族の王の気遣いも無碍にしたのだ。それも最悪の形でーー
 その慈悲深き王はこの戦いで、人族の作った魔道具によって命を落とした。

 わたしは人族のあまりの心無い行動に開いた口が塞がらなかった。

「だから獣人族は魔鉱石の輸出を制限し、人族の軍事力の縮小を図った。というわけだ」

 普通そんな事があったら人族なんか見限ってもおかしくない。いや、滅ぼしていてもおかしくない。
 一方的に攻め込まれ、王を殺されたのだから。
 しかし、獣人族は尚も人族に手を差し伸べ続けた。そんな獣人族の優しさに涙が込み上げる。

 今は亡き王のその時の悲しみは、絶望はわたしなんかが想像するよりずっとずっとーー

「そして人族が次に標的にしたのが」
「魔族、というわけですね」
「そうだ」

 なんでも魔族の大陸は世界で一番大きいだけでなく、実は魔鉱石も良質なものが多く取れるらしい。

 どの世界でも同じだ。
 人は欲深くそれは際限がない。そして、同じ過ちを繰り返す。だから世界から戦争は未だ無くならず、今よりさらに快適に楽な暮らしがしたいと人は森を自然を破壊し他の動物を追いやり、今も次々と新たな兵器を開発し続けている。

 感傷に浸り、ふと窓の外を眺めると絶えず水の流れる噴水と沢山の樹々に彩られた庭、城の周りに建てられた壁の向こうも若葉色の葉をサラサラと揺らす樹々と色とりどりの花たちが春の陽気を感じさせてくれる。

「みんなが魔力を持っていたら、自然と共存出来たのかな」

 人族は自分達だけ魔法が使えないからどうにかして魔法を使えるようにと魔道具を開発し、魔力を持たないからそれに代わる魔石を求めて争いを繰り返す。
 元の世界でもそうだ。きっと各国が自国のみで個人で生きていける力があれば争いは無くなりーーはしないにしてもここまで激化していなかったはずだ。

「神様はなんで人族だけ不完全な者にしたんだろ」

 庭を眺めたまま呟いた疑問に答えを返してくれる人はいなかった。

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