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魔鉱石
しおりを挟む「おはよう」
「……」
「ん?もう朝か?」
朝目が覚めるとほぼ同時に後ろから声がして、振り向くと何故かそこにはジーク様の微笑みがあって、次いで前方から眠たげな声がして、まさかと前を向き直るとクシェル様がまだ眠たそうに目をこすっていた。
な、なんで二人が同じベッドにいるの?
あー、そ、そうか。きっとわたしまだ夢の中にいるんだ。うん、そうだ絶対!二人に添い寝してもらうなんて贅沢な夢だなぁあ!
わたしはこの非現実的な状況を夢だと思い込もうとした。
「ん、おはようコハク」
しかし、頰を撫でてくれるクシェル様の手は暖かくて、実はさっきからずっと腰のあたりに重みを感じていたりして……ゆ、夢じゃない。
改めて状況を確認すると、わたしは右向きで寝ていて、後ろにはジーク様前にはクシェル様がいて、二人に挟まれる形で寝ていた。 そして腰に感じる暖かい重みは多分ジーク様の腕で、目の前にはクシェル様の逞しい胸板があって…。
言うまでもなく、家族以外の男性と一緒に寝てたのはこれが初めてで、この状況を受け入れられないわたしはーー布団をかぶることで現実から目を逸らした。
何でわたし二人と同じベッドで寝てるのーー⁈
「何処か悪いのか⁈」
「っ!」
しかし、クシェル様に秒で布団を剥がされ、二人に至近距離で顔を覗き込まれる。
ち、ちち、近いーー!!
「あー……コハクもしかして、昨日のこと覚えてない、とか?」
「き、昨日……」
今のわたしの状況を察したジーク様が、ゆっくり諭すように語りかけてくれる。わたしはそれに促されるように昨日の事へ思考を向けた。
「す、すみませんでした!朝からお騒がせしました」
昨日のことを全て思い出したわたしは朝食後、再度頭を下げた。
「本当に、実は一緒に寝るのが嫌だったとかじゃ無いんだよな?」
「や、やじゃ無いです!全然!」
「コハクは朝が弱いのか」
「はい、低血圧?で寝起きはいつもポヤーとしちゃうんですよね。すみません」
もともと頭が弱いのに、寝起きは更にポンコツになってしまう。だから学校の準備とかは前日には済ませておくようにしてたし、余裕を持って起きるようにしていた。それでもたまにバックごと忘れるってこともあったっけ……ハハ。
「そうか、一緒のベッドでーー」
午前は語学の授業だ。今日も雑談をしつつ翻訳書作りを進めていく。
雑談の中で今朝のことをイダル先生に話すとあからさまに引かれてしまった。
「やっぱり、王様と団長さんと一緒ってマズいです、よね?」
「あーいや、お二人が、の、望まれたことならいいんじゃ無いか?それより、シイナはそれで良いのか?」
「わたし?」
「いや、仮にも婚姻前の男女が……同じベッドでなんてーーそれとも、あちらの世界では」
「あ、あっちの世界ではそんな事してませんよ!」
危ない、イダル先生の中の異世界イメージがふしだらなものになってしまうとこだった。
「そもそもお二人とは親子ほどの年の差がありますし、そういう対象で見ていませんよ」
年齢差以前にお二人はロリコンなのだ。お二人がわたしの事を異性として見ているはずがない。一見そう見える行為も、全て二人がロリコン故の行為なのだ。
いつか重度のロリコンである父が『YES ロリータ ノータッチ。それは愛でる対象であり欲を向ける対象ではない!』と力説していた。
つまり、お二人にとってわたしはそういう対象ではないのだ。例えは悪いが、お人形やペットみたいなものだ。だから同じベッドで寝てもいかがわしいことなんて何もない!大丈夫!ーーだと思う。
「そ、そうか不憫だな」
「不憫?」
「あ、いや、こっちの話だ」
昼食は隣の執務室でクシェル様と共に取り、少し長めの休憩を挟んで次の授業へ移る。
午後は楽しい魔法の勉強だ!
「前回の話は覚えているか?」
「はい!」
前回は保有する魔力とその流れを感じコントロールする事が出来て初めて魔法を使うことが出来るというところまで習った。そして、両方を苦手とする人族は魔道具を触媒として魔法を使っている。
「今日はその属性についての授業だ」
「はい!」
「まず、魔法には基本の火・水・風・雷・光の五つの属性があり、その他の身体強化や結界などは無属性に分類される。当然のことながら人それぞれ得意とする属性が違う」
イダル先生はそう言うと、空になっていたカップを水で満たす。
「おおー!!」
「俺は水と風魔法を日常生活程度にしか使えない、がこれを使うと」
そう言いながらイダル先生はカバンからビー玉大の青白い石を取り出し、今度は一瞬でバケツを水でいっぱいにした。
「このように、自身が使える属性ならその威力を増大することが出来る」
「す、凄ーい!!」
「この石は魔鉱石と言って、魔力が石化したものだ」
「魔、鉱石」
「で、次にこれは魔法を発動するための道具、魔道具」
そういうとイダル先生はランプのようなものを取り出した。
「さっきも言ったが俺は水と風しか使えない。しかしこれを使えばーー火を出現させることができる」
イダル先生は取り出した魔道具のガラスで覆われたところに小さな火を灯した。
「魔力の少ない人族は魔道具に、魔鉱石を組み合わせることで魔法を行使している」
「成る程!」
つまり家電で例えるなら、機械の部分がランプで、電池が魔鉱石ということですね!
「しかしこれにも例外があって、治癒魔法とも言われる光魔法は魔道具では再現出来ないんだ。光魔法は患者の状態を読み取り、患者に直接自分の魔力を流す必要があるからな。さらに、使える者も非常に少ない」
「っは!癒しの神子とか聖女様とかいうやつですね!」
異世界ファンタジーもののヒロインの設定でよく見る、あの!やっぱりこっちでも癒しの力を持つ人は希少なんだ。
「……いや、ミコ?セイジョ?は聞いたことがないな。あちらの世界では魔法は使えないと聞いたが?」
「あ、いえあっちの世界に実在する人の話ではなくてですねーーえと……」
イダル先生は頑張って理解しようと考えを巡らせ、しかしやっぱり理解出来ずーー段々眉間のシワを深くしていく。
わたしが漫画やアニメの話をすると、眉間のシワをそのままに、たまに質問を挟みつつ真剣に話を聞きメモを取るイダル先生。
翻訳書の事といいイダル先生の異世界への探究心には感心させられる。
「つまり、その異世界ファンタジーでは大抵魔族は人間の国を侵略する悪役でそれから人々を守り癒すのが、光の魔法を得意とする神子や聖女で、魔王様を倒すのが勇者ということか」
そして理解も速い。
「は、はい。なんか、すみません」
実際魔族は人族の国も侵略なんてしていない。むしろ侵略を目論んでいるのは人族の方で……それに、魔族も角や羽などは無く、人族と見た目も変わらない。
でも、クシェル様だけは耳の先が尖っていたんだよねぇ。なんでだろ?魔王は普通の魔族とは違うのかな?それが王族の証とか?
「いや、これで長年の疑問が一つ解決できた」
「疑問?」
「何故異世界人が疑いもせず『魔王は絶対悪』と信じ込んでいるのか、だ。勇者ならともかく渡り人にもたまに魔族を嫌い、魔王様を敵視する者がいる」
この話を聞いて思い出した。
わたしも初めてこの世界に来た時は無条件に魔王というだけでクシェル様に恐怖し恐れ慄いていた。それは、初めて会った時の状況のせいもあるんだろうけど、やっぱりアニメの知識の影響が大きかったと思う。
でも今はーー
「わたしはクシェル様が寂しがりやで優しい人だと知っています!みんなもきっとちゃんと話せば、クシェル様に会えば分かってくれるはずです!クシェル様が本当はすごく素敵な人だって!」
「凄い、殺し文句だなぁ……いや、そうだな魔王様と勇者の間に本当は争う理由なんて無いんだからな」
「はい!」
この世界の言語は全種族共通しているんだからちゃんと話し合えば分かり合えるはずなんだ。
わたし達みたいに、魔族と人族も笑い合えるはずなんだーー本当は。
応援ありがとうございます!
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